示談金の水準をどう判断するか|提示額を検証する4つの視点
「先月まで通っていた店が摘発されたという書き込みを見つけてから、眠れていません。自分の名前が名簿に残っているのではないかと思うと落ち着かないのです」。摘発を後から知った方から、こうしたご相談をいただくことがあります。一方で「摘発の日にたまたま店内にいて、その場で名前と連絡先を書かされた。あれはどこへ行くのか」という、現場に居合わせた方からのご相談もあります。
インターネット上には「客が風営法違反で処罰されることは基本的にない」という説明が並んでいます。この説明自体が誤っているわけではありません。ただ、実際に不安を抱えている方が知りたいのは、処罰されるかどうかだけではないことが多いように思います。自分の名前や利用の記録が誰の手に渡り、どこまで読まれ、いつまで残るのか。その部分に触れた解説は多くありません。
この記事では、店に残っている記録が捜査機関の手元に移るまでの仕組みと、客の側から確かめられること・確かめられないことを整理します。個々の罪名の成否や、利用した方自身の行為に別の問題がある場合の見通しについては、それぞれ別の解説に譲ります。
この記事で扱う範囲
次の点にしぼって説明します。
- 店に残っている記録の種類と、それが法律上どう位置づけられているか。
- その記録が捜査機関の手元に移るときの手続と、範囲を決めているもの。
- 押収された記録が何のために読まれ、客への連絡がどの経路で来るのか。
- 自分の情報がどう扱われているかを、本人の側から確かめられるのかどうか。
摘発された店の側の責任や行政処分、利用した方自身に別の問題行為がある場合の刑事手続については、ここでは扱いません。
店に残っている記録は、法律が備えさせている書類とは限りません
摘発と聞くと「顧客名簿が押収される」という言葉が先に浮かびがちですが、そもそもその名簿がどういう性質の書類なのかは、あまり知られていません。
法律が備付けを求めているのは従業者名簿です
風営法は、風俗営業者や性風俗関連特殊営業を営む者に対して、営業所ごと(無店舗型の場合は事務所)に従業者名簿を備え、業務に従事する者の住所や氏名などを記載するよう求めています(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律36条)。あわせて、働く人の年齢などを確認するための書類の確認も求められています(同法36条の2)。
一方で、客の名簿を備え付けるよう求める規定は置かれていません。つまり顧客名簿は、法律が作らせている帳簿ではなく、店が指名や再来店の管理という営業上の必要から自分で作っているものです。そのため、記載の細かさも、保存されている期間も、店によってばらばらです。丁寧に管理している店もあれば、担当者の手元のメモに近いものもあります。
顧客側の情報が残る場所は名簿だけではありません
名簿という一冊の帳面を思い浮かべると、そこから自分の名前が消えれば足りるように感じられます。実際には、予約の受付、会計、送迎といった別々の場面で、それぞれ別の記録が生まれています。
| 記録の種類 | 店が持っている理由 | 客の側の情報として残りやすいもの |
|---|---|---|
| 予約の記録(電話・ウェブ・アプリ) | 指名と時間の管理のため | 電話番号、予約時に伝えた名前、日時 |
| 顧客の管理簿(会員名簿など) | 再来店や指名を促すため | 呼び名、利用の回数、担当者の申し送り |
| 会計や送迎の記録 | 売上と人員の管理のため | 金額、支払の方法、送迎先の場所 |
| 従業者名簿 | 風営法36条が備付けを求めているため | 客の情報は原則として含まれません |
この表からわかるように、客の情報は「名簿」という一か所にまとまっているとは限らず、複数の記録に散らばっているのが通常です。
記録が捜査機関の手元に移るまで
記録は、摘発の瞬間に自動的に警察のものになるわけではありません。店が持っている物を捜査機関の手元へ移す手続が、間に挟まります。
令状に書かれた「差し押さえるべき物」が範囲を決めます
摘発の場面で行われるのは、多くの場合、裁判官が発した令状に基づく捜索と差押えです(刑事訴訟法218条1項)。令状には差し押さえるべき物が記載されることになっており(同法219条1項)、そこに書かれた範囲が、持ち出すことのできる範囲の枠になります。
予約や顧客の管理をパソコンで行っている場合には、その端末から接続している記録媒体の内容を複写したうえで差し押さえるという方法も定められています(同法218条2項)。管理を外部のサービスに任せていても、店の端末から届く形になっていれば対象になり得るということです。このほか、店の側が求めに応じて任意に提出した物をそのまま領置するという入口や(同法221条)、事業者などに必要な事項の報告を求める照会という入口もあります(同法197条2項)。
