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「別の件で携帯電話を預けたところ、しばらくして、過去に利用した店とのやり取りや予約の記録まで一覧にされた状態で示された」。「取調べの途中で履歴を見せられ、他にもありますよね、と尋ねられた」。刑事事件のご相談では、こうしたお話をうかがうことがあります。
インターネット上の説明では、押収された端末は解析され、削除したデータも含めて調べられる、と書かれています。この説明そのものが誤っているわけではありません。ただ、そこで止まってしまうと、出てきた記録がそのまま余罪になるのか、それとも別に何かが必要なのかという肝心のところが分からないままになります。実際には、記録が出てくることと、その記録をもとに捜査が広がっていくこととの間には、いくつかの段差があります。
この記事では、風俗店の利用に関する履歴が端末から出てきた場面を想定して、そうした記録が手続の中でどのような性質のものとして扱われるのか、そして余罪の捜査が広がるとすればどのような条件が重なったときなのかを整理します。押収そのものの手続や、削除した記録の復元、店の側が持っている名簿や予約サイトの記録の扱いは、それぞれ別の解説に譲ります。発覚を避ける方法や、取調べでの受け答えの台本は扱いません。
この記事で扱う範囲
はじめに、この記事が扱う範囲をはっきりさせておきます。
- 端末から出てきた利用履歴が、どのような性質の記録として扱われるのか。
- その記録をもとに余罪の捜査が広がるとすれば、どのような条件が必要になるのか。
- 履歴が、逆にご自身の説明を支える材料として働くことがある場面。
- 履歴について尋ねられたときに、答える前に整理しておきたいこと。
一方で、押収された端末がいつ返ってくるのか、削除した記録が復元されるのか、店の側にある顧客名簿や予約サイトの記録がどう扱われるのかは、いずれも別の解説で取り上げています。相手方が18歳未満である可能性がある場合は、そもそも枠組みが変わりますので、この記事の整理には収まりません。個別に検討する必要があります。
「利用履歴」と呼ばれているものの中身
履歴という言葉は日常的に使われますが、端末から出てくる記録は一種類ではありません。まず、その中身を分けて見ておきます。
記録の種類はひとつではない
一般に利用履歴と呼ばれているものには、予約や連絡のやり取り、決済や利用明細、移動や位置に関する記録、閲覧や検索の記録など、性質の異なるものが混ざっています。それぞれ、そこから読み取れることと読み取れないことが違います。
| 記録の種類 | そこから読み取れること | そこからは読み取れないこと |
|---|---|---|
| 予約や連絡のやり取り | いつ、どの店に、どのような申込みをしたか | 申込みの内容がそのとおりに実行されたかどうか |
| 決済や利用明細 | 支払いの日時と金額、決済先の名義 | 支払いに対応するサービスの中身 |
| 移動や位置に関する記録 | その時間帯にどのあたりにいたか | 建物の中で何が行われたか |
| 閲覧や検索の記録 | どのような情報に関心を向けていたか | 実際に行動に移したかどうか |
この表で伝えたいのは、記録の量ではなく、記録の届く範囲です。どの種類の記録も、店との接点があったことは示しますが、その場で何が行われたかまでは示していません。
履歴が示すのは経路であって行為ではない
利用履歴は、ある日ある店との間に接点があったという経路を示す索引にあたるもので、その接点の中身を語る記録ではありません。予約したものの行かなかったこともあれば、予約の内容と当日の実際が違っていたこともあります。支払った金額から役務の中身が逆算できるわけでもありません。
この違いは細かい話に見えるかもしれませんが、余罪の捜査が広がるかどうかを考えるうえでは出発点になります。捜査機関の側から見ても、履歴は「この日にこの店との接点があったらしい」というところまでを示す資料であり、そこから先を確かめるには別の材料が要るからです。
手続は「事件」を単位にして動く
余罪という言葉は、いま捜査や起訴の対象になっている事実とは別の、疑いのある事実を指す言い方です。ここで押さえておきたいのは、刑事手続が「人」ではなく「事件」を単位として動いているという点です。
捜査の出発点は「犯罪があると思料するとき」
刑事訴訟法は、司法警察職員は犯罪があると思料するときに犯人及び証拠を捜査するものとする、と定めています(刑事訴訟法189条2項)。つまり、捜査が始まるにあたっては、何らかの犯罪があったのではないかという見方が先に立っている必要があります。記録が多いこと自体が捜査の理由になるわけではありません。
事件は日時・場所・方法で区切られる
起訴状の書き方についても定めがあり、公訴事実は訴因を明示して記載しなければならず、訴因を明示するにはできる限り日時、場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定しなければならないとされています(同法256条3項)。最高裁は、この規定の趣旨について、裁判所に対して審判の対象を限定するとともに、被告人に対して防御の範囲を示すことにあると説明しています。
