二股・浮気をされた恋人|交際関係で慰謝料は取れるのか
配偶者の行動に不審な点があるとき、クレジットカードの利用明細や交通系ICカードの履歴を確かめたいと考える方は少なくありません。明細に見慣れない店名が並んでいたり、立ち寄るはずのない駅で改札を通った記録が残っていたりすれば、そこから何かがわかるのではないかと考えるのは自然なことです。
もっとも、これらの記録が写しているのは「支払いがあったこと」と「改札を通ったこと」だけです。誰と一緒にいたのか、その場所で何があったのかまでは記録されません。そのため、慰謝料請求の場面でどれだけの意味を持つかは、記録そのものよりも、ほかの事情とどう組み合わせるかによって変わってきます。
そしてもう一つ、写真やメッセージとは違う特徴があります。これらの記録には、放っておくと確認できなくなる期限があるという点です。この記事では、クレジットカードの利用明細と交通系ICカードの履歴について、何が残り何が残らないのか、いつまで確認できるのか、どう手に入れるべきなのかを、請求する側・請求を受けた側の双方の視点から整理します。
明細や履歴は何を示せるのか
不貞慰謝料を請求する場面で立証の対象になるのは、配偶者と第三者との間に性的な関係があったという事実です。カードの明細やICカードの履歴は、この事実そのものを写したものではありません。示せるのは、ある日時にある場所で決済があったこと、ある駅で入場し別の駅で出場したことです。
記録は「行動の輪郭」を示すもの
たとえば、宿泊施設の代金が明細に載っていれば、その日にその施設で支払いがあったことはわかります。しかし、その部屋に誰がいたのかは明細には出てきません。交通系ICの履歴に自宅からも職場からも離れた駅の記録が繰り返し残っていても、その駅で誰と会ったのかまでは読み取れません。
このため、これらの記録は、それ単独で結論を導くものというより、ほかの資料の日時や場所と突き合わせて初めて働くものだと考えておくのが実際的です。証拠としての一般的な位置づけや、種類ごとの評価の順序については、別の記事で整理していますのでそちらをご覧ください。
「弱い証拠」だから無意味というわけではない
単独では足りないという説明を聞くと、集めても仕方がないように感じられるかもしれません。しかし実際には、明細や履歴は次の三つの場面で役割を持ちます。
- 相手が「その日はどこにも行っていない」と述べた場合に、その説明と食い違う客観的な記録になります。
- 交際が一定期間続いていたことを示す材料として、同じ場所への支払いや同じ駅の記録が積み重なることがあります。
- どの日を調べればよいかという見当がつき、次に何を確認すべきかの手がかりになります。
記録の種類ごとに、残る情報は違う
ひとくちに履歴といっても、どの情報が記録されるかは種類によって異なります。まず、それぞれに何が残り、何が残らないのかを整理しておきます。
| 記録の種類 | 残る主な情報 | 読み取れないこと |
|---|---|---|
| クレジットカードの利用明細 | 利用日、加盟店名または運営会社名、金額、利用者の区分 | 同行者、滞在した時間、店舗の詳しい所在地 |
| 交通系ICカードの履歴 | 入場駅と出場駅、利用日、利用の種別、残額 | 同行者、改札を出た後の行き先、買い物をした店舗名 |
| ETCの利用明細 | 通行日時、入口と出口のインターチェンジ、通行料金、車両番号 | 同乗者、高速道路を降りた後の行動 |
いずれの記録にも共通しているのは、「誰と一緒だったか」が残らないという点です。不貞行為の立証で最も重要になる部分が、まさにこの記録に載っていない部分にあたります。
記録には「確認できる期間」がある
この点は、あまり知られていないわりに影響が大きいところです。写真やメッセージは手元に残しておけば時間がたっても消えませんが、明細や履歴は、事業者側が保有している期間を過ぎると取り出せなくなります。
交通系ICカードは半年ほどで確認できなくなる
JR東日本の案内によれば、Suicaの利用履歴は、駅の券売機やチャージ専用機で画面に表示できるのが直近20件まで、印字できるのが直近100件までとされています。そして、利用から26週間を超えた履歴は表示も印字もできません。1日の利用回数が多い場合には印字できないことがあるとも案内されています。
26週間を超えた分や100件を超える分については、JR東日本に対する個人情報の開示請求という方法が用意されています。ただし、対象となるのは記名式のカードに限られ、無記名式のカードは個人情報にあたらないため対象外とされています。開示の対象期間も受付日から1年前までです。しかも、開示請求ができるのはあくまで本人であり、配偶者が代わりに請求できる手続ではありません。
