マナーうんちく話1763《変化に富む「死」を表現する日本語》
旧暦の9月9日は「重陽の節句」です。
奇数は縁起のいい「陽の数」といわれ、その陽の中で最も大きい「9」が重なるので「重陽」になるわけですが、旧暦では菊が咲く時期だから「菊の節句」ともいわれます。
菊は仙人の住むところで咲くので長寿をもたらすといわれ、我が家では毎年菊を飾って「菊酒」をいただきます。
ところで万葉集には「萩」についで「梅」が多く詠まれていますが、菊はでてきません。
当時の菊は野菊のようなものだったので存在感はあまりなかったのでしょうね。
それが鎌倉時代になって皇室も紋章に採用され、にわかに脚光を浴びたのではないでしょうか。
さらに江戸時代になり植木鉢などがお目見えし、園芸ブームが巻き起こる中、いろいろと品種改良して今に至ったようです。
そして重陽の節句は江戸幕府が最も格式の高い節句として位置づけ、菊三昧の節句として、つまり長寿にあやかる節供として盛大に執り行われたようです。
話は変わりますが以前「マナーうんちく話」でも触れた「後の雛」をご存じでしょうか?
私が主催する講座では菊の花と共に、親王飾りだけですが「雛飾り」をします。
「後の雛」とも「秋の雛」とも「菊の雛」とも言いますが、春に飾った雛の虫干しも兼ねて、大人の雛として飾り、長寿を祈願するわけです。
重陽の節句は菊づくしの節句ですから、皆で「菊酒」をいただきたいところですが、ほとんどの参加者が車ですので、「菊枕」用に、布の袋に入れた菊の花ビラをお配りします。
世界一多いといわれる日本の年中行事のひとつ一つには一年を通じ、暮らしの営みが明確に表現されています。
それらを毎年きちんと行うことで、生活にメリハリをつけ、百歳時代を豊かに楽しみたいものです。
まして重陽の節句は「長寿」を祝う節供です。
「健康寿命」も「平均寿命」も世界のトップクラスの長寿国になり、高齢化率が高い今の日本にとって、重陽の節句は最も存在感の大きい節句であって欲しいものですが、あまり知られていないのが現状のようですね。
クリスマスのケーキ、バレンタインデーのチョコレート、正月のお節料理、節分の恵方巻、土用の鰻など商売につながる行事は益々盛大に執り行われ、重陽の節句の様に売り上げに貢献しない節句は忘れ去られるでは、あまりにも寂しい話です。
年中行事の意味や意義を正しく理解して後世に残してほしいと思うのですが、徐々に復活させたいものです。
これからは秋の夜長です。
俳句では秋の季語になっている「後の雛」と呼ばれるお雛様を飾り、盃に菊の花びらを浮かべた菊酒をいただきながら風流をお楽しみください。