【男女トラブル】交際中に相手の家族と金銭のやり取りがあった|別れた後の清算
この記事は、2026年10月時点の弁護士法、行政書士法(令和8年1月1日施行の改正法を反映)、民法、刑法の規定に基づいて解説しています。罰則は、2025年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映しています。
元恋人と別れてしばらく経ってから、「〇〇様代理人 行政書士△△」と記された書面が届き、慰謝料の支払いを求められた。弁護士ではない名義の請求に、どこまで応じなければならないのか分からず戸惑う方は少なくありません。反対に、請求する側から「弁護士に頼むと費用がかかるので、行政書士に書面を作ってもらった」というお話を伺うこともあります。
行政書士は権利義務に関する書類を作成できる国家資格であり、行政書士が書面を作ること自体が直ちに問題になるわけではありません。ただ、行政書士には、争いのある慰謝料請求について本人に代わって交渉する権限がありません。この点を知らないまま電話や面談に応じると、請求する側の言い分に沿って話が進んでしまうことがあります。
この記事では、元恋人の代理人を名乗る行政書士から請求が届いたときに、書面の意味をどう読み、誰と何をやり取りすればよいかを整理します。弁護士名の内容証明が届いた場合の対応は内容証明が弁護士名で届いた|慌てて払う前にやるべきことで、相談先ごとの業務範囲の違いは弁護士・司法書士・行政書士・警察・行政窓口|どこに相談すべきかの使い分けで解説しています。
行政書士名義の請求書は、誰の請求なのか
行政書士が担うのは書類の作成
行政書士の業務は、官公署に提出する書類や、権利義務・事実証明に関する書類の作成と、その作成についての相談が中心です(行政書士法)。内容証明郵便の文面や合意書を作ることも、この書類作成に含まれます。つまり、行政書士名義の請求書の中身は、行政書士自身の判断ではなく、依頼した元恋人本人の請求を書面にしたものと考えるのが基本です。
「代理人」と書かれていても、交渉の代理はできない
書面に「代理人」「受任者」などと書かれていることがありますが、紛争になっている慰謝料について、報酬を得て相手方と交渉したり和解をまとめたりすることは、原則として弁護士にしか認められていません(弁護士法72条)。これに違反した場合の罰則は、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(同法77条3号)。そのため、行政書士名義の書面が届いても、交渉の相手はあくまで元恋人本人ということになります。
争いのある請求に関わると、非弁行為の問題が生じる
どこからが「争いのある法律事件」にあたるかについては考え方が分かれています。ただ、内縁の妻から夫の交際相手への慰謝料請求について、当事者間に激しい対立がある中で行政書士が法的な見解を述べて依頼者を主体的に指導し、内容証明を作成した事案で、弁護士法72条に反する行為にあたると判断した裁判例があります(広島高裁松江支部平成25年5月29日判決)。元恋人との間で請求の根拠そのものに争いがある場合、行政書士が電話で金額の話を持ちかけたり、話し合いの場を取り仕切ったりすることには、同じ問題が生じえます。
請求の場面で関わる資格ごとの違いは、おおむね次のとおりです。
| 資格 | 請求書面の作成 | 相手方との交渉 | 裁判での代理 |
|---|---|---|---|
| 弁護士 | できる | できる | できる |
| 認定司法書士 | できる | 140万円以下の範囲でできる | 簡易裁判所で140万円以下の範囲でできる |
| 行政書士 | できる(紛争性の高い事案では問題になりうる) | できない | できない |
書面が届いたら、最初に確かめること
差出人が実在する行政書士か
まず、書面にある行政書士の氏名、事務所名、登録番号を確かめます。行政書士として登録されているかどうかは、各都道府県の行政書士会や日本行政書士会連合会で確認することができます。行政書士を名乗っていても登録が確認できない場合は、請求の経緯そのものを慎重に見直す必要があります。
誰の名前で、何を、いくら求めているか
次に、書面の中身を項目ごとに書き出してみると、請求の全体像がつかみやすくなります。
- 請求しているのは誰か(元恋人本人の氏名が記されているか)。
- 何を理由にした請求か(婚約の破棄、交際中の言動、貸したお金の返還など)。
