【不貞慰謝料】探偵の調査報告書はどこまで効くのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

「探偵に依頼して調査報告書を受け取った」「相手から調査報告書があると言われた」。どちらの立場でも、次に浮かぶのは、この書面がどこまで通用するのかという問いだと思います。インターネット上には、報告書があれば言い逃れができないという説明も、報告書だけでは足りないという説明も並んでいて、判断がつきにくいところです。この記事では、調査報告書という書面が交渉や裁判の場でどう読まれるのかを、書面の中身の成り立ちから整理します。

「どこまで効くのか」という問いを3つに分ける

 調査報告書について語られるときの「効く」という言葉には、性質の違う問いが混ざっています。整理すると、次の3つに分かれます。

  1. 証拠として提出できる書面なのか、という問い。
  2. その記載がどこまで信じてもらえるのか、という問い。
  3. どの場面で、どんな働き方をするのか、という問い。


 このうち最初の問いは、実際にはあまり争点になりません。民事の裁判では、提出できる資料の種類を一般的に制限する規定が置かれていないため、調査報告書もそのまま書証として提出されるのが通常です。もめるのは2つ目と3つ目、つまり「その中身をどこまで信用するか」と「その場面で何の役に立つか」のほうです。

提出できることと、重く扱われることは別

 「証拠になる」という言い方は、この2つを一緒くたにしがちです。提出はできるけれども、書かれている内容から結論までの距離が遠ければ、それだけでは判断の決め手になりません。逆に、量が多くなくても、争点に直接つながる場面が押さえられていれば、判断の中心に置かれることがあります。証拠の種類ごとの位置づけについては、証拠力の順位を整理した別の記事もあわせてご覧ください。

1冊の報告書には、性質の違う記載が混ざっている

 調査報告書は、見た目には1つの書面です。しかし中身をほどくと、性質の異なる記載が同じ表紙の下に綴じられています。ここを分けて読めるかどうかで、その報告書がどこまで働くのかの見通しが変わります。

報告書に載っている記載その部分が示せること読み手が確かめようとすること
調査員が現に見聞きした行動の記録(日時・場所・移動)その日時にその場所で起きた外形的な出来事記録に空白がないか、写真や他の資料と食い違わないか
撮影された写真・動画写っている人物・施設・時間帯人物を判別できるか、いつ撮られたものか
調査員の評価や推測(「〜と考えられる」等)作成者がその場をどう受け取ったかという意見その判断の根拠が同じ報告書の中に示されているか
依頼者から聞き取った前提(氏名・勤務先・これまでの経緯)調査の出発点になった情報調査で裏づけられた事実なのか、聞き取りのままなのか


 このうち中心になるのは、上2つです。三段目の評価や推測は、作成した人の受け取り方を述べた部分であり、そこに「不貞行為があったと認められる」と書かれていても、その一文が判断の代わりになるわけではありません。四段目の聞き取り部分も、依頼した側が説明した内容がそのまま書き写されていることがあり、調査で確かめられた事実とは区別して読まれます。

結論の一文ではなく、その手前の記録が見られている

 報告書を受け取った方が最初に目を通すのは、たいてい末尾の所見です。一方、交渉や裁判で問われるのは、その所見にたどり着くまでに何が記録されているかのほうです。所見を支える記録が薄ければ、所見の書きぶりが強くても、そのぶん重く扱われるわけではありません。

報告書の様式には、法律上の決まりがない

 同じ「調査報告書」という名前でも、会社によって厚さも書き方も大きく違います。これは品質の差というだけでなく、制度の側に理由があります。

 探偵業については、探偵業の業務の適正化に関する法律が届出や書面の交付について定めを置いていますが、報告書そのものの様式や記載事項を定めた規定は置かれていません。同法8条2項は、契約を締結したときに交付する書面の記載事項の一つとして「探偵業務に係る調査の結果の報告の方法及び期限」を挙げていますが、これは報告の仕方を契約で決めておく、という趣旨のものです。つまり、報告書の中身は、法律ではなく契約と各社の運用で決まっています。

報告書を作るかどうかも、契約の内容

 「報告の方法」には、文書で報告するのか口頭やメールで済ませるのか、撮影した写真や映像を提示するだけなのか、データとして渡してもらえるのかといった点が含まれるとされています。簡易な報告で足りる利用の仕方もあるため、書面としてまとまった報告書が当然に作られるとは限りません。後で交渉や裁判に使う可能性があるなら、契約の段階でこの部分がどうなっているかを確かめておくとよいでしょう。

