新規事業は「どう稼ぐか」だけでは伸びない|収益モデルと資本回収モデルの設計法

松本尚典

松本尚典

テーマ:事業目標 設定の仕方


新規事業の構想は「収益モデル」と「資本回収モデル」の2軸で考える


新規事業を考えるとき、多くの経営者が最初に考えるのは、「この事業は、どうやって売上と利益を生み出すのか?」という問題です。

もちろん、これは非常に重要です。誰に売るのか、何を売るのか、いくらで売るのか、どのくらい売れるのか、原価はいくらか、これらを設計しなければ、新規事業は成立しません。

しかし、僕は新規事業を考えるとき、もう一つ別の問いを持つべきだと考えています。

「この事業へ投入した人・おカネ・時間を、最終的にどのような形で回収するのか?」という問いです。

僕はこの二つを、

収益モデル
=事業そのものが、どのように売上・粗利益・キャッシュを生み出すのか

資本回収モデル
=事業へ投入した経営資源を、中長期的にどのような形で回収するのか


と分けて考えています。

この二つは似ていますが、同じものではありません。

事業を「収益モデル」だけで考える落とし穴


収益モデルとは何か?


収益モデルとは、事業が、顧客からどのように売上を得て、そこからどのように利益を残すのかを設計する仕組みです。

例えば、

  • 商品販売によって利益を得る
  • 月額利用料を得る
  • ライセンス料を得る
  • 仲介手数料を得る
  • 利用量に応じて課金する
  • 広告収入を得る
  • 保守・管理契約から継続収入を得る


などがあります。

さらに、売上、原価、粗利益、固定費、営業利益、必要投資と運転資金まで数字へ落としていきます。

この分析によって、「この事業そのものが、継続的に成立するのか?」を判断します。

したがって、収益モデルの設計は、新規事業に不可欠です。

しかし、「利益が出る事業」と、「投下した経営資源に対して十分なリターンを生む事業」は、必ずしも同じではありません。

黒字になっただけでは、新規事業が成功したとは限らない


例えば、新規事業へ5000万円を投資したとします。3年後に黒字化し、年間500万円の利益が出るようになったとすれば、会計上は、利益を生み出す事業になっています。

しかし経営者としては、5000万円という投資、そこへ投入した人材、経営者自身の時間、本業から移した経営資源まで含めて考える必要があります。

その5000万円を本業へ投資していた場合。

別の新規事業へ投資していた場合。

M&Aへ使っていた場合。

現預金として残していた場合。

との比較も必要です。

これが、経営における資本配分という考え方です。

新規事業は、「黒字になったから成功」とは限りらないのです。

どれだけ投資したか。

どれだけ利益・キャッシュを生んだか。

何年で投資を回収できるか。

その後どこまで成長できるか。

企業全体へどんな価値をもたらすか。


まで考える必要があります。

資本回収モデルとは何か?


僕がここでいう「資本回収モデル」とは、その事業へ投入した経営資源を、最終的にどのような経済価値として回収するのかを設計する考え方です。

回収方法は、M&Aだけではありません。

例えば、

  • 事業から継続的に生まれる利益・キャッシュで回収する
  • 配当可能な利益を生み出す
  • 既存事業とのシナジーによって企業全体の利益を高める
  • 技術・ブランド・顧客基盤などの資産価値を作る
  • 事業譲渡・会社売却によって回収する
  • 株式市場への上場によって資本市場へ接続する
  • 次世代へ事業承継する


といった形があります。

つまり、資本回収モデルを考えることは、「最初から会社を売ることを考える」という意味ではありません。「何のために、この事業へ経営資源を投入するのか」を明確にすることです。

「出口戦略」は、資本回収モデルの一つである


事業売却や株式売却を予定している場合には、「出口戦略」を考えます。

代表的な選択肢としては、

  • M&A
  • 事業譲渡
  • 株式譲渡
  • IPO
  • 一部株式の売却
  • 経営陣・後継者への承継


などがあります。

特に、外部投資家から資金調達して急速な成長を目指すスタートアップの場合には、投資家への資本回収という意味でも、出口戦略が重要になります。

一方、オーナー企業が自己資金で始める新規事業では、「永続的に保有して利益を得る」という選択も当然あります。

したがって、すべての新規事業が、M&AやIPOを目指す必要はありません。

重要なのは、「この事業は何をもって成功とするのか?」を最初から決めておくことです。

新規事業が伸びない会社では、「成功の定義」が曖昧になっている


新規事業が始まって数年たった会社で、「この事業はうまくいっていますか?」と聞くと、「売上は少しずつ増えています。」という回答が返ってくることがあります。

しかし、利益は出ているのか、当初投資はいくらだったのか、回収できているのか、会社全体へどんなシナジーがあるのか、今後どこまで投資するのか、撤退するとしたら、いつなのか、が決まっていない。

