マーケティングにタイムパフォーマンス発想を採り入れろ
このコラムは、「事業計画の作り方①~⑦」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~⑦のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。
目次
戦略を「誰が・いつ・何をするか」まで落として、初めて実行計画になる
スケジュールを作るときは、「マイルストーン」と「タスク」を分ける
コンティンジェンシープラン|重大なリスクには「代替策」を準備する
プロジェクト体制|「誰がやるか」だけでなく、「誰が責任を持つか」を決める
戦略を「誰が・いつ・何をするか」まで落として、初めて実行計画になる
前回⑦では、
誰を顧客にするのか。
顧客のどのような課題・欲求・購買目的に応えるのか。
どのような商品・サービスを提供するのか。
いくらで販売するのか。
どのチャネルから届けるのか。
どのように価値を伝えるのか。
というマーケティング戦略を、Product・Price・Place・Promotionの4Pから設計しました。
しかし、ここで事業計画を止めてはいけません。
どれほど優れた戦略を作っても、
「誰がやるのか」
「いつまでにやるのか」
「何から始めるのか」
が決まっていなければ、実行されないからです。
経営者が、
「今期はWebマーケティングを強化しよう」
「社員を育成しよう」
「新商品を開発しよう」
と決めただけでは、計画とはいえません。
誰が責任者なのか。
最初に何をするのか。
いつまでに完成させるのか。
必要な人材は誰なのか。
どの業務と連動するのか。
どの時点で成果を確認するのか。
まで具体化する必要があります。
戦略とは「どちらへ進むか」を決めること。実行計画とは、「そこへ到達するために、誰が・いつ・何をするか」を決めることです。
今回⑧では、この実行計画を、
スケジュール。
プロジェクト体制。
という二つの側面から作っていきます。
スケジュールは、単なる日程表ではない
事業計画におけるスケジュールとは、
「4月にこれをする」
「5月にこれをする」
という日程表だけではありません。
まず、
「いつまでに、どの状態を実現するのか」
というマイルストーンを決めます。
例えば、
新商品を発売する。
新店舗を開業する。
Webサイトを公開する。
営業組織を立ち上げる。
海外販売を開始する。
新しい社員を採用する。
既存業務をシステム化する。
という、事業上の重要な到達点です。
そのうえで、そのマイルストーンから逆算して、
何を準備するのか。
どの順番で進めるのか。
どのくらい時間がかかるのか。
誰が担当するのか。
を決めます。
スケジュールとは、「時間の経過」を書くものではなく、「事業を完成形へ進める順序」を設計するものです。
スケジュールは、「目標から逆算」して作る
実行計画を作る際には、現在から未来へ順番に考えるだけでなく、目標とする状態から逆算することが重要です。
例えば、
「10月1日に新商品を発売する」
と決めたとします。
そうすると、
10月1日
商品発売。
9月
販売開始準備・広告・営業教育。
8月
生産・物流・販売体制確定。
7月
商品仕様・価格・販売チャネル確定。
6月
試作品・顧客テスト。
5月
商品企画。
というように、必要な仕事を逆算できます。
このとき重要になるのが、業務の前後関係です。
商品仕様が決まらなければ、原価計算はできません。
原価が分からなければ、適切な価格は決めにくくなります。
価格や商品が決まらなければ、販売資料も作れません。
販売資料がなければ、営業担当者の教育もできません。
このように、
「何を先に終わらせなければ、次の仕事を始められないか」
を考えます。
単純にタスクを一覧にするのではなく、仕事同士の依存関係まで見ることが重要です。
スケジュールを作るときは、「マイルストーン」と「タスク」を分ける
スケジュールでは、
マイルストーン。
タスク。
を区別すると整理しやすくなります。
マイルストーン
事業上の重要な到達点。
例
・商品仕様確定
・採用完了
・Webサイト公開
・新店舗開業
・営業開始
タスク
マイルストーンを実現するための具体的な仕事。
例
・顧客ヒアリング
・競合商品の調査
・商品試作
・採用媒体への掲載
・面接
・Web原稿作成
・営業資料制作
経営者は、細かなタスクだけを見ていると、事業全体の進捗を見失います。
一方、
「新店舗を開業する」
という大きな目標だけを見ていると、現場が何をすればよいのか分かりません。
そこで、
経営者はマイルストーンを管理し、その実現に必要なタスクを担当者へ落とし込む
という考え方が重要になります。
スケジュールは、ずれることを前提に作る
経営者の方と事業計画について話していると、
「どうせ予定どおりには進まないのだから、細かなスケジュールを作っても意味がないのではないか」
と言われることがあります。
確かに、事業計画が最初から最後まで予定どおり進むことは、ほとんどありません。
顧客の反応が予想と違う。
採用が予定どおり進まない。
商品開発が遅れる。
原材料の価格が変わる。
競合が新商品を出す。
