損害賠償額の予定(民法420条)は風俗の規約でも有効か
本記事は、2026年10月時点の民法・刑法・ストーカー規制法の規定をもとに、一般的な考え方を整理したものです。実際の結論は、受け取ったときの経緯ややり取りの内容によって変わります。
お店のお客様から、誕生日やイベントの際にプレゼントを受け取ることは珍しくありません。ところが、来店が途絶えた、店外で会う誘いを断った、ほかのお客様との関係を知られたといった出来事をきっかけに、「今まであげた物を返せ」「代金を払え」と求められるご相談が寄せられています。
プレゼントは法律上「贈与」にあたり、渡し終えた物について、贈った側が後から一方的に取り消すことは原則として認められていません。もっとも、受け取ったときのやり取りによっては、返還が問題になる場面もあります。この記事では、返す必要があるかどうかを分ける事情と、求められたときの対応を、受け取った側の立場から整理します。
プレゼントは法律上「贈与」にあたる
物やお金を無償で相手に与え、相手がそれを受け入れることは、民法上の贈与契約にあたります(民法549条)。口約束でも成立し、契約書は必要ありません。
民法550条は、書面によらない贈与は各当事者が解除できるとしつつ、履行の終わった部分については解除できないと定めています。品物を手渡した、お金を振り込んだという時点で履行は終わっていますので、お客様が「気が変わった」「期待した関係にならなかった」という理由だけで、渡したプレゼントの返還を求めることは一般に難しいと考えられています。弁護士ドットコムのニュース記事や法律相談でも、渡し終えたプレゼントは原則として返す必要はない、という趣旨の弁護士の回答が多く見られます。
なお、「今度これを買ってあげる」と約束されただけで、まだ受け取っていない段階であれば、書面がない限りお客様の側はその約束を取りやめることができます。
返還が問題になりうる4つの場面
原則は上のとおりですが、次のような事情があると、「プレゼントだから返さなくてよい」とは言い切れなくなります。
| 場面 | 典型的なやり取り | 考え方の方向 |
|---|---|---|
| 貸し借りだった | 「貸しておく」「来月返して」 | 贈与ではなく貸付として返済が問題になりうる |
| 条件がついていた | 「お店を辞めるなら」「結婚を前提に」 | 条件や見返りの内容によって返還が問題になりうる |
| 事実と違う理由で受け取った | 実際にはない事情を伝えて受け取った | 詐欺を理由に取り消されるおそれがある |
| 「返す」と約束した | メッセージで返却に応じた | 約束の内容と、すでに返したかどうかで分かれる |
贈与ではなく「貸し借り」だった場合
お金や物を「返す約束で」受け取った場合は、贈与ではなく消費貸借(民法587条)にあたり、返済の義務が生じます。プレゼントのつもりで受け取っていても、やり取りの中に「貸しておく」「立て替えておく」「余裕ができたら返して」といった言葉が残っていると、貸付だったと主張されやすくなります。
反対に、お客様が後になって「あれは貸しただけ」と言い出しても、それを裏づけるやり取りがなければ、貸付と認められるのは容易ではありません。貸したことは、返還を求める側が示す必要があるためです。詳しくは別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いでも解説しています。
条件や見返りの約束がついていた場合
「お店を辞めるなら生活費を援助する」「結婚を前提に渡す」のように、一定の条件や負担を伴う贈与もあります。受け取った側が約束した負担を果たさない場合には、負担付贈与(民法553条)として解除が問題になったり、条件が満たされなかったとして返還を求められたりすることがあります。
ただし、お客様が一方的に期待していただけで、受け取った側が何かを約束していない場合には、条件付きの贈与とまでは評価されにくいと考えられます。接客中の言葉が「約束」にあたるかどうかは、前後のやり取りや金額、渡された時期などから判断されます。【風俗トラブル】キャストに贈った金品|贈与と対価の切り分けが争点になる理由や結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかもあわせてご覧ください。
事実と異なる理由を伝えて受け取った場合
実際にはない事情を伝え、それを信じたお客様からお金や品物を受け取った場合には、詐欺を理由に贈与を取り消され(民法96条1項)、受け取った物を返すよう求められるおそれがあります。事情によっては、刑事上の詐欺罪が問題にされることもあります。
一方で、好意を示す言葉や接客上の会話があったというだけで、直ちに詐欺にあたるわけではありません。どこからが問題になるのかは、「詐欺だ」と言われて返金を求められている|民事の紛争と刑事の境界で整理しています。
「返す」と言ってしまった場合
強く迫られて「返します」と答えてしまったという方も少なくありません。品物を返すことに応じた場合は、贈与を合意で解消したと評価されることがあります。一方、「代金を払う」と応じた場合については、新たにお金を渡す約束をしたものとみて、書面がなく、まだ支払っていなければ撤回の余地があるとする弁護士の解説もあります。
