【親子問題】子が障害者雇用で働くことは、できる?
子の就職が決まり、会社から届いた入社書類の中に「身元保証書」が入っていて、親が保証人の欄に署名するよう頼まれることがあります。子の門出を前に断りにくい一方で、「何かあったときに全額を払わされるのではないか」「実印や印鑑証明書まで渡して大丈夫か」と迷われる方も少なくありません。
この記事は、2020年4月1日に施行された改正民法(個人根保証契約の極度額の定め)を踏まえて書いています。個別の書類の効力は、文言や締結の時期によって変わることがあります。
就職の際の身元保証は、「身元保証ニ関スル法律」(以下「身元保証法」)と民法によって、保証人の責任に一定の枠がはめられています。この記事では、親が身元保証人を頼まれたときに、引き受ける前に確かめたいことと、引き受けた後に知っておきたいことを整理します。
就職先が求める「身元保証人」とは何か
就職の際の身元保証は、子(会社から見れば被用者)の行為によって会社が損害を受けたときに、保証人がその損害を賠償することを約束する契約です。身元保証法は、「身元保証」「身元引受」など名称を問わず、こうした契約に適用されます(身元保証法1条)。
「人物の保証」と「損害の保証」
書類に「身元を保証する」としか書かれていない場合、それが人柄や経歴を保証するだけの意味なのか、損害賠償まで引き受ける意味なのかがはっきりしないことがあります。もっとも、現在の入社書類の多くは「本人が会社に損害を与えたときは賠償する」と明記しており、その場合は損害の保証として扱われると考えておくのが無難です。
緊急連絡先・身元引受人との違い
会社によっては、賠償の約束を含まない「緊急連絡先」の届出だけを求めている場合もあります。書類の表題よりも、本文に賠償の約束が書かれているかどうかで性質を見分けることが大切です。
引き受けた場合に親が負う責任の範囲
身元保証法と民法は、身元保証人の責任が際限なく広がらないよう、いくつかの枠を設けています。主なものは次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 保証期間 | 期間の定めがなければ3年、定めても最長5年(更新は可能で、更新後も5年まで) | 身元保証法1条・2条 |
| 極度額 | 2020年4月1日以降に結ばれた契約は、賠償の上限額(極度額)を書面で定めなければ効力を生じない | 民法465条の2 |
| 会社の通知義務 | 子の業務上の不適任や不誠実な行為、任務・任地の変更などで保証人の責任が重くなるおそれがあるとき、会社は保証人に通知する | 身元保証法3条 |
| 保証人の解除 | 上記の通知を受けたときや、その事実を知ったときは、将来に向けて契約を解除できる | 身元保証法4条 |
| 責任の減額 | 裁判所は、会社の監督上の過失、保証人になった経緯、子の任務や身上の変化などを考慮して賠償額を定める | 身元保証法5条 |
| 不利な特約 | 身元保証法の規定に反し、保証人に不利な特約は無効 | 身元保証法6条 |
極度額の記載があるかどうか
改正民法により、身元保証のように将来の不特定の損害を保証する個人の契約は、極度額を定めなければ効力を生じないとされました(民法465条の2第2項)。2020年4月1日より前に結ばれた契約には原則として従前の規定が適用されますが、それ以降に更新された場合は改正後の規定が及ぶと解されています。書類に極度額の欄があるか、金額がいくらに設定されているかは、引き受ける前に確かめておきたい点です。
実際に請求されたときの考え方
損害が生じた場合でも、保証人が損害の全額を当然に負担するわけではありません。裁判所は、会社が子を適切に監督していたか、保証人がどういう経緯で引き受けたかなどの事情を考慮して、賠償額を実際の損害額より軽くすることができるとされています(身元保証法5条)。書類に「連帯して」「一切の責任を負う」といった文言があっても、身元保証法の枠を外して保証人に不利にする特約は無効です(同法6条)。
なお、身元保証人が亡くなった場合、すでに具体的に発生していた賠償債務を除き、身元保証人の地位そのものは相続されないとするのが判例の考え方です。
書類を受け取ったら確かめたいこと
署名・押印の前に、少なくとも次の点を書類で確かめておくと、後の判断がしやすくなります。
- 書類の本文に、損害賠償の約束が書かれているかどうか。
- 極度額の記載の有無と、その金額。
- 保証期間の長さと、更新についての定め。
- 「連帯して」「一切の責任」「身上に関する一切」などの文言。
