示談を申し入れたが断られた|そのあとに残る手段
別れた後、相手からもらったプレゼントを手元に置いておくのがつらく、「返して区切りをつけたい」と考える方は少なくありません。ところが、返却のつもりで連絡したり自宅へ届けたりしたところ、相手から「ストーカーだ」「警察に相談する」と言われ、戸惑って相談に来られる方もいます。この記事では、プレゼントを返そうとする行為がストーカー規制法の上でどのように評価され得るのか、返したいときに問題になりにくい進め方、すでにストーカーと言われてしまった場合の対応を整理します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は2025年12月30日施行の改正により、被害者からの申出がなくても警察が職権で警告できる仕組みが設けられています。
返すつもりでもストーカーと言われるのはなぜか
返す側にとっては「借りを残さないため」「気持ちの整理のため」の行動でも、受け取る側の見え方は異なることがあります。別れを告げた側からすると、別れた後に届く連絡や訪問は、内容にかかわらず「まだ関係を続けようとしている」と受け止められやすいためです。とくに、別れ話の際に連絡を控えてほしいと伝えられていた場合や、返却をきっかけに会おうとする言葉が添えられていた場合は、警戒されやすくなります。
弁護士ドットコムなどの法律相談サイトにも、元交際相手にぬいぐるみを送ったところ警察から警告を受けたという相談や、忘れ物の件で連絡しただけなのに警察官が訪ねてきたという相談が寄せられています。本人に悪意がなくても、相手が不安を感じて警察に相談すれば、警察が事情を聴いたり注意したりすることがあります。用件が正当かどうかと、相手がどう受け止めるかは、分けて考えておく必要があります。
ストーカー規制法では何が問題になるのか
「好意の感情」を満たす目的があるかどうか
ストーカー規制法が規制する「つきまとい等」は、特定の人への恋愛感情その他の好意の感情や、それが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われるものに限られています(ストーカー規制法2条1項)。純粋に物を返すことだけが目的であれば、この目的が否定される余地があります。
もっとも、目的は本人の説明だけで決まるものではなく、連絡の回数や文面、添えた手紙の内容、届け方といった客観的な事情から判断されます。「最後に会って渡したい」「気持ちを伝えたい」といった言葉が含まれていれば、返却は口実で、復縁や面会を求める目的があったと評価されるおそれがあります。
返却の場面で問題になりやすい行為
| 行為の例 | ストーカー規制法上の類型 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 相手の自宅や勤務先へ持参する、玄関先で帰りを待つ | 住居等への押し掛け、待ち伏せ・見張り(2条1項1号) | 在宅かどうかを確かめるために付近にとどまる行為も含まれ得ます |
| 「直接会って渡したい」と繰り返し求める | 面会など義務のないことの要求(2条1項3号) | 相手が会うことを望んでいないのに、手渡しを条件にするのは避けたい対応です |
| 返信がないのにメッセージや電話を重ねる | 拒まれた後の連続した電話・メッセージ等(2条1項5号) | ブロックされた後に別の手段で連絡することも同様に評価されやすくなります |
| プレゼントに手紙を添えて何度も送る | 拒まれた後の連続した文書の送付(2条1項5号) | 手紙の文面は、目的を判断する材料にもなります |
| 共通の友人や相手の家族に何度も取り次ぎを頼む | 相手と密接な関係にある人に対するつきまとい等 | 相手本人に直接連絡していなくても対象となり得ます |
一度の連絡で処罰されるのか
つきまとい等に当たる行為があった場合、警察は警告をすることができ、都道府県公安委員会は禁止命令を出すことができます。警告は行政指導であり、それ自体で前科がつくものではありません。一方、つきまとい等を反復して「ストーカー行為」に当たると判断されると、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象となり(同法18条)、禁止命令に違反した場合にはさらに重い刑が定められています(同法19条・20条)。
返却のための連絡が一度だけで、内容も事務的なものであれば、それだけで処罰に至ることは通常考えにくいといえます。ただ、先に触れた改正により、警察は被害者の申出がなくても職権で警告できるようになりました。「一度だけだから」と考えて連絡を重ねると、その積み重ねが反復と評価されるおそれがある点には注意が必要です。
なお、東京都の迷惑防止条例は、恋愛感情に限らず、ねたみや恨みなどの感情を満たす目的でのつきまといも規制しています。返却を名目にしながら相手を責める文面を送るような場合は、こちらの観点からも問題になり得ます。また、オートロックのマンションの内部に入り込んで玄関前に物を置いてくる行為は、住居侵入罪が問題になる場合があります。
そもそもプレゼントを返す必要はあるのか
