【男女トラブル】恋人に貸した物(車・パソコン)を返してくれないときは?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は2026年10月時点の法令をもとに、交際相手・元交際相手に貸した物の返還について一般的な考え方を整理したものです。刑罰の表記は、2025年6月施行の改正刑法による「拘禁刑」に合わせています。


交際中に車やパソコンを貸したまま別れてしまい、「返してほしい」と伝えても応じてもらえない。こうしたご相談は少なくありません。お金の貸し借りと違い、物の場合は「いつ返す約束だったのか」「本当に貸したのか、あげたのか」がはっきりしないまま時間が過ぎやすく、その間にも、車であれば税金や事故の責任、パソコンであれば中に残ったデータといった、持ち主側の負担が続きます。

 この記事では、貸した物の返還を求める法的な根拠、車とパソコンそれぞれで先に手当てしておきたいこと、話し合いで返ってこない場合の手続の進め方を整理します。物の貸し借り全般の考え方については、恋人に貸した車・ブランド品を返してほしい|返還を求めるときの考え方と進め方もあわせてご覧ください。

貸した物は返してもらえるのが原則

恋人同士の物の貸し借りは、多くの場合、民法でいう「使用貸借」にあたります。使用貸借とは、物を無償で貸し、借りた側が使い終えたら返すという契約です(民法593条)。契約書がなくても、口頭やLINEのやり取りで成立します。

 返還を求められる時期は、約束の内容によって次のように整理されます。

約束の内容返還を求められる時期
返す期限を決めていた期限が来たとき(民法597条1項)
「通勤に使う間」など、使う目的を決めていた目的に沿った使用が終わったとき。相当な期間が過ぎれば、貸主から契約を終わらせることもできる(民法597条2項、598条1項)
期限も目的も決めていなかった貸主がいつでも契約を終わらせ、返還を求められる(民法598条2項)


 交際中の貸し借りは「しばらく使っていいよ」という形が多く、期限も目的も決めていないことが少なくありません。その場合は、貸した側が返還を求めた時点で、相手は返すべき立場になると考えられます。「交際しているから使わせていた」という経緯があれば、関係が終わったことも、返還を求める理由として説明しやすくなります。

 また、貸した物の所有者は自分ですので、契約とは別に、所有権に基づいて返還を求めることもできます。所有権に基づく返還の請求は、時間が経っても消滅時効にかかりません。

「あげたはず」と言われたときの分かれ目

返還を求めたときによく出てくる反論が、「あれはもらった物だ」というものです。贈与であれば所有権は相手に移っており、書面によらない贈与でも、引き渡しが済んだ部分は解除できません(民法550条)。そのため、貸したのか、あげたのかが最初の分かれ目になります。

 判断の手がかりになりやすいのは、次のような事情です。

  • 渡したときのLINEやメールに「貸す」「使っていい」「返して」といった言葉が残っていること。
  • 車検証の所有者・使用者の名義を変えていないこと。
  • 自動車税や保険料、車検の費用を自分が払い続けてきたこと。
  • 交際前から自分が使っていた物で、購入の記録が自分の名前で残っていること。
  • パソコンのアカウントやメーカー保証の登録が自分の名義のままになっていること。


 反対に、誕生日に新品を贈った、名義を相手に変えた、といった事情があると、贈与と見られやすくなります。お金を渡した場面での考え方は、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで解説しています。

車を貸したままにしておくリスク

車は、返ってくるまでの間も、所有者や使用者に負担が残りやすい物です。返還の交渉と並行して、次の点を確認しておくと安心です。

税金・違反金・保険

自動車税(種別割)は、毎年4月1日時点で車検証に記載された所有者に課税されます(ローン会社などが所有者となっている場合は使用者)。相手が乗り続けていても、納税の通知は名義人に届きます。また、相手が駐車違反をしたまま出頭しない場合、車の使用者として放置違反金の納付を求められることがあります。

 任意保険に運転者の範囲や年齢の条件を付けている場合、相手が運転している間の事故が補償の対象にならないおそれもあります。保険会社に契約内容を確認しておきましょう。

事故が起きたときの責任

自動車損害賠償保障法3条は、自分のために自動車を運行させる人(運行供用者)に、事故の損害を賠償する責任を負わせています。貸した車での事故でも、貸した経緯や期間によっては、所有者がこの責任を問われることがあります。返還を求めているのに応じてもらえない状態が続いている場合は、その経過を記録に残しておくと、後に責任の範囲を検討する際の材料になります。

ローンが残っている車

車検証の所有者欄がローン会社やディーラーになっている場合、ローンを払っているのが自分であっても、車の所有者はローン会社です。相手が車を返さず、自分だけがローンを払い続けている状態であれば、ローン会社にも事情を伝え、どのような対応が取れるかを確認しておく必要があります。二人で費用を出し合った車の扱いは、【男女トラブル】別れた後に共通のペット・車・家財をどう分けるかで取り上げています。

パソコンを貸したままにしておくリスク

パソコンは、物そのものの価値よりも、中に残っている情報が問題になりやすい物です。

  • ブラウザに保存したIDやパスワードで、メールやSNS、ネット銀行に入られるおそれがあります。
  • 写真や仕事の資料など、他人に見られたくないデータが残っていることがあります。
  • 自分名義のアカウントで買い物や課金をされることがあります。


