その場から帰してもらえない|監禁と不退去の境界
この記事は、2023年7月施行の改正刑法(不同意わいせつ罪の新設)と、2025年6月施行の拘禁刑への一本化を反映しています。結論は個別の事情によって変わるため、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
メンズエステを利用した数日後、店から「今後のご来店はお断りします。規約違反につき罰金をお支払いください」といった連絡が届くことがあります。ご相談の現場では、「連絡先を書いたメモを渡しただけなのに、ここまで言われるものなのか」という声もあれば、「施術中に触れてしまったのは事実なので、言われた金額を払うしかないと思っている」という声もあります。
インターネット上では、「店の罰金に法的な根拠はないから払わなくてよい」という説明をよく見かけます。それ自体は誤りではありませんが、連絡の背景に女性本人の申告があるのか、入店時に誓約書を交わしていたのかによって、取るべき対応は変わってきます。名目だけを見て放置したり、逆に言われた金額をそのまま振り込んだりすると、後から整理し直すのが難しくなることがあります。
この記事では、メンズエステの店から「出禁」と「罰金」をあわせて告げられた場面に絞って、連絡の読み解き方と、返信する前に確かめておきたいことを整理します。出入り禁止と請求の一般的な関係や、誓約書の条項ごとの効力については、それぞれ別のコラムで扱っています。
「出禁」と「罰金」は、性質の違う二つの話
出禁は、店の判断として受け止めることが多い
店が特定の客の来店を断ることは、原則として店側の判断に委ねられています。契約をするかどうかは当事者が自由に決められるとされており(民法521条1項)、店舗を管理する側には、誰を立ち入らせるかを決める権限もあると考えられています。メンズエステの多くは予約制のため、店が予約を受けないと決めれば、客の側からそれを覆すのは難しいのが実情です。系列店すべてで利用を断ると告げられることもあります。
一方で、出禁を告げられたこと自体から、お金を払う義務が生まれるわけではありません。来店を断ることと金銭を求めることは、法的には切り離して考えます。出禁と請求の関係については【風俗トラブル】「ブラックリストに載せた」「出禁だ」と言われた|出入り禁止と請求の関係で解説しています。
「罰金」は名目であって、刑罰ではない
罰金は刑法が定める刑罰の一つで(刑法9条)、裁判を経て国が科すものです。店や個人が客に罰金を科すことはできません。そのため、店が「罰金」と呼んでいるお金は、法的には、事前に約束した違約金か、実際に生じた損害の賠償のどちらかとして考えることになります。
ただし、名目が誤っているからといって、支払う義務が一切ないと決まるわけではありません。名前ではなく、中身として何を求められているのかを見ていくことが大切です。罰金という名目の考え方は「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできないもご覧ください。
連絡の背景に「女性本人の申告」があるか
店からの連絡には、店のルール違反だけを理由にしているものと、セラピスト(施術者)の女性から「触られた」「嫌なことをされた」という申告があったことを前提にしているものがあります。後者の場合は、店との金銭の話とは別に、刑事事件として扱われる可能性も視野に入れておく必要があります。文面に「女の子が」「スタッフから報告があり」といった言葉があるかどうかは、最初に確かめておきたい点です。
連絡が来たら、まず整理しておきたい三つのこと
何を理由にしているのか
店が挙げる理由によって、問題になる点は変わります。おおよそ次のように分けて考えることができます。
| 店が挙げる理由 | 主に問題になる点 |
|---|---|
| 連絡先を渡した・店外で会おうと誘った | 店の規約違反にとどまることが多く、違約金の約束の有無と金額が中心になる。 |
| 延長や指名などのルールを守らなかった | 料金の精算の問題として整理できることが多い。 |
| 性的なサービスを求めた | 言動の内容により、規約違反にとどまるか、セラピストへの迷惑行為と評価されるかが分かれる。 |
| 施術中に体に触れた | 同意の有無によっては、不同意わいせつ罪(刑法176条)が問題になりうる。 |
