【男女トラブル】借りたお金を分割で返しているのに、一括で返せと言われたら?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

この記事は、元交際相手など個人との間でのお金の貸し借りを前提にしています。金融機関や貸金業者からの借入れ、交際相手名義のローンの肩代わりなどは扱っていません。


交際中に借りたお金を、別れた後も毎月少しずつ返している。ところがある日、元彼や元カノから「もう信用できない」「残りを一括で返して」と連絡が来た――。こうしたご相談は少なくありません。手元にまとまったお金がなく、どう返事をすればよいか迷う方も多いと思います。

 結論から言えば、分割で返すという約束がきちんと成り立っていて、その約束どおりに返済を続けているのであれば、相手の一言で一括返済の義務が生じるわけではありません。ただし、約束の中身や、これまでに返済の遅れがあったかどうかによって、見通しは変わります。この記事では、一括で返せと言われたときに何を確かめ、どう対応すればよいかを順に整理します。

まず確かめたいのは「分割の約束」の中身

 お金の貸し借りは、借用書がなくても口頭やLINEのやり取りだけで成り立ちます。返し方についても同じで、「毎月2万円ずつ返す」「ボーナス月に多めに返す」といった分割の約束は、書面がなくても当事者間の合意として意味を持ちます。

 民法は、期限は債務者(借りた側)の利益のために定めたものと推定しています(民法136条1項)。これを「期限の利益」と呼びます。分割の約束があれば、まだ期日が来ていない分については、借りた側は支払いを待ってもらえる立場にあります。そのため、約束どおり返済を続けている限り、残りを一括で求められても、それに応じる法的な義務は原則としてありません。

 一方で、次のように、約束の形によって考え方は分かれます。

約束の状況一括請求についての考え方
分割の約束があり、遅れずに返している原則として、期日前の分まで一括で支払う義務はありません。
分割の約束に「遅れたら一括で返す」という取り決めがあり、実際に遅れた取り決めの内容によっては、残額を一括で求められることがあります。
分割の約束はあるが、遅れた場合の取り決めはない遅れた分の支払いは求められますが、残り全部を直ちに求められるかは事情によって判断が分かれます。
そもそも返す時期を決めていなかった貸した側が相当の期間を定めて返済を求めれば、その期間の経過後に返す義務が生じます(民法591条1項)。


相手が「分割を認めた覚えはない」と言う場合

 よく問題になるのが、相手が「分割で返していいとは言っていない。そちらが勝手に少しずつ振り込んでいるだけだ」と主張するケースです。このときは、分割の約束があったことを示す記録が大切になります。たとえば、「毎月〇日に〇万円ずつでいいよ」といったメッセージ、返済額や期日を決めたやり取り、毎月ほぼ同じ日・同じ金額で続いている振込の履歴などです。

 口約束で決めた条件を後から書面にする方法については、【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法でも解説しています。

「別れたから」は一括請求の理由になるのか

 一括で返せと言われる背景には、「別れたのだから、もう分割に付き合う理由はない」「新しい相手ができたと聞いて信用できなくなった」といった感情があることも多いようです。

 しかし、民法が定める期限の利益を失う場面は、借りた側が破産手続開始の決定を受けた場合や、担保を失わせた場合などに限られています(民法137条)。交際関係が終わったことは、それだけでは期限の利益を失う理由にはあたりません。

 ただし、貸し借りの時点で「交際している間は分割でよいが、別れたら残りを一括で返す」と取り決めていた場合は、その約束が意味を持つ可能性があります。当時のやり取りを読み返し、どのような条件で分割が認められていたのかを確認しておくとよいでしょう。

返済が遅れたことがある場合の注意点

 これまでに返済が遅れたり、一部しか払えなかったりした月がある場合は、慎重な対応が必要です。「遅れたら一括で返す」という取り決めがあれば、相手はそれを根拠に残額全部を求めてくることが考えられます。取り決めの中には、遅れた時点で当然に一括返済の義務が生じるものと、貸した側が請求したときに初めて一括返済の義務が生じるものがあり、どちらにあたるかでも状況は変わります。

 また、期日に遅れた分については、遅延損害金を求められることがあります。遅れが生じてしまったときは、次のような点を意識すると、その後の話し合いが進めやすくなります。

  • 遅れた分をできるだけ早く支払い、支払った日と金額を記録に残すこと。
  • 遅れた理由と今後の支払い予定を、短い文章で相手に伝えておくこと。
  • 口頭だけで済ませず、メッセージなど後から確認できる形でやり取りすること。
  • 支払いは手渡しではなく、振込など記録の残る方法で行うこと。


一括で返せないときに取れる対応

 一括返済を求められても、すぐにまとまったお金を用意できないことは珍しくありません。その場合でも、連絡を絶ったり返済を止めたりするのは避けたいところです。返済をやめてしまうと、それ自体が遅れとして扱われ、相手の主張を後押ししてしまうおそれがあります。

約束どおりの返済を続け、記録を残す

 まずは、これまでの約束どおりの金額・期日で返済を続けることが基本です。振込の控えや通帳の記録は、残額を確定させるときの根拠にもなります。現時点での借入総額、返済済みの合計、残額を一覧にまとめておくと、話し合いの際に役立ちます。