こうなると、やめる理由もない、しかし、大きく投資する理由もないという中途半端な状態になります。僕は、新規事業で最も危険な状態の一つは、「赤字事業」だけではなく、「何のために続けているのか分からない事業」だと考えています。

新規事業で考えるべき「3つのモデル」


新規事業をさらに分かりやすく整理すると、僕は3つに分けて考えることをおすすめします。

① 収益モデル どう稼ぐか


誰に売るのか。

何を売るのか。

いくらで売るのか。

どのくらい繰り返し買ってもらえるのか。

どの程度の粗利益が残るのか。

という日常的な事業構造です。

② 投資回収モデル どう元を取るか


初期投資はいくらか。

追加投資はいくら必要か。

いつ損益分岐点を超えるのか。

いつ累積キャッシュフローがプラスになるのか。

どの程度の投資収益を期待するのか。

という問題です。

③ 企業価値・出口モデル 最終的に何を残すか


事業から何が資産として残るのか。

顧客基盤。

ブランド。

技術。

データ。

知的財産。

販売網。

継続契約。

人材。

業務ノウハウ。

などです。

そして、将来も自社で保有するのか、別事業へ統合するのか、事業承継するのか、第三者へ譲渡するのかを考えます。

収益モデル
=どう稼ぐか

投資回収モデル
=どう元を取るか

企業価値・出口モデル
=最後に何を残し、どう活かすか


この3つを分けると、新規事業の構想が非常に明確になります。

「エグジットはまだ先だから考えなくてよい」とは限らない


M&AやIPOなどの出口戦略を将来的な選択肢として考えるのであれば、その可能性は比較的早い段階から意識しておいた方がよいでしょう。

なぜなら、株主構成、契約、知的財産、顧客集中、会計、管理体制、経営者への依存度といったものは、後から簡単には修正できないからです。

実際、出口戦略は将来突然考えるものではなく、資本政策や経営体制など初期の意思決定によって選択肢が変わります。

しかし、「最初から売却先を決めて、その会社に売れる事業だけを作れ」という意味でもありません。

むしろ、「将来、どんな選択肢を持てる事業にするか?」という発想です。

新規事業が伸びない典型的な4つのパターン


① 売上だけを見ている


売上は増えている。

しかし、粗利益が少ない、人件費が増えている、追加投資が止まらない、キャッシュが残らないという状態です。

② 黒字化だけをゴールにしている


黒字化は重要です。

しかし、年間100万円の利益を出すために1億円の経営資源を投入しているのであれば、資本効率まで考える必要があります。

「利益が出た」だけではなく、「投入した資本に対して、どの程度の成果を生んだか」を見ます。

③ 「いつかM&Aできる」という期待だけが先行している


反対に、「いずれ大企業が買ってくれる。」「IPOすればよい。」と考え、足元の収益構造を軽視するのも危険です。

買収されること自体を前提にしすぎると、その買い手が現れなかった瞬間に、事業計画が成立しなくなります。出口戦略は、強い事業を作った先に持つ選択肢であって、弱い事業を救う前提条件ではありません。

④ 撤退条件が決まっていない


新規事業で意外に重要なのが、「いつやめるか」です。

最初に一定の撤退基準を決めておけば、「ここまで投資したのだから、もう少し続けよう。」という判断だけで追加投資を続けることを防ぎやすくなります。

優れた新規事業は、「稼ぐ・回収する・価値を残す」がつながっている


僕が考える優れた新規事業は、

顧客へ価値を提供する

↓

売上と粗利益を生む

↓

利益・キャッシュを作る

↓

投下資本を回収する

↓

さらに成長投資する

↓

顧客・ブランド・技術・契約・ノウハウなどの企業価値が蓄積する


という循環になっています。

この結果、

自社で持ち続けても価値がある。

事業承継しても価値がある。

他事業と統合しても価値がある。

M&Aの対象になっても価値がある。

という状態を作ります。本当に強い新規事業は、「売れる事業」ではなく、「持ち続けても、売却しても、経営者に選択肢がある事業」です。

新規事業構想で使える実践フレーム


新規事業を考える場合、次の3枚に分けて検討すると整理しやすくなります。

① 収益モデルの問い


  • 誰が顧客なのか
  • どのような課題を解決するのか
  • 何を販売するのか
  • 単価はいくらか
  • 粗利益率はいくらか
  • どの程度継続して購入してもらえるか
  • 損益分岐点はどこか


