事業計画の作り方⑦|マーケティングとは?顧客の課題・欲求から4P戦略を設計する方法

松本尚典

松本尚典

テーマ:事業計画 マーケティング戦略

このコラムは、「事業計画の作り方①~⑥」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~⑥のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。


マーケティングは、ビジネスモデルを「顧客と売上」につなぐ活動


「事業計画作成法を伝授します①~⑥」までで、

なぜ、その事業を行うのか。

自社には、どのような強みと弱みがあるのか。

市場には、どのような機会と脅威があるのか。

どのような競争環境に置かれているのか。

なぜ顧客から自社が選ばれるのか。

その競争優位を、どのようなビジネスモデルによって売上と利益へ変えるのか。

というところまで検討してきました。

⑥では、競合企業が表面的に真似をしても、同じ成果を簡単には再現できない競争優位の仕組みを、僕が「ブラックボックス」と呼ぶ考え方で整理しました。

しかし、どれほど優れたビジネスモデルを設計しても、その価値を必要としている顧客へ届けられなければ、事業にはなりません。

そこで次に必要になるのが、マーケティングです。

マーケティングとは、作った商品を後からどう売るかを考えることではありません。「誰に、どのような価値を、どのような商品・価格・販売方法・情報によって届けるのか」を設計し、顧客から選ばれる仕組みをつくる活動です。