さらに、定期券の区間内だけの乗り降りは履歴に反映されず、開示請求によっても確認できないとされています。この点は後述する「記録にない=行っていない」とは言えない理由につながります。
ETCや利用明細にもそれぞれの上限がある
高速道路会社が運営するETC利用照会サービスでは、登録した日から過去15か月分の利用明細を確認できます。ただし利用には事前登録が必要で、登録の際にはETCカード番号のほか、走行した車の車載器管理番号、車両番号の下4桁、その走行日が求められます。走行した本人以外が登録できないようにするための仕組みとされており、車載器管理番号がわからなければ登録自体ができません。
クレジットカードの利用明細をインターネット上で確認できる期間は、カード会社によって異なります。紙の明細書についても、郵送を止める手続をとっていれば自宅には届きません。いずれにしても、無期限に遡れるものではないという前提で考えておく必要があります。
気づいた時点で形にしておく
以上をふまえると、「もう少し様子を見てから」という判断が、そのまま確認できる範囲を狭めてしまうことがあります。手元にある記録については、次の点を意識しておくとよいでしょう。
- 日付が明らかな状態で残す。券売機の印字や画面の保存など、いつの記録なのかがわかる形にしておきます。
- 一度に取れるだけ取っておく。件数と期間の上限がある以上、後から遡れる保証はありません。
- 明細は月単位で通して残す。関心のある行だけを抜き出すと、前後の記録との比較ができなくなります。
- 時系列の一覧を作っておく。日付、場所、金額を並べておくと、ほかの資料と突き合わせやすくなります。
なお、資料の保存方法そのもの、たとえば別の端末で撮影して残す方法や二重に保管する考え方については、別の記事で扱っています。ここでは「取り出せる期間には限りがある」という点に絞っています。
記録の文字は、見たままの意味とは限らない
明細や履歴に並んでいる文字は、日常の感覚とずれた形で表示されることがあります。ここを誤解したまま話を進めると、思わぬところでつまずきます。
- 宿泊施設の代金でも、明細に施設名ではなく運営会社の商号が記載されることがあります。聞いたことのない社名が並んでいても、それだけで不自然とは限りません。
- 交通系ICカードで買い物をした場合、印字されるのは「物販」等の表示で、個別の店舗名は表示されません。どこで何を買ったかは履歴からはわかりません。
- Suicaエリア・PASMOエリア以外で利用した履歴を別のエリアの機器で印字すると、個別の駅名ではなく事業者名の表示になることがあります。
- 定期券の区間内だけの乗り降りは履歴に残りません。定期券を持っている区間の移動は、そもそも記録として出てこないことになります。
- カードの決済記録から、利用したタクシー会社や車両を調べることはできないとされています。
「履歴にない=行っていない」とも言えない
上の内容は、請求する側にとっては「探しても出てこないことがある」という意味を持ちますが、請求を受けた側にとっては別の意味を持ちます。記録に残っていないことを理由に「行っていない」と主張しても、定期券区間の移動や現金での支払いは最初から記録されないため、その主張だけでは反論として働きにくいということです。
逆に言えば、請求する側も「履歴が途切れているから何もなかった」とは考えないほうがよく、請求を受けた側も「履歴がないから大丈夫」とは考えないほうがよい、ということになります。記録は行動の一部を写しているにすぎません。
どのルートで手に入れた記録なのか
明細や履歴を扱う際には、中身を検討する前に、どうやってその記録を手に入れたのかが問われます。入手の仕方によっては、後の交渉や裁判で不利に働くことがあるためです。
| 入手の経路 | 確認しておきたい点 |
|---|---|
| 自分が本会員のカードの明細 | 家族カードの利用分を含め、本会員が内容を確認できる取扱いが一般的です |
| 自宅に届いた封書の明細書 | 封をした信書を正当な理由なく開ける行為は、刑法上の問題になり得ます |
| 室内に置かれていた紙の明細やレシート | 同居する住居内で目に入ったものであれば、問題になりにくいと考えられます |
| 相手のIDで会員サイトにログインして表示させた画面 | 不正アクセス禁止法に触れるおそれがあります |