| 録音・撮影をした | 対象や態様によっては、性的姿態撮影等処罰法などが問題になりうる。 |
理由が書かれていない、あるいは「何をしたか分かっているはず」といった曖昧な書き方の場合は、こちらから具体的な行為を書き送る前に、相手がどの事実を問題にしているのかを確かめる必要があります。確かめ方そのものも、弁護士に相談してから決めることができます。
誰からの連絡か
店の公式アカウント、オーナーや店長を名乗る個人、女性本人、相手方の弁護士など、連絡してきた人によって意味合いは異なります。店名を出さずに個人の携帯電話から届く連絡や、店の実在がはっきりしない連絡もあります。誰が、どの立場で請求しているのかは、後に合意書を交わす際に誰を当事者とするかを考えるうえでも重要です。
金額とその根拠
入店時に誓約書へ署名したか、店のサイトや受付で「違反した場合は〇〇万円」と示されていたかを思い出しておきます。誓約書の控え、予約時のメッセージ、店のサイトに掲載された規約の画面などが残っていれば、そのまま保存しておきます。誓約書の読み方については店が示す誓約書の条項別チェック|どこが効き、どこが効かないかで解説しています。
「罰金」を払う義務があるかの考え方
違約金の約束をしていた場合
入店時に禁止行為と金額を示され、それに同意していた場合、その約束は違約金の合意として扱われる可能性があります。違約金は、損害賠償の額をあらかじめ決めておいたものと推定されます(民法420条1項・3項)。
もっとも、約束があれば金額がそのまま認められるとは限りません。違反とされる事実が本当にあったのかは、原則として請求する側が示す必要があります。また、行為の内容に比べて著しく高い金額は、公序良俗に反するものとして効力が争われる余地があります(民法90条)。詳しくは誓約書の「罰金100万円」は本当に払う義務がある?法的効力を検証をご覧ください。
約束がなかった場合
事前の約束がない場合、店が求めることができるのは、実際に生じた損害の賠償が中心になります(民法709条)。ルール違反があったとしても、それによって店にどのような損害が生じたのかを、店の側が具体的に示す必要があります。セラピストが休んだことによる売上の減少などが主張されることがありますが、提示された金額との間に大きな開きがあることも少なくありません。
払うことで終わる範囲を見極める
お金を払ったからといって、出禁が取り消されるとは限りません。また、店に支払っても、女性本人が別に被害を訴える可能性は残ります。支払う場合には、誰との間で、何について解決したのかを書面にしておくことが欠かせません。「振り込めば終わる」という口頭の説明だけで支払うと、後から追加の請求を受けたときに、解決済みであることを示しにくくなります。
当事務所が対応した例としては、メンズエステで100万円を求められた方について、交渉により44万円で示談がまとまった事例もあります(【解決事例】メンズエステでの罰金100万円請求|示談交渉で44万円に減額し刑事事件化を回避した事例)。もっとも、金額は事案ごとに大きく異なります。
返信する前に避けておきたい対応
相手の求めるままに動かない
連絡を受けた直後は、早く終わらせたいという気持ちから、相手に言われたとおりに動いてしまいがちです。次のような対応は、後から状況を整理しにくくすることがあります。
- 求められるままに、行為を認める内容や謝罪の文章を送ること。
- 身分証の画像、勤務先、家族の連絡先を伝えること。
- 「身分証と印鑑を持って来店するように」といった求めに、一人で応じること。
- 期限を区切られて、その場で支払いや分割払いを約束すること。
- 何も記録を残さないまま、連絡をすべて無視すること。
謝罪すること自体が悪いわけではありませんが、メッセージの文面はそのまま残ります。何を認めたのかがはっきりしない謝罪文は、違約金の請求や刑事手続の場面で、行為を認めた資料として扱われるおそれがあります。身分証の扱いについては身分証の提示・撮影を求められた場合|応じる義務と拒否の帰結で解説しています。
届いた連絡は消さずに残す
店からのメッセージ、着信履歴、留守番電話は消さずに残しておきます。画面の保存(スクリーンショット)は、日時と送り主の表示が分かる形で撮っておくと、後で経緯を説明しやすくなります。利用した日時、店名、担当したセラピストの名前、施術中にあったことも、記憶が新しいうちにメモしておくとよいでしょう。
