接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け
本記事は、ストーカー行為等の規制等に関する法律(令和7年12月30日施行の改正後のもの)、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例を踏まえ、2026年10月時点の内容で作成しています。
「別れた相手の車が、家の前を通っていくのを何度か見かけた」「停まるわけでも声をかけてくるわけでもなく、通り過ぎるだけ」――こうした状況では、「公道を走っているだけなのに相談してよいのだろうか」「大げさだと思われないか」と迷う方が少なくありません。インターネット上の法律相談でも、元交際相手や元配偶者の車が自宅の付近を通ることについて、対処の方法を尋ねる質問が繰り返し寄せられています。
結論からいえば、通り過ぎるだけの段階でも、警察や弁護士に相談すること自体はできます。ただ、相談できることと、相手に警告や処罰が及ぶことは別の段階です。この記事では、「通り過ぎるだけ」という状況に絞って、相談することの意味、相談をためらう理由への考え方、相談の前に整えておきたい情報を整理します。車での走行がストーカー規制法の「うろつき」に当たるかどうかの詳しい判断については、【ストーカートラブル】相手の車が家の周りを走っている|うろつきとして扱えるかで扱っていますので、あわせてご覧ください。
通り過ぎるだけでも、相談すること自体はできる
まず押さえておきたいのは、警察や弁護士への「相談」は、違法と決まった行為だけを対象にしているわけではないという点です。
相談は、違法かどうかを確かめる場でもある
警察では、最寄りの警察署の生活安全課などのほか、警察相談専用電話(#9110)でも相談を受け付けています。相談の段階では、相手の行為が法律に当たるかどうかがはっきりしていなくても構いません。むしろ、自分では判断がつかない状況だからこそ、相談して見通しを確かめる意味があります。
相談をすると、警察には相談の記録が残ります。その後に相手の行動が続いたり、ほかの接触が加わったりしたとき、以前から同じ車を見かけていたという経過を示す手がかりになることがあります。事案によっては、自宅周辺の巡回を強めてもらえることもあります。
相談と、警告・処罰は別の段階
一方で、相談したからといって、すぐに相手に警告が出たり、処罰されたりするわけではありません。それぞれの段階で求められる事情は、おおむね次のように異なります。
| 段階 | 主な内容 | 求められる事情の目安 |
|---|---|---|
| 相談 | 状況の聴取、助言、相談記録の作成、巡回の強化など | 特定の要件はない |
| 警告(ストーカー規制法4条) | 相手に対し、つきまとい等をやめるよう警察が伝える | 好意や恨みの目的による「つきまとい等」があり、さらに繰り返すおそれがあること |
| 禁止命令(同法5条) | 公安委員会が、つきまとい等をしてはならないと命じる | つきまとい等があり、更に反復のおそれがあること |
| 検挙 | ストーカー行為罪などとして捜査の対象になる | 「つきまとい等」の反復など、罪の成立に必要な事情 |
通り過ぎるだけの段階は、多くの場合、表の一番上の「相談」に当たります。相談の時点で警告や処罰まで進むとは限らないことを知っておくと、相談に対する期待と実際の対応とのずれを小さくできるでしょう。
「通り過ぎるだけ」は法律上どう見られるか
相談する前に、通り過ぎる行為が法律上どのように位置づけられるのかを、大まかに確認しておきます。
一度の通過だけで規制の対象と判断されることは多くない
ストーカー規制法は、「つきまとい等」の一つとして、住居等の付近をみだりにうろつくことを挙げています(ストーカー規制法2条1項1号)。手段は徒歩に限られていないため、車での走行も対象になり得ます。
もっとも、「みだりに」とは正当な理由なく、という意味です。公道を一度通り過ぎただけでは、通勤や買い物の途中だった可能性も否定できないため、それだけで「うろつき」と評価されることは多くないと考えられます。刑罰の対象となる「ストーカー行為」と評価されるには、つきまとい等が繰り返され、かつ身体の安全や住居等の平穏が害される不安を覚えさせるような方法で行われていることが必要とされています(同法2条4項)。
通過が意味を持ち始める事情
一方で、通り過ぎる行為も、ほかの事情と重なることで評価が変わることがあります。たとえば、次のような事情です。
