【男女トラブル】胎児認知を求められた|生まれる前に認知する意味

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は、2026年10月時点の民法・戸籍法・国籍法に基づいて執筆しています。令和6年4月1日に施行された民法改正(嫡出推定の見直し、認知の無効の訴えに期間制限を設けた改正)の内容を反映しています。


「交際相手から、子どもが生まれる前に認知届に署名してほしいと言われた。応じてよいのか分からない」「まだ生まれていないのに認知できるのか、断ったらどうなるのか」。男女間のトラブルのご相談では、妊娠を告げられた側からこうしたお話を伺うことがあります。求める側からは、相手が離れていってしまう前に父子関係をはっきりさせておきたい、という切実な声も聞かれます。

 「胎児認知」について解説したページの多くは、認知を求める母親の立場から、メリットや手続の流れを紹介しています。その説明自体は誤りではありませんが、求められた側が「いつ、何を確かめてから判断すればよいのか」「応じた場合と応じなかった場合で何が変わるのか」という点は、あまり整理されていません。

 この記事では、胎児認知を求められた側の立場から、生まれる前に認知することの意味と、判断の前に確かめておきたい点を整理します。妊娠そのものをめぐる問題や中絶費用、慰謝料の金額といったテーマは、それぞれ別の記事でご案内します。

胎児認知とは何か|出生後の認知と何が違うのか

母の承諾を得て、父が届け出る手続

 結婚していない男女の間に生まれた子と父との間には、当然には法律上の親子関係が生じません。親子関係を生じさせる手続が「認知」です。民法は、子が生まれる前、つまり胎内にいる段階でも父が認知できると定めています。ただし、この場合は母の承諾を得なければなりません(民法783条1項)。

 届出をするのは父であり、届出先は母の本籍地の市区町村です(戸籍法61条)。届書には母の承諾を示す署名などが必要になります(同法38条1項)。つまり、胎児認知は母が一人で進められる手続ではなく、父が自ら届け出ることで初めて成立します。「求められた」という場面が生じるのは、この仕組みによるものです。

出生後の認知との違い

 胎児認知と出生後の認知は、法律上の効果そのものに大きな違いはありません。認知の効力は、どちらの場合も子の出生の時にさかのぼります(民法784条)。違いが出るのは、主に時期と確認の方法、そして後から争うときの期間の数え方です。

項目胎児認知出生後の認知
できる時期子が生まれる前子が生まれた後
必要な承諾母の承諾未成年の子なら不要(成年の子は本人の承諾)
届出先母の本籍地の市区町村父の所在地・本籍地または子の本籍地の市区町村
父子関係の確認生まれる前のため確認の手段が限られる出生後にDNA鑑定などで確認できる
相手が応じないとき強制する手続は設けられていない認知の調停・訴えという手続がある
認知の無効の訴えの期間の起算点子の出生の時認知者は認知の時


 なお、胎児認知の届出が受理されても、その時点で戸籍に記載されるわけではありません。子が生まれ、出生届が出された段階で戸籍に反映されます。子が死産となった場合は、その旨の届出が必要とされています(戸籍法65条)。

なぜ「生まれる前に」と求められるのか

父に万一のことがあった場合に備える

 胎児認知の制度が想定してきた典型的な場面は、子が生まれる前に父が亡くなるおそれがある場合です。相続については、胎児は既に生まれたものとみなされます(民法886条1項)。胎児認知をしておけば、子が生まれる前に父が亡くなっても、子は父の相続人となる道が残ります。出生後に認知の訴えを起こすことも可能ですが、その場合は手続の負担が大きくなります。

子の国籍に関わる場合

 母が外国籍の場合、胎児認知には子の国籍に関わる意味があります。出生の時に父または母が日本国民であれば、子は出生によって日本国籍を取得します(国籍法2条1号)。胎児認知がされていれば、出生の時点で日本国民である父との親子関係がある扱いになります。出生後に認知した場合は、別に法務大臣への届出によって国籍を取得する手続をとることになります(同法3条)。

出生届と、相手の不安

 胎児認知をしておくと、出生届の父の欄に父の氏名を記載できます。法的な効果に直結するものではありませんが、求める側にとっては大きな意味を持つことがあります。また、「生まれる頃には連絡が取れなくなっているかもしれない」という不安から、早い段階で父子関係を確定させたいと考える方も少なくありません。

 求められる理由の多くは、生まれてくる子の法的な地位を早く安定させたいという点にあります。求められた側としては、その事情を理解したうえで、自分の側で確かめるべき点を確かめるという順序で考えることが大切です。

