社長依存から脱却するには?中小企業が「社長がいなくても回る会社」をつくる方法
会社が成長すると、なぜ「昔からいる社員」が活躍しにくくなることがあるのか?
創業期から仕事を続けてくれている社員。二世・三世の経営者が、先代から引き継いだ社員。M&Aで買収した会社に長く勤務している社員。
経営コンサルタントとして中小企業のオーナー経営者からご相談を受けていると、「昔からいる社員が、以前ほど活躍してくれない」「会社が大きくなるにつれて、任せられる仕事が少なくなってきた」という悩みをお聞きすることがあります。
このような場合、私は、その社員の能力だけを問題にするべきではないと考えています。
むしろ、会社が成長したことによって、必要とされる仕事の水準、役割、権限、責任、そして組織の仕組みそのものが変化し、その社員がこれまで担ってきた役割との間にズレが生じている可能性を考える必要があります。
優れた経営者は、会社の成長に合わせて、自らも経営者として学び、意思決定の方法や組織の動かし方を変えていきます。
しかし、社員全員が、経営者と同じ速度、同じ方向で成長し、役割を変化させるとは限りません。
したがって、会社が成長すればするほど、「以前は非常に頼りになった社員が、今の会社では十分に力を発揮できない」という現象が起きることがあります。
これは、必ずしも、その社員の能力が低下したことを意味しません。会社側が成長し、社員に求める役割そのものが変わった結果である可能性があるのです。
企業は成長すると、必要な経営方式そのものが変わる
この問題を考えるうえで参考になる経営理論の一つが、Larry E. Greinerの「企業成長モデル」です。
Greinerは、企業が成長していく過程で、創造 → 指揮 → 権限委譲 → 調整 → 協働というように、必要となる経営方式が変化していくことを示しました。
重要なのは、ある成長段階で企業を成功させた経営方法が、次の成長段階では、逆に成長を妨げる要因になり得るという点です。
例えば創業時には、社長がほぼすべてを判断し、その指示に従って、担当業務にこだわらず何でも対応する社員との連携が、非常に効率的です。
社長は口頭で指示を出し、社員は必要に応じて担当外の仕事にも対応する。正式な職務分掌や権限規程、人事評価制度がなくても、社長と社員が直接コミュニケーションを取ることで、会社を動かすことができます。
むしろ創業期には、このような柔軟性が企業の強みになります。
ところが、社員数や売上が増えてくると、この経営方法だけでは会社を効率的に運営できなくなります。職務分掌が必要になります。中間管理職が必要になります。権限規程や決裁基準が必要になります。予算管理や人事評価制度も必要になります。
業務の標準化が求められ、部門間の調整も発生します。
つまり、会社が成長しているにもかかわらず、人と組織だけが創業期の成功体験に留まっていると、経営の仕組みと現場の仕事との間に摩擦が生じ、組織全体の生産性が低下していくのです。
企業の成長とは、単純に売上が増えることではありません。
売上、社員数、顧客数、事業数が増えることによって、それまで有効だった経営方法を捨て、新しい経営方法へ移行することでもあるのです。
私は、クライアントの社長に、Greinerの「企業成長モデル」を、次のように説明しています。
「企業の成長とは、竹の節を一つずつ乗り越えながら、上に伸びていくことです」
竹が節ごとに区切られながら上へ伸びていくように、企業の成長にも、経営方式を転換しなければ先へ進めない節目があります。
一つの節を越えるまで有効だった経営方法が、次の節では通用しなくなる。そのたびに、経営者は組織、権限、人材、財務、マーケティングなどの仕組みを作り直していかなければなりません。
なお、Greinerの企業成長モデルは、年商金額によって成長段階を区分する理論ではありません。
一方、私は自分自身の経営経験から、年商3000万円、年商1億円、年商3億円、年商5億円という段階で、それぞれ異なる経営上の「節」が現れやすいと考えています。
私自身も、ゼロからURVグローバルグループを創業し、2026年現在、グループ年商48億円に至るまで、このような「竹の節」を何度も乗り越えてきました。
そして、その経験は一つの業種だけではありません。
飲食業、製造業、卸売業である商社、マーケティング、経営支援、不動産、エンターテイメントなど、複数の事業領域を実際に経営しながら、組織を作り、事業を成長させてきました。
私は、経営学を学び、資格を取得しただけで経営コンサルティングを行っているのではありません。
自分自身が経営者として会社を立ち上げ、売上を伸ばし、人を採用し、組織を作り、新規事業を立ち上げ、資金を動かし、成長段階ごとに経営方法を変えてきました。
この実践経験が、私の経営コンサルティングの重要な基礎になっています。成長する経営者は、会社の変化に合わせて、自分自身の経営方法を変えていきます。
一方で、社員の役割や権限、人事制度を会社側が意識的に再設計しなければ、社員は従来の仕事の方法を続けることになります。