- 請求額と、その内訳が示されているか。
- 回答の期限と、求められている回答の方法(電話、書面、来所など)。
- 期限までに回答しない場合に、何をすると書かれているか。
回答期限に法的な拘束力はない
書面に記された期限は、請求する側が一方的に定めたものです。期限を過ぎたからといって、それだけで支払義務が生じたり確定したりするわけではありません。ただ、まったく反応しないでいると、元恋人本人が訴訟を起こしたり、弁護士に依頼し直したりすることもあります。期限内に結論を出せない場合は、検討中であることだけを書面で伝えておく方法もあります。
元恋人からの慰謝料請求は、そもそも認められるのか
交際を終えたこと自体は、原則として慰謝料の理由にならない
結婚していない交際関係は、法律上、続けることを義務づけられた関係ではありません。そのため、別れを告げたこと、交際が終わったことだけを理由とする慰謝料は、原則として認められにくいと考えられています。「長く付き合ったのだから」「時間を無駄にした」という理由も、それだけでは請求の根拠になりにくいところです。詳しくは【男女トラブル】別れを告げたら「今までの時間を返せ」と言われた|時間の対価は請求できるのかで解説しています。
請求が認められうる場面
一方で、交際の中で次のような事情があった場合には、不法行為(民法709条・710条)や婚約の不当な破棄として、慰謝料が問題になることがあります。
- 結婚の約束が成立しており、正当な理由なく一方的に破棄した場合。
- 交際中に暴力やそれに近い言動があった場合。
- 既婚であることなど重要な事実を偽って関係を続けた場合。
- 相手の同意なく性的な画像を撮影したり、第三者に見せたりした場合。
婚約の解消が問題になっている場合の考え方は、結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはで解説しています。なお、貸したお金の返還や立て替えた費用の精算は、慰謝料とは別の問題です。書面の中で慰謝料と貸金がまとめて請求されている場合は、項目ごとに分けて考える必要があります。
書面に書かれた金額は、請求する側の希望額
書面には「相場は〇〇万円」「最低でも〇〇万円」などと書かれていることがありますが、示された金額は請求する側の希望であり、そのまま支払うべき額になるわけではありません。また、不法行為による慰謝料の請求権には時効があり、原則として、損害と相手を知った時から3年、行為の時から20年で消滅します(民法724条)。いつの出来事を理由にした請求なのかも、あわせて確かめておきます。
行政書士とのやり取りで気をつけたいこと
電話や面談での交渉には応じなくてよい
行政書士から電話がかかってきたり、事務所への来所を求められたりすることがあります。行政書士には交渉の代理権がないため、金額や条件の話し合いを行政書士との間で進める必要はありません。「交渉は本人と書面で行います」と伝え、記録の残る方法に切り替えるのがよいでしょう。
その場で事実を認めたり、署名したりしない
口頭で「申し訳なかった」「払います」と答えたことや、用意された書面に署名したことは、後で請求を裏づける材料として扱われることがあります。強く迫られて書いた書面であっても、後から効力を争うには手間と時間がかかります。署名してしまった後の考え方は、【男女トラブル】別れ際に書いた誓約書を撤回したい|強く迫られて書いた書面で解説しています。
合意をまとめるときは、当事者と支払先を確かめる
話し合いの結果、金銭を支払って解決する場合でも、合意の当事者は元恋人本人とあなたです。行政書士の名義だけで本人の署名がない合意書や、行政書士の口座への支払いは、本人に合意の効力が及ぶのか、本人に支払いが届くのかといった点で、後に争いが生じるおそれがあります。
合意書には、これ以上の請求をしないことを確認する清算条項や、互いに接触しないことの約束を入れておくことも検討します。清算条項の役割は、示談したのに再度請求された|清算条項と蒸し返しへの対応で解説しています。
勤務先や家族に知らせると言われた場合
書面や電話で「期限までに払わなければ勤務先に連絡する」「家族に伝える」などと告げられることもあります。支払いを求めるために私生活の事情を周囲に知らせると示す言動は、内容や程度によっては脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同法249条)が問題になることがあります。こうした文言があった書面や通話の記録は、処分せずに保管しておきましょう。周囲に知られずに対応を進める方法は、家族に知られずに解決できるか|連絡方法・書面の送付先の設計で解説しています。