求められた側が最初に確かめておきたいこと

自分の子といえるか

 認知は、自分の子であることを認める届出です。交際の時期や経緯から自分の子であることに疑いがなければ、胎児認知に応じることは自然な選択の一つです。一方で、時期が重なる別の交際があった可能性があるなど、確信が持てない事情がある場合もあります。

 子が生まれる前の段階では、父子関係を確かめる手段が限られます。出生前に検査を行う民間の機関もありますが、母となる方の身体や費用の負担に関わるため、相手の理解と同意がなければ進められません。疑問がある場合には、まずその事情を整理し、出生後に確認する方法を含めて検討することになります。

相手が他の男性と婚姻中ではないか

 相手が他の男性と婚姻中であったり、離婚から間もなかったりする場合は注意が必要です。婚姻中に懐胎した子や、離婚後300日以内に生まれた子などは、原則として夫や元夫の子と推定されます(民法772条)。令和6年4月1日以降は、母が再婚した後に生まれた子は再婚後の夫の子と推定されるという例外も設けられました。

 生まれた子についてこの推定が働く場合、胎児認知は効力を生じません(民法783条2項)。届出をしても父子関係が生じない可能性があるため、相手の婚姻の状況は最初に確認しておきたい点です。

ご自身が結婚している場合

 求められた側が既婚者である場合、認知をすると、子の戸籍だけでなく父の戸籍にも認知の事実が記載される扱いです。そのため、配偶者が戸籍を確認する機会があれば、認知の事実を知ることになります。また、認知は相手との交際があったことを前提とする行為ですので、配偶者との間で不貞行為をめぐる問題が生じることもあります。この点については、【不貞慰謝料】不貞相手が妊娠した場合に生じる問題で整理しています。

胎児認知に応じた場合に生じること

法律上の父子関係と、それに伴う義務

 認知によって、生まれた子との間に法律上の親子関係が生じます。親として子を扶養する義務を負い(民法877条1項)、子は父の相続人になります(同法887条1項)。養育費の話し合いも、この親子関係を前提に進むことになります。妊娠をめぐる認知と養育費の基本については、交際・パパ活相手の妊娠|認知・養育費・中絶同意書の基礎知識もあわせてご覧ください。

 一方で、認知をしても、相手と結婚する義務や同居する義務が生じるわけではありません。親権も、父母が話し合って父を親権者と定めない限り、母が行うことになります(民法819条4項)。

認知は撤回できない

 認知をした父は、その認知を取り消すことができません(民法785条)。「やはり気が変わった」という理由で、届出をなかったことにすることはできないということです。

後から争えるのは「事実と違う」場合に限られ、期間もある

 認知した子が実際には自分の子ではなかった場合、認知の無効の訴えを起こすことができます。ただし、令和6年4月1日に施行された改正により、この訴えには期間の制限が設けられました。認知をした者は、原則として認知の時から7年以内に限り訴えを起こすことができ、胎児認知の場合はこの7年を子の出生の時から数えます(民法786条1項)。

 胎児認知は「出生後に確かめる」という機会を経ずに父子関係を確定させる手続であり、後から争う道も、期間と理由の両面で限られています。なお、自分の子でないと知りながら認知の届出をすることは、戸籍に事実と異なる記載をさせる行為として、刑事責任が問われる可能性もあります(刑法157条1項)。

応じなかった場合、何が変わるのか

生まれる前に認知を強制する手続はない

 胎児認知は、父が自ら届け出ることで成立する手続です。家庭裁判所の調停で話し合う方法はありますが、生まれる前の段階で、裁判によって認知を強制する手続は設けられていないと解されています。認知の訴えは、子が生まれた後に起こすものです(民法787条)。

出生後には調停や訴えの手続がある

 子が生まれた後は、子の側から認知を求める調停や訴えを起こすことができます。調停で当事者が合意し、家庭裁判所が相当と認めれば、合意に相当する審判がされます(家事事件手続法277条1項)。こうした手続の中では、DNA鑑定によって父子関係が確認されることが一般的です。

「いずれ」は消えない

 胎児認知に応じなかったとしても、子が認知を求める権利がなくなるわけではありません。最高裁判所は、子が父に対して認知を求める権利は放棄できず、長い間行使しなかったことで行使できなくなるものでもないと判断しています(最判昭和37年4月10日)。父が亡くなった後でも、その日から3年以内であれば認知の訴えを起こすことができます(民法787条ただし書)。

