マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
このほど「世界の移住したい国ランキング」で、日本は1位のカナダに続き2位になりましたね。
平和・安全性、風光明媚、四季の豊かさなどが評価された結果だと思います。
自然と共生し、常に他者を思いやり、「和」を大切にしてきた国民性や、礼節を重んじてきた先人の努力のたまものでしょう。
ところで非常時にもかかわらず、相変わらず政治家や高級官僚の過剰接待、違法接待の話題は尽きませんね。困ったものです。
そこでマナー講師として長年「もてなしの仕方・受け方」などに触れてきた関係、改めて私たちが先人から受け継いできた、日本人のもてなしの心にシリーズで、様々な角度から触れてみたいと思います。
【もともと清潔好きだった日本国民】
世界的にコロナが流行する中、日本は感染者が比較的少ないといわれていますが、その要因の一つとして日本人の清潔好きあげられていますね。
確かにそれは言えると思います。
日本にキリスト教文化が入った時に、西洋の宣教師たちは日本人の清潔さに感動したといわれていますが、確かに今の多くの日本人は、ほとんど毎日のように入浴したり、洗髪したり、下着や衣服を取り替えます。
「外履き」と「部屋履き」の区別があり、部屋に入るときには靴も脱ぎます。
また公共の場もきれいですし、公衆衛生や食べ物にも大変敏感です。
幼いころから「清く・正しく・美しく」をモットーに躾を受けてきたからでしょうか・・・。
ではこのように世界的にも清潔になった原因はどこにあるのでしょうか。
【いろいろ考えられる日本人が清潔を好む理由】
日本人の清潔好きの原因は神道、稲作、梅雨、そして温泉・風呂などが考えられます。
まず神社に参拝するときには手水舎で手と口を清めますが、「マナーうんちく話」でもたびたび触れているように、神道には「清める」という概念があります。
正月前の大掃除や盛り塩を始め、数々の年中行事にも清めの概念は根付いています。
私が住んでいる地域では、地域住民が定期的にお宮掃除を行います。
私も可能な限り参加しますが、清掃作業が終われば神社全体に、凛とした雰囲気が漂い、身も心も清められた気分になります。
さらに意外に思われるかもわかりませんが日本の「稲作文化」も大きな原因だといわれています。
田植えや農業に携わっている人はご存じだと思いますが、稲作には水が必要で、常に水路を管理しなければなりません。だからきれいな水が滞ることなく、常に清潔に管理することに力を注いできたわけです。
あぜ道の清掃作業も怠りません。
稲作が盛んな地域では、地域を挙げて溝掃除をしたり、草刈り行事などが行われます。
清潔好きになった理由はまだあります。
日本は四季のほかに雨季、つまり梅雨がありますが「梅雨=黴雨」です。
じめじめして黴が繁殖しやすいので、常に清潔な状態にする努力が必要です。
特に食品衛生にはとても注意が必要な期間です。
【もてなし文化に大きな要因を与えた温泉と風呂】
そして「温泉と風呂」ですが、この風呂が日本人の「もてなし文化」に大きな影響を与えてきたわけです。
火山大国日本には3000近い温泉地と30000近い源泉があるといわれますが、日本人は古代から温泉と仲良く付き合った歴史が存在し、古事記や日本書紀にも記述がみられます。また万葉集にも多くの温泉地が登場しています。
医学も未発達で、薬や化粧品も乏しい時代に、温泉につかればいろいろな成分により、体が楽になったり、病気が治癒したりで、まさに温泉は健康や安らぎを与えてくれるありがたい存在だったと思います。
そして温泉効果を身近に味わえる施設として作られたのが「風呂」ですね。
その風呂で体を清めたり、癒しを求めたりしながら、楽しい入浴文化をはぐくんできたのでしょう。
特権階級の人は自宅に豪華な風呂を作り、多くの客人をもてなしたとか。
風呂に入ることにより身体はきれいさっぱりするし、心の癒し効果もあって、この上ない充実のひと時だったのでしょう。
今の風呂とは作りは異なりますが、風呂上がりに茶菓を振舞ったり、演芸に興じたりしたといわれています。
まさに風呂は最高のもてなしだったわけです。
やがて江戸時代には庶民にも普及し、町ごとに銭湯ができ、風呂を浴びた後には、茶を飲んだり将棋を指したりして、まさに今風のサロンのような社交場になっていくわけです。
それが今になって長寿やもてなしの文化に大きく貢献したばかりか、コロナにも功を奏したとなれば凄いですね。