ただし、念書や示談書に署名している場合は、その書面が別の合意として扱われ、効力が争点になることがあります。相手から書面への署名を求められても、その場では応じず、内容を確かめてから判断することをおすすめします。
「返せ」と言われたときに確認しておきたいこと
返す必要があるかどうかは、受け取ったときの事情で分かれます。相手に返事をする前に、次の点を手元で整理しておくと、その後の判断がしやすくなります。
- 受け取った日時と品物、そのときに添えられた言葉。
- 受け取る前後のLINE・メッセージや、プレゼントに添えられたカード。
- 「貸す」「返して」「辞めたら」など、貸し借りや条件を示す言葉の有無。
- 受け取った物が手元に残っているか、使用・売却したかの状況。
- 相手からの要求の内容と、その伝え方が分かる記録。
受け取った物をすでに使ったり売ったりしている場合でも、そもそも返す義務がなければ、その点は問題になりません。仮に返還すべき事情がある場合でも、相手が示す購入額をそのまま支払わなければならないとは限らず、清算の方法は話し合いの対象になります。
また、お店が間に入って「返した方がいい」と伝えてくることもありますが、それは法律上の義務の有無とは別の話です。お店とのルールの問題と、お客様との間の問題は分けて考える必要があります。
「誕生日プレゼントとして」「お祝いに」と言われて受け取ったことが分かるメッセージやカードが残っていれば、贈与であったことを説明する際の大切な材料になります。相手とのやり取りを消してしまわないよう、早めに保存しておきましょう。
要求の仕方が行き過ぎている場合
返還を求めること自体は、言い方が穏当であれば直ちに違法とはいえません。しかし、「返さなければ家族や職場に知らせる」「SNSに書き込む」「店にいられなくしてやる」などと告げて支払いや返却を迫る場合は、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)が問題になる可能性があります。
こうした連絡を受けたときは、メッセージを削除せずに保存し、電話でのやり取りは日時と内容をメモに残しておくと、警察や弁護士に相談する際の手がかりになります。返信する場合も、感情的な言葉や、相手の言い分を認めるような表現は避け、短く用件だけを伝える程度にとどめるのが無難です。
さらに、好意が受け入れられなかったことへの不満から、自宅や帰り道での待ち伏せ、連日の電話やメッセージが続くような場合には、ストーカー規制法の「つきまとい等」にあたることがあります。身の危険を感じたときは、ためらわずに110番通報や最寄りの警察署への相談をご検討ください。客からの脅し・つきまとい|キャバクラ・ガールズバー勤務者の被害、【ストーカートラブル】接客の仕事で客につきまとわれている|個人でできることも参考になります。
返すと決めた場合の進め方
法律上の義務がなくても、関係を早く終わらせるために返すという選択もあります。その場合も、返し方を誤ると、追加の要求や接触のきっかけになりかねません。次の順序で進めると、後のトラブルを避けやすくなります。
- 返す物と返さない物、金銭で清算するかどうかを先に決めます。
- 直接会って手渡すのではなく、配送や代理人を通じた方法を選びます。
- 返した日時と品物が分かる記録(送り状の控え、写真など)を残します。
- 清算がこれで終わったこと、今後の連絡や来店をしないことを書面で取り決めます。
書面には、これ以上の金銭請求をしないことを確認する清算条項や、接触を控える条項を入れることが考えられます。本人同士で作る書面は言葉の選び方によって効力が争われることもあるため、弁護士が代理人として交渉すれば、相手と直接やり取りせずに条件を整えることができます。
よくあるご質問
現金で受け取ったお金も、プレゼントと同じように考えてよいですか
考え方の基本は同じです。ただ、金額が大きい、何度も受け取っている、使い道を伝えていたといった場合には、貸付や条件付きの贈与だったという主張がされやすくなります。キャストとの恋愛感情のもつれ|貢いだお金・プレゼントの返還もあわせてご覧ください。
お店のルールで、お客様から高額な物を受け取ることが禁止されていました
お店のルールに反したかどうかは、主にお店との関係の問題であり、お客様との贈与の効力に直ちに影響するものではないと考えられます。お店から罰金などを求められた場合は、キャスト側の「罰金」「違約金」|遅刻・当欠・退店で引かれるお金は適法かをご参照ください。
「訴える」と言われました。裁判になったら返さなければなりませんか
「訴える」と言われただけで、返還の義務が生じるわけではありません。裁判では、貸付だったことや条件がついていたことなどを、請求する側が示す必要があります。ただし、裁判所から訴状や支払督促が届いた場合は、放置すると相手の主張どおりの判断がされるおそれがありますので、期限内に対応してください。
お客様からのプレゼントをめぐる問題は、贈与・貸付・条件付きの約束・詐欺のどれにあたるかの見極めと、要求が強まったときの身の守り方の両方が関わります。返すかどうかを決める前に、受け取ったときのやり取りを確かめておくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