 胎児認知に応じるかどうかは「認知するかしないか」ではなく、「いつ、どのように父子関係を確定させるか」という時期の選択に近いものといえます。自分の子であることに疑いがないのであれば、出生後に争うことで双方の負担が大きくなる面も考えておく必要があります。

「出生後に確かめてから」と伝える場合の注意点

否定ではなく、時期の問題として伝える

 自分の子であることに確信が持てない場合、「出生後に確認したうえで判断したい」と伝えることは、それ自体不当な対応ではありません。ただし、妊娠中の相手にとっては大きな不安につながる言葉でもあります。認知そのものを拒むのではなく、確認の時期の問題であることを、落ち着いた言葉で伝えることが望ましいでしょう。やり取りは、後から経緯が分かるよう記録に残しておくと安心です。

認知を取引の条件にしない

 胎児認知に応じる代わりに「今後一切の請求をしない」という誓約書を求めるといったご相談もあります。しかし、先に述べたとおり、子が認知を求める権利は放棄できないと解されています。養育費も、子の生活を支えるためのものであり、親同士の約束だけで将来の請求をすべて封じることは難しいと考えられます。交際相手との書面の効力については、【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で整理しています。

妊娠中の費用の話は分けて整理する

 胎児認知を求められる場面では、出産や通院にかかる費用の話が同時に出てくることも少なくありません。認知の判断と費用の分担は、根拠となる考え方が異なります。費用の分担については、【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方をご覧ください。また、妊娠を理由とした金銭の要求に疑問がある場合は、「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方も参考になります。

判断の前に確認しておきたい点

 胎児認知を求められたときは、次の点を一つずつ確認しておくと、判断の材料がそろいやすくなります。

  • 交際の時期と妊娠の時期が重なっているか、自分の子であることに疑いがないか。
  • 相手が他の男性と婚姻中でないか、離婚から間もない時期でないか。
  • ご自身が既婚者である場合、認知によって配偶者に知られる可能性をどう考えるか。
  • 相手が胎児認知を求める理由(相続への備え、国籍、不安など)は何か。
  • 費用や養育費の話を、認知の判断と分けて話し合えているか。


 いずれの点も、相手を疑うためではなく、子の法的な地位を確かなものにするための確認です。判断に迷う場合は、届出の前に専門家へ相談することをおすすめします。

よくあるご質問

胎児認知をしたら、相手と結婚しなければならないのですか。

 認知は、子との間に法律上の親子関係を生じさせるものであり、相手との婚姻とは別の問題です。認知をしても、結婚や同居の義務は生じません。ただし、親として子を扶養する義務は生じますので、養育費については話し合いが必要になります。

胎児認知をした後で、自分の子ではないと分かった場合はどうなりますか。

 届出を取り消すことはできませんが、事実と異なることを理由に認知の無効の訴えを起こすことができます。胎児認知の場合、認知をした者が訴えを起こせるのは、原則として子の出生の時から7年以内です(民法786条1項)。期間を過ぎると争えなくなるため、疑問が生じた段階で早めに相談することが大切です。

配偶者に知られずに胎児認知をすることはできますか。

 認知の事実は、父の戸籍にも記載される扱いです。戸籍を確認する機会があれば、配偶者が認知の事実を知る可能性があります。また、出生後に認知の調停や訴えとなった場合にも、手続の中で事実が明らかになることがあります。知られずに済むことを前提に判断するのではなく、知られた場合の対応も含めて考えておくことが現実的です。

まとめ


  1. 胎児認知は、母の承諾を得たうえで、父が母の本籍地に届け出ることで成立します(民法783条1項・戸籍法61条)。
  2. 認知の効力は出生の時にさかのぼり、出生後の認知と効果に大きな違いはありません(民法784条)。
  3. 生まれた子に夫や元夫の子との推定が働く場合、胎児認知は効力を生じません(民法783条2項・772条)。
  4. 認知をした父は、その認知を取り消すことができません(民法785条)。
  5. 事実と異なる認知を争う訴えには期間があり、胎児認知の場合は子の出生の時から数えて原則7年以内です(民法786条1項)。
  6. 生まれる前に認知を強制する手続はありませんが、出生後は認知の調停や訴えの手続があります(民法787条)。
  7. 子が認知を求める権利は放棄できないと解されており、応じるかどうかは時期の選択に近い判断です(最判昭和37年4月10日)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。胎児認知を求められて判断に迷っている方、相手との話し合いをどう進めればよいか分からない方は、届出の前にご相談ください。

認知を求めている側の方からのご相談もお受けしています。お互いの事情を踏まえ、子の地位を確かなものにするための進め方を一緒に考えます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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