撮影できていなくても逮捕?盗撮の未遂・建造物侵入罪のリスク
本記事は、2023年7月施行の性的姿態撮影等処罰法(撮影罪)と、2025年6月施行の拘禁刑を反映した内容です。記録の整理は、ご自身の状況を正確に伝えるための準備であり、撮影の事実の有無にかかわらず役立つものです。取るべき対応は個別の事情によって変わります。
風俗店で「今、撮っていましたよね」と呼び止められ、事務所や控室で話をすることになった。帰宅してから、何を言われ、何を書き、何を渡したのかを思い出そうとしても、順番があいまいになっている。盗撮を疑われた方からは、このようなご相談が寄せられます。
疑いをかけられた直後は、緊張や動揺から細部の記憶が抜け落ちやすく、時間がたつほど「その場で言われたこと」と「後から考えたこと」が混ざっていきます。本記事では、店に呼び止められた後に記録しておきたい事項を、日時・やり取り・証拠の3つの軸で整理シートの形にまとめました。記録は弁護士に相談する際の材料になるだけでなく、示談の交渉や、その後に警察から連絡があった場合の対応でも土台になります。
呼び止められた場面の記録が役に立つ場面
その場の記録が使われる主な場面は、次のとおりです。
- 店側が示した金額や条件に根拠があるかを検討する場面。
- その場で署名した書面の効力を考える場面。
- 示談の後に、追加の請求や別の人物からの連絡が来た場面。
- 警察から連絡があり、事情を説明することになった場面。
たとえば、店が用意した書面に署名した経緯として、帰りたいと伝えても退出を認められず、長時間にわたって署名を求められたといった事情があれば、強迫による取消し(民法96条1項)が問題になる余地があります。店側が利用者を帰れない状況に置いて示談書への署名を求めた事案で、取消しが認められた裁判例もあります(東京地裁平成29年2月28日判決)。ただし、こうした主張ができるかどうかは、そのときの状況を具体的に示せるかどうかに大きく左右されます。
また、撮影の事実がないのに疑われた場合には、どの機器を、どの位置で、どのように疑われたのかという記録が、誤解を解くための説明の中心になります。撮影の事実がある場合でも、何が問題とされ、何を約束したのかを正確に把握しておくことは、被害を受けた方への対応や示談の範囲を考えるうえで欠かせません。
記録はいつ・どのように作るか
記録は、店を出て落ち着ける場所に移ってから、できるだけその日のうちに作ることをおすすめします。その場でメモを取ろうとすると、相手を刺激したり、メモを見せるよう求められたりすることもあるため、無理にその場で書く必要はありません。
作成の方法は、スマートフォンのメモアプリや自分宛てのメールなど、作成日時が自動で残るものが向いています。紙に書く場合は、書いた日時を冒頭に記入しておきます。後から思い出した事項を書き足すときは、元の記載を消さずに、追記した日付を添えて加えると、記憶のどの部分がいつ整理されたのかが分かりやすくなります。
書き方の基本は、実際に見たこと・聞いたことと、推測や感想を分けることです。「怒鳴られた」と感じたのであれば、誰が、どのような言葉を、どの程度の声で言ったのかを書き、「脅されていると思った」という受け止めは別の行に書きます。
日時・やり取り・証拠の整理シート
以下の5つのシートは、上から順に埋める必要はありません。思い出せる項目から書き、分からない欄は空けたままにしておきます。空欄を推測で埋めないことが、記録の信用性を保つうえで大切です。
シート1 日時・場所・人物
| 項目 | 記録する内容 | 記入のポイント |
|---|---|---|
| 利用日時 | 予約時刻、入室・退室の時刻 | 予約メールや決済履歴の時刻と照らし合わせる |
| 店舗・場所 | 店名、所在地、部屋番号 | 派遣型の場合はホテル名と部屋番号も書く |
| 指摘された時刻 | 呼び止められたおおよその時刻 | サービス中か終了後かを分けて書く |
| 店を出た時刻 | 話し合いが終わり、店を出られた時刻 | その場にいた時間の長さが分かる |
| 関わった人物 | キャスト、スタッフ、責任者を名乗る人物など | 名前が分からなければ服装や呼ばれ方を書く |
| 人数 | 話し合いの場にいた人数 | 途中で加わった人がいれば時刻とともに書く |
シート2 疑われた経緯
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 最初の指摘 | 誰が、どのタイミングで、何を理由に指摘したか |
| 疑われた物 | スマートフォン、カバン、腕時計など、何を撮影機器だと言われたか |
| 機器の位置 | 指摘された時点で、その機器がどこにあり、どの向きだったか |
| 自分の説明 | その場でどのように説明し、相手がどう応じたか |
| 謝罪の有無 | 謝罪の言葉を口にしたか、その言葉と前後の文脈 |
謝罪の言葉は、その場の空気を収めようとして、あるいは怖さから口にしてしまうことがあります。そうした一言が、後から「認めた」と受け取られることもあるため、どのような状況で、何に対して謝ったのかを、ありのままに書いておきます。
シート3 その場のやり取り
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 場所の移動 | 事務所や控室へ移動したか、誰に促されたか |
| 退出の可否 | 帰りたいと伝えたか、その際に何と言われたか |
| 求められたこと | スマートフォンの提示、データの削除、身分証の提示などを求められたか |
| 金額の提示 | 誰が、いくらを、どのような名目で示したか |
| 第三者への言及 | 「警察に行く」「家族や会社に連絡する」などの発言があったか |