回答の仕方と、弁護士に相談する場面
無視せず、書面で方針を伝える
請求に応じるつもりがない場合でも、まったく応答しないのではなく、「請求には応じられない」「請求の根拠を具体的に示してほしい」など、自分の方針を短く書面で伝えておくと、後の経過を整理しやすくなります。理由を細かく書きすぎると、それ自体が相手の主張の材料になることもあるため、書く内容は慎重に選びます。
回答の宛先をどうするか
書面では行政書士の事務所が連絡先に指定されていることが多いものの、交渉の当事者は元恋人本人です。本人に宛てて回答するのか、書面を作成した行政書士の事務所気付で送るのかは、住所を知られたくないといった事情も含めて検討が必要です。いずれの方法でも、送った書面の控えと送付の記録を残しておきます。
弁護士に窓口を移すと変わること
弁護士に依頼すると、弁護士が代理人として元恋人本人や関係者とのやり取りの窓口になり、あなたが直接連絡を受ける場面を減らすことができます。請求に根拠があるかどうかの見通しを立て、必要に応じて金額や条件について交渉し、合意書の内容を整えます。元恋人が途中で弁護士に依頼した場合や、訴訟になった場合にも、同じ窓口で対応を続けられます。詳しくは弁護士に窓口を移すという選択|代理人通知が効く場面・効かない場面で解説しています。
行政書士会や弁護士会への情報提供
行政書士が書類作成の範囲を超えて交渉に関わっていると考えられる場合、その行政書士が所属する都道府県の行政書士会や、弁護士会に情報を提供する方法もあります。ただし、情報提供は請求そのものを止める手続ではないため、請求への対応とは分けて考えることが大切です。
よくあるご質問
「応じなければ裁判を起こす」と書かれていました。行政書士が裁判をするのですか?
行政書士は裁判の代理人になることはできません。裁判を起こすとすれば、元恋人本人か、本人が依頼した弁護士です。裁判所から訴状が届いた場合は、期限までに答弁書を出さないと相手の主張どおりの判決が出ることがあるため、早めに対応を検討してください。
行政書士の書面を無視し続けたらどうなりますか?
書面を無視したことだけで支払義務が生じるわけではありません。ただ、元恋人本人が訴訟や調停を申し立てる、弁護士に依頼し直すなど、次の手段に進む可能性があります。方針を決めて、記録の残る形で応答しておくほうが、その後の対応を整理しやすくなります。
請求額を少し下げてもらえるなら、行政書士との話で終わらせてもよいですか?
金額が下がったとしても、まずは支払う理由がある請求なのかを確かめることが大切です。また、合意の当事者が元恋人本人になっているか、これ以上請求しないことが書面で確認されているかを確かめないまま支払うと、後から別の名目で請求を受けるおそれがあります。
まとめ
- 行政書士は書類を作成できますが、争いのある慰謝料について本人に代わって交渉することはできません(弁護士法72条)。
- 行政書士名義の請求書は元恋人本人の請求を書面にしたものとして読み、交渉の相手は本人と考えます。
- 交際の解消だけを理由とする慰謝料は原則として認められにくく、婚約の破棄や暴力などの事情があるかが分かれ目になります(民法709条・710条)。
- 書面に示された金額や回答期限は請求する側の希望であり、それだけで支払義務が確定するわけではありません。慰謝料の請求権には時効もあります(民法724条)。
- 電話や来所での交渉には応じず、事実を認める発言や書面への署名は控えます。
- 支払って解決する場合は、元恋人本人が当事者となる合意書に清算条項を入れ、支払先も確かめます。
- 勤務先や家族に知らせると告げられた場合は記録を残し、対応に迷うときは弁護士に窓口を移すことも検討します(刑法222条・249条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。行政書士名義の書面が届いた段階でも、請求の根拠や金額を確かめたうえで、どのように応答するかを一緒に整理することができます。
元恋人から慰謝料や金銭を求められて対応に迷っている方も、交際中の出来事について相手への請求を考えている方も、手元の書面ややり取りの記録をお持ちのうえ、お気軽にご相談ください。