資料の処分の定めにも目を通しておく

 同じ書面には、調査で作成し、または取得した資料の処分についての定めがあるときは、その内容を記載することとされています。報告後に一定期間で資料を廃棄する運用をとっている会社もあり、その場合、後から追加の写真データを出してもらうことはできません。必要になりそうなものは、受け取った時点で手元にそろえておく発想が要ります。

厚さと中身は比例しない

 枚数が多い報告書が、そのまま強い報告書になるわけではありません。写真が大量に添付されていても、争点になる場面が押さえられていなければ、判断に直接つながる部分は限られます。逆に、記録された日数が少なくても、必要な場面が前後の流れごと残っていれば、報告書としての役割は果たします。

相手方から返ってきやすい指摘

 報告書を示したとき、相手方は書面全体を否定してくるのではなく、特定の箇所を取り上げてきます。よく出てくる指摘と、その指摘が何を突いているのかを整理すると、次のようになります。

指摘の内容突かれている点噛み合いやすい材料
写っているのが本人かどうか分からない人物の同一性別の角度や場面の記録、車両や所持品の一致、他の資料との突き合わせ
時間の記録に空白があるその間に別の行動をした可能性前後の行動が途切れずに記録されていること
建物に入る場面しかない中で何があったかとの距離出てくる場面まで押さえられていること
文章と写真の対応が読み取れない記載全体の正確さ説明と写真が1場面ごとに結びついていること
依頼者の説明をそのまま前提にしている調査で確かめられた範囲聞き取りの部分と調査結果が書き分けられていること


 地名や店舗名の書き誤り、時刻の記載と写真の食い違いのような、本筋から外れた部分の不正確さも指摘の対象になります。争点そのものには関係がなくても、書面全体の正確さへの疑いにつながるためです。受け取った時点で、自分でも読み合わせておく意味はここにあります。

写真そのものの限界は、別の記事で

 写真や動画に固有の性質、たとえば静止画と動画で指摘のされ方が違うことや、撮影日時の記録がどこまで信用されるのかについては、写真・動画の証拠価値を扱った記事で詳しく整理しています。

報告書が写すのは、契約した期間の窓だけ

 見落とされやすい点として、報告書に残るのは、依頼して調査が行われた期間の出来事だけだ、ということがあります。何年も前から関係が続いていたとしても、報告書自体からその年数が出てくるわけではありません。長く続いていたことを述べたいのであれば、報告書以外の資料や、相手方の説明と組み合わせる必要があります。

 逆の方向にも同じことが言えます。調査した日に何も起きなかったとしても、それは「その日に何もなかった」という意味であり、関係がなかったことを示すものではありません。報告書は、そこに開けた窓の内側だけを写した記録だと考えるとずれが少なくなります。なお、期間や回数が慰謝料の金額にどう響くのかは、別の記事で扱っています。

第三者が作った書面であることの意味と、その限界

 調査報告書が扱いやすいとされる理由の一つは、当事者ではない人が、その場で見たことを記録した書面である点にあります。当事者本人が撮った写真や自分でまとめたメモに比べ、経過が整理されていて、内容を確かめやすいという事情です。

 もっとも、作成者が無関係な立場に立っているわけでもありません。依頼を受け、対価を得て調査した会社が作った書面である以上、その点を踏まえて読まれます。だからといって内容が軽く扱われるということではなく、記録された事実に裏づけがあるかどうかが、ふつうに問われるということです。

内容が争われたときに起こりうること

 記載の正確さが正面から争われた場合には、報告書を書面として出すだけでなく、調査にあたった担当者に法廷で説明してもらうことや、元になった写真・映像のデータそのものを示すことが検討されます。こうした場面まで想定すると、報告書と手元の資料が対応しているかどうかは、早い段階で確かめておきたい点になります。

「裁判で使える報告書」という説明の受け止め方

 調査会社の案内には、裁判で通用する報告書かどうかの基準が示されていることがあります。参考になる部分はありますが、実際にどう評価されるかは、その事案で何が争われているかによって変わります。案内の表現をそのまま基準として受け取るよりも、自分の事案で何を示す必要があるのかを先に整理しておくほうが、行き違いが起こりにくくなります。

