受け子をしてしまった|自首・出頭の判断と弁護士同行の意味
撮影した画像や動画を、後になって消してしまった。あるいは、疑われていると気づいた瞬間に削除した。そうしたご相談は珍しくありません。そして多くの方が、消したあとで二つの不安を抱えます。「これは証拠隠滅という罪になるのではないか」。「警察は消したデータを復元できるのか」。
この二つの問いへの答えは、実は単純ではありません。罪になるかどうかは「誰が消したか」で変わります。復元できるかどうかは、外から断定できるものではありません。そして実務でより重く効いてくるのは、復元されるかどうかよりも、消したという事実そのものです。
本記事は、すでに消してしまった方に向けて、法的な位置づけと、これから何をしないほうがよいかを整理するものです。なお、撮影された側には現実の被害があり、削除はその被害をなかったことにするものではありません。その前提のうえでお読みください。
消したこと自体が犯罪になるのか
刑法104条は「他人の刑事事件」を対象にしている
証拠隠滅等罪は、刑法104条に定めがあります。条文は、他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、変造し、または偽造・変造した証拠を使用した者を、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処すると規定しています。
注目すべきは「他人の」という限定です。条文の文言上、対象は自分以外の人の刑事事件に関する証拠に限られています。ここでいう刑事事件は、すでに捜査が始まっているものに限られず、将来刑事事件になり得るものも含むと解されています(大審院明治45年1月15日判決)。
自分の事件の証拠を消しても、この罪にはあたらないとされている
したがって、自分が撮影したデータを自分で削除した場合、それは自分の刑事事件に関する証拠の隠滅であって、104条の罪にはあたらないと解されています。疑いをかけられた人が自分を守ろうとすることは避けがたく、それを処罰するのは被疑者・被告人として防御する立場と相容れない、という説明がされています。
なお、民事の裁判で使われるはずだった資料を消しても、104条は「刑事事件」に関する証拠を対象としているため、この罪にはあたりません。
「犯罪ではない」と「不利にならない」は別
ただし、ここで安心するのは早すぎます。104条にあたらないことと、削除した事実が手続上どう扱われるかは、別の話だからです。後述のとおり、削除は、身柄を拘束するかどうかの判断や、処分を決める際の判断材料として、正面から評価の対象になります。
誰が消したかで答えが変わる
人に頼んで消してもらった場合
自分で消せば罪にならないのだから、人に頼んでも同じだろう。そう考えるのは危険です。最高裁は、犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは、証拠隠滅罪の教唆犯が成立するとしています(最高裁昭和40年9月16日決定)。この考え方は近年も維持されており、令和5年9月13日の最高裁決定も、昭和40年の判断を引用して同じ結論をとりました。
もっとも、令和5年の決定には、正犯として行えば処罰されないのに教唆犯としてなら処罰されるのは相当でない、という趣旨の反対意見が付いています。学説にも同様の批判があります。とはいえ、実務の前提となるのは多数意見のほうです。「自分で消すのはよいが、人に頼むと罪になる」という一見不思議な線引きが、現在の判例の立場だと理解しておく必要があります。
頼まれて消した家族・友人・同僚の立場
見落とされがちなのが、頼まれた側です。頼まれて他人のデータを消した人にとって、それは「他人の刑事事件に関する証拠」の隠滅にあたります。頼んだ本人が教唆犯となる一方で、実際に手を動かした人は104条の正犯として扱われ得るという構造です。
家族が「本人のスマホを初期化しておこう」と考える。勤務先の上司が「店の評判に関わるから消しておく」と判断する。こうした行為は、善意から出たものであっても、本人より重い立場に立たされることがあります。
なお、犯人の親族がその犯人の利益のためにこの罪を犯したときは、刑を免除することができるという規定があります(刑法105条)。これは罪が成立しないという意味ではなく、成立を前提に、裁判所の判断で刑を免除する余地を認めたものです。免除されるとは限りません。
共犯者がいる事件では、線引きがさらに複雑になる
消したデータが、自分の事件の証拠であると同時に、共犯者という「他人」の事件の証拠でもある場合の扱いには、学説上の対立があり、古い判例も分かれています。共犯関係が問題になり得る事案では、自己判断を避けたほうがよい領域です。
| 消した人 | 対象となる証拠 | 刑法104条の評価 |