もっとも、同じ判断の中で、犯罪の種類や性質によって日時などを詳らかにできない特殊な事情がある場合には、その目的を害さない限りで幅のある表示をしても違法とは言えない、とも述べられています。ですから、日時や相手方が細かく特定できないからといって、それだけで事件として扱われないと言い切れるわけではありません。ここは、どちらの方向にも決めつけない部分です。
履歴が出たことと、事件が立ち上がることの間
逮捕状にも、令状にも、起訴状にも、「どの事実について」という枠が書かれます。手続はその枠に沿って進みます。履歴の一覧は、その枠を作るための手がかりにはなりますが、それ自体が枠になるわけではありません。ここが、記録が出てくることと捜査が広がることの間にある最初の段差です。
余罪の捜査が広がる条件
では、どのような場合に捜査が過去の利用にまで及んでいくのでしょうか。実務上の見方を整理すると、次の三つが重なったときと言えます。
| 条件 | そこで必要になること | 履歴だけでは足りない理由 |
|---|---|---|
| 1 その利用そのものに、犯罪の疑いを生む事情があること | 相手方の年齢、撮影の有無、営業への関わり方など、行為の側の事情 | 履歴は申込みと支払いがあったことを示すにとどまるため |
| 2 日時・場所・相手方が絞り込めること | いつ、どこで、誰に対してかが、ある程度の幅の中に収まること | 源氏名や店名だけでは相手方本人に行き着かないことがあるため |
| 3 別の材料で裏づけが取れること | 相手方の説明、店の側の記録、端末内の他の記録などとの照合 | 片側の記録だけでは、その場の出来事の中身までは確かめられないため |
条件1 利用そのものに疑いを生む事情があるか
風俗店を利用したという事実そのものは、通常、利用した側の犯罪として立件される対象にはなりません。営業に関する規制の多くは、営業する側に向けられているためです。利用した側が問われ得るのは、相手方が18歳未満であった場合、撮影に関する行為があった場合、営業そのものに関与していた場合など、行為の側に別の事情が加わったときです。それぞれの当てはめは別の解説で扱っています。
言い換えると、履歴に並んでいる利用の一つひとつは、それだけでは条件1を満たしません。過去の利用が並んでいるという事実から、直ちに余罪の捜査が始まるという関係にはなっていません。
条件2 日時・場所・相手方が絞り込めるか
仮に条件1にあたる事情がうかがわれるとしても、次に、それがいつ、どこで、誰に対してのことかが絞り込めなければ、手続の枠は作れません。風俗の場面には、この点に特有の事情があります。相手方は源氏名で呼ばれており、本名や連絡先は分からないのが通常です。他方で、予約や決済の記録は本名の側に残っていることが多く、店の側にも指名の記録が残っている場合があります。匿名に見える関係でありながら、記録の側からは辿れる余地があるという、ねじれた構造になっています。
条件3 別の材料と突き合わせられるか
最後に、履歴が示す接点について、別の材料と照らし合わせられるかどうかです。相手方が説明をしているか、店の側に記録が残っているか、端末の中に別の記録があるか。こうした材料と突き合わせて初めて、その日の出来事の中身が確かめられていきます。逆に、突き合わせる相手がいない状態では、履歴は接点を示すだけの資料のままとどまります。
三つがそろわないときに起きること
三つがそろわなければ捜査は広がりにくくなりますが、これは良い知らせとしてだけ読めるものではありません。相手方に行き着かないということは、謝罪や示談といった対応の相手にも行き着かないということでもあります。この点は、示談の可否を扱う別の解説で詳しく取り上げています。
履歴が並んでいること自体をどう見るか
利用の記録が何十件も並んでいるのを見ると、それだけで重い意味を持つように感じられます。ここも切り分けが必要です。
件数の多さと、事件の数は別のもの
履歴の件数は、そのまま罪の個数に置き換わるものではありません。それぞれの利用について、先ほどの三つの条件が検討されることになります。件数が多いことが手続の見通しにどう影響するかについては、罪数や量刑を扱う別の解説に譲ります。
「他にもあるだろう」という言い方への向き合い方
取調べの場でも、店やその関係者との民事のやり取りの場でも、履歴を示しながら他にもあるはずだという言い方をされることがあります。前者については、記憶にないことを記憶にあるかのように述べないという原則が基本になります。後者、つまり金銭の請求として持ち出される場面については、請求された金額がそのまま支払うべき金額になるわけではありませんので、別の解説をご覧ください。
履歴がご自身の説明を支えることもある
履歴は、疑いを広げる方向にだけ働く記録ではありません。実際の弁護活動では、次のような形で使われることがあります。
時期を区切る材料になる
「以前から繰り返していたのではないか」という見方に対して、記録が残っている期間そのものが限られていることを示せる場合があります。記録が示す範囲を超えた推測は、資料の裏づけを欠くことになります。
時刻の食い違いを示す材料になる
問題とされている時間帯に別の場所にいたことや、指摘されている日には接点がなかったことが、記録の側から示せる場合もあります。記憶だけで説明するよりも、記録と突き合わせて説明したほうが、話の筋が通りやすくなります。
