成長戦略を採らねばならないならない企業 成長戦略をとってはならない企業
1.企業の成長の限界は、どこにあるか?
ラクスルを展開する経営者 松本恭かね氏が、出演された「カンブリア宮殿」(2022年6月2日放送)の中で、次のような名言をおっしゃっておられました。
「企業の限界というのは、社長の能力の限界ではなく、社長の想像力の限界で決まります。」
多くの人は、企業の限界というものは、調達され、投資される経営資源の限界によって決まるものと思っています。
調達される資本、調達されるヒト、調達される設備。
これが、企業の限界を画すると考えている人が多いように感じます。
しかし、経営資源の調達や、経営資源の投資先を主導するのは、社長が意思決定する経営計画です。
その経営計画を更に主導するのは、社長の経営戦略です。
そして、社長の経営戦略を主導するのは、社長の持っている構想です。
松本氏が言われる想像力という言葉は、僕は構想力という言葉に置き換えて考えてよいと思っています。
企業の限界は、社長が構想できる領域で決まる、というのが、僕の意見です。
2.資金もあり、ヒトもおり、それでも凋落する企業の実例
ある2世社長との出会いと、別れ
以前、ある二世経営者を、知り合いからご紹介いただき、何度かお話をお聴きしたことがあります。この方のお父様は、一代で、彼が、代表を務める会社を創り上げ、売上高70億円を超える企業にされた方で、彼は、その会社を長男として、承継した方でした。
事業承継当時の財務諸表を拝見したところ、この会社は、事業承継当時、100億円を超える流動資産があり、300名を超える従業員がおられ、品川に立派な本社を構えておられました。
しかし、何度かお話を伺ううちに、僕は、奇妙なことに気づきました。
この二世社長は、毎回、僕がお会いするたびに、言っていることが、変わるのです。
ある時は、僕からみて夢想的に感じるような夢を語ったかと思うと、その次には、海外事業で、具体性に首をかしげるような提携話に飛びついたことを語り、その次には、従業員の悪口を延々聞かされる、といった具合。
率直に言って、この社長、分裂症なのではないかと、僕は疑いを覚えたほどです。
そして、数回、お会いした後に、その社長が、僕に何を言い出したかというと、
「自分にかわって、この会社を経営してくれる取締役がほしい。」
というのです。
なるほど、この人は、そういう目的で、役員に飛びつくヒトを探していたのか、と僕は悟りました。
僕自身、こんな方の会社と関わることは、まっぴら御免だと感じ、ご紹介いただいた方には申し訳なかったのですが、そのお話をお断りしました。
ただ、何もアドバイスをしないというのでは、よくないと思いました。
僕も、経営コンサルタント畑を歩いてきた経営のプロです。
僕は、かなりきつい言葉を、この社長に申し上げて、退散してきました。
「〇〇社長。
社長にとって、一番、よい方法をお教えしましょう。
経営を任せる役員を探すよりも、今、できるだけ早く、社長は、この会社を、高く買ってくれる大企業に売ることです。
高く売れるうちに、売り抜けることをお勧めします。
買い先をおさがしになるなら、ご協力をしましょう。」
この僕の台詞に、この社長は、相当、アタマにきたのでしょう。
僕は、そのまま、この会社を失礼して、この社長に、その後、一切お会いしていません。
後日、僕を、この社長は、僕に紹介した知人に、後日、僕の悪口を、さんざん、言って送ったと、その知人から、聞かされました。
その後の、その社長の会社がたどった道
それから数年たち、たまたま、手元に、帝国データバンクの調査チケットがあまり、ふと、思い立って、この会社の経営調査を、帝国データバンクから取り寄せてみました。
結果、お父様から承継した時点で、70億円あった売り上げは、それから5年余りで、20億円台にまで落ち、事業承継時点で100億円を超えていた流動資産も10億円を割り込み、短期・長期の負債が、猛烈に膨れ上がっていました。
これを、その社長は従業員のせいにしたのでしょう。
大きなリストラを敢行し、あるいは、従業員が見限って辞めていったのでしょう。
従業員数は、事業承継時点の半分以下の120名程度に減っていました。
僕が、できるだけ早く売ったほうがよいと申し上げた以降、この会社の企業価値は、激減しており、これからも更に減少を続けることが読めて取りました。
僕は、けっして、この社長に失礼なことを申しあげたとは、今でも思っていません。