ここに、成長した経営者が、昔からいる社員に対して違和感や物足りなさを感じる、大きな原因があります。
「社長との距離」が、非公式な権力になってしまうという罠
創業期から勤務している社員が多い企業には、もう一つ特有の問題があります。
創業時からいる社員は、「社長とは昔から直接話ができる」「社長の考えは自分が一番分かっている」という立場になりやすいという特徴があります。
創業期には、この関係性が組織の効率性を高めます。
社員が数名しかいない会社で、すべての情報を正式な会議や文書で共有していては、かえって非効率だからです。
ところが、社員5人 → 10人→20人と増え、部長や課長などの管理職を配置する段階になった後でも、古参社員 → 社長
という直接的な経路がそのまま残ることがあります。
この状態になると、組織図上の権限と、実際に社内で行使されている権力が一致しなくなります。
例えば、部長が決定した事項について、古参社員が直接社長に話を持ち込み、判断を覆してしまえば、その部長の権限は実質的に機能しません。
McKinseyの意思決定に関する研究でも、意思決定権や役割が不明確な組織では、判断が上位者へエスカレーションしやすくなり、意思決定の速度や責任の明確性が損なわれることが指摘されています。
成長企業において重要なのは、「社長と誰が近いか」ではなく、「誰が何を決定し、その結果について誰が責任を負うのか」です。
さらに、企業には創業期の仕事の方法が長期間残るという特徴があります。
組織研究には「organizational imprinting(組織の刻印)」という考え方があります。
企業は創業時の環境、創業者の価値観、組織構造、仕事の進め方などから強い影響を受け、その特徴が会社の成長後にも残ることがあります。
また、LevittとMarchの組織学習研究では、企業は過去の経験から得た知識を、ルーティンとして組織の中に蓄積していくと整理されています。
もちろん、これは企業にとって大きな財産でもあります。
創業期から積み上げてきた企業文化、顧客との関係、商品知識、仕事のノウハウは、簡単には代替できない重要な経営資源だからです。
しかし、その一方で、「今までこれで成功してきた」という経験が強くなりすぎると、「これからも同じ方法で成功できる」と考えてしまう危険があります。
「昔は評価制度なんかなかった」
「社長に直接聞けばいい」
「会議なんて必要ない」
「マニュアルなんて必要ない」
「前はそんな報告書を書かなかった」
という反応が起きることがあります。
しかし、会社が2~3名だったときに不要だった仕組みが、社員10人、20人になっても不要であるとは限りません。
会社が変われば、仕事の方法も変えなければならないのです。
会社を伸ばしたい経営者は何をすればよいのか
では、会社の成長によって、昔からいる社員の役割と現在の組織との間にズレが生じた場合、経営者は何をすればよいのでしょうか?
私は、次の7つの観点から組織と人材を見直すことをお薦めしています。
1. 社員の功労と、現在の職務能力を分けて考える
「長年、会社のために頑張ってくれた」という功労と、「現在の会社で部長として求められる役割を果たせる」という職務評価は、分けて考える必要があります。
過去への感謝は大切です。
しかし、その感謝を理由に、その人に適さない役職を与え続ければ、本人にとっても、部下にとっても、会社にとっても望ましい結果にはなりません。
経営者が最初に行うべきことは、功労への評価と、現在の職務への適性を分けて考えることです。
2. 管理職コースと専門職コースを分ける
優秀な技術者や営業担当者が、優秀な管理職になるとは限りません。
中堅企業や大企業では、昇進について管理職ルートと専門職ルートを設けている会社もあります。
成長企業でも、管理職だけを唯一の昇進ルートにするのではなく、高い専門能力や経験を持つ社員が、部下を持たなくても専門職として評価され、処遇される仕組みを整えることが重要です。
長年勤務してきた社員の経験を活かしながら、無理に管理職の役割を担わせない人事制度を設計するのです。
3. 非公式な権力を正式な権限へ整理する
「社長と昔から仲がいい」ということを、事実上の意思決定権にしてはいけません。
誰が決定するのか。
誰が承認するのか。
誰に報告するのか。
誰が結果について責任を負うのか。
これを明確にする必要があります。
そして、意思決定権を与えた人には、権限だけではなく、その結果に対する責任も負ってもらいます。
会社の規模が大きくなるほど、社長との人的な距離ではなく、正式な権限と責任によって会社を動かす仕組みが必要になります。
4. 役職を与える前に、役割を定義する
「営業部長」という肩書だけを与えても、組織は機能しません。
何について責任を負うのか。
どの数値を達成する責任があるのか。
どこまで自分で決定できるのか。
誰を管理するのか。
どのような情報を経営者に報告するのか。
ここまで定義して、初めて役職が組織の中で機能します。