つまり⑥までが、

「どのような事業をつくるのか」

という設計だとすれば、⑦では、

「その事業を、どう顧客とつなぐのか」

を考えていきます。

マーケティングとは、広告や販売促進だけを意味するものではない


「マーケティング」という言葉を聞くと、

Web広告。

SEO。

SNS。

テレビCM。

チラシ。

営業。

キャンペーン。

などを思い浮かべる方がいます。

これらはいずれもマーケティング活動の一部ですが、マーケティングそのものではありません。

広告だけを強化しても、

商品が顧客のニーズと合っていない。

価格が価値と合っていない。

購入方法が不便。

競合との違いが分からない。

のであれば、売上は伸びません。

逆に、

「まさに、自分のための商品だ」

「この会社の商品なら、この価格を払いたい」

「欲しいときに簡単に買える」

「他の商品との違いがよく分かる」

という状態をつくることができれば、販売は格段に容易になります。

経営学者のピーター・ドラッカーも、企業の目的を顧客の創造に置き、マーケティングを企業経営の重要な機能として位置づけました。

僕が中小企業経営者の方とマーケティングを考えるときも、

「どう広告するか」の前に、「誰に、何を価値として提供するのか」から考えます。

マーケティング部門があっても、マーケティングは全社の経営課題


もちろん、会社にマーケティング部門を設置すること自体に問題があるわけではありません。

企業規模が大きくなれば、

市場調査。

広告。

Web。

ブランド。

商品企画。

CRM。

データ分析。

などを専門的に担当する部門が必要になります。

しかし、

「マーケティングはマーケティング部門だけが考えればよい」

という発想には注意が必要です。

誰を顧客にするか。

何を商品にするか。

いくらで売るか。

どの販売チャネルを選ぶか。

どの顧客層へ経営資源を集中するか。

という判断は、会社の事業戦略そのものだからです。

特に中小企業では、経営者自身がマーケティングの基本方針を理解し、意思決定する必要があります。

マーケティングの出発点は、「顧客はなぜ買うのか」を理解すること


では、マーケティングをどこから考えればよいのでしょうか。

最初の問いは、

「顧客は、なぜ自社の商品・サービスを買うのでしょうか?」

です。

企業側は、

「よい商品だから」

「技術力が高いから」

「価格が安いから」

「長年、この商品を作っているから」

と答えたくなります。

しかし、それは売る側から見た理由です。

顧客には、顧客自身の購買目的があります。

例えば、顧客は商品やサービスを購入することによって、

困りごとを解決したい。

時間を節約したい。

売上を増やしたい。

コストを減らしたい。

安全性を高めたい。

楽になりたい。

おいしいものを食べたい。

家族と楽しい時間を過ごしたい。

自分を表現したい。

安心したい。

成長したい。

という、何らかの課題・欲求・目的を満たそうとしています。

顧客が買っているのは、商品そのものだけではありません。その商品によって得られる「結果」や「価値」です。

したがって、マーケティング戦略を考える最初の仕事は、

商品をどう宣伝するかではなく、

「顧客は、何を実現するために、その商品を買うのか」

を理解することなのです。

顧客を一括りにせず、「誰の課題なのか」を決める


ここでもう一つ重要なことがあります。

同じ商品を買う顧客でも、購入目的は同じとは限りません。

例えば、一つの蕎麦店でも、

本格的な蕎麦を味わいたい人。

仕事の昼休みに早く食事をしたい人。

家族で休日の食事を楽しみたい人。

一人で静かに食事をしたい人。

友人と酒を飲みながら食事をしたい人。

では、店に求める価値が異なります。

当然、

商品。

価格。

席。

営業時間。

サービス。

情報発信。

も変わります。

したがって、

「顧客の課題を考える」

前に、

「誰を顧客とするのか」

を決めなければなりません。

すべての人に選ばれようとすると、誰にとっても特徴のない商品になりやすいからです。

事業計画では、

主要顧客。

第二の顧客。

将来開拓する顧客。

というように、顧客層に優先順位をつけることが重要です。

4P戦略とは?顧客価値を具体的なマーケティング施策へ変える


顧客と、その顧客が求めている価値が明確になったら、具体的なマーケティング施策へ落としていきます。

その際に、古典的ではありますが、現在でも基本として有効なのが4Pです。

Product=商品・サービス

Price=価格

Place=販売場所・販売チャネル

Promotion=顧客とのコミュニケーション・販売促進


重要なのは、4つを別々に決めないことです。

同じ顧客、同じ価値提案を中心に、Product・Price・Place・Promotionを一貫させます。

Product|顧客は、商品ではなく「価値」を買っている


Productでは、

何を売るかだけではなく、

・誰の、どのような課題・欲求を満たす商品なのか?

・そのために、どのような機能・品質・デザイン・サービスが必要なのか?

・競合と比較して、どの点が異なるのか?

・顧客が商品を購入した結果、何を得られるのか?


を考えます。

Price|顧客が感じる価値と、自社が確保すべき利益の双方から考える


Priceでは、

単に、

「競合より少し安くしよう」

と考えてはいけません。

・顧客は、この価値にいくら支払うのか?

・競合商品はいくらなのか?

・原価や固定費を踏まえて、必要な利益を確保できるか?

・価格によって、どのようなブランドイメージになるのか?

・値下げしなくても選ばれる理由があるか?


を考えます。

価格は売上を作る数字であると同時に、顧客に自社のポジションを伝える重要なマーケティング要素です。

Place|顧客が「買いたいときに、買いやすい状態」を作る


Placeは、単純な店舗立地だけを意味するものではありません。

店舗。

EC。

代理店。

卸売。

営業担当者。

予約システム。

アプリ。

デリバリー。

海外販売。

など、顧客へ商品を届けるチャネル全体を考えます。

・顧客は、どこで商品を探すのか?

・どこで比較するのか?

・どこで購入したいのか?

・いつ必要になるのか?

・購入までの手間をどう減らせるのか?

・自社に適した販売チャネルは何か?


を考えます。

Promotion|「売り込み」ではなく、価値を正しく伝える


Promotionには、

広告。

SEO。

SNS。

PR。

営業。

展示会。

メール。

動画。

口コミ。

既存顧客への案内。

などがあります。

しかし、

Promotionの目的は、「とにかく露出を増やすこと」ではありません。

誰に。

何を。

なぜ自社なのか。

どのような言葉で。

どのチャネルから。

伝えるのか。

を設計します。

・顧客は、自分の課題をどのような言葉で認識しているか?