交際中に受け取ったプレゼントは、法律上は贈与として扱われるのが一般的です。書面によらない贈与であっても、物を渡し終えた部分は撤回できないとされているため(民法550条)、受け取った物はすでに自分の所有物になっていると考えられます。そのため、別れたからといって返さなければならない義務は原則としてなく、手元に置いておくことも、自分の判断で処分することもできます。
例外として、婚約指輪のように婚約の成立を前提に渡された物や、条件が付けられていた物は、婚約解消の経緯などによって返還が問題になることがあります。また、そもそもプレゼントではなく借りていた物や、相手が部屋に置いていった私物は相手の所有物ですので、勝手に処分せず、返し方を考える必要があります。この点は【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかで詳しく解説しています。
反対に、自分が贈った物を返してほしいという場合も、贈与が済んでいる以上、返還を求められる場面は限られます。返還を求める連絡を繰り返すと、ストーカー規制法上の問題に発展するおそれもあります。贈り物やお金の返還については交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?をご覧ください。
返したいときに問題になりにくい進め方
それでも返却したい場合は、相手の負担をできるだけ小さくし、顔を合わせる機会を作らない方法を選ぶことが大切です。
- 連絡は一度だけにとどめ、「お預かりしている物をお返ししたいと考えています。不要であればこちらで処分します」など用件だけを伝えます。
- 返却を希望するかどうか、返す場合の方法(郵送・宅配便など)は相手に選んでもらいます。
- 返信がない場合や断られた場合は、それ以上連絡せず、返却は見送ります。
- 直接手渡す、自宅や勤務先に持参する、帰宅を待つといった方法はとりません。
- 宅配便で送る場合も、手紙やメッセージカードは同封せず、物だけを送ります。
相手が引っ越していたり連絡先を変えていたりする場合に、新しい住所や連絡先を調べて送ることは避けたほうがよいでしょう。居場所を探る行為そのものが、相手の不安を強めるおそれがあります。
共通の友人に頼むときの注意
共通の友人に返却を頼むことは、直接の接触を避ける方法の一つです。ただし、友人を通じて気持ちを伝えてもらったり、相手の近況を聞き出したりすると、友人を経由したつきまといと受け止められかねません。頼む場合は返却だけを一度お願いし、相手が受け取りを断ったらそこで終えるようにします。
弁護士を窓口にする方法
相手との関係がこじれている場合や、高額な物で返却の方法をきちんと決めておきたい場合は、弁護士を窓口にする方法もあります。弁護士が用件を整理して相手に伝えることで、返却の意思と、それ以上の接触を求めていないことを明確にできます。返却とあわせてお金の清算が残っている場面については、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面も参考にしてください。
すでに「ストーカーだ」と言われたときにすること
相手からストーカーだと言われた段階で、弁明や謝罪のために連絡を重ねると、かえって状況が悪化することがあります。まずは次の点を意識してください。
- 返却や説明を目的とするものも含め、相手への連絡をいったん止めます。
- 相手の自宅や勤務先、よく行く場所には近づかないようにします。
- 自分が送ったメッセージや手紙、送り状の控えは削除・破棄せずに保存しておきます。
- 共通の友人などを通じて弁明を伝えてもらうことも控えます。
送った内容が事務的なものだったことは、後に警察から事情を聴かれた際に、経緯を説明する大切な資料になります。謝りたい気持ちがある場合も、直接の連絡は相手の負担になり得ますので、【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由をあわせてご覧ください。
警察から電話が来た場合は、慌てて折り返す前に、どの警察署からの連絡で、何の件なのかを落ち着いて確認することが大切です。確認の手順は「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのことで解説しています。
すでに警告を受けている場合は、たとえ返却が目的であっても、相手への連絡や送付は控えてください。警告後の連絡は、禁止命令や検挙につながるおそれがあります。手元のプレゼントは、返さずに保管するか自分で処分するのが無難です。警告の意味とその後の流れは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで、相手の代理人弁護士から書面が届いた場合の対応は【刑事事件】弁護士から警告の書面が届いた|ストーカーと名指しされたときの返し方で解説しています。
プレゼントを返したいという気持ち自体は自然なものですが、別れた後の接触は、用件にかかわらず相手に不安を与えることがあります。返すかどうか迷ったときは、相手に連絡する前に、返さないという選択肢も含めて検討することをおすすめします。すでに相手や警察から指摘を受けている場合は、それ以上の連絡を控えたうえで、早めに弁護士へご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