都合のよい部分だけを取り出すことはできない
もっとも、記録は自分に有利な部分と不利な部分がひとつながりになっているもので、片方だけを取り出して使うことはできません。どの部分をどう位置づけるかは、全体を見たうえでの判断になります。この見極めは、弁護人と相談しながら進めるのが現実的です。
「残っていない」ことの意味
自分の端末に記録がなければ問題にならないのではないか、と考えたくなる場面もあると思います。ここについても整理しておきます。
記録は自分の端末だけにあるわけではない
現金で支払っていた場合や、店の側とのやり取りが短時間で終わっていた場合でも、店の側に指名や来店の記録が残っていることがあります。決済事業者や通信の側に記録が残る場合もあります。自分の手元にある記録は、その出来事に関する記録の全体の一部にすぎません。端末の外に残る記録については、別の解説で扱っています。
消すという対応が呼び込むもの
記録を消したい気持ちが生じるのは自然なことですが、捜査が始まった後の削除や端末の処分は、身柄の判断や後の説明の場面で不利に働くことがあります。また、証拠隠滅に関する刑法の規定は他人の刑事事件を対象としていますが(刑法104条)、人に頼んだ場合には、頼まれた側の立場の問題も生じます。この点の詳細は、削除と復元を扱う別の解説をご覧ください。この記事では、記録を消す方法や消えにくくする方法は扱いません。
履歴について尋ねられたときに整理しておきたいこと
最後に、実際に履歴を示されたときの心構えを挙げておきます。いずれも、受け答えの台本ではなく、事実関係を自分の側で把握するための整理です。
- 示されている記録が、予約なのか、決済なのか、位置に関するものなのか、種類を確かめる。
- その記録の日時が、自分の記憶と合っているかどうかを、思い出せる範囲で確かめる。
- 記憶があいまいな部分は、あいまいなまま伝え、断定した形にしない。
- いま問題にされているのがどの事実についてなのかを、聞き取っておく。
- 自分の端末以外にも記録が残り得ることを前提に、話の整合性を考える。
- 早い段階で弁護士に相談し、記録の位置づけを一緒に確認する。
なお、早く相談したからといって望んだ結果が約束されるわけではありません。ただ、記録の読み方や、いま何が問題にされているのかを整理したうえで手続に臨めるという点で、意味のある違いが生じることはあります。
よくあるご質問
風俗店を利用した履歴が残っているだけで、罪に問われることはありますか
利用したという事実そのものは、通常、利用した側の犯罪として立件される対象にはなりません。営業に関する規制の多くは営業する側に向けられているためです。ただし、相手方の年齢や、撮影に関する行為など、行為の側に別の事情が加わる場合には、その事情に応じて別途の検討が必要になります。
履歴に出ている店に、自分から確認の連絡を取ってもよいですか
おすすめできません。連絡の内容によっては、口裏合わせを疑われる材料になり得ますし、店の側との新たなやり取りが生じることで、金銭の要求につながる場合もあります。確認したいことがある場合は、まず弁護士にご相談ください。
履歴の日時と自分の記憶が食い違っています
記録の日時は、機器の設定や記録が作られた仕組みによって、体感と食い違うことがあります。無理に記憶を記録に合わせて説明する必要はありません。食い違っているという事実そのものを、そのまま伝えておくほうが、後の説明との整合性を保ちやすくなります。
まとめ
- 利用履歴には予約、決済、位置、閲覧など性質の異なる記録が混ざっており、いずれも店との接点を示すにとどまる。
- 捜査は犯罪があると思料されるときに始まるものとされている(刑事訴訟法189条2項)。
- 手続は事件を単位として動き、事実は日時、場所及び方法によって特定される(同法256条3項)。
- 最高裁は、この特定の趣旨を審判の対象の限定と防御の範囲の告知にあるとしつつ、事情によっては幅のある表示も許されるとしている。
- 余罪の捜査が広がるには、行為の側の事情、日時や相手方の絞り込み、別の材料との突き合わせという三つが重なる必要がある。
- 相手方に行き着かないことは、示談などの対応の相手にも行き着かないことを意味する。
- 履歴は不利にだけ働く記録ではなく、時期や時刻の説明を支える材料になることもある。
- 捜査が始まった後に記録を消す対応は、身柄の判断や後の説明で不利に働くことがある(刑法104条は他人の刑事事件を対象とする規定)。
端末の押収や余罪の捜査でお困りの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店の利用をめぐるトラブルや刑事手続に関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。端末を押収された段階、警察から連絡があった段階、取調べで過去の利用について尋ねられた段階と、置かれている状況はそれぞれ異なります。
いま何が問題にされているのか、手元の記録がどう読まれ得るのかを一緒に整理するところから始められます。ご自身で判断しかねる場面がありましたら、行動を起こす前にご相談ください。