| 期限の提示 | 「今日中に」「明日までに」などの期限を告げられたか |
発言は要約ではなく、覚えている範囲で実際の言葉に近い形で残しておくのが望ましいでしょう。金額が話し合いの途中で変わった場合は、最初に示された金額と最終的な金額の両方を書き、変わったきっかけも添えておきます。
シート4 渡したもの・書いたもの・払ったもの
| 項目 | 記録する内容 | 手元で確認するもの |
|---|---|---|
| 身分証 | 提示しただけか、コピーや撮影をされたか、預けたか | 預けた場合は預かり証の有無 |
| 連絡先 | 電話番号、住所、勤務先などを伝えたか | 伝えた内容と、書面に書いたかどうか |
| 書面 | 念書・示談書・誓約書などに署名や拇印をしたか | 控えや写真の有無、表題、金額、支払期限 |
| 支払い | その場で払ったか、振込を約束したか | 領収書、振込明細、決済履歴 |
| 預けた物 | スマートフォン、財布、カバンなど | 返された時刻と、そのときの状態 |
署名した書面の控えを受け取っていない場合でも、表題、金額、支払期限、禁止事項など、覚えている範囲で書いておきます。控えがない場合の確かめ方は、【風俗トラブル】店の事務所で書かされた紙の写真を撮っていない|内容を後から確かめる方法で解説しています。
シート5 スマートフォン・機器の扱い
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 画面の提示 | 誰に、どの画面(写真フォルダ、カメラアプリなど)を見せたか |
| データの削除 | 削除を求められたか、自分で消したか、相手が操作したか |
| 端末の操作 | 相手が端末を手に取ったか、その時間の長さ |
| 現在の状態 | 撮影データの有無、削除済み項目のフォルダに残っているか |
| 帰宅後の扱い | 帰宅後に端末を操作したり初期化したりしていないか |
撮影の事実がない場合、写真フォルダに残る撮影日時や、カメラアプリが起動していなかったことが、説明の手がかりになることがあります。他方で、データの削除や端末の初期化は、事実の有無にかかわらず、後から不自然な行動と受け取られるおそれがあります。帰宅後は端末をそのままの状態で保管し、手を加える前に弁護士へ相談することをおすすめします。警察から端末の提出を求められた場合については、【刑事事件】警察に「スマホを任意で出してほしい」と言われた|応じる前に確認することもご参照ください。
手元に残しておきたい証拠
整理シートとあわせて、次のものは消さずに保管しておきます。
- 予約時のメール、LINE、アプリの履歴。
- 店やスタッフからの着信履歴とメッセージ。
- 決済や振込の明細、領収書。
- 署名した書面の控えや写真。
- ホテルの領収書など、利用した場所と時刻が分かるもの。
- その場や帰宅後のやり取りの録音。
自分が参加している会話を、相手に告げずに録音すること自体は、直ちに違法とされるものではないと考えられています。ただし、証拠としての扱いや残し方には注意点がありますので、【風俗トラブル】店内での録音は証拠になるのか|秘密録音と盗聴の境界(風俗の場面)をご参照ください。
メッセージのスクリーンショットは、日時や相手の名前が画面に入るように撮り、元のメッセージも削除せずに残しておきます。端末とは別の保存先に複製を作っておくと、端末を提出することになった場合にも内容を確かめやすくなります。
記録を作るときに避けたいこと
記録の信用性を損なわないために、次の点に気をつけてください。
- 記憶にない部分を、もっともらしい内容で埋めないようにします。
- 自分に不利だと感じる事実も、書き換えたり省いたりせずに残します。
- 記録を補うために、店やキャストへ追加で連絡を取ることは控えます。
- SNSや掲示板に経緯を書き込むことは避けます。
- 端末内のデータやメッセージの削除は、相談の前には行わないようにします。
弁護士には守秘義務があります。不利に見える事実も含めて伝えていただくほうが、見通しを正確に立てやすくなりますので、記録は手を加えずにそのままお持ちください。
記録が整った後に考えること
記録がそろうと、撮影の事実があったかどうか、店側の請求にどこまで根拠があるか、刑事手続に進む可能性がどの程度あるかを、具体的に検討できるようになります。撮影の事実がない場合は誤解を解くための説明の材料として、事実がある場合は被害を受けた方への謝罪や示談の内容を考える材料として、同じ記録が使われます。
撮影罪の内容や、盗撮が発覚した場合の対応については風俗・メンエスで盗撮がバレた|撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)の罰則と対応で、示談書に入れておきたい条項については風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで解説しています。誤解から盗撮を疑われた事案の解決例として、【解決事例】性風俗店での誤作動による盗撮トラブル|弁護士の付き添い交渉で誤解を解き事件化を阻止した事例もあわせてご覧ください。
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盗撮を疑われた後のご相談について
呼び止められた直後の記憶は、数日のうちに細部が薄れていきます。整理シートのすべての欄を埋められなくても構いません。思い出せる部分から書き留め、手元の資料とあわせてご相談の際にお持ちください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