中身を確かめないまま持ち出されることがあります
最高裁は、記録媒体について、被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められ、その場で内容を確認しているとデータが破壊されるおそれがあるといった事情があるときには、内容を確認しないまま差し押さえることが許されるという判断を示しています(最高裁平成10年5月1日決定)。
その場で一件ずつ選り分けて、関係のある行だけを持っていくという運用が当然に行われるわけではない、ということです。顧客の管理簿や予約データがひとまとまりで移ることは、十分に起こり得ます。
名簿に載っている人は、その手続の当事者ではありません
押収の相手方は店です。押収の処分に不服がある場合の申立ては、その処分を受けた側の手続として組み立てられています。名簿に名前が載っているだけの立場の方が、自分に関する部分を対象から外してほしいと申し出る手続は、制度として見当たりません。
押収された名簿は何のために読まれるのか
押収されたという事実と、読まれ方は別の問題です。ここを分けて考えると、見通しが立てやすくなります。
立証したいのは店の営業の実態です
風営法違反や売春防止法違反といった事件で問題になるのは、いつから、どのような形で、どれくらいの規模で営業が行われていたか、誰が指示をし、報酬がどう分けられていたかという点です。予約の記録や顧客の管理簿は、この営業の実態を示す材料として読まれます。
客一人ひとりの氏名そのものが、店側の責任を決める事実になっているわけではありません。そのため、名簿に載っている人すべてに連絡が行くという性質のものではありません。もっとも、特定の日時のやり取りを知る立場にある方に対して、事実を確かめるために話を聞かせてほしいと求められることはあります(刑事訴訟法223条1項)。
連絡が来るとすれば、どの経路か
連絡の手がかりになりやすいのは、予約のときに伝えた電話番号や、店の端末に残っている通話とメッセージの履歴です。番号だけがわかっている場合に、契約者を確かめるために事業者へ照会が行われることもあります(同法197条2項)。
どの方に話を聞くかは事件の内容によって変わるため、一律の見通しをお伝えすることは難しいところです。
連絡が来たときの立場と、答え方の基本
連絡が来た場合、多くは参考人として話を聞かせてほしいという求めです。
参考人としての聴取は任意です
被疑者以外の方への取調べについては、出頭を求めることができると定められていますが、逮捕や勾留をされている場合を除いて出頭を拒み、また出頭した後でもいつでも退去することができるという規定が準用されています(同法223条1項・2項)。日時や場所についても、仕事の都合を伝えて調整を相談することができます。
その一方で、話した内容は書面に残り、後の手続で使われることがあります。記憶があいまいな部分を推測で埋めてしまうと、後から訂正するのに手間がかかります。覚えていないことは覚えていないと伝えるほうが、結果として整合します。
自分の側の事情によって立場が変わることがあります
利用した方自身の行為に別の問題がある場合、たとえば相手の年齢に関わる事情があるときなどは、話を聞かれる立場そのものが変わることがあります。参考人と被疑者の違いや、その切り替わりについては別の解説に譲りますが、心当たりがある場合は、聴取に応じる前に弁護士に相談しておくほうが選択肢を確保しやすくなります。
自分の情報がどう扱われているかを確かめられるのか
ここが、多くの方の予想と食い違う部分です。
押収された記録は開示請求の枠組みの外にあります
押収物や捜査の書類に記録されている個人情報については、個人情報保護法のうち開示などを定めた部分の規定を適用しないとされています(刑事訴訟法53条の2第2項)。自分の名前が名簿のどこに、どのような形で残っているのかを、本人が開示請求によって確かめるという道は、この枠組みからは出てきません。
もっとも、これは外に広がらないという意味も併せ持っています。捜査の書類は公判が開かれる前には原則として公にしてはならないとされており(同法47条)、押収された名簿が世間に流れ出るという性質のものではありません。確かめられないことと、広まることは別の話です。
裁判になった場合と、終わった後
事件が起訴され、名簿の一部が証拠として取り調べられた場合、その範囲は事件が終わった後に閲覧の対象になり得ます(同法53条1項)。ただし、閲覧させることが関係人の名誉や生活の平穏を著しく害するおそれがあると認められるときなどは閲覧させないこととされており、無条件に誰でも見られるという制度ではありません(刑事確定訴訟記録法4条2項)。