- 実印での押印や印鑑証明書の提出を求められているかどうか。
- 保証人の人数や、続柄・収入などの条件。
気になる文言があるときは、会社の人事担当者に意味を尋ねてかまいません。署名した書類の写しを親の手元にも残しておくと、後で責任の範囲を確かめるときに役立ちます。
引き受けるかどうかを考えるときの視点
身元保証人を引き受けるかどうかに、一律の正解はありません。次のような事情を家族の状況に照らして考えることになります。
子の働き方やこれまでの金銭面の状況
初めて就職する子や、長く仕事から離れていた子が社会に出る場面では、親が保証人になることが本人の後押しになることもあります。一方で、過去に金銭の持ち出しや借金のトラブルが繰り返されている場合は、現金や商品を扱う職場かどうか、極度額がいくらかを踏まえて、慎重に考えたほうがよい場面もあります。
親自身の年齢・収入・ほかの家族への影響
極度額の範囲で請求を受けた場合に、親の生活や老後の資金にどの程度の影響があるかも考えておきたい点です。親が高齢の場合、保証期間の途中で健康状態が変わり、会社から保証人の変更を求められることもあります。ほかの子との公平や、配偶者の意見も含めて話し合っておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。
会社と相談できる余地
会社によっては、極度額の金額や保証人の人数、緊急連絡先の届出で足りるかどうかについて、事情を伝えれば相談に応じてもらえることがあります。引き受けられない事情がある場合は、子と一緒に、会社に早めに相談するほうが話が進みやすいでしょう。
身元保証の代行サービスを検討する場合
親が引き受けられない場合に、民間の身元保証代行サービスが選択肢にあがることがあります。利用する場合は、会社がそうしたサービスによる保証を受け入れるか、費用や返金の条件はどうなっているかを事前に確かめておく必要があります。続柄の記載を実際と異なる形にするよう求められた場合は、会社との信頼関係に影響するおそれもあるため、慎重に判断したほうがよいでしょう。
引き受けた後に知っておきたいこと
身元保証人になった後も、親子関係や子の働き方の変化によって、対応を考える場面が出てくることがあります。
親子関係が悪化して保証人をやめたくなったとき
期間の途中で、親の側の事情だけを理由に一方的に保証をやめることは、身元保証法4条の通知や事情がない限り、難しいとされることが多いのが実情です。その場合は、会社と話し合い、別の保証人への交代や合意による終了を相談することが考えられます。期間の定めがない契約は3年、定めがあっても最長5年で終わるため、期間の満了を待つという考え方もあります。
会社から親に連絡が来たとき
会社から「お子さんのことで話がある」と連絡が来た場合でも、その場で支払いを約束したり、書類に署名したりする必要はありません。まずは何が起きたのか、会社が保証人に何を求めているのかを確かめ、保証書の写しと照らし合わせることが大切です。身元保証法3条の通知にあたる内容であれば、将来に向けた解除を検討できる場合もあります。
よくあるご質問
親が断ったら、子の内定は取り消されるのか
会社の就業規則や対応によって異なり、一概にはいえません。親が引き受けられない事情があるときは、別の親族を立てられるか、緊急連絡先の届出で足りるかなどを、子を通じて会社に相談してみることが考えられます。
実印での押印と印鑑証明書を求められたが、渡してよいか
身元保証書の本人確認として求められることは珍しくありません。ただし、どの書類に押印したのかが分からなくならないよう、押印した書類の写しを保管し、印鑑証明書を何に使うのかを確かめたうえで渡すほうが安心です。
子が退職した後も、身元保証人の責任は続くのか
身元保証は雇用関係を前提とする契約のため、退職後に新たに生じる損害は通常は対象になりません。ただし、在職中の行為による損害が退職後に発覚した場合は、保証期間内の行為として請求を受ける可能性があります。
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身元保証人を引き受けるかどうかは、書類の中身と、子と親それぞれの状況をあわせて考えることで判断しやすくなります。署名の前に書類の意味を確かめたい場合や、すでに会社から請求や連絡を受けている場合は、早めにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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