マナーうんちく話521≪お心肥し≫
思いやりの心を具体的に発揮する和の礼儀作法は人間形成に大変お勧めですが、その理由は、和の礼儀作法に精通すると精神が統一され、世界が称賛する「おもてなし」や「もったいない」文化が理解でき、心地良いコミュニケーションが上手になるからです。
特に和の礼儀作法は「一回一動作」を重んじます。
一つ一つの動作に真心を込めるということです。
これは人に対する振る舞いの基本になります。
つまり、見た目の美しさばかりでなく、良好な人間関係を構築するうえでも有効であるということです。
加えて「三辞三譲」という概念も大事です。
「私は謙虚な気持ちを持っていますよ」ということです。
これも相手から好感をもたれる大きな要因になるでしょう。
ところで「三つ子の魂100まで」という言葉をご存知でしょうか?
今の様に医学や科学、まして脳に関する学問は一切なかった時代の言葉ですが、当時の人は「小さい時の〈しつけ〉は一生の宝ものになる」ということを経験的に理解していたのでしょう。
だから家庭で親は子どもに「履き物の脱ぎ方」や「箸使い」などの基本的な礼儀作法や、「読み・書き・そろばん」などをしっかり教えたのでしょうね。
「礼節の国日本」の基盤はまさにここにあったと言えるでしょう。
しかし当時とは比較にならないほどモノが豊かで便利で教育水準も高くなった現代において、礼節の国日本の面影が薄れてきた感がしてなりません。
特に「自分らしさ、個性、権利」などのキーワードに重きが置かれ、自分中心なってきた感がしますがいかがでしょうか?
もちろん自分を大切にすることはとても大切です。
自分の体や頭や心が充実していないと他人どころではありません。
まずは自分自身を大事にしていただき、次に他者に心を向けたいものですね。
特に日本人は自分より相手に気を使ってきた伝統を有する国です。
例えば、和食は世界が評価する豊かな精神文化を有するわけですが、それ以前に食事中でも常に相手に好感を持ってもらうことに気を使ってきました。
だから箸使いにまで神経を注いだわけですね。
相手が不快に思う箸使いを「嫌い箸」「忌み箸」といいますが、その数は80近くあるといわれています。
また和室の襖をあけるときにも一度に全開せずに3度の手間をかけるのも、相手を築かう心からです。
座布団しかりです。
先人がいかに相手に気を使ってきたかということです。
国際化が進展した今だからこそ、「他者に対する思いやり」を基盤とする和の礼儀作法や和食のマナーを日常生活に取り入れ、日本人として、さらに国際人として世界に通じるエレガンスを発揮したいものですね。