端末を初期化・機種変更した場合|不利に働く事情になるか
本記事は、2026年10月時点の民法・刑法の規定をもとに一般的な考え方を解説するものです。刑罰の表記は、2025年6月に施行された改正刑法にあわせて「拘禁刑」としています。実際の判断は、やり取りの内容や金額、受け取った経緯によって異なります。
お店で知り合ったお客様から「生活は支えるから、この仕事は辞めてほしい」と言われ、支援金としてお金を受け取ることがあります。そのときは好意として受け取ったお金でも、関係が終わったり、再び夜のお仕事に戻ったりしたところで、「辞めると約束したから渡した。全部返してほしい」と求められるご相談は少なくありません。弁護士ドットコムにも、生活費の援助を受けてお店を辞めた後、お客様との関係をめぐって悩む方の相談が寄せられています。
「店を辞める」という条件がついていたお金は、何の条件もなく受け取ったお金とは考え方が少し異なります。この記事では、店を辞めることを条件に受け取った支援金について、返す義務が生じるのはどのような場面か、返還を求められたときにどう動けばよいかを整理します。
「店を辞めるなら援助する」というお金の法的な位置づけ
返す約束をせずに渡されたお金は、原則として贈与(民法549条)にあたります。書面によらない贈与であっても、すでに渡し終えた部分を後から解除することはできません(民法550条)。お客様の気持ちが変わったという理由だけで返還を求められても、応じる義務は原則としてないと考えられます。
ただし、「店を辞めること」が渡す理由として示されていた場合、その約束がお金の性質にどう組み込まれていたかによって、評価が分かれます。考えられる見方は、主に次のとおりです。
| 見方 | どのような合意か | 返還が問題になりやすい場面 |
|---|---|---|
| 通常の贈与 | 辞めてほしいという希望は、渡す動機にとどまる | 原則として問題になりにくい |
| 負担付贈与(民法553条) | 店を辞めることを、受け取る側の義務として約束した | 辞めなかった場合に解除が主張されることがある |
| 条件付きの贈与(民法127条) | 「辞めたら渡す」「また戻ったら返す」と取り決めた | 取り決めた条件が実現した場合 |
| 貸し借り(民法587条) | 返すことを前提に受け取った | 辞めたかどうかにかかわらず返済の対象になる |
実際のやり取りでは、どの見方にあたるかを当事者がはっきり意識していないことがほとんどです。そのため、渡されたときの言葉やメッセージの内容から、合意の中身を後から読み取ることになります。
「辞めること」を約束の内容にできるか
どの仕事に就くかは本人が決めるもので、職業選択の自由(憲法22条1項)とも関わります。風俗のお仕事を辞めるという約束そのものが直ちに無効になるとは限りませんが、「将来にわたって夜の仕事に一切就かない」といった広く長い拘束は、その効力が限定的に考えられる可能性があります。約束の範囲が問題になるときは、どこまでを合意していたのかを丁寧に確かめる必要があります。
実際に店を辞めた場合
支援金を受け取り、約束どおりお店を辞めたのであれば、負担付贈与と見られる場合でも、受け取った側は義務を果たしていることになります。この場合、後になって返還を求められても、返す義務が生じる場面は限られると考えられます。
よくあるのが、お店を辞めた後に交際や連絡がうまくいかなくなり、「付き合ってくれると思ったから渡した」と言われるケースです。交際を続けることまで合意の内容になっていたかどうかは、やり取りの記録から判断されます。お客様が心の中で期待していたというだけでは、それが約束の内容になるとは限りません。
なお、交際や性的な関係を続けることの見返りとして渡されたお金については、公序良俗(民法90条)や不法原因給付(民法708条)との関係で、返還請求が制限されるかどうかが問題になることもあります。結論は事情によって分かれるため、この点を理由に返さなくてよいと自己判断することは避けたほうが安全です。
辞めなかった場合・後から戻った場合
返還が問題になりやすいのは、約束したお店を辞めなかった場合や、いったん辞めた後に再び働き始めた場合です。
受け取った後も辞めずに働き続けた場合
店を辞めることが贈与の負担として約束されていたのに、その義務を果たしていない場合、お客様の側は相当の期間を定めて履行を求め、それでも果たされないときは贈与を解除できるとされています(民法553条・541条)。解除されると、受け取ったお金は原状回復として返還の対象になり得ます(民法545条)。
さらに、受け取った時点で辞めるつもりがまったくなかったのに「辞める」と伝えてお金を受け取った場合は、詐欺による意思表示として取り消される(民法96条1項)おそれがあるほか、刑事上の詐欺罪(刑法246条1項、10年以下の拘禁刑)が問題になる余地もあります。一方で、辞めるつもりで受け取ったものの、生活の事情で辞められなかったという場合は、受け取った時点でだます意思があったとは評価しにくく、民事上の問題にとどまるのが通常です。
いったん辞めた後に、別の店や同じ店に戻った場合
辞める期間を決めていなかった場合、何か月か後に働き始めたことが約束違反にあたるかどうかは、受け取った金額や渡されたときの説明などから判断されます。「また戻ったら返す」と明確に取り決めていた場合は、その取り決めに沿って返還を求められる可能性が高くなります。