② 投資回収モデルの問い


[箇書き]初期投資はいくらか
追加投資はいくら必要か
最大損失はいくらまで許容するか
いつ単月黒字化するのか
いつ累積投資を回収するのか
回収後、どこまで再投資するのか[/箇書き]

③ 企業価値・出口モデルの問い


[箇書き]3~7年後に何が企業資産として残るのか
経営者がいなくても運営できるか
顧客基盤に再現性があるか
特定顧客に依存していないか
ブランド・技術・データ・知財など何が蓄積するか
自社で持ち続ける意味は何か
将来M&Aを検討する場合、どのような企業に戦略的価値があるか[/箇書き]

最後に、この3つが同じ方向を向いているかを確認します。

BtoBとBtoCだけで、事業設計の順番を決めてはいけない


BtoBでは収益モデルから積み上げる。BtoCでは収穫モデルを先に設計する。

という考え方を強く持っているヒトがいます。

しかし、これは少し単純化しすぎています。BtoBでも、大量の先行投資を行い、ネットワーク効果を狙う事業があります。BtoCでも、開業初日から利益を出すことを重視する店舗ビジネスがあります。

したがって、BtoBかBtoCかだけで順番を決めるべきではありません。

むしろ、

初期投資の大きさ

粗利益構造

継続率

顧客獲得コスト

市場成長性

ネットワーク効果の有無

資金調達方法

事業のスケーラビリティ


によって考えます。

BtoB新規事業で資本価値を高めるポイント


BtoBでは、企業価値を考える場合、単に売上が大きいだけではなく、

継続契約がある。

顧客が分散している。

営業方法に再現性がある。

経営者個人へ過度に依存していない。

粗利益が安定している。

契約や知的財産が整理されている。

といった状態が重要になります。

例えば、「社長自身が営業すれば毎年3億円売れる会社」と、「営業組織と顧客基盤によって毎年3億円売れる会社」では、事業としての性格が違います。企業価値を高めるとは、売上を増やすことだけではなく、「社長がいなくても再現できる利益構造」を作ることでもあります。

BtoC新規事業では、「顧客基盤そのもの」が大きな資産になることがある


BtoCでは、

顧客数。

継続率。

ブランド。

コミュニティ。

購買データ。

店舗網。

会員基盤。

などが事業価値につながる場合があります。

ただし、「BtoCは最初は儲からなくてよい」という意味ではありません。

顧客数を増やせば増やすほど赤字が拡大するモデルでは、成長そのものが経営リスクになります。

したがって、

一顧客を獲得するコスト。

一顧客から得られる粗利益。

継続率。

購入頻度。

単価。

を確認します。

「ユーザーを増やしてから収益化すればよい」という戦略が成立するのは、ユーザー増加が将来の経済価値へ変わる構造を説明できる場合です。

M&Aを出口に考えるなら、「買い手」を考える前に「買う理由」を作る


将来的にM&Aを選択肢へ入れるのであれば、「誰が買うか?」だけでは不十分です。

より重要なのは、「なぜ、その会社が自社を買う必要があるのか?」です。

例えば、

新しい顧客層を獲得できる。

新しい地域へ進出できる。

技術を短期間で獲得できる。

有力ブランドを取得できる。

販売網を取得できる。

専門人材を獲得できる。

新しい商品ラインを追加できる。

という戦略的な理由です。

つまり、

「買ってくれそうな会社」を探す前に、「買うと相手の企業価値が上がる事業」を作る。


こちらの方が重要です。

年商1億円から5億円へ進む新規事業ほど、「やる理由」と「やめる条件」を決める


年商数千万円の会社と、年商数億円の会社では、新規事業の意味が変わってきます。

会社が成長すると、

新しい収益源を作りたい。

既存顧客へ新商品を提供したい。

事業ポートフォリオを増やしたい。

海外へ進出したい。

M&Aを活用したい。

という選択肢が増えます。

しかし、選択肢が増えるほど、経営資源の分散というリスクも大きくなります。

そこで経営者が決めるべきなのは、

なぜ、この事業をやるのか。

最大いくら投資するのか。

いつまでに何を達成するのか。

どの数字を確認するのか。

誰が責任者なのか。

どこまで成長させるのか。

どんな条件なら追加投資するのか。

どんな条件なら撤退するのか。


です。新規事業に必要なのは、「成功する計画」だけではありません。成功・追加投資・維持・撤退を判断できる経営基準です。

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