マナーうんちく話521≪お心肥し≫
次第に夏めき、眩しい光に緑は深さを増し、全ての物が生き生きと輝く頃ですが、先人も白い衣に夏の到来を感じていたのでしょうか?
《春過ぎて 夏来るらし 白たえの 衣乾したり 天の香具山》
持統天皇の詠んだ有名な歌が思い浮かんできます。
ところで、5月も半ばを過ぎるとあちらこちらで、田植えの準備が始まり、田んぼに水が張られるようになってきます。
米を主食にしている日本人にとっては、最もなじみの深い年中行事ですが、農業に携わっていなくても、「私も頑張らなくては」と思い立たせてくれます。
元気が出るのは人間ばかりではありません。
田んぼに水が張られると蛙がにわかに元気になり、けたたましく泣き始めます。
蛙が恋の季節を迎えたわけですね。
蛙が鳴く理由は、雄が雌を引き寄せるためですが、雌は雄の鳴き声を確かめて交尾の相手を選ぶそうです。
だから鳴く方は必死になります。
どこの世界も選ばれる側は楽ではありません。
また、昔から「蛙が鳴くと雨が降る」と言われますが、これは気圧の低下と関係があるらしく、結構当たりますね。
ちなみに、蛙の語源は「帰る」です。
理由は、蛙は「元の場所に帰る習性」があるからです。
だから、紛失したお金が帰ってくる、逃げた女房が帰ってくる、などと言うことで、蛙は大変縁起の良い小動物なのです。
「古き良き時代」という言葉があります。
英語では「the old good days」と表現されます。
すでに消えてしまったか、あるいは消えつつある良さや趣が感じ取られる様のことですが、その前提は、今と比べて、昔の方が良かったと言うことです。
育った環境や年代により人それぞれだと思いますが、昔を懐かしむことは誰しもあります。
古き良き時代とは「もう出会うことはできないけど、今となっては最高の思い出」なのですね。
現在は物の豊かさや利便性の点では、昔とは比較にならないほど勝っています。
しかし精神面、特に「心の豊か」さは、古き良き時代という言葉に象徴されるのではないでしょうか?
日本古来の「奥ゆかしさ」や「昭和の風情・人情」も懐かしい限りですね。
特に古き良き状態に帰りたいのが「人と人との絆」です。
家庭や地域や学校や職場における心の絆です。
但し、心と心の絆は希望して結べるものでもありません。
加えて、利便性・合理性の追求とは相反する側面があります。
苦い経験や辛い思いや様々な努力を積み重ねて、相手と信頼関係を結び、相手に対して「思いやりの心」を発揮して得られるものです。
相手の心を理解することも大切です。
従って、そこにたどりつくまで、多くの無駄や手間暇は当然かかります。
絆を結びたいと思うなら、手間暇を惜しむなということです。
人間関係が希薄になっているとよく言われますが、特に人間関係で悩みを抱えている人が、年齢に関係なく増加し続けている気がします。
蛙の鳴き声が聞こえてきたら、マナーの原点に帰るのもお勧めです。