成長企業では、「人に役職をつける」のではなく、「必要な役割を定義し、その役割を担える人を配置する」という順番で組織を設計することが重要です。
5. 古参社員の知識を組織知に変える
長年勤務している社員には、その人しか知らない情報やノウハウが蓄積されています。
顧客との関係。
商品の知識。
トラブルへの対応方法。
仕入先との交渉方法。
現場で培われてきた仕事のコツ。
これらは会社にとって非常に重要な経営資源です。
問題は、その知識が特定の社員の頭の中だけに残っていることです。マニュアル、業務フロー、教育資料、社内データベースなどに落とし込み、個人の経験を会社の組織知へ転換することが重要です。
古参社員を「過去の人」として扱うのではなく、会社が蓄積してきた経験を次世代へ移転する重要な役割を担ってもらうという考え方が必要です。
6. 外部専門人材と古参社員を競わせない
会社が次の成長段階へ進むと、それまで社内になかった能力が必要になります。
その場合、外部から専門人材を採用することがあります。
しかし、その外部人材を、「今いる社員では能力が不足しているから連れてきた人」と位置づけてはいけません。
そうすると、古参社員と外部人材の間に不要な対立が生まれます。
外部人材は、「会社が次の成長段階へ進むために、これまで社内になかった経験や能力を追加する人材」と位置づけるべきです。
古参社員が持っている会社固有の知識と、外部人材が持っている次の成長段階の知識を組み合わせる。
これが、成長企業の人材戦略として重要です。
7. それでも役割がなくなった場合は、人ではなく職務から判断する
会社が変化すれば、以前は必要だった仕事そのものがなくなる場合があります。
その場合も、「Aさんをどうするか」という人から考えるべきではありません。
まず、「これからの会社に必要な機能は何か」を考えます。
次に、「その機能を担うためには、どのような能力が必要か」を定義します。
そのうえで、「Aさんが、その役割を担うことができるか」を考えるべきです。
必要に応じて、教育、職務変更、配置転換、新しい役割の設計なども検討します。
会社の成長によって役割が変わることと、その社員自身の人格や過去の功績を否定することは、まったく別の問題です。
人ではなく、会社に必要な機能と職務から組織を考える、これが、成長企業の人材配置における重要な原則です。
会社が成長すれば、組織は変わります。
組織が変われば、求められる人材も変わります。
そして、人材に求める役割が変われば、経営者は、権限、責任、評価制度、職務分掌、人材配置そのものを作り直さなければなりません。
「昔からいる社員が活躍できなくなった」という問題は、社員個人だけの問題ではありません。それは、会社が次の成長段階へ進むために、経営の仕組みを再設計すべき時期に来ているというサインである場合があります。
年商3000万円から1億円へ。
1億円から3億円へ。
そして3億円から5億円、その先へ。
会社が一つ上の成長段階へ進もうとするとき、経営者自身の頑張りだけでは越えられない「組織の壁」が現れます。
その壁を越えるためには、人を責めるのではなく、会社の成長段階に合わせて、組織そのものを設計し直すことが必要です。
年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング
年商3000万円を超え、次の成長段階を目指すオーナー経営者を対象に、経営戦略だけではなく、組織編制、権限設計、ヒトの活用、新規事業、資金調達、資金繰り、補助金活用、財務戦略まで、経営者の意思決定と実行に継続して伴走します。
会社の成長が止まっている原因が、社員個人にあるとは限りません。
経営者への意思決定の集中、管理職の機能不足、役割と責任の曖昧さ、人材配置、評価制度など、会社の成長段階と経営の仕組みが合わなくなっている可能性があります。
年商5億円の壁を越えるために、現在の経営課題を整理し、次の成長段階に必要な経営の仕組みを一緒に設計します。
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/service1/5002501/
初回120分経営カンファレンス
継続的な経営コンサルティングをご検討いただいているオーナー経営者には、初回120分の経営カンファレンスをお薦めしています。
「社員の問題だと思っているが、本当に人材の問題なのか」
「年商は伸びたが、組織が追いついていない」
「自分が判断しなければ会社が動かない」
「管理職を置いたが、結局すべて自分に決裁が戻ってくる」
このような課題をお持ちであれば、まず120分で、現在の会社がどの成長段階にあり、次の成長に向けて何を変える必要があるのかを整理します。
経営者ご自身の頭の中にある問題を、経営戦略、組織、人材、財務、事業の観点から整理し、次に取り組むべき経営課題を明確にするためのカンファレンスです。
https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/936


