204【最高裁判例】「1年では家賃改定できない」は本当?家賃改定訴訟で分かったこと 35年前の最高裁判例

210【裁判実録】今度は私が被告になった 敷金返還請求事件
福岡簡易裁判所 令和8年(ハ)▲▲▲▲号
2026年8月6日、今度は私に訴状が届きました。
これまでこのコラムでは、自分で家賃改定の調停を申し立てたり、無断転貸について損害賠償請求訴訟を起こしたりと、主に「請求する側」から裁判の実録を書いてきました。
ところが今回は逆です。
裁判所から届いた訴状を見ると、
原告 Aさん
被告 私の会社
今度は私が訴えられました。
請求されているのは、退去した事務所の敷金765,000円です。
しかもAさんとは現在、別の損害賠償請求訴訟「無断転貸事件」も進行中。
そちらでは私が原告、Aさんが被告です。
今回は立場が入れ替わりました。
訴状を受け取った被告が何を考え、何を調べ、どう反論していくのか。
今回は裁判実録の「被告編」です。
現在、私は4件の裁判進行中です。同じ相手2先x2件。
ややこしいのでまとめておきます。
裁判は争点毎の事件になりますので、同じ相手が続きます。
■今回の登場人物
最初に登場人物を整理しておきます。
Aさん 今回の原告
私が所有していた事務所の元入居者です。
別件の無断転貸をめぐる損害賠償請求事件では被告でした。
今回は立場が逆転し、Aさんが原告となって私に敷金765,000円の返還を求めています。
Bさん 別件の無断転貸事件で登場
Aさんが借りていた事務所を使用していた人物です。
今回の敷金返還事件の当事者ではありません。
C弁護士 Aさんの代理人
家賃改定の調停、無断転貸をめぐる損害賠償請求訴訟に続いて、今回が3事件目です。
すっかりおなじみになりました(笑)。
Dさん 今回初登場
過去の賃貸借契約書に連帯保証人として記載されていた人物です。
別件の無断転貸裁判には登場していません。
ところが今回、このDさんの保証契約についても確認する必要が出てきました。
■今回の事件を超簡単に説明すると
Aさんの主張はシンプルです。
長年借りていた事務所を退去した。契約書には敷金765,000円と書いてある。
だから、
「敷金765,000円を返してください」
という裁判です。
これに対する私の主張は、大きく二つです。
一つ目。無断転貸が不法行為に当たるのであれば、損害賠償請求権と敷金返還請求権を相殺する。
Aさんによる無断転貸が認められ、その行為が不法行為に当たるのであれば、私はAさんに損害賠償を請求できます。
今回は、退去後に発生したフリーレントや広告料などを損害として主張し、その損害賠償請求権を敷金返還請求権と相殺します。
二つ目。契約の途中経緯および保証契約を確認する。
この物件は昭和59年から契約関係が続いていますが、途中で法人契約となり、その法人が清算され、その後Aさん個人との契約になっています。
そこで、敷金返還請求権がどのような経緯でAさん個人に帰属したのかを確認します。
また、過去の契約書にはDさんが連帯保証人として記載されています。
私からAさんに損害賠償請求をする可能性がある以上、Dさんの保証契約が現在どうなっているのかも確認する必要があります。
つまり、
① 無断転貸が不法行為なら、損害賠償請求権と敷金返還請求権を相殺する。
② 契約の途中経緯と保証契約を確認する。
大きくこの二つです。
■返すべきものは返す。請求すべきものは請求する
私の考えはシンプルです。
返すべきものは返す。
請求すべきものは請求する。
「敷金だから返さない」とか、「家賃改定や別件の裁判で揉めた相手だから返さない」という話ではありません。
Aさんに敷金返還請求権があり、こちらから差し引くべきものがなければ返還する。
一方、Aさんに損害賠償責任が認められるのであれば、それはそれで請求する。
双方の権利と義務を整理して、最終的な金額を確定する。
今回の裁判でやろうとしているのは、それだけです。