| 弁護士会照会や裁判所の手続を通じて取り寄せる方法 | 必要性と相当性が問われ、回答が得られないこともあります |
家族カードを渡している場合
自分が本会員となっているカードの家族カードを配偶者に渡している場合、その利用分は本会員の利用明細に合わせて記載されるのが一般的です。カード会社の会員規約でも、家族会員は、家族カードの利用内容や利用状況が本会員に通知されることをあらかじめ承諾する旨を定めている例があります。この場合、本会員が自分の明細を確認する行為は、通常の権利の行使にあたります。
もっとも、明細に表示されるのは利用日、加盟店名、金額といった情報にとどまります。誰と一緒だったのかは、やはりここからは出てきません。
配偶者宛の封書を開ける場合
正当な理由なく封をしてある信書を開けた場合、刑法133条の信書開封罪にあたる可能性があります。同罪は親告罪とされており、告訴がなければ起訴されることはありませんが、家族の間柄であれば当然に許されるという性質のものではありません。
もっとも、実務的な説明としては、生計を同一にする夫婦の間で、一方宛に届いた請求書類を他方が開封する行為には、本人の推定的な承諾があると考えられる場合が多いとされています。カード会社から届く利用代金明細書は請求書類にあたりますから、この考え方が及ぶ余地はあります。ただし、封書の性質や差出人によって結論は変わり得ますので、一律に問題ないと考えるのは避けたほうがよいでしょう。判断に迷う封書については、開ける前にご相談ください。
弁護士会照会で取り寄せられるのか
弁護士は、受任している事件について、所属する弁護士会を通じて団体に照会し、必要な事項の報告を求めることができます(弁護士法23条の2)。この照会に対する回答は、個人情報保護法上の「法令に基づく場合」にあたるとされており、本人の同意がなくても回答することができるというのが個人情報保護委員会の示す考え方です。
最高裁も、照会を受けた団体は正当な理由がない限り報告をすべきものと解される、としています(最高裁平成28年10月18日判決)。ただし、報告を拒まれた場合にこれを強制する手段は用意されていません。最高裁は、報告義務があることの確認を求める訴えについて、拒絶に対する制裁の定めがないことなどを理由に、確認の利益を欠き不適法であるとしました(最高裁平成30年12月21日判決)。
実務上も、カード会社への照会が常に通るわけではありません。特に、不貞があったかどうかを確かめるために明細全体を求めるといった、探索的な性格の強い照会は、必要性と相当性が認められにくい傾向があります。すでに一定の資料があり、特定の期間や特定の点を確かめる必要があるという形に絞れるかどうかが分かれ目になります。訴訟に至った段階では、文書提出命令や調査嘱託といった裁判所を通じた方法を検討することもあります。
単独では足りない記録を、どう使うか
明細や履歴を実際に使う場面では、記録から何かを直接読み取ろうとするよりも、ほかの材料と突き合わせるという発想のほうが役に立ちます。突き合わせ方には、おおむね次の三つの方向があります。
- 時刻でつなぐ。メッセージのやり取りの時刻と、決済や改札通過の時刻が連続しているかを確かめます。
- 場所でつなぐ。相手方の住所や勤務先、写真の撮影場所と、明細の加盟店や履歴の駅が重なっているかを確かめます。
- 説明とつき合わせる。相手が述べた行動と、記録に残っている行動が両立するかを確かめます。
示すのは「行った」ではなく「説明が成り立たない」
この三つのうち、実際の交渉で効いてくることが多いのは三つ目です。相手が「その日は同僚と食事をしていた」と述べたとして、同じ時間帯に別の場所での決済記録があれば、その説明はそのままでは通りません。記録が示しているのは不貞行為そのものではなく、相手の説明が成り立たないという事実です。
そして、説明が成り立たないとわかった時点で、相手が説明を作り直すことになります。作り直した説明がまた記録と食い違えば、今度は説明の信用性そのものが問われます。明細や履歴の実際の働きは、この積み重ねの部分にあります。
請求を受けた側から見た明細・履歴
ここまでは主に請求する側の視点で整理してきました。反対に、明細や履歴を突きつけられた側から見ると、次のような点が問題になります。
記録があること自体は争いにくい
カード会社や鉄道事業者が保有している記録は、当事者が作ったものではありません。したがって、「そんな記録はない」「作られたものだ」といった争い方は、一般に通りにくいと考えられます。争う余地があるとすれば、記録の存在ではなく、そこから何が言えるのかという評価の部分です。