また、押収された物のうち留置の必要がなくなったものは還付されます(刑事訴訟法222条1項・123条1項)。返る先は押収された店であって、名簿に載っている方へ経過が知らされる仕組みにはなっていません。
かえって立場を悪くしやすい行動
不安が強いときほど、動きたくなります。ただ、動き方によっては別の問題を呼び込みます。
「名簿から消してほしい」と店に頼むこと
証拠の隠滅については、自分の事件だけでなく他人の刑事事件に関するものについても定めが置かれています(刑法104条)。摘発された店の事件は、利用した方から見れば他人の刑事事件にあたります。記録を消してほしいと持ちかける行為は、頼んだ側の問題として扱われるおそれがあります。
消してほしいとまでは言わずに連絡を取る場合も、店の関係者と何を話したかが、後から口裏合わせと受け取られることがあります。摘発を知った段階で店へ問い合わせるのは、慎重に考えたほうがよい行動です。
名簿の流出を装った連絡
摘発の報道が出た後に「あなたの名前が名簿にある」「今なら削除できる」といった連絡が届き、金銭を求められるという相談も寄せられます。捜査機関が金銭の支払を求めることはありません。
家族や勤務先に伝わるのか
参考人として話を聞かせてほしいという連絡は、本人の携帯電話に入ることが多いといえます。家族や勤務先への連絡が検討されるのは、本人と連絡が取れない場合など、限られた場面です。
摘発の報道で客の氏名が出ることも、通常は考えにくいところです。報じられるのは営業を行っていた側の情報だからです。ただし、利用した方自身が別の事件の対象になっている場合は、この前提が変わります。
よくあるご質問
名簿に名前が残っていれば、連絡は来るのでしょうか
連絡が来るとは限りません。名簿や予約の記録が読まれるのは、店の営業の実態を確かめるためであり、客一人ひとりの氏名を調べること自体が目的になっているわけではないからです。ただし、特定の日時の状況を知る立場にある方に対して、参考人として話を聞かせてほしいと求められることはあります。
偽名で予約していれば、たどられないのでしょうか
予約時の名前だけで決まるものではありません。電話番号、支払の方法、送迎先といった別の記録が残っていることがあり、名前が一致しないことをもって何も残らないとはいえません。もっとも、そこを工夫するという発想は、後から説明を求められたときにかえって不利に働くことがあります。
押収された名簿は、いつまで警察にあるのですか
留置の必要がなくなったものは還付されると定められていますが(刑事訴訟法222条1項・123条1項)、その時期は捜査や裁判の進み方によって変わります。返還は押収を受けた店に対して行われるもので、名簿に載っている方に時期が知らされるわけではありません。
まとめ
- 法律が備付けを求めているのは従業者名簿であり(風営法36条)、顧客名簿は店が営業上の必要から自分で作っている記録です。
- 客の情報は名簿だけでなく、予約・会計・送迎といった複数の記録に散らばっています。
- 記録は令状に基づく捜索と差押えによって捜査機関の手元に移り、令状に記載された差し押さえるべき物が範囲の枠になります(刑事訴訟法218条1項・219条1項)。
- 記録媒体は、一定の事情があるときには中身を確認しないまま差し押さえることが許されるとされています(最高裁平成10年5月1日決定)。
- 押収された記録は店の営業の実態を確かめるために読まれるため、名簿に載っている方すべてに連絡が行くという性質のものではありません。
- 参考人としての聴取は任意ですが(刑事訴訟法223条1項・2項)、話した内容は書面に残ります。
- 押収物や捜査の書類に記録された個人情報は、開示を求める枠組みの外に置かれています(同法53条の2第2項)。
- 記録を消してほしいと店に持ちかける行為は、他人の刑事事件の証拠隠滅として扱われるおそれがあります(刑法104条)。
利用した店の摘発でご不安のある方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。摘発を後から知って連絡が来るのではないかと不安を抱えている方からも、実際に警察から連絡があった方からも、ご相談をいただいています。
何をどこまで話すべきか、自分の側にどのような事情があるのかは、状況によって変わります。ご相談の内容について、ご家族や勤務先にこちらから連絡することはありません。判断に迷う段階でお話しいただくほうが、取り得る選択肢を確保しやすくなります。