お父様がせっかく残された財産である会社を、この社長は、できるだけ高く売ったほうが、その社長のためでもあり、従業員のためでもあったのです。
この社長に足りなかったのは、資金でも、従業員というヒトでもありません。
単に、父親から譲り受けたというだけの会社に社長として居座り、思い付きの経営で会社の屋台骨を揺るがし、そこから逃げ出す様に他人任せで経営をしようという、その経営者としての根本的な構想力の欠如によって、この会社はどんどん減退をしてしまったのです。
会社をどのように成長させるか、どのような会社にしたいか、という構想を持たず、上からさがってくるパンに食いつくように、場当たり的で具体性のない話に飛び続けている、その絶望的な構想力のなさ、が、この会社を大きく減退させてしまったのです。
そして、こういう社長ほど、業績の減退理由を、マーケットや社会情勢、そして従業員や、他の役員のにせいにします。
この会社が、お父様から譲り受けた豊富な資金や、社員、そしてしっかりした組織があったにもかかわらず、売上や利益を大きく減らして減退を続けたのは、事業承継を受けたご子息の二世が、企業の未来を支える構想を全く持たず、誰か、有能な人をみつけて、その他人に、経営を押し付けさえすれば、自分は、高額な役員報酬を、思い付きのような仕事を続けても、受け続けていけると、勘違いし、社長の座に居座ったことに原因があります。
構想のない社長は、無益なのではなく、企業にとって有害です。
この方は、会社に大きな資金や、有能な社員が残っているうちに、優良企業に会社を売り抜けておけばよかったのです。
3.社長に構想力があり、その構想を実現するという強い意思があれば、経営資源が足りなくても、企業は成長の限界を破ることができる
一方、会社の社長に構想力があり、その構想を実現する強い意思があれば、経営資源が足りなくても、会社は、その経営資源の限界を破って、成長軌道に乗れるのです。
今度は、同じ2世の社長でも極めて強い意思で成長をされた事例をご紹介しましょう。
この会社は、このコラムを執筆している現在に至るまで、僕が、創業当時から経営顧問として、経営コンルティンングの支援をさせていただいている経営者の方です。
こちらの社長は、もともと、大学を卒業された後、いったん、お父様が経営されている企業と同業の大手会社に就職し、その後、お父様の会社に入社されました。
しかし、その後、このお父様の会社が、長年にわたって、赤字を出し続けている状態であることを知ったのです。
僕は、そのころから、この会社の経営顧問を引受け、当時、お父様の元で取締役だった、現在の社長の相談相手になっていました。
お父様も、赤字の会社を自分の子供に残すことについて、大きな心痛を抱いており、僕は、その親子の、各々の心情を伺いながら、経営顧問として、様々な観点から、この会社の再建をアドバイスしました。
この会社は、数年前に、代表取締役をお父様が、現在の社長に譲られました。
会社の新しい代表に就任された現社長は、お父様とは違った新たな観点からの事業を構想し、顧客を開拓し、御自身で銀行の連帯保証人となって、資金を調達して事業に挑まれました。
その結果、新たな事業は、大きく成功し、事業承継の初年度から黒字に転換しました。コロナ禍での1期だけ赤字になったものの、その後は盛り返して、大きく躍進をし、アフターコロナの勝ち組企業になっています。
この社長には、お父様が残した組織はありましたが、資金は、承継当時、ほとんどありませんでした。
今でも、御自身が構想し、借入金のリスクをおって、事業を大きく成長させ続けておられます。
4.2人の社長の違いは、構想力と、それに基づく実行力
この2人の社長は、共に、お父様が創業された会社を承継しました。
しかし、その結果は、大きく異なります。
1人目の社長は、資金も社員も利益も、非常に高い状態を承継したのに、それを使い果たし、社員もどんどん辞めていき、衰退を続けています。
2人目の社長は、資金も利益も、マイナスの状態で会社を承継したのに、それを逆転し、社員とともに力をあわせて、成長軌道に入っています。
この違いからわかることは、このコラムの最初に提示した言葉。
企業の限界は、社長が構想できる領域で決まる
企業が成長をどこまでできるかを決めるのは、まさに社長であり、その構想力なのです。
続く
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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