法制度が変わる。
取引先の都合が変わる。
さまざまなことが起きます。
しかし、
予定が変わるからこそ、最初の予定が必要なのです。
例えば、
「9月に完成する予定だった商品が、10月になっても完成していない」
という事実が分かれば、
なぜ遅れたのか。
後工程にどのような影響があるのか。
人員を追加するのか。
発売日を変更するのか。
他の業務を先に進めるのか。
という判断ができます。
もともと予定がなければ、
「遅れている」
ということ自体を判断できません。
スケジュールは未来を正確に予言するためのものではありません。計画と現実の差を把握し、経営判断を行うための基準です。
ローリングプラン|定期的に計画そのものを更新する
事業計画は、一度作って固定するものではありません。
市場も、競合も、顧客も、自社の状況も変わるからです。
そこで有効なのが、ローリングプランという考え方です。
ローリングプランとは、一定期間の計画を作り、定期的に実績と環境変化を確認しながら、常に将来の計画を更新していく方法です。
例えば、3年間の計画を持っている会社なら、
2026年度に、
2026~2028年度を計画する。
2027年度になったら、
実績を踏まえて2027~2029年度へ更新する。
という形です。
中小企業では、これをさらに実務的に、
毎月
実績と進捗を確認する。
四半期
重要施策や数値計画を見直す。
年1回
中期計画全体を更新する。
という形で運用する方法もあります。
もちろん、適切な頻度は業種や事業の変化速度によって異なります。
重要なのは、
計画を守ること自体を目的にせず、環境が変化したら計画を更新する仕組みを最初から持っておくことです。
コンティンジェンシープラン|重大なリスクには「代替策」を準備する
ローリングプランとは別に、考えておきたいのがコンティンジェンシープランです。
これは、
事業に重大な影響を与える事態が発生した場合に、どのように対応するかを事前に準備しておく計画
です。
例えば、
重要な仕入先から調達できなくなったらどうするか。
キーパーソンが退職したらどうするか。
新店舗の工事が大幅に遅れたらどうするか。
想定した売上の70%しか達成できなかったらどうするか。
主要顧客との取引が終了したらどうするか。
システムが停止したらどうするか。
といった重大リスクです。
すべてのリスクについて代替計画を作る必要はありません。
しかし、
「起きる可能性」と「起きたときの影響」が大きいもの
については、
代替仕入先。
予備資金。
代理担当者。
代替販売チャネル。
撤退基準。
などを検討しておく価値があります。
ローリングプランとコンティンジェンシープランは、どちらかを選ぶものではない
元々の事業計画では、
ローリングプラン。
コンティンジェンシープラン。
のどちらを使うか、と考えたくなるかもしれません。
しかし、役割は異なります。
ローリングプラン
通常の事業環境の変化に合わせて、定期的に計画を更新する。
コンティンジェンシープラン
重大なリスクが発生した際の代替行動を、あらかじめ準備しておく。
したがって、
通常時にはローリングプランで計画を更新し、重大なリスクについてはコンティンジェンシープランを準備する
というように、両方を組み合わせることができます。
プロジェクト体制|「誰がやるか」だけでなく、「誰が責任を持つか」を決める
スケジュールとともに必要になるのが、プロジェクト体制です。
事業計画では、
「営業部が担当」
「マーケティング担当が実施」
「外部業者に依頼」
という程度で終わってしまうことがあります。
しかし、それでは、
誰が最終的な責任者なのか。
誰が実務を担当するのか。
誰と相談する必要があるのか。
誰が最終決定するのか。
が曖昧になります。
プロジェクト体制とは、単に必要な人数を決めることではありません。「成果に対して誰が責任を負い、誰が実行し、誰が意思決定するのか」を明確にすることです。
経営者がすべての担当者になってはいけない
特に年商3000万円から数億円へ成長している企業で起きやすいのが、
重要な仕事の責任者が、すべて社長になっている状態です。
営業責任者=社長。
採用責任者=社長。
商品開発責任者=社長。
マーケティング責任者=社長。
取引先との交渉=社長。
最終確認=社長。
この状態では、社長の処理能力以上に会社を成長させることができません。
これは②・③でも扱った「社長依存」の問題です。
そこで実行計画では、
・経営者自身が担当すべき仕事
・社員へ権限移譲する仕事
・専門家へ任せる仕事
・外部企業へ委託する仕事
・システム化・AI活用できる仕事
に分けます。
事業計画を作ることは、仕事を増やすことではありません。「誰がやるべきか」を決め直すことでもあります。
Aさんの蕎麦店で、実行計画を作ってみる
ここでも、②から⑦まで使ってきたAさんの蕎麦店を例に考えましょう。
Aさんは、東京都郊外のF市で蕎麦店を8年間経営し、年商3000万円前後まで成長しています。
⑦では、
本格的な蕎麦を日常的に楽しみたい地域住民。
家族や友人と質の高い食事を楽しみたい地域住民。
遠方からでも来店する蕎麦好き。
などを主要顧客として設定し、4P戦略を検討しました。
