ダルク・依存症治療への参加|情状としてどう評価されるか
本記事は、2024年4月1日に施行された改正配偶者暴力防止法(DV防止法)と、2025年6月1日から導入された拘禁刑の内容を反映しています。
配偶者や同棲していた交際相手から保護命令を申し立てられ、裁判所から命令が出たとき、「どこまでが違反になるのか」「街で偶然会ってしまったらどうなるのか」と不安を抱える方は少なくありません。保護命令は裁判所が出す命令であり、違反すれば刑罰の対象になります。一方で、意図せずすれ違っただけの場面と、命令を知りながら近づく場面とでは、法的な評価は同じではありません。
この記事では、保護命令に違反した場合に起こり得ること、「うっかり会った」ときの考え方とその場での振る舞い、違反を疑われたときの初動について、命令を受けた側の立場から整理します。
保護命令とはどのような命令か
保護命令は、配偶者暴力防止法に基づき、被害を訴える側の申立てを受けて地方裁判所が出す命令です。対象となる「配偶者」には、法律上の夫婦だけでなく、事実婚の相手や生活の本拠を共にする交際相手も含まれ、関係が解消された後も引き続き対象になる場合があります。
2024年4月の改正で、発令の要件が身体への暴力や生命・身体への脅迫に加え、自由・名誉・財産に対する脅迫にも広がり、接近禁止命令の期間も6か月から1年に延びました。命令の種類と内容の目安は次のとおりです。
| 命令の種類 | 主な内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 被害者への接近禁止命令 | 被害者の身辺へのつきまといや、住居・勤務先など通常いる場所の付近をうろつくことの禁止 | 1年 |
| 被害者への電話等禁止命令 | 面会の要求、行動を監視していると告げること、乱暴な言動、無言電話、緊急時以外の連続した電話・メール・SNSの送信、深夜早朝の連絡、位置情報の無断取得などの禁止 | 接近禁止命令と同じ期間 |
| 子への接近禁止命令・電話等禁止命令 | 被害者と同居する未成年の子へのつきまとい・連絡などの禁止 | 接近禁止命令と同じ期間 |
| 親族等への接近禁止命令 | 被害者の親族など、密接な関係にある人へのつきまとい等の禁止 | 接近禁止命令と同じ期間 |
| 退去等命令 | 共に住んでいた住居から退去し、付近をうろつかないこと | 原則2か月(被害者のみが所有者・賃借人の場合は申立てにより6か月) |
命令が出ると、裁判所から警察などへ連絡が入ります。命令の内容は決定書に記載されているため、まずは手元の決定書を読み返し、自分に何が禁じられているのかを具体的に確かめることが出発点です。
保護命令に違反するとどうなるか
2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金
保護命令に違反した場合、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金に処せられる可能性があります(配偶者暴力防止法29条)。2024年4月の改正前は「1年以下・100万円以下」でしたので、改正によって法定刑が引き上げられています。インターネット上には改正前の数字のままの解説も残っているため、更新日を確かめて読むことをおすすめします。
逮捕される場合とされない場合
保護命令が出ていることは警察が把握しているため、被害者からの通報があれば、警察が駆けつけて事情を確認する流れになりやすいといえます。命令を知りながら被害者の自宅や勤務先に出向いた場合などは、再び危害が及ぶおそれがあると見られ、現行犯逮捕や、後日の逮捕状による逮捕に至ることもあります。
他方で、違反の疑いがあるからといって必ず逮捕されるわけではありません。状況によっては、警察からの注意にとどまったり、逮捕されずに呼び出しを受けて事情を聞かれたりする場合もあります。警察から連絡が来たときの対応は、警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応で解説しています。
刑事手続以外にも影響が及ぶ
違反の影響は刑罰だけにとどまりません。命令の期間が終わるころに被害者が再度の申立てをした場合、違反の事実はその判断材料になることが考えられます。また、離婚や子との面会交流について話し合う場面でも、命令に従わなかったことが不利な事情として扱われる可能性があります。
さらに、違反の際に相手の体に触れたり、脅すような言葉をかけたりすれば、暴行罪や脅迫罪など別の罪が問題になります。つきまといが繰り返されれば、ストーカー規制法が適用される場合もあります。両者の違いはストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で整理しています。
「うっかり会った」ときは違反になるのか
刑罰が科されるのは、原則として罪を犯す意思(故意)がある場合です(刑法38条1項)。保護命令違反についても、命令が出ていることを知り、そのうえで禁じられた行為をしたことが問題になります。そのため、駅や店で偶然すれ違っただけで、直ちに違反として処罰されるとは言いにくいと考えられます。
ただし、偶然の遭遇をきっかけに声をかけた、相手の後をついて行った、相手がいると分かった後もその場にとどまり続けた、という場合は、接近やつきまといの意図があったと見られやすくなります。「偶然だった」という説明が受け入れられるかどうかは、遭遇の前後の行動に大きく左右されます。場面ごとの目安は次のとおりです。
| 場面 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 駅や店で偶然見かけ、すぐに立ち去った | 意図して近づいたのでなければ、違反とは言いにくい場合が多い |
| 偶然会い、その場で話しかけた | 面会や会話を求めたと見られ、違反が問題になるおそれがある |