|---|---|---|
| 本人が自分で消した | 自分の事件の証拠 | 「他人の」にあたらず、罪にはならないと解されている |
| 本人が人に頼んで消させた | 自分の事件の証拠 | 頼んだ本人に教唆犯が成立し得る(昭和40年・令和5年最高裁決定) |
| 頼まれた家族・知人・同僚が消した | 他人の事件の証拠 | 消した人に正犯が成立し得る。親族は刑の免除の余地(105条) |
| 共犯者がいる事件で消した | 自分と共犯者の双方の証拠 | 学説・古い判例が分かれており、個別の検討が必要 |
消したことは、手続のどこに効いてくるのか
逮捕するかどうかの判断
逮捕状は、裁判官が明らかに逮捕の必要がないと認めるときには発せられません(刑事訴訟法199条2項ただし書)。何をもって必要がないと見るかについて、刑事訴訟規則143条の3は、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様その他の事情に照らし、逃亡のおそれがなく、かつ罪証を隠滅するおそれがない等、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは請求を却下しなければならないと定めています。
削除した事実は、この「罪証を隠滅するおそれ」の判断材料になり得ます。在宅のまま捜査が進む見込みだった事案でも、削除の経緯によっては評価が変わることがあります。
勾留と保釈の判断
勾留の要件にも「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」が挙げられています(60条1項2号)。起訴後の保釈でも、同じ理由が権利保釈の除外事由とされています(89条4号)。除外事由にあたる場合でも、裁判所の裁量による保釈の余地は残ります(90条)。削除は、身柄が拘束されるか、拘束が続くかという場面で、繰り返し評価の対象になるということです。
処分と量刑の判断
起訴するかどうかを決めるにあたり、検察官は、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重や情状に加えて「犯罪後の情況」を考慮します(248条)。削除は、この犯罪後の情況として扱われ得ます。反省の程度をどう見るかという評価に、直接つながる部分です。
| 場面 | 条文 | 削除が関係してくる要素 |
|---|---|---|
| 逮捕状を出すか | 刑訴199条2項ただし書・規則143条の3 | 罪証を隠滅するおそれ |
| 勾留するか | 刑訴60条1項2号 | 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由 |
| 保釈を認めるか | 刑訴89条4号・90条 | 同上(裁量保釈の余地は残る) |
| 起訴するか・量刑 | 刑訴248条 | 犯罪後の情況 |
「復元されるのか」より「何が残るのか」
復元できるかどうかは、外からは断定できない
この分野の解説には「削除しても高い確率で復元される」と書かれているものが少なくありません。一方で、捜査機関がどの端末についてどこまで解析できるかは公表されておらず、機種、保存の仕組み、削除からの経過、その後の使用状況によっても事情は異なります。復元されるとも、されないとも、外から断定できるものではありません。
そして、この点を突き詰めることには、あまり意味がありません。問題になるのは、画像そのものが出てくるかどうかだけではないからです。以下では、消したあとに何が残り得るのかを見ていきます。
端末の中に残り得るもの
画像や動画の本体が見当たらなくても、撮影や保存、削除といった操作に関する記録が、端末やアプリの仕組み上、別の形で残っていることがあります。「何が写っていたか」が分からなくても、「その時期に撮影と削除があった」ことが手がかりとして扱われる、という構造です。
端末の外に残り得るもの
撮影データがクラウドに自動で同期される設定になっていれば、端末から消しても同期先に残っていることがあります。誰かに送っていれば、送信先の端末やサービス側にも残ります。
加えて、2026年5月21日には、通信事業者やクラウド事業者などに対して電子データの提供を命じる制度が施行されました。捜査の対象が本人の端末の中だけにとどまらない状況が、制度としても整えられつつあります。
データが出てこなくても、事件は動くことがある
撮影データは証拠の一つにすぎません。目撃した人の説明、防犯カメラの映像、その場でのやり取り、本人の説明。これらが積み重なって事実が認定されることもあります。「データがなければ何も分からない」という前提は、成り立たないと考えておくほうが現実的です。
すでに消してしまった後で、避けたいこと