これを実行計画へ落としてみます。
マイルストーンを決める
例えばAさんが、
「1年後までに、社長依存を減らしながら既存店の売上と利益を伸ばし、第二店舗を検討できる状態を作る」
という目標を設定したとします。
そのためのマイルストーンとして、
3か月後
顧客分析・商品構成・価格の見直し完了
6か月後
Web・Googleマップ・既存顧客向け施策の改善完了
9か月後
Bさんへの店舗管理業務の権限移譲
12か月後
売上・利益・社長依存度を検証し、第二店舗の投資判断
というような計画が考えられます。
マイルストーンをタスクへ分解する
例えば、
「Bさんへ店舗管理を任せる」
というマイルストーンなら、
現在Aさんが担当している業務を洗い出す。
Bさんへ移管できる業務を決める。
業務マニュアルを作成する。
Bさんへ教育を行う。
一部の業務から権限移譲する。
Aさんが確認する。
問題点を改善する。
最終的に店舗管理を任せる。
というタスクへ分解します。
「人材を育てる」と書くだけでは事業計画にはなりません。何を、どこまでできれば育成完了なのかを明確にします。
担当者と責任者を決める
例えば、
商品品質
Aさん。
店舗運営
Bさん。
Web・Googleマップ
外部専門会社+Bさん。
顧客データ管理
Bさん。
経営数値・投資判断
Aさん。
というように分担します。
ここで重要なのは、
「作業をする人」
だけでなく、
「その成果について最終的に責任を持つ人」
を決めることです。
実行計画には、「経営者が見る数字」も設定する
実行計画を管理するためには、進捗だけではなく、結果も確認する必要があります。
例えばAさんであれば、
月間売上。
粗利益。
客単価。
新規顧客数。
リピート率。
人件費。
商品別売上。
Aさん自身の店舗勤務時間。
などを確認できます。
最後の、
「社長自身の店舗勤務時間」
も重要です。
売上が増えていても、Aさんの勤務時間がさらに増えているのであれば、
「組織化して成長する」
という本来の目的から外れている可能性があるからです。
実行計画の進捗とは、「タスクを実施したか」だけではありません。「その結果、当初目指した経営状態へ近づいているか」を確認することです。
スケジュールとプロジェクト体制が決まると、初めて予算を作れる
ここまでくると、
いつ。
何を。
誰が。
どのような順番で。
実行するのかが見えてきました。
すると、次に、
そのためにいくら必要なのか。
いつ費用が発生するのか。
いつ売上が発生するのか。
何人採用するのか。
人件費はいくらになるのか。
設備投資はいくらかかるのか。
広告費はいくら使うのか。
外部委託費はいくらかかるのか。
が見えてきます。
つまり、
スケジュールとプロジェクト体制は、予算・採算計画を作るための前提条件なのです。
例えば、
「10月に新店舗を開業する」
と決まれば、
いつ保証金を支払うのか。
いつ内装工事費を支払うのか。
いつ社員を採用するのか。
いつから給与が発生するのか。
いつ仕入を開始するのか。
いつから売上が発生するのか。
を月次の数字へ落とし込めます。
この時間軸がなければ、年間の売上や費用の合計額を作れても、実際の資金繰りを判断することはできません。
実行計画の作り方|経営者が確認する7つのポイント
ここまでを、実務的なチェック項目として整理します。
1.最終的に何を実現するのか
2.重要なマイルストーンは何か
3.マイルストーンを実現するためのタスクは何か
4.どの仕事を先に終える必要があるか
5.誰が実行し、誰が成果に責任を持つのか
6.いつ進捗と成果を確認するのか
7.計画がずれた場合、どのように修正するのか
この7つを明確にすると、戦略が実行計画へ変わります。
⑨では、実行計画を「売上・費用・利益・資金」に変える
ここまでのシリーズを整理しましょう。
①では、
なぜ、この事業を行うのか。
②では、
自社と市場の現在地をSWOT分析しました。
③では、
クロスSWOTによって進むべき方向を決めました。
④では、
ファイブフォースによって競争環境を分析しました。
⑤では、
競合情報から、自社が顧客に選ばれる競争ポジションを考えました。
⑥では、
競争優位を継続的な売上・利益へ変えるビジネスモデルを設計しました。
⑦では、
顧客の課題・欲求・購買目的を基礎に4Pのマーケティング戦略を作りました。
そして今回⑧では、
その戦略を、「いつ・誰が・何を実行するのか」という具体的なスケジュールとプロジェクト体制へ落とし込みました。
次はいよいよ数字です。
どれだけ魅力的な事業でも、
売上。
原価。
人件費。
固定費。
投資。
キャッシュ。
が成立しなければ、事業として継続できません。
そして、その数字は、⑧までに決めた事業内容・マーケティング・スケジュール・組織体制から導き出されなければなりません。
次回⑨では、
「この事業は、本当に利益とキャッシュを生み出せるのか」
を検証するために、予算・採算計画へ進みます。
続く
事業計画の作り方⑨|予算・採算計画を作り、事業の収益性を検証する
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