- 相手の住まいや職場との位置関係からみて、自宅前の道を通る必要がない。
- 同じ車を、短い期間に何度も見かける。
- 深夜や早朝など、人の行き来が少ない時間帯に見かける。
- 家の前で速度を落とす、周囲を何度も回る。
- 別れ話の後や、連絡を断った後から見かけるようになった。
- 通過のほかにも、連絡や共通の知人を通じた接触が続いている。
こうした事情がいくつ重なっているかによって、単なる通過なのか、意図をもって家の近くに来ているのかの見え方が変わってきます。相談の段階では、これらに当てはまるかどうかを自分で判断しきる必要はありません。気づいた事情をそのまま伝えることが大切です。
相手の目的によって使える規定が変わる
ストーカー規制法の対象になるのは、恋愛感情その他の好意の感情や、それが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われる場合です。元恋人の場合は、この目的が問題になる場面が多いといえます。これに対し、金銭の貸し借りなど別の理由による恨みが中心の場合でも、東京都では迷惑防止条例が、妬みや恨みなどの悪意の感情による住居等の付近のうろつきなどを禁止しています(東京都迷惑防止条例5条の2第1項)。どの規定で考えるかは、相談の中で整理していけば足ります。
相談をためらう理由と、その考え方
通り過ぎるだけの段階で相談に踏み切れない方からは、次のような声を伺うことがあります。
- 見間違いや気のせいかもしれないので、言い出しにくい。
- 公道を走っているだけなのに、大げさだと思われそう。
- 相談したことが相手に伝わって、かえって刺激してしまわないか心配だ。
- 相談しても何も変わらないのではないかと思う。
「気のせいかもしれない」段階での相談
見間違いの可能性がある段階でも、相談の際に「確実ではない」と伝えたうえで、見かけた日時や車の特徴を話すことはできます。確実になるまで待っていると、その間の経過が記録に残らないことにもなりかねません。夜道で後をつけられているように感じる場面の考え方は、【ストーカートラブル】夜道でつけられている気がする|警察に相談してよい段階かでも整理しています。
相談したことは相手に伝わるのか
相談しただけで、警察が直ちに相手へ連絡するとは限りません。ただし、令和7年12月30日に施行された改正により、被害者の申出がなくても、警察が職権で警告を出せるようになりました(ストーカー規制法4条)。状況によっては、警察の判断で相手に働きかけが行われることも考えられます。
相手を刺激することが心配な場合は、相談の場でその気持ちと、相手が自宅や職場をどこまで知っているかを伝えておくとよいでしょう。働きかけの時期や、その前に身の安全をどう確保するかを一緒に考えてもらいやすくなります。
相談しても変わらなかったと感じたとき
相談の時点では様子を見ることになったとしても、その後に事情が加われば対応が変わることがあります。記録を続けたうえで改めて相談する、弁護士に相談して別の手段を検討するといった道も残っています。【ストーカートラブル】警察に相談したのに警告が出ない|次に取れる手段もご参照ください。
相談の前にそろえておきたい情報
通り過ぎるだけの段階では、記録の有無が相談の進み方を大きく左右します。次の情報を、分かる範囲でまとめておくと話が伝わりやすくなります。
- 見かけた日付・時刻・場所と、走っていたか停まっていたかの別。
- 車種・色・ナンバー(地名や分類番号、ひらがなを含めて)。
- 交際中に相手が使っていた車の情報と、今回見かけた車との一致点。
- 相手の住まいや勤務先のおおよその場所と、自宅との位置関係。
- 別れた時期と経緯、その後の連絡や接触の有無。
- 防犯カメラやドライブレコーダーの映像、写真の有無。
元恋人の場合、交際中に相手の車に乗っていたり、車種やナンバーを知っていたりすることがあります。この点は、見知らぬ相手の車と比べて、同じ車であることを示しやすい事情といえます。記録はその日のうちにつけておくことが望ましく、記録の付け方の全体像は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とは、映像の扱いは【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点で詳しく扱っています。
相談先ごとにできること
相談先によって担える役割は異なります。状況に応じて組み合わせて使うことができます。