本来は裁判ではなく、普通に交渉できればよいのですが、相手に交渉意思がない以上、仕方ありません。
■「そういえば、ややこしい契約の経緯だったなぁ」
訴状を読む。
Aさんの主張を確認する。
そして証拠を見る。
Aさん側からは、過去の賃貸借契約書も提出されていました。
この物件の賃貸借関係は非常に古く、昭和59年から続いています。
途中には法人を賃借人とする契約書があり、その法人は後に清算。その後、Aさん個人名義の契約書が作成されています。
ここまで確認して、
「そういえば、もともと契約の経緯がかなり複雑だったなぁ」
と改めて思いました。
これまでは契約が継続していること自体に大きな問題はありませんでした。
しかし今回は敷金765,000円の返還請求を受けています。
さらに、こちらから損害賠償を請求する可能性がある以上、Dさんの保証契約についても確認する必要があります。
そこで今回は、長い契約が途中でどのように承継されてきたのかを改めて確認することにしました。
■昭和59年からの契約継続はすでに確認済み
2025年の家賃改定調停では、昭和59年から賃貸借契約が継続していることを双方で確認しており、その内容は調停証書にも残っています。
したがって私は、
昭和59年からの契約関係も、途中の法人契約も、令和6年のAさん個人との契約も認めています。
今回確認したいのは、その有効性ではありません。
その間の契約が、どのような経緯でつながってきたのか。
そこです。
■令和元年から令和6年、契約主体は誰だったのか
途中で賃借人となっていた法人は、令和元年に清算されています。
しかも、その法人の清算人はAさん本人でした。
一方、Aさん個人名義の契約書が作成されたのは令和6年です。
時系列だけを並べると、
令和元年 法人清算
令和6年 Aさん個人名義の契約書
です。
昭和59年から契約が継続していること自体は確認済み。
では、
「令和元年に法人が清算された後、令和6年にAさん個人名義の契約書が作成されるまで、法的な契約主体は誰だったのか」
という疑問が出てきます。
そして、
賃借人としての地位はどのように承継されたのか。
敷金返還請求権は誰に帰属し、どのように承継されたのか。
Dさんの連帯保証契約はどうなったのか。
これらも確認する必要があります。
私は、Aさんに敷金返還請求権がないと決めつけているわけではありません。
あるならあるでいい。
ただ、裁判で765,000円の支払いを求められている以上、その765,000円がどのような経緯で現在のAさんに帰属したのかは確認しましょう、という話です。
しかも法人を清算したのはAさん本人です。
適切な処理がされているのであれば、その経緯を確認すれば済みます。
■そしてDさんが登場する
過去の契約書には、Dさんという連帯保証人が記載されています。
今回初登場です。
仮にAさんの損害賠償責任が認められた場合、
Dさんも連帯保証人として請求対象に含めてよいのか。
現時点では分かりません。
昔の契約書には連帯保証人として記載されている。
しかし、その保証契約が継続したのか、変更されたのか、終了したのかは確認できていません。
そこでDさん本人にも、
保証契約について変更や終了の認識があるのか。
それを確認できる契約書、合意書、覚書などを持っているのか。
照会する予定です。
これは保証債務の請求ではありません。
まずは事実確認です。
終了しているなら終了。
継続しているなら、その保証範囲を検討する。
それだけです。
■なぜ無断転貸裁判ではDさんが登場しなかったのか
ここで、
「それなら、なぜ別件の無断転貸裁判ではDさんを被告にしなかったの?」
と思うかもしれません。
当時は、契約の途中経緯を私の側だけで確認することが難しかったからです。
契約書と契約書の間にある部分を、私が勝手に埋めることはできません。
保証契約も同じです。
分からない状態で、
「Dさんは現在も連帯保証人だろう」
と推測だけで被告に加えるわけにはいきませんでした。
