法定休日と法定外休日
社会保険労務士&アンガーマネジメントファシリテータの三谷です。
有休の買取は違法か
年次有給休暇(以下、「有休」。)について、
社長からよく質問されることがあります。
それは、
「有休を(忙しくて)与えることができないので、その分を買い取ってもいいですか。」
という質問です。
例えば、有休10日分のうち7日は有休消化できそうだけど、
3日は取得できそうにないような場合、
その3日分をお金で支払うという処理ができるかどうか、という内容です。
確かに、従業員からしたら、取得できない有休を買い取ってもらうことに積極的に反対する人はいないと思います。
そして社長の、有休取れない分はせめてお金で、という気持ちも理解できなくはありません。
しかし、結論からいうと、これは違法です。
有休の目的は、体を休めること
ここで、有休制度が労働基準法で設けられた目的を確認しましょう。
その目的は、
「労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るため、
また、今日、ゆとりある生活の実現にも資するという位置づけから、休日のほかに毎年一定日数の有給休暇を与える」
とされています。
(平成22年版『労働基準法 上』厚生労働省労働基準局編)。
ここにあるように、有休は心身を休めるための制度です。
そうすると、休ませずその代わりにお金を払うということは、
全くその制度目的に反することになります。
だから、違法となるのです。
「有休なんて取られたら仕事が回らない」という社長の声もあるでしょう。
人手不足に苦しむ中小企業では死活問題かもしれません。
でも、さきほどの目的をよく見てください。
有休の目的は、労働力の維持培養を図るためでもあるのです。
従業員が心身を休めることで仕事への意欲を高め、労働生産性の向上にも繋がるともいえるのです。
私は顧問先企業には、「しっかり休んで、またしっかり働いてくださいね」と
会社から従業員に対して有休制度の目的を伝えるようにアドバイスしています。
有休は労働者の権利ではありますが、
一方で労働契約に見合った労働力を提供することは労働者の義務でもあります。
有休の買取が許される3つの例外
有休の買取りに関しては、このように従業員の健康を守るために原則違法なのですが、
例外的に次の3つの場合は違法ではありません。
(1)従業員が退職する際に残余分の有休を買い取る場合
退職すると、雇用関係が消滅してしまいますので有休を取ること自体できなくなるからです。
例えば、12月31日が退職日で、退職日まで有休消化で8日取得したが、2日は使うことなく残ってしまった場合、
その2日分を買い取るというのは違法ではありません。
(2)時効によって消滅している有休を買い取る場合
有休の権利行使は、付与されたときから2年間です。
そのため、本来ならば消滅してしまう有休分を買い取ることは問題ありません。
(3)法律で定められた日数以上の有休分を買い取る場合
有休の付与日数は法律で定められています。
例えば、要件を満たしたフルタイム労働者の場合は入社して6か月後に「10日間」の有休が付与されます。
これはあくまで法律上の最低基準なので、会社独自の施策として「15日間」とすることも可能です。
そして、法定以上の日数分について、買い取ることは問題ありません。
このように、例外的に買い取ることも可能なのですが、
(1)と(2)のケースは、そもそも有休を日常的に取れる職場環境になかったことが問題とも言えます。
2019年4月から年5日間の有休取得が義務化されています。
有休に対する従業員の権利意識もに高まってきています。
有休制度の目的は、体を休めること。
この目的を忘れずに運用していきましょう。