【親子問題】10代のひきこもりは、早めに動いたほうがいい?
同居している子や、以前に家計を手伝ってもらっていた子が、親のネットバンキングのIDやパスワードを知っているかもしれない。そう気づいたとき、すぐに問い詰めるべきか、黙ってパスワードを変えるべきか、迷う方は多いと思います。弁護士への相談サイトでも、家族や元配偶者が口座にログインしていたという相談が寄せられています。
ネットバンキングは、通帳やキャッシュカードと違って「手元から物がなくなる」形で異変に気づくことができません。気づいたときには送金が終わっていた、ということも起こり得ます。この記事では、親の側でできる守り方を、金融機関への連絡、情報の洗い出し、法的な整理、記録の残し方の順にまとめます。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて記載しています。2025年6月の刑法改正により、懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されています。金融機関の手続や補償の扱いは、金融機関ごとに異なります。
「入れるかもしれない」と感じる場面
子が親のネットバンキングに入れる状態になる経緯には、いくつかの型があります。悪意をもって盗み見た場合だけでなく、親が自分から教えていた場合も少なくありません。
- 以前、振込やアプリの設定を子に手伝ってもらい、そのときにIDやパスワードを伝えた。
- パスワードを手帳やメモ、冷蔵庫に貼った紙などに書いて家の中に置いている。
- 親のスマホのロック解除の番号を子が知っており、銀行アプリや認証用のSMSを見られる。
- 登録メールアドレスが、子と共用しているアドレスや子が管理するアドレスになっている。
- 身に覚えのない「ログインのお知らせ」や「振込受付」の通知が届いた。
- 子が親の残高や入出金を知っているような発言をした。
一つでも心当たりがあれば、実際に送金がされているかどうかにかかわらず、守りを固める段階に入ってよいと考えます。何も起きていない段階で手を打っておくほうが、子との衝突も小さくて済むことが多いためです。
最初に金融機関へ連絡する
パスワードの変更よりも先に、金融機関の相談窓口へ連絡することをおすすめします。家族が関わっているかもしれないという事情を伝えたうえで、次の点を確認していきます。
- ネットバンキングを一時的に利用停止にできるか、また再開の手続はどうなるか。
- ログインのパスワードや取引用の暗証番号、ワンタイムパスワードの設定を変更できるか。
- 登録されているメールアドレスと電話番号が、親本人だけが見られるものになっているか。
- 1日あたりの振込限度額を引き下げられるか。
- 直近の取引履歴とログイン履歴を確認できるか。
ここで気をつけたいのは、変更作業に使う端末です。子が触れることのあるパソコンやスマホでパスワードを変えても、端末に記録が残っていたり、認証のSMSを見られたりすれば効果が薄れます。可能であれば、金融機関の窓口で手続をするか、子が触れない端末で行うのが安全です。あわせて、親のスマホのロック解除の番号も変更しておきます。
子が知っていそうな情報を洗い出す
ネットバンキングのパスワードだけを変えても、ほかの情報が残っていれば別の入口から入られるおそれがあります。子が知り得る情報を、一度まとめて点検しておくと整理しやすくなります。
| 情報 | 子が知り得る経路 | 見直しの例 |
|---|---|---|
| ログインIDとパスワード | 設定を手伝った、メモを見た | 変更し、メモは家の外か施錠できる場所へ |
| スマホのロック解除番号 | そばで入力を見ていた | 変更し、生体認証の登録者も確認 |
| 登録メールアドレス | 共用、または子が作成した | 親本人だけが使うアドレスへ変更 |
| キャッシュカードと暗証番号 | 保管場所を知っている | 保管場所を変え、暗証番号を変更 |
| 証券口座や決済アプリ | 同じパスワードを使い回している | それぞれ別のパスワードへ変更 |
パスワードの使い回しは、ネットバンキング以外の口座やサービスに被害が広がる原因になります。銀行だけで終わらせず、関連するサービスも同時に見直すことが大切です。通帳やカードそのものを子が持っている場合は、【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応もあわせてご覧ください。
パスワードを変えたことを子に伝えるか
守りを固めた後、そのことを子に伝えるかどうかは、子との関係や暴力の有無によって判断が分かれます。
穏やかに話ができる関係であれば、「お金の管理は自分でするので、ログインはしないでほしい」と短く伝え、その日付と内容をメモしておく方法があります。以前に親がパスワードを教えていた場合には、使ってよいという了解を取り消したことをはっきりさせる意味があります。
一方で、金銭の要求や暴力が続いている家庭では、パスワードの変更に気づいた子が強く反発するおそれがあります。この場合は、自分ひとりで説明しようとせず、伝える時期と伝え方を先に決めておくほうが安全です。子との連絡そのものを弁護士に任せる方法については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。