消してしまったこと自体は、もう戻せません。ここから先の行動のほうが、結果に効いてきます。
- 追加で削除や初期化をする、端末を処分する。すでにある状況を、さらに説明のつきにくいものにします
- 機種変更や買い替えで見えなくしようとする。端末を替えた事実自体が、その時期とともに残ります
- 人に頼んで消してもらう、家族に端末を預けて処理してもらう。前述のとおり、頼んだ側にも頼まれた側にも別の問題が生じます
- 関係者と口裏を合わせる。周囲の人を巻き込むことになります
- 事実と違う説明を先に作り込む。後から訂正するほうが、はるかに難しくなります
最後の点について補足します。自分の事件について事実と違う説明をすること自体が、直ちに証拠隠滅の罪になるわけではありません。ただし、説明が客観的な記録と食い違ったとき、その後の説明全体が信じてもらいにくくなるという、別の不利益が生じます。
「消したい」という気持ちには、別の道がある
押収された画像には、消去のための手続がある
削除したくなる理由の一つに、画像が残り続けること自体への恐れがあります。この点については、性的姿態撮影等処罰法に、押収物に記録された影像に係る電磁的記録の消去等の手続が置かれており、2024年に施行されています。検察官が保管する押収物について、行政上の手続として消去等を行う仕組みです。同法には没収の規定もあります(8条)。
つまり、画像が永久に残り続けるという前提自体が、必ずしも正しくありません。自分で消すのではなく、法律の定めた手続に乗せるという道があります。
拡散が心配なとき
すでに誰かに送ってしまった、どこかに出回っているかもしれないという場合は、削除ではなく、拡散を止める方向の対応が必要です。この場合、自分の刑事責任の問題と、拡散を止めるための手続とを、切り分けて考えることになります。
取調べで削除について聞かれたら
黙秘することと、嘘をつかないことは両立する
言いたくないことを言わない権利は保障されています。一方で、話すと決めた部分について事実と違うことを述べれば、前述のとおり信用性の問題が生じます。「話さない」と「事実と違うことを話す」は、まったく別の選択です。どこまで話すかは、弁護人と相談したうえで決めるのが安全です。
記憶が曖昧な部分を断定しない
いつ、何を、どういうつもりで消したのか。時間が経つほど記憶は曖昧になります。曖昧なまま断定的に述べた内容が、後から出てきた記録と食い違うと、意図的に隠したと受け取られることがあります。分からない部分は分からないと述べるほうが、結果として正確です。
日常的に消していた場合と、疑われた後に消した場合
同じ「削除」でも、意味合いは同じではありません。日頃から容量の都合で整理していたのか、警察から連絡が来た後に消したのか、提出を求められる直前に消したのか。時期と経緯によって、評価は変わり得ます。自分の場合がどれにあたるのかを、時系列に沿って整理しておくことに意味があります。
弁護士に相談するときに伝えること
削除の経緯は、話しにくい部分です。しかし、伏せたまま方針を立てると、後から出てきた記録と食い違い、かえって不利になります。弁護人は、事情を知ったうえで説明の仕方を組み立てる立場にあります。
- いつ、どの端末で、何を消したか(分かる範囲で)
- 消した理由と、そのときの状況
- 誰かに頼んだか、あるいは誰かに頼まれたか
- クラウドへの同期設定や、誰かに送っていないか
- 警察や関係者から、どのような連絡や声かけがあったか
- その後、その端末をどう使っているか
なお、削除の経緯が常に不利にしか働かないわけではありません。事件化するより前に自ら処分し、以後は保管していないという事情が、再犯を防ぐ姿勢の説明の一部として位置づけられることもあります。ただし、これは弁護人が事実関係を確認したうえで組み立てる話であって、これから消す理由にはなりません。
まとめ
自分の事件の証拠を自分で消しても、刑法104条の証拠隠滅等罪にはあたらないと解されています。しかし、人に頼めば教唆犯の問題が生じ、頼まれた人には正犯の問題が生じます。そして削除した事実は、逮捕・勾留・保釈・処分の各場面で、罪証隠滅のおそれや犯罪後の情況として評価されます。
復元できるかどうかを、外から断定することはできません。重要なのは、画像が出てくるかどうかよりも、消したという事実と、その後にどう振る舞ったかです。すでに消してしまったのであれば、そこからさらに手を加えるのではなく、事実を整理したうえで、早い段階で弁護士に相談することが現実的な選択になります。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けし、24時間受付を行っています。夜間・早朝についても、状況により対応できる場合があります。