ところが今回は、Aさん自身が敷金返還請求訴訟を起こし、過去の契約書も証拠として提出されています。
敷金返還請求権の帰属を確認するために契約経緯を調べるのであれば、同じ契約書に記載された保証契約についても確認する。
自然な流れだと考えています。
■Dさんの保証が確認されれば、別件にも関係する
今回の確認でDさんの連帯保証関係が継続していることが確認された場合、その意味は今回の敷金事件だけにはとどまりません。
Aさんとは、別に無断転貸をめぐる損害賠償請求訴訟も行っています。
そちらも同じ賃貸借契約を基礎とする事件です。
したがって、Dさんの保証契約が継続し、その保証範囲に別件の損害賠償債務も含まれるのであれば、無断転貸事件でAさんに損害賠償責任が認められた場合、Dさんにも保証責任を求めることができる可能性があります。
ただし、別件はまだ判決前です。
Aさんの損害賠償責任自体が確定していません。
ですから、
まず保証関係を確認する。
保証の範囲を確認する。
別件については判決を待つ。
という順番です。
■無断転貸→不法行為→損害賠償→相殺
今回の敷金事件の中心的な反論に戻ります。
私の主張は、
無断転貸が認められ、その行為が不法行為に当たるのであれば、Aさんに対する損害賠償請求が可能になる
というものです。
今回は、退去後に新しい入居者を確保するために負担したフリーレントや広告料などを損害として主張します。
構造を簡単にすると、
無断転貸が成立
↓
不法行為に当たる
↓
損害賠償責任が発生
↓
フリーレント・広告料等を損害として請求
↓
敷金返還請求権と相殺
です。
もちろん、無断転貸が認められれば、すべての損害が当然に認められるわけではありません。
不法行為に当たるのか。
フリーレントや広告料との因果関係が認められるのか。
いくらまで損害として認められるのか。
ここは裁判所が判断することになります。
■C弁護士は何に反論してくるのか
こちらから最初の準備書面を提出しました。
次はAさん側の番です。
私が注目しているのは、
C弁護士が「何に」反論してくるのか。
C弁護士は別件の無断転貸裁判で、無断転貸が契約違反であれば契約解除の問題になる、という趣旨の主張をしています。
一方、実際には契約は解除ではなく、Aさんの退去によって終了しています。
今回私が問題にしているのは、
「契約を解除したかどうか」ではありません。
無断転貸が成立するのか。
それが不法行為に当たるのか。
それによって生じた損害について賠償責任が発生するのか。
そこです。
しかも、C弁護士自身が別件で行った主張も、今回はこちらの主張を組み立てる材料の一つになっています。
さて、どう反論するのか。
不法行為を否定するのか。
損害との因果関係を争うのか。
損害額を争うのか。
契約経緯について説明してくるのか。
何を主張するのかだけではなく、何に反論してくるのか。
次の準備書面で、かなり見えてくると思います。
■無断転貸裁判は「別腹」
Aさんとは、これとは別に無断転貸をめぐる損害賠償請求訴訟を行っています。
こちらでは私が原告、Aさんが被告。
請求額は約362万円。
すでに審理は終了しており、2026年10月2日に判決予定です。
ただし、
今回の敷金返還事件で相殺するのは、この約362万円ではありません。
今回相殺を主張するのは、退去に伴って発生したフリーレントや広告料などについての損害賠償請求権です。
無断転貸事件は無断転貸事件。
敷金事件は敷金事件。
別腹です。
二つの裁判は基本的にパラレルで進めます。
ただし、今回Dさんの保証関係が明らかになれば、保証という部分では別件にも影響する可能性があります。
■今後のスケジュール
まずはAさん側の次の準備書面を待ちます。
確認したいのは、
無断転貸、不法行為、損害賠償についてどう反論するのか。
そして、
契約経緯をどう説明するのか。
その内容を確認したうえで、Dさんへの照会文書を発送し、保証契約に関する資料の有無などを確認する予定です。
一方、別件の無断転貸事件は10月2日に判決予定。