受け取りを拒まれたときは供託という方法がある

 相手が「一括でなければ受け取らない」と言って振込先を閉じたり、現金の受け取りを拒んだりすることもあります。こうした場合、法務局にお金を預ける「弁済供託」という制度を使えることがあります(民法494条)。供託が認められれば、その分は返済したものとして扱われます。利用できるかどうかは事情によるため、法務局や弁護士に確認しながら進めるのが安全です。

合意書で返済条件をはっきりさせる

 相手の不信感が一括請求の背景にある場合は、改めて返済条件を書面にまとめることで、話し合いがまとまることがあります。合意書には、次のような事項を盛り込むのが一般的です。

  1. 現時点で残っている金額。
  2. 毎月の返済額と支払日、振込先。
  3. 何回分遅れたら残額を一括で返すかという条件。
  4. この貸し借り以外には、互いに請求するものがないことの確認。
  5. 今後の連絡方法や、職場・家族への連絡を控えること。


 「遅れたら一括」という条件を自分から盛り込むことは不利に思えるかもしれませんが、条件をはっきりさせることで、「遅れない限り一括で求められない」ことも明確になります。書面の効力については、【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力もご参照ください。

相手が強い言葉で迫ってくる場合

 一括請求とあわせて、「払わないなら職場に言う」「家族に知らせる」「SNSに書く」といった言葉が添えられることもあります。お金を返してもらう権利があっても、請求の方法には限度があります。社会的に許される範囲を超えた請求は、内容によっては民事上の不法行為にあたったり、脅迫罪や恐喝罪が問題になったりするおそれがあります。

 また、返済とは関係のない条件を求められるケースもあります。弁護士ドットコムなどの相談サイトでは、元交際相手との貸し借りで、返済のほかに会うことや関係を続けることを条件にされたという相談も見られます。お金の返済と引き換えにこうした関係を求める約束は、公の秩序や善良の風俗に反するものとして無効と考えられます(民法90条)。応じられない条件は、はっきり断って差し支えありません。

 「知人に債権を売る」と言われた場合、貸した側が貸金の権利を第三者に譲ること自体は法律上可能です。ただし、借りた側に対しては、譲った側からの通知などがなければ、新しい債権者は自分が権利者だと主張できません(民法467条1項)。見知らぬ人物から突然支払いを求められても、すぐに振り込まず、譲渡の通知が届いているかを確認することが大切です。

 強い言葉が届いたときの受け止め方については、次の記事も参考になります。


裁判所から書類が届いたとき

 話し合いがまとまらない場合、相手が裁判所の手続を使って残額を求めてくることもあります。訴状や支払督促が届いたときは、放置しないことが何より大切です。特に支払督促は、受け取ってから2週間以内に異議を申し立てないと、相手が強制執行に進める状態になるおそれがあります。

 裁判になったからといって、必ず一括払いを命じられるわけではありません。訴訟の途中で分割払いの和解がまとまることはよくありますし、60万円以下の金銭を求める少額訴訟では、裁判所が事情を考慮して分割払いを定めた判決を出すことができる仕組みもあります(民事訴訟法375条)。

 また、相手が主張する金額そのものに疑問がある場合は、その点も整理して伝える必要があります。交際中に受け取ったお金のうち、贈与として受け取った分が含まれていないか、実際に受け取った額と相手の主張する額が合っているか、すでに返した分が差し引かれているかといった点です。金額の食い違いが争点になった例として、【解決事例】実際の受領額と食い違う借用書|240万円の貸金請求を退けた事例もご覧ください。

弁護士に相談することで変わること

 元交際相手との間では、お金の話に感情が重なり、当事者同士では冷静に話し合うことが難しくなりがちです。弁護士が窓口になると、相手との連絡を代理人に一本化できるため、直接のやり取りによる負担を減らせます。そのうえで、残額の確定、無理のない返済条件の提案、合意書の作成までを進めることができます。

 当事務所でも、交際の解消に伴う金銭の清算について、分割と一括のどちらで終わらせるかを含めて条件を整理し、合意書で区切りをつけた事例があります。【解決事例】別れ話に応じてもらえず連絡が止まらなかった男性|3年分割の提案を一括清算に切り替え、約1ヶ月で合意書を締結した事例や、【解決事例】元交際相手からの貸金返還請求353万円を和解金100万円まで減額した事例もあわせてご参照ください。サービスの内容は【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内しています。

まとめ


  • 分割で返す約束があり、そのとおり返済を続けている限り、原則として一括返済に応じる義務はありません。
  • 別れたことだけを理由に、分割の約束がなくなるわけではありません。
  • 返済が遅れたことがある場合や、「遅れたら一括」という取り決めがある場合は、残額を一括で求められることがあります。
  • 一括で払えないときも返済は止めず、記録の残る方法で約束どおり払い続けることが大切です。
  • 職場や家族への連絡をほのめかすなど、請求の方法が行き過ぎている場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。


 借りたお金を返す意思があっても、相手の言い分に押されて無理な条件をのんでしまうと、かえって生活が立ち行かなくなるおそれがあります。約束の中身とこれまでの返済の記録を手元にそろえたうえで、どのような返し方なら続けられるのかを整理することが、区切りをつける近道になります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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