・自社の商品が、その課題・欲求にどう応えるのか?

・競合ではなく、自社を選ぶ理由は何か?

・顧客は、どの媒体から情報を得ているか?

・購入前に、どのような不安や疑問を持つのか?


ここまで考えて初めて、広告やSEO、SNSなどの具体策を選びます。

具体的な事例で、マーケティング戦略を考える


ここでも、②から⑥まで使ってきたAさんの蕎麦店を例に考えます。

Aさんは、東京都郊外のF市で蕎麦店を8年間経営し、年商3000万円前後まで事業を育てています。

⑥では、

手打ち蕎麦の技術。

老舗からの暖簾分けブランド。

地域の生産者との関係。

既存顧客との関係。

人材育成の仕組み。

専門家としての情報発信。

などを組み合わせ、

競合が簡単に再現できないビジネスモデルを構築することを検討しました。

今度は、そのビジネスモデルをマーケティング戦略へ落としてみましょう。

まず、「誰を顧客にするのか」を決める


Aさんが、

「F市に住むすべての人」

を顧客にしようと考えても、具体的なマーケティング戦略は作れません。

例えば、調査の結果、

第一の顧客

本格的な蕎麦を日常の中で楽しみたい地域住民

第二の顧客

家族や友人と、少し質の高い食事を楽しみたい地域住民

第三の顧客

老舗の技術や手打ち蕎麦に価値を感じ、遠方からでも来店する蕎麦好き


を主要顧客として設定したとします。

この顧客設定によって、4Pの方向が見えてきます。

Aさんの店に対する、顧客の課題・欲求・購買目的は何か?


