マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
昨年来の節電の影響も有り、最近「扇子」を使用する人が多くなった気がします。またデパート等でも、クールビズ商品の一環として売り上げに貢献しているようですが、扇子は日本古来の小物としての優雅さや礼が込められており、様々な使い方や意味があります。
暑中の頃、扇子の知識やロマンやマナーをお届けいたします。
「団扇(うちわ)」が7世紀頃、中国から輸入された物に対し、「扇子」は日本で発明され、中国を経由しヨーロッパにまで伝わりました。
団扇伝来から100年くらい経過して、その団扇を、たためるようにした扇子を開発したわけです。
このような技術は、昔から日本人は得意だったのでしょうね。
最初は、「涼しい風を得る」と言うより、薄い板で作られており、それに字を書いて使用していました。
つまり、扇子は日本で作られた「メモ帳」だったわけで、貴族が公の場で使用していたものが、次第に華麗な装飾がほどこされて、高貴な女性が好むようになりました。
そしてその扇子に、恋心を詠んだ歌を書き、宮中で思いを寄せる貴公子に届けたわけです。現在の肉食系女性の先駆者的存在だったかもしれませんね。
やがて、その扇子も、ヨーロッパに伝来し、当時の貴婦人たちに愛用されるようになるわけですが、彼女たちの間では、好きな男性の前で、扇子を開き、目を隠すと、「アイ・ラブ・ユー」の意味になったそうです。
さらに、江戸時代に入ると、扇子は一部の高貴な人の持ち物から、一般庶民にも幅広く使用されるようになり、心と心の交流を意味するようになったり、自分を下げ、へりくだった心を表す意味においても使用されてきます。
例えば、江戸時代にも「お見合い」は盛んに行われていたわけですが、「幹夫」という世話人が、「太郎」と「花子」のお見合いを段取りして、「太郎」が「花子」のことを気にいったら、「太郎」は「幹夫」に扇子を託し、「幹夫」から「花子」に届けてもらい、今後のお付き合いを正式に願ったそうです。
早い話、扇子を託すと言うことは、「あなたを好きになりました」ということですね。
また「座礼」の時にも、相手に礼を尽くすのに欠かせないアイテムになります。
座った時に、自分の膝の前に扇子を置き、改めて礼をします。
相手と一線を置き、自分をへりくだる意味で使用します。
また、結納時などでは、交流を深める意味等も有ります。
加えて、白無垢姿の花嫁の必須アイテムでもあり、親族が留袖を着る際にも「末広」と呼ばれる扇子を使用します。
このように、当時は扇子を開いて使用するより、儀礼的に使用することが多かったようですが、今は逆ですね。
そこで、扇子の優雅な開き方を解説しておきます。
左手で扇子の要(かなめ)を持ちます。次に右手の親指で、骨の部分をずらすように、しずかに、ゆっくり、丁寧に開いて下さい。
そして、ここで是非注意して頂きたいことがあります。
全て開かないで、少しだけ残して下さい。これは大切なポイントですよ!
扇子を全開したら、これから先が無いので、これ以上運が開けなくなるので、今後、運がさらに開くように、残りの部分を少しだけ残しておくわけです、
あえて完璧な状態にしない、日本人ならではの心意気ですね。
次に扇子の仰ぎ方ですが、胸のあたりから静かに、自分の顔に向けて仰ぎます。
但し、目上の人の前での使用はお勧めできません。
加えて、お礼などの金品を、お盆の代わりに扇子に載せて渡す時があります。
この際、要を手前にし、相手の膝の前に要が来るように、廻して差し出します。
扇子は、クールビズの一言で済ますのではなく、色々なマナーを理解し、優雅に使用すれば、暑い時期の凛とした小物になり、品格が漂います。