 返還を待つ間に、別の端末から各サービスのパスワードを変更し、ログイン中の端末をまとめてログアウトさせる、二段階認証を設定するといった対応を先に済ませておくことをおすすめします。ネット銀行やクレジットカードは利用明細を確認し、身に覚えのない取引があれば、すぐに発行元へ連絡してください。カードそのものを相手が持っている場合は、【男女トラブル】相手が自分のクレジットカードを持ったまま別れたも参考になります。

 一方で、返ってきたパソコンに相手のデータが残っていることもあります。そのデータを見て広めたり、交渉の材料に使ったりすると、別のトラブルの原因になりかねません。扱いに迷うときは、手を付ける前に弁護士へご相談ください。

売られた・処分されたときは刑事事件になることも

「返してくれない」というだけでは、警察から「民事の問題」として扱われることが多いのが実情です。自分の意思で貸した経緯がある以上、盗難届を受理してもらえないこともあります。

 ただし、借りた物を勝手に売る、質に入れる、他人に譲る、名義を変えるといった、持ち主でなければできない処分をした場合には、横領罪(刑法252条、5年以下の拘禁刑)にあたる可能性があります。車やパソコンがすでに相手の手元にないと分かった場合は、処分の時期や相手先を確認し、警察への相談を検討します。

 売られた先の第三者が事情を知らずに買っていた場合、パソコンなどは取り戻せないことがあります(民法192条の即時取得)。一方、登録された自動車については、即時取得は原則として認められないとされています。

 返ってきた物が壊れていた場合、使用貸借の借主は、借りた後に生じた損傷について原状に戻す義務を負います(民法599条3項。借主の責任によらない損傷を除く)。ただし、使い方の約束に反したことによる損害の賠償は、物の返還を受けてから1年以内に請求する必要があります(民法600条1項)。

自分で取り返しに行くのは避ける

相手の部屋の合鍵や車のスペアキーを持っていると、「自分の物なのだから持ち帰ればよい」と考えたくなるかもしれません。しかし、法律は、裁判などの手続によらずに実力で権利を実現する「自力救済」を原則として認めていません。

 自分の物であっても、相手が占有している物を無断で持ち去ると、窃盗罪に問われるおそれがあります(刑法242条)。相手の部屋や敷地に無断で入れば、住居侵入罪の問題も生じます。車内に相手の私物が残っていれば、その扱いをめぐって新たな争いになることもあります。荷物の引き取りについての考え方は、【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかで解説しています。

 また、返還を求める連絡であっても、回数や時間帯、言葉の選び方によっては、相手から「つきまとい」と受け取られることがあります。【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面もあわせてご確認ください。

返してもらうための進め方

話し合いで返ってこない場合は、次の順序で進めるのが一般的です。

  1. 貸した物と経緯を整理します。車検証や購入時のレシート、保証書、製造番号、渡したときのやり取りを手元にそろえます。
  2. 返し方を具体的に示して求めます。期限と方法(郵送、指定の場所での受け渡し、第三者を介した受け渡しなど)を示し、会わずに返せる手段を用意します。
  3. 内容証明郵便で通知します。期限までに返還がない場合は法的手続を取ることを伝えます。
  4. 民事調停や訴訟を検討します。裁判所の手続で、物の引渡しを求めます。
  5. 判決などに基づいて強制執行を申し立てます。執行官が物を取り上げ、引き渡しを受けます。


 訴訟では、物の引渡しとあわせて、強制執行ができなかったときに物の価値に見合う金銭を支払うよう求めておく方法(代償請求)がよく使われます。なお、少額訴訟は金銭の支払いを求める手続ですので、物そのものの返還を求めることはできません(民事訴訟法368条1項)。

 相手が車を売ったり他人に渡したりするおそれがある場合は、訴訟の前に、占有を他人に移すことを禁じる仮処分(占有移転禁止の仮処分)を申し立てることも考えられます。

「返す代わりにお金を払え」と言われたら

返還を求めると、「立て替えたガソリン代を払え」「交際中の家賃を払え」と、別の請求を持ち出されることがあります。物の返還と交際中のお金の清算は、本来は別々に考える問題で、条件を付けられたからといって、その場で応じる必要はありません。もっとも、清算をまとめて済ませたほうが早く終わる場合もありますので、請求の中身を一つずつ確かめたうえで判断します。

よくあるご質問


相手の家族に返してくれるよう頼んでもよいですか

頼むこと自体は問題ありませんが、家族には返す義務がありません。相手本人の承諾がないまま家族が物を渡すと、家族と相手の間で別のもめごとになることもあります。家族に連絡する場合は穏やかな依頼にとどめ、強く迫らないようにしてください。

相手から「もう捨てた」と言われました

本当に処分されていて返還ができない場合は、物の価値に相当する損害の賠償を求めることになります。ただ、「捨てた」という説明が事実かどうかは分かりませんので、いつ、どこで処分したのかを具体的に確認し、やり取りを記録に残しておきます。

相手と顔を合わせずに返してもらう方法はありますか

弁護士に依頼すれば、弁護士が窓口となって返還の時期や方法を相手と調整しますので、ご本人が相手と直接やり取りする必要はなくなります。受け渡しも、郵送や第三者を介する方法など、状況に応じて組み立てます。流れは【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるでも紹介しています。

まとめ

車やパソコンは、返ってくるまでの間にも、税金や事故の責任、データの流出といった負担が持ち主側に残ります。「そのうち返してくれるだろう」と待ち続ける前に、貸した経緯を整理し、先に手当てできることから進めておくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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