第一の顧客は、

「近所で、本当においしい蕎麦を気軽に食べたい」

という欲求を持っているかもしれません。

第二の顧客は、

「家族や友人と、普段より少し質のよい食事を楽しみたい」

という目的かもしれません。

第三の顧客は、

「職人が作る本格的な蕎麦を味わいたい」

という強い嗜好を持っている可能性があります。

これらは、同じ「蕎麦を食べる」という行動でも、求めている価値が違います。

だからこそ、顧客像を先に決めることが重要なのです。

Product


Productでは、⑥で作ったビジネスモデルを、顧客価値として商品へ落とします。

例えば、

手打ちの盛り蕎麦・ざる蕎麦を中心商品として品質を磨く。

地域の旬の食材を利用した季節商品を用意する。

蕎麦と地域の酒を楽しめる商品構成をつくる。

家族利用にも対応できる商品を用意する。

などが考えられます。

重要なのは、商品数を増やすことではありません。

「Aさんの店へ来る理由」を最も明確に表現できる商品を中心に据えることです。

⑤で考えた競争ポジションと、⑥で設計したビジネスモデルが、Productへ反映されている必要があります。

Price


Aさんは、大手チェーンとの低価格競争を避ける戦略を選んでいます。

したがって、

「周辺店より安くする」

ことを価格戦略の中心にすべきではありません。

手打ち技術。

原材料。

ブランド。

店舗体験。

サービス。

などを総合した顧客価値を基礎に、

適正な利益を確保でき、なおかつ顧客が価値に納得できる価格

を設定します。

商品ごとの原価率を見るだけではなく、

客単価。

粗利益。

来店頻度。

顧客層。

競合価格。

も含めて判断する必要があります。

Place


Placeでは、店舗の座席配置だけではなく、顧客が店を知ってから来店するまでの経路全体を考えます。

例えば、

Googleマップで見つけやすいか。

Webサイトからメニューや価格が分かるか。

営業時間が明確か。

予約が簡単か。

一人でも入りやすいか。

家族でも利用しやすいか。

決済は便利か。

必要に応じて持ち帰りや予約商品を利用できるか。

などです。

Placeとは、「店がどこにあるか」だけではなく、「顧客が買いたいときに、簡単に買える状態をどう作るか」という設計です。

Promotion


Aさんの店では、

新規顧客の獲得。

既存顧客の再来店。

双方を考える必要があります。

新規顧客に対しては、

Googleマップ。

Webサイト。

地域検索。

SNS。

口コミ。

地域メディア。

などを活用して、

「F市で、本格的な手打ち蕎麦を日常的に楽しめる店」

という価値を伝えます。

一方、既存顧客に対しては、

季節商品の案内。

新蕎麦の案内。

イベント。

予約案内。

本人の同意を得た顧客情報を基礎とするコミュニケーション。

などによって、再来店につなげます。

ここでも重要なのは、

広告を出すこと自体を目的にしないことです。

新規顧客を獲得するための施策と、既存顧客との関係を深める施策を分け、それぞれに成果指標を持つことが重要です。

マーケティングでは、「顧客を増やす」だけでなく数字を分解する


マーケティング計画を実行可能なものにするためには、

「売上を増やす」

だけでは不十分です。

例えば飲食店なら、

来店客数。

新規顧客数。

リピート率。

来店頻度。

客単価。

予約率。

Webからの来店数。

Googleマップからの行動。

商品別売上。

粗利益。

などへ分解できます。

一般的な事業であれば、

売上

=顧客数 × 購買頻度 × 顧客単価


という視点から考えることもできます。

例えば、

顧客数を増やすのか。

既存顧客の購買頻度を増やすのか。

客単価を上げるのか。

では、マーケティング施策はまったく変わります。

「売上を増やす」という目標を、顧客行動の数字まで分解することで、マーケティングは実行可能な計画になります。

マーケティングは経営者が方向を決め、組織全体で実行する


マーケティングには、専門性が必要です。

SEO。

広告運用。

デザイン。

Web制作。

市場調査。

CRM。

データ分析。

などは、専門人材や外部企業へ任せることもできます。

しかし、

誰を顧客とするのか。

どの顧客課題を解決するのか。

何を価値として提供するのか。

どのポジションを取るのか。

どこへ経営資源を集中するのか。

という基本的な判断まで、経営者が丸投げしてはいけません。

マーケティングの専門業務は専門家に任せても、マーケティング戦略の最終責任は経営者にあります。

そして、

商品開発。

営業。

店舗・現場。

カスタマーサービス。

Web。

経理。

経営者。

が、同じ顧客像と価値提案を共有する必要があります。

「広告担当だけが顧客を見ている会社」では、強いマーケティングはできません。

マーケティング戦略が決まったら、「誰が・いつ・何を実行するか」を決める


ここまでのシリーズを整理しましょう。

①では、

「なぜ、この事業を行うのか」

という事業目的を決めました。

②では、

SWOT分析によって、自社と市場の現在地を整理しました。

③では、

クロスSWOTによって、進むべき戦略の方向を決めました。

④では、

ファイブフォースによって、競争環境を分析しました。

⑤では、

競合情報を収集し、自社が顧客から選ばれる競争ポジションを決めました。

⑥では、

その競争優位を継続的な売上と利益へ変えるビジネスモデルを設計しました。

そして今回⑦では、

顧客の課題・欲求・購買目的を明確にし、Product・Price・Place・Promotionによって、その価値を顧客へ届けるマーケティング戦略を設計しました。

しかし、まだ事業計画は完成していません。

どれほどよいマーケティング戦略をつくっても、

誰が担当するのか。

いつまでに実行するのか。

何から先に行うのか。

どのような組織で進めるのか。

が決まっていなければ、実行されないからです。

次回⑧では、

「いつ・誰が・何を実行するのか」

を具体化し、スケジュールとプロジェクト体制へ落とし込んでいきます。

続く

事業計画の作り方⑧|スケジュールとプロジェクト体制を策定する

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松本尚典
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松本尚典(経営コンサルタント)

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年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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