| 相談先 | 主にできること | 注意点 |
|---|---|---|
| 110番 | 身の危険を感じる場面での緊急対応 | 車が停まって様子をうかがっている、近づいてくるなど差し迫った場面で使う |
| 警察署・#9110 | 相談記録の作成、助言、巡回、警告や禁止命令に向けた手続 | 通り過ぎるだけの段階では、様子を見る対応になることもある |
| 弁護士 | 相手への通知、接触しない旨の合意書の作成、接近禁止の仮処分の検討、警察への相談の進め方の助言 | 相手が誰か分かっていることが前提になる手続が多い。費用がかかる |
警察への相談と弁護士への相談は、どちらか一方を選ぶものではなく、並行して進めることもできます。順序の考え方は【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で整理しています。
通り過ぎる段階で控えたい対応
相手の車を見かけると、理由を確かめたくなるのは自然なことです。ただ、次のような対応は、新たな接点を生んだり、身の安全を損ねたりするおそれがあるため、控えるようにしてください。
- 元恋人に自分から連絡して、家の前を通る理由を問いただす。
- 相手の車を追いかける、車の前に立って止めようとする。
- 車に貼り紙をする、傷を付けるなど、車に働きかける。
- ナンバーや車の写真をSNSに投稿して、周囲に知らせる。
特に、自分から連絡を取ることは、相手にとって関係が続いていると受け取られるきっかけになることがあります。相手に伝えたいことがある場合は、警察や弁護士を通じて行うほうが安全です。避けたい対応の全体像はストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するためにでまとめています。
よくあるご質問
元恋人が近所に住んでいて、自宅前の道を通ることがあり得ます。それでも相談できますか?
相談することはできます。ただ、自宅前の道が相手の生活の経路になっている場合、通り過ぎるだけで「みだりに」と評価するのは難しくなります。必要のない時間帯に何度も通る、家の前で停まるなど、通常の通行とは違う点を意識して記録しておくことが大切です。相手の住まいが近い場合の考え方は、【ストーカートラブル】元恋人がわざと近所に引っ越してきたら、何かできる?も参考になります。
一度見かけただけで、その後は見ていません。相談する意味はありますか?
一度だけの場合、警察で具体的な手続に進むことは多くないと考えられます。それでも、相談の記録を残しておくことで、後に同じことが起きたときに経過を示しやすくなります。少なくとも、見かけた日時と車の特徴は手元に記録しておくとよいでしょう。
相手が別の車に乗り換えたようで、同じ車かどうか分かりません
車が替わっていても、運転者の顔や服装、見かける時間帯の傾向などから、同じ人物であることがうかがえる場合があります。はっきりしない段階でも、分かっている範囲の情報を持って相談することは可能です。相手を決めつけて直接問いただすことは避けてください。
まとめ
- 元恋人の車が家の前を通り過ぎるだけの段階でも、警察や弁護士に相談すること自体はできます。
- 相談と、警告・禁止命令・検挙は別の段階であり、相談しただけで相手に警告や処罰が及ぶとは限りません。
- 住居等の付近をみだりにうろつく行為はストーカー規制法の対象になり得ますが、一度の通過だけで規制の対象と判断されることは多くありません(ストーカー規制法2条1項1号)。
- 回数・時間帯・位置関係・別れた後の経緯など、ほかの事情が重なることで評価が変わることがあります。
- 令和7年12月30日以降は、被害者の申出がなくても警察が職権で警告を出せるため、相手への働きかけが心配な場合は相談の場で伝えておくことが大切です。
- 見かけた日時・場所・車種・ナンバーなどの記録が、相談を進めるうえでの手がかりになります。
- 自分から相手に連絡して理由を問いただすことは避け、伝えたいことは警察や弁護士を通じて伝えるほうが安全です。
通り過ぎるだけの段階は、法律上の評価がはっきりしないことが多い一方で、記録と相談を始めておくことで、後の選択肢を残しやすい時期でもあります。元恋人の車を見かけて不安を感じている方、どこまで記録すれば相談できるのか分からない方は、お手元のメモや映像をお持ちのうえでご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