子がすでにログインしていた場合の法的な整理
不正アクセス禁止法には家族の特例がない
他人のIDとパスワードを無断で入力してネットバンキングにログインする行為は、不正アクセス禁止法の「不正アクセス行為」にあたる可能性があります(同法2条4項、3条)。法定刑は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(同法11条)。この法律には、親子だからといって処罰を免除する定めはありません。他人のパスワードを不正に取得したり保管したりする行為も、別に処罰の対象とされています。
ただし、親が以前から使うことを認めていた場合には、「無断で」ログインしたといえるかが問題になります。先ほど触れた「了解を取り消したことをはっきりさせる」という手順は、この点で意味を持ちます。
送金まで行われていた場合
ログインしたうえで子が自分の口座などへ送金していた場合、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2、10年以下の拘禁刑)が問題になり得ます。もっとも、この罪には親族間の特例(親族相盗例)が準用されており、直系血族や同居の親族の間では刑が免除されます(刑法251条、244条1項)。別居している親族については、告訴がなければ起訴できない扱いです(同条2項)。
刑事上の処罰が難しい場合でも、送金されたお金の返還を求める民事上の請求(不法行為による損害賠償や不当利得の返還)は別に考えることができます。刑事と民事の分かれ方については、【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道で詳しく扱っています。
金融機関の補償は受けにくいことがある
ネットバンキングの不正送金については、全国銀行協会の申し合わせ(2008年2月)を踏まえて、各金融機関が補償の仕組みを設けています。ただ、金融機関の補償規定では、配偶者や二親等内の親族、同居の親族による不正の場合を補償の対象外とする例が多く見られます。家族による送金は、第三者による被害と同じようには補償されない可能性があることを前提に、早めに守りを固めておくことが大切です。
記録を残しておく
送金の被害がある場合も、まだ不安の段階にとどまる場合も、記録は後の手続で役に立ちます。
- ネットバンキングの取引履歴とログイン履歴(画面の保存や印刷)。
- 金融機関から届いた通知メールやSMS。
- 金融機関へ連絡した日時、担当者の名前、案内された内容。
- 子にログインをやめるよう伝えた日時と内容。
- 子が残高や入出金について話した内容と、その日付。
記録を取っていることを子に知られると、関係が悪化するおそれもあります。保管場所は家の外や、子が触れない端末を選ぶと安心です。
親自身の管理に不安があるとき
年齢を重ねてパスワードの管理そのものが負担になっている場合、「子に任せたほうが楽だ」と考える方もいます。しかし、金銭の要求が続いている子に管理を任せることは、問題を大きくするおそれがあります。管理を任せるよう求められている場合は、【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくことをご覧ください。
子以外の第三者に金銭管理を手伝ってもらう仕組みとしては、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や、将来に備えた任意後見契約などがあります。違いについては【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いで整理しています。口座や光熱費の名義をそもそも分けていく作業は、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかが参考になります。
弁護士に相談する意味
ネットバンキングの守り方そのものは、金融機関の窓口で多くを進めることができます。弁護士への相談が役に立つのは、その先です。たとえば、すでに送金が行われていて返還を求めたい場合、子からの金銭の要求が続いていて連絡の窓口を代えたい場合、パスワードの変更をきっかけに子が強く反発しそうな場合などです。
当事務所では、親御さんの代理人として子との連絡や交渉を引き受けるとともに、自立支援カウンセラーと役割を分けて、子の生活の立て直しまでを視野に入れた対応を行っています。サービスの流れについては、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問にまとめています。
ネットバンキングへの不安は、送金が起きる前に手を打てるかどうかで、その後の負担が大きく変わります。金融機関への連絡と情報の見直しを先に済ませ、子への伝え方や返還の請求など判断に迷う部分があれば、早めにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