たとえば、宿泊施設の代金が明細にあるとしても、それだけでは同室にいた人物は特定されません。駅の履歴が残っていても、その駅を利用した理由はさまざまに考えられます。記録と結論との間には距離があり、その距離を埋める材料がどれだけ示されているかが争点になります。
説明を後から変えることの負担
最も慎重になったほうがよいのは、記録を示されるたびに説明を変えていくことです。当初の説明が記録と合わないとわかってから別の説明を出すと、その説明自体が信用されにくくなります。結果として、個々の記録が示せる範囲を超えて、不利に評価されることがあります。
また、記録を示されて「その日は行きました」と認める発言をすれば、その発言自体が資料として残ります。一つの記録に反応して答えた内容が、ほかの記録の説明を難しくすることもあります。心当たりのある記録を示された場合には、その場で応答する前に、全体としてどう説明するのかを整理しておくほうが安全です。
よくある質問
Q1 ゴミ箱に捨てられていた明細書を使ってもよいですか
同居する住居内で、封も開いた状態で捨てられていたものを見た場合、それ自体が直ちに問題になるとは考えにくいところです。ただし、その明細から何が言えるかは別の問題です。捨てられていたという事情は、日付や出所を説明しにくくする方向にも働きますので、いつどこで見つけたのかをあわせて記録しておくとよいでしょう。
Q2 配偶者の交通系ICカードを券売機で印字してもよいですか
カードそのものを持ち出して操作することになりますので、財布から抜き取るといった態様であれば、それ自体をめぐって争いになる余地があります。また、印字できるのは直近の一定件数と26週間以内の分に限られますので、期待したほどの情報が出ないこともあります。無理に取得しようとするより、ほかの資料と合わせてどこまで説明できるかを先に検討したほうが、結果的に近道になることが多いといえます。
Q3 相手が「仕事の経費だ」と説明している場合はどうなりますか
その説明が成り立つかどうかは、記録そのものではなく、周辺の事情との整合性で判断されることになります。時間帯、頻度、金額、その日の予定として説明されていた内容と合うかどうかといった点です。説明を否定する材料がない段階で問い詰めても、警戒されて記録が残りにくくなるだけということもありますので、順序には注意が必要です。
Q4 もう半年以上前のことですが、履歴は残っていますか
交通系ICカードについては、26週間を超えた分は券売機では確認できません。記名式であれば個人情報の開示請求という方法がありますが、対象期間は受付日から1年前までで、請求できるのは本人に限られます。クレジットカードの明細については会社ごとに扱いが異なります。時間がたつほど選択肢が狭まりますので、心当たりがある時点で確認しておくことをおすすめします。
まとめ
クレジットカードの利用明細や交通系ICカードの履歴について、押さえておきたい点を整理します。
- これらの記録が示すのは決済や改札通過という事実であり、誰と一緒だったかは記録されません。
- 記録には確認できる期間と件数の上限があり、交通系ICカードは26週間を超えると券売機では確認できなくなります。
- 明細の表記は運営会社の商号であったり、電子マネー利用が「物販」と表示されたりするため、文字どおりに読めないことがあります。
- 定期券区間の移動や現金払いは記録に残らないため、「履歴にない」ことは行っていないことの裏づけにはなりません。
- どのルートで手に入れた記録なのかは、中身と同じくらい重要です。相手のIDでログインする方法は避けるべきです。
- 弁護士会照会という方法はありますが、探索的な照会は通りにくく、回答が得られないこともあります。
- 請求を受けた側は、記録の存在を争うよりも、記録と結論との距離を丁寧に説明することが中心になります。
明細や履歴は、それだけで結論を決める資料ではありません。しかし、ほかの資料と組み合わせたときに、相手の説明が成り立つかどうかを確かめる土台になります。そして、その土台は時間の経過とともに取り出せなくなっていきます。
どの記録をどこまで集めるべきか、手元にあるもので何がどこまで言えるのかは、事案の内容によって変わります。弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料を請求する側・請求を受けた側の双方からのご相談をお受けしています。手元の資料の評価や、次に何を確認すべきかについて迷われている場合は、お早めにご相談ください。