また、「今の店を辞める」という約束だったのか、「風俗の仕事そのものを辞める」という約束だったのかで、別のお店に移ったことの評価も変わります。約束の言葉が曖昧なまま争いになることが多いため、当時のメッセージを確認することが出発点になります。
支援金の性格を左右する記録
返す義務があるかどうかを考えるうえで、次のような記録が手がかりになります。都合が悪いと感じるやり取りも、前後の文脈を示す材料になるため、削除せずに保存しておくことをおすすめします。
- 支援金を受け取った日付・金額・方法(手渡し、振込など)。
- 「辞めてくれたら援助する」「返さなくていい」など、渡されたときの言葉が残っているメッセージ。
- 辞める期間や、戻った場合の扱いについてやり取りした記録。
- お店を辞めた時期が分かる資料(退店の連絡、最終出勤日のやり取りなど)。
- 返還を求める連絡や、「詐欺だ」「知らせる」といった言葉が含まれるメッセージ。
返還を求められたときに避けたい対応
「約束を破った」と強く言われると、その場を収めたい気持ちから対応を急いでしまいがちです。次のような対応は、後の話し合いで不利な材料になるおそれがあります。
- 辞める期間や条件を確かめないまま、全額の返還をその場で約束すること。
- 求められるままに、受け取った額を上回る金額の借用書や念書に署名すること。
- 相手を納得させるために、事実と異なる説明を重ねること。
- 本名や住所、新しい勤務先など、まだ伝えていない情報を求めに応じて伝えること。
- 何も説明しないまま、すべての連絡を一方的に断つこと。
最後の点については、相手からつきまといや脅しを受けて身の安全に不安がある場合は別です。その場合は連絡を控え、警察への相談を優先してください。
相手の求め方が行き過ぎている場合
支援金の返還を求めること自体は、正当な権利の主張にあたる場合もあります。しかし、「返さなければ家族や今の職場に前の仕事のことを知らせる」「店に押しかける」などと告げて支払いを迫る場合は、脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(刑法249条)にあたる可能性があります。返す義務があるかどうかと、求め方が適法かどうかは別の問題です。
自宅や新しい勤務先の周りで待ち伏せされる、大量のメッセージが届くといった状態であれば、ストーカー規制法に基づく警察の対応を求められる場合もあります。お金の問題があることを理由に、相談をためらう必要はありません。
話し合いの進め方と、弁護士が入る意味
進め方としては、約束どおりお店を辞めたことや、交際までは約束していなかったことなどを記録に基づいて説明し、返す義務はないと伝える方法があります。一方で、約束を果たせなかった部分がある場合は、受け取った時期や金額を踏まえて一部の返還を含めて合意し、関係を区切る方法も考えられます。
合意する場合は、これ以上の請求をしないことを確認する清算条項や、家族・勤務先に連絡しないといった取り決めを合意書に入れておくことが、その後の蒸し返しを防ぐうえで大切です。
弁護士が代理人になると、相手との連絡窓口を弁護士に一本化でき、ご本人が直接請求を受け続ける状態を止めやすくなります。お店を辞めた後の住所や勤務先を明かさずに交渉を進められる場合もあります。また、贈与か約束違反かという民事の問題と、詐欺にあたるかという刑事の問題を、あわせて見通したうえで方針を立てられる点も、相談する意味の一つです。
よくあるご質問
辞める期間を決めていませんでした。半年後に別の仕事で夜のお店に戻ったら、返さなければなりませんか
期間の取り決めがない場合、半年後に働き始めたことだけで、直ちに全額の返還義務が生じるとは限りません。受け取った金額や、渡されたときにどのような説明があったかなどを踏まえて判断されます。戻った場合の扱いを話し合っていた記録があれば、それが大きな手がかりになります。
お客様から「本当に辞めたか証明しろ」と言われています
証明の求めに応じる義務が当然にあるわけではありません。ただ、辞めたことを示せれば話し合いが落ち着くこともあります。その場合でも、本名や新しい勤務先が分かる資料をそのまま渡すことは避け、示し方を弁護士と相談されることをおすすめします。
一部だけ返してしまいました。残りも返さなければなりませんか
一部を返したことで、残りの返還義務が直ちに確定するわけではありません。関係を穏やかに終えるために返したのか、約束違反を認めて返したのかなど、返したときのやり取りによって評価が変わります。
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店を辞めることを条件に受け取った支援金でも、返す義務があるかどうかは、辞めることがどのような約束として組み込まれていたか、そして実際に約束を果たしたかによって分かれます。返還を求められても、その場で約束をする前に、受け取ったときのやり取りと辞めた時期の記録を確かめることから始めてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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