敷金事件は敷金事件として進める。
無断転貸事件は無断転貸事件として判決を待つ。
基本的にはパラレルです。
■判決予想はズバリ3パターン
さて、読者として一番気になるのは、
「結局、この裁判どうなるの?」
だと思います。
まだAさん側の反論も出そろっていません。
新しい証拠や主張が出れば予想は変わります。
その前提で、現時点の予想です。
本命 一部相殺・一部返還 55%
Aさんの敷金返還請求権を認める一方、私が主張する損害についても一定額を認める。
結果として、
敷金765,000円-認定された損害額=Aさんへの返還額
となるパターンです。
対抗 相殺を大きく認め、ほぼ精算 25%
無断転貸が不法行為に当たり、フリーレントや広告料などとの因果関係も強く認められれば、
Aさんへ返す金額がほとんど残らない
という可能性もあります。
穴 Aさんの請求をほぼ満額認容 20%
無断転貸について不法行為責任が認められない。
あるいは、不法行為は認められても、フリーレントや広告料との因果関係や損害額がほとんど認められない。
そうなれば、Aさんの請求がほぼそのまま認められます。
現時点では、
55%・25%・20%。
この予想にしておきます。
判決前に数字を出しておけば、後から答え合わせができます。
これも裁判実録ならではでしょう。
■35年以上前の契約書が突然動き始めた
今回、改めて感じたことがあります。
契約書は長生きです。
35年以上前に作られた契約書が、2026年になって裁判所へ提出され、敷金や連帯保証人について議論される。
当時の関係者は想像もしなかったでしょう。
昭和59年からの契約継続は調停証書で確認済み。
途中では法人名義となり、その法人は令和元年に清算。
清算人はAさん本人。
令和6年にはAさん個人名義の契約書が作成されています。
そして昔の契約書にはDさんの名前もある。
だから今回、
「契約があったのか、なかったのか」
を争っているのではありません。
「契約が続いていたことは分かっている。では、その途中はどうなっていたのですか?」
という話です。
今回、その昔の契約書を証拠として提出したのはAさん側です。
そこから、敷金返還請求権の帰属や保証契約という新しい確認事項が出てきました。
裁判は、訴えた側が考えていたストーリーだけで最後まで進むわけではありません。
相手が反論し、証拠を読み、さらに別の論点が見えてくることもあります。
そして私の基本姿勢は変わりません。
返すべきものは返す。
請求すべきものは請求する。
次はAさんとC弁護士が、こちらの反論にどう答えてくるのか。
その途中で、別件の無断転貸事件では先に判決が出ます。
原告だった私が、今度は被告として裁判をどう進めるのか。
引き続き、実録で紹介していきます。
しかしまぁ、Aさん
765,000円のために弁護士費用をいくらかけるのやら!?
■関連コラム Aさんとの無断転貸裁判
155【不動産投資】素人でも裁判できる? 無断転貸362万円請求? AI活用・費用5万円(前半)動画20分
https://mbp-japan.com/hyogo/fp-takeshita/column/5219187/
170【不動産投資】素人でも裁判できる? 無断転貸362万円請求 AI活用・費用5万円 中編 155の続編 動画15分
https://mbp-japan.com/hyogo/fp-takeshita/column/5222886/
184【不動産投資】素人でも裁判できる? 無断転貸362万円請求 AI活用・費用5万円 完結編 155、170の続編 動画6分あり
https://mbp-japan.com/hyogo/fp-takeshita/column/5224381/
202【不動産投資】素人でも裁判できる? 無断転貸362万円請求 AI活用・費用5万円 判決直前編
https://mbp-japan.com/hyogo/fp-takeshita/column/5228046/


