マナーうんちく話622≪世界平和記念日と日本の礼儀作法≫
日本の襖や障子には鍵がありません。
なぜだと思いますか?
日本最古の木造建築は奈良時代に建立された法隆寺だといわれていますが、襖の起源は平安時代に寝具を意味した「衾(ふすま)」に由来し、寝どころの仕切りとして用いられたそうです。
ちなみに掛布団を平安時代には「衾(ふすま)」と呼んでおり、それで部屋を仕切っていたという説もあります。
日本家屋の建具として襖を知らない人はいないでしょう。
壁で部屋を仕切るのではなく襖で仕切ることにより、より柔軟性が高まります。また襖は保温機能も備えています。
加えて「襖絵」などに見られるように極めて芸術性が高いのが特徴です。
このように日本の襖はいろいろ評価されていますが、鍵をかけない点は議論になりませんね。
西洋のドアには鍵があるのに、日本の襖に鍵がないのは、日本ではもともと部屋に鍵をかける習慣がなかったのではないでしょうか。
蔵や土蔵のような建物には「南京錠」のような立派な鍵が備わっていますから、鍵の技術はあったわけです。
しかし日本は平和な国ですから、外部からの侵入者にもおびえることはなく、鍵をあえてかける必要はなかったのでしょう。
西洋ではまねのできないことですね。
では部屋に鍵がないということは、日本人にはプライバシーはなかったということでしょうか?
もちろんプライバシーはあります。
前回も触れましたが、襖の部屋に入る時には、相手のことを思いやって、座って3手で襖を開けるという礼儀作法があります。
例えば、まず相手の部屋の前に来たら、そこで座って「ゴホン」と咳払いをします。今でいう「失礼いたします」の合図です。
それから引手に近い指で襖を5センチくらい開けます。
相手に「これから襖を開けて入ります」という合図をするわけです。
次に引手の位置から下から5㎝位のところまで指を降ろし、襖を半分くらい開けます。
今度は手を変えて逆手で一気に開きます。
ただし全て開いてしまうのではなく5㎝位残します。
襖を占める時に襖を持ちやすくするためです。
襖一枚開くに当たり、このような手間暇をかけて開くわけですが、全ては相手のプライバシーに配慮した動作です。
つまり鍵のような物理的なものではなく、「思いやり」を形にした作法という「心の鍵」があったわけです。
ひとえに平和な社会から生まれた世界に誇る文化で、令和の時代に蘇りさせたいものです。
今、世界が直面している大きな課題の一つに戦争があります。
私は相手に対する「思いやりの気持ち」を形にした「日本の礼儀作法」は、世界の平和に大きく貢献できる素晴らしい文化だと思っています。
だから和の礼儀作法講座や和食のマナー講座や講演で極力実践を交えて、触れておりますが、年々影を潜めていくのは寂しい限りですね。