一番観えてないのはあなた
「この人とは、なぜこんなに話が噛み合わないのだろう?」
会議や打ち合わせで、そんな風に感じたことはありませんか。自分の言っていることは筋が通っているはずなのに、なぜか相手の反応が鈍い。相手の言っていることも理解できるけれど、議論が前に進まない。この“かみ合わなさ”の正体、実は「意見の違い」ではなく、「思考のスタート地点の違い」にあります。
理想から話す人、リスクから話す人
人の考え方には、ざっくり分けて二つの傾向があります。一つは「目的志向型」、もう一つは「問題回避型」と呼ばれるスタイル。
例えば、営業部のCさんは「新しい販促アイデアをどんどん出して、売上アップを狙いたい」と未来を見据えて話します。一方で、経理担当のDさんは「昨年の施策での赤字要因をまず検証しないと」と過去のトラブルに目を向けます。このとき、Cさんは「目的志向型」、Dさんは「問題回避型」の思考スタイルを持っていると言えるでしょう。
目的志向型の人は、「どんな未来を目指したいか」から考えます。行動の原動力は理想や目標です。一方、問題回避型の人は、「どんな失敗を避けたいか」から発想します。失敗やトラブルを防ぐことが最優先です。どちらが正しいということではなく、単にスタート地点が違うだけ。それに気づかないと、「わかってもらえない」という苛立ちが生まれます。
「ズレ」に気づけば、会話が変わる
話が噛み合わないとき、多くの人は「自分の伝え方が悪いのかな」「相手が聞いていないのかも」と考えがちですが、実際には、相手がどこから物事を考え始める人なのか――そこを見落としていることが多いようです。
例えば、目的志向型の人に「去年の反省を先にまとめましょう」と言っても、前向きな提案の時間が削られてしまうと感じ、話す意欲が下がってしまうことがあります。
逆に、問題回避型の人に「まずアイデアを出していきましょう」と促しても、「過去の失敗にまた陥るのでは?」という不安が拭えないまま、議論に乗ってこないことも。このような「思考スタイルのズレ」は、言葉の選び方や話す順序を少し意識するだけで、大きく改善することができます。
今日からできる、小さな実践
もし次の会議で、相手と話が噛み合わないと感じたら、こんな問いかけをしてみてください。
・「どんなゴールを目指していますか?」(目的志向型への問い)
・「避けておきたいリスクは何でしょうか?」(問題回避型への問い)
この一言で、相手の考え方に寄り添う姿勢が伝わり、会話の流れが自然と整っていきます。相手が何を大事にしているのかを尊重する――それが、信頼関係を築くための第一歩になるはずです。
おわりに
ビジネスにおいて、コミュニケーションは成果の質を大きく左右します。話し合いがスムーズに進まないときこそ、「相手と自分は、違う出発点に立っているのかもしれない」と考えてみてください。その小さな気づきが、人間関係をしなやかに変えていく力になります。