刑事事件の可能性が含まれている場合
店への支払いと、女性本人との示談は別のもの
「触られた」という申告が前提になっている場合、店からの「罰金」の請求は、実質的には示談金の提示に近い意味を持つことがあります。ただ、被害を訴えているのは女性本人であり、刑事事件として扱われるかどうかに影響するのは、女性本人との間で合意ができているかどうかです。店にお金を払っても、女性本人の意思が確かめられていなければ、刑事手続のうえでは解決したことにならない可能性があります。刑事面の見通しについてはメンズエステでお触りをして「触られた」と言われた。不同意わいせつ罪のリスクと対応をご覧ください。
求め方が度を越えている場合
店の側にも、守らなければならない線があります。「払わなければ家族や職場に知らせる」と告げて金銭を求めたり、部屋から出さずに支払いを迫ったりすることは、恐喝罪(刑法249条)などにあたる可能性があります。こうした求め方に応じて支払った場合には、強迫を理由に取り消せる余地もあります(民法96条1項)。
ただし、自分の側にも問題とされる行為があった場合には、店の対応の問題点を指摘するだけでは解決しないことが多く、両方の面を踏まえて進め方を考える必要があります。告げられた内容ごとの違法性は「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性で整理しています。
よくあるご質問
「出禁にするが、お金はいらない」と言われた場合も、何かしておくべき?
来店を断られただけであれば、法的に対応しなければならないことは多くありません。ただ、後になって女性本人から被害の申告が出る可能性もないとはいえないため、届いた連絡と、利用した日時の記録は残しておくと、いざというときに経緯を説明しやすくなります。
系列店すべてで出禁と言われた。名前や電話番号が共有されているのでは?
同じ会社が運営する店同士で、顧客の情報を共有していることはありえます。一方で、別の事業者との間で個人情報をやり取りすることは、本人の同意がない限り、原則として制限されています(個人情報保護法27条1項)。もっとも、実際にどの範囲で共有されているかを客の側から確かめるのは難しいのが実情です。
連絡を無視し続けたら、どうなる?
店のルール違反だけが理由であれば、無視していても直ちに大きな問題に発展しないこともあります。一方で、女性本人の申告が背景にある場合には、店が「警察に相談する」と告げてくることもあり、連絡を絶ったことで話し合いの機会がなくなる場合もあります。無視するかどうかを一律に決めるのではなく、連絡の理由と内容を見て判断することが大切です。
まとめ
- 出禁は店の判断に委ねられる部分が大きいが、出禁を告げられたこと自体から支払義務は生まれない(民法521条1項)。
- 「罰金」は刑罰ではなく店が科すことはできないため、中身を違約金か損害賠償として考える(刑法9条)。
- 違約金の約束があっても、違反の事実や金額の妥当性は争う余地がある(民法420条、同法90条)。
- 約束がなければ、店が具体的に示せる実際の損害が中心になる(民法709条)。
- 女性本人の申告が背景にある場合、店への支払いだけでは刑事面の解決にならないことがある(刑法176条)。
- 家族や職場に知らせると告げて金銭を求める行為は、恐喝罪にあたる可能性がある(刑法249条)。
- 返信する前に、届いた連絡は消さずに残し、認める文章や個人情報を送らないようにする。
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店から「出禁」と「罰金」を告げられたとき、どこまでが受け止めるべき話で、どこからが争える話なのかを一人で見極めるのは簡単ではありません。弁護士が窓口となることで、店と直接やり取りをせずに、請求の根拠や金額を確かめながら話し合いを進めることができます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。身に覚えのない請求を受けている方も、自分にも非があったと感じている方も、言われた金額を支払う前に一度ご相談ください。