不貞の立証以外に働く場面

 報告書の使いどころは、不貞行為があったと述べる場面だけではありません。次のような形でも働きます。

  • 相手方の氏名や住所につながる手がかりが記録されていることがあり、請求先を定める段階の材料になる。
  • 交渉に入る前に、こちらが把握している範囲を自分で把握しておく土台になる。
  • 関係を知りながら続けていたのかという点について、行動の経過から検討する材料になる。
  • すでに夫婦関係が壊れていたという反論が出たときに、その時期との前後関係を考える手がかりになる。


 なお、調査にかかった費用を相手方に負担させられるのかという問題は、報告書の証明力とは別の論点です。この点は探偵費用を扱った記事で整理しています。また、どのような方法で調査が行われたかという適法性の問題も、報告書の評価とは切り分けて考える必要があります。

報告書を示された側の読み方

 請求を受けた側から見ると、分厚い報告書を突きつけられた時点で決着がついたように感じられます。ただ、立証する責任は請求する側にあり、こちらが潔白を証明しなければならないわけではありません。示されたときに確かめたい点を挙げます。

  • 記録された事実の部分と、調査員の評価や推測の部分を分けて読む。
  • 示されているのが報告書の一部分である可能性を頭に置く。
  • 写真に残っている外形的な事実そのものを否定しても、実益は乏しいことが多い。
  • その場で認めるとも認めないとも述べず、書面の内容を確かめる時間をとる。
  • 後から説明を変えると、変えたこと自体が不利に働くことがある。


 報告書の証明力が十分でないと思われる場合でも、相手方が他の資料を持っていることがあります。報告書だけを見て全面的に争う方針を決めるのは、材料が足りない段階での判断になりがちです。

依頼する前と、受け取った後に確認しておけること

 調査を検討している段階と、報告書を受け取った段階で、それぞれ確かめておけることがあります。

  1. 手元にある資料だけで足りるのか、何が不足しているのかを先に整理する。
  2. 契約の書面で、報告の方法と期限、写真や映像を渡してもらえるかどうかを確かめる。
  3. 資料の処分についての定めがあるかどうかを見ておく。
  4. 受け取ったら、記載と写真の対応、固有名詞、時刻の並びを自分でも読み合わせる。
  5. 交渉や裁判で使う可能性があるなら、原本とデータをそろえて保管しておく。


よくあるご質問


調査報告書だけで慰謝料が認められることはありますか

 押さえられている場面によります。同じ人物と一緒にいた経過が前後の流れごと記録されていれば、報告書が判断の中心に置かれることもあります。一方、断片的な記録にとどまる場合は、やり取りの記録や相手方の説明など、他の材料と組み合わせて判断されることになります。

写真に相手の顔がはっきり写っていません

 その1枚だけを取り出せば弱い部分になりますが、報告書は場面のつながりで読まれます。前後の場面、移動の経路、車両や所持品といった別の手がかりが記録されていれば、そちらで補われることがあります。手元の報告書のどこにその材料があるかを探してみてください。

相手から「捏造だ」と言われました

 根拠を示さずに述べただけでは、その主張が通りやすいわけではありません。ただし、記載と写真の食い違いのような具体的な指摘があると、そこから信用性が問われる形になります。指摘の中身が具体的かどうかで、対応の仕方も変わります。

報告書を相手にそのまま見せてもよいですか

 示す範囲とタイミングは、交渉の進め方によって変わります。全部を先に示すと、それに合わせた説明を組み立てられることがある一方、示さなければ話が進まない場面もあります。何を示すかを決める前に、一度ご相談いただくことをおすすめします。

まとめ


  1. 調査報告書は提出そのものが問題になることは少なく、争われるのは記載の信用性と、その場面での役割である。
  2. 1冊の中に、見聞きした事実の記録、写真等の資料、調査員の評価や推測、依頼者からの聞き取りが混ざっている。
  3. 「不貞行為があったと認められる」といった所見の一文は、判断の代わりにはならない。
  4. 報告書の様式に法律上の定めはなく、報告の方法や資料の扱いは契約で決まる。
  5. 記録されるのは調査した期間の出来事だけで、その前後まで写すものではない。
  6. 示された側も、記録された事実と評価の部分を分けて読み、その場で認否を述べる前に内容を確かめることが大切である。


調査報告書の扱いにお悩みの方へ

 手元の報告書で何が示せるのか、これから調査を依頼すべきなのか、あるいは示された報告書にどう向き合うべきなのか。いずれも、その事案で何が争点になるかによって答えが変わります。弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談をお受けしています。報告書をお持ちの方は、その内容を拝見したうえで、次に何をそろえる必要があるのかを一緒に整理いたします。お一人で判断される前に、お気軽にご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