| 相手に気づいた後も近くにとどまる、後をつける | つきまといと評価されるおそれが高まる |
| 相手の新しい勤務先と知らずに付近を通った | 知らなかった事情は考慮されうるが、知った後も同じ場所に通い続けると評価が変わる |
| 共通の知人の集まりに相手が来ていた | 気づいた時点で退出するなど、距離を取る行動が求められる |
| 相手から「会いたい」と連絡があり、会った | 命令は有効なままで、違反になるおそれがある |
相手から誘われて会った場合も命令は続いている
相談の中で少なくないのが、「相手のほうから連絡が来た」「会いたいと言われた」という場面です。保護命令は裁判所が出した命令なので、被害者本人が会うことを望んだとしても、それだけで効力がなくなるわけではありません。相手の誘いに応じて会ったり、やり取りを重ねたりした場合でも、命令に違反したと扱われるおそれは残ります。
関係を修復したい、子どもや財産のことを話し合いたいという事情があるときも、直接連絡を取るのではなく、弁護士などの代理人を通じて進めるのが安全です。命令そのものを終わらせたい場合は、後述する取消しの手続を検討します。
偶然会ってしまったときにその場ですること
- 相手に話しかけず、その場から離れます。
- 後を追ったり、同じ場所に戻ったりしないようにします。
- 相手から話しかけられても、会話を続けずに立ち去ります。
- 帰宅後、日時・場所・その場にいた理由・立ち去るまでの経緯をメモに残します。
- 「わざとではない」と伝えるために相手へ連絡することは控えます。
- できるだけ早く弁護士に相談し、今後の対応を確認します。
特に気をつけたいのは、誤解を解こうとして相手に連絡してしまうことです。弁解や謝罪のつもりでも、電話等禁止命令に触れる行為になりかねません。謝罪の連絡が持つ意味については、【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由もあわせてご覧ください。
違反を疑われたときの初動
相手が警察に通報し、警察から連絡や呼び出しを受けた場合は、記憶が鮮明なうちに経緯を書き出しておくことが大切です。その場所にいた理由(通勤経路、仕事の予定、買い物など)や、相手に気づいた時刻、立ち去るまでにかかった時間などは、偶然だったことを説明するうえで手がかりになります。交通系ICカードの利用履歴やレシート、仕事の記録など、行動を裏づける資料も残しておきます。
弁護士ドットコムには、保護命令を受けた夫が妻の普段いる場所に来たものの、夫の代理人は違反に当たらないと説明し、警察も注意にとどめたという趣旨の相談が寄せられています。ある場所が「通常いる場所」に当たるのか、ある行動が「つきまとい」と言えるのかは、具体的な事情によって見方が分かれることがあるといえます。
取調べでは、話した内容が供述調書としてまとめられます。あいまいな記憶のまま推測で答えたり、内容を確かめずに署名したりすることは避け、事前に弁護士と話す内容を整理しておくと安心です。逮捕された場合は、早い段階で弁護人を選任し、身柄の解放や処分に向けた対応を進めることになります。
命令に納得できない・事情が変わったときの手段
保護命令の内容に不服がある場合、命令を受けた側は、決定の告知を受けた日から1週間以内に即時抗告をして、高等裁判所の判断を求めることができます。もっとも、即時抗告をしただけでは命令の効力は止まらないため、結論が出るまでは命令に従う必要があります。
また、被害者の側から取消しを申し立てた場合や、一定の期間が経過した後に命令を受けた側が申し立て、被害者に異議がないことが確認された場合には、命令が取り消されることがあります。当事者どうしで「もう大丈夫」と話がついたとしても、取消しの手続を経ていなければ命令は続いている、という点に注意が必要です。
退去等命令を受けて家に残した荷物を取りに行きたい、子どもとの面会について決めたいといった場面も、自分の判断で相手に近づくのではなく、弁護士を通じて日時や方法を調整するのが基本です。
よくあるご質問
命令の期間が過ぎれば、連絡を取ってもよいのか
期間が満了すれば、その保護命令の効力はなくなります。ただし、被害者が再度の申立てをして新たな命令が出る場合もあり、相手が拒んでいるのに連絡を繰り返せば、ストーカー規制法の問題になるおそれもあります。期間が過ぎた後も、相手の意思を確かめないまま直接連絡することは慎重に考えたほうがよいでしょう。
同棲していた交際相手からも保護命令は出されるのか
生活の本拠を共にする交際相手は、配偶者暴力防止法の対象に含まれます。同棲の有無で使える手段が変わる点は、交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応で解説しています。
一度だけ電話をかけた場合も違反になるのか
電話等禁止命令では、面会を求めることや、緊急時以外に連続して電話やメッセージを送ることなどが禁じられています。1回の連絡であっても、内容が面会の要求に当たれば違反が問題になり得ます。回数だけで判断できるものではないため、連絡を取る必要がある場合は事前に弁護士へ相談してください。
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保護命令を受けてお困りの方へ
保護命令が出ている間は、偶然の遭遇であっても、その後の行動次第で評価が変わります。「どこまでなら大丈夫か」を自分だけで判断して動くよりも、決定書の内容と生活の事情を照らし合わせ、避けるべき場所や連絡の取り方を前もって整理しておくことが、結果として自分を守ることにつながります。違反を疑われて警察から連絡が来た場合も、早めにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


