月次決算が遅い会社は、なぜ経営判断まで遅くなるのか?|成長企業に必要な「数字を見る速度」

松本尚典

松本尚典

テーマ:年商5億円 売上5億円 組織


なぜ月次決算が遅い会社は経営判断まで遅くなるのか


私が経営コンサルティングのご契約をいただいた際、最初に経営者の方へ確認することの一つが、「会社の数字を、いつ、どこまで把握できているか」ということです。

決算書だけではありません。

直近月の試算表はいつ完成しているのか。売上高、粗利益、固定費、営業利益、現預金残高を、社長自身がどの程度把握しているのか。

そして、その数字を経営判断に使っているのかを確認します。

このとき、決して珍しくないのが、次のような回答です。

「税理士先生に全部お願いしているので、必要であれば取り寄せます」

「入力もすべてお願いしていて、会社からは領収書や請求書をまとめて送っています」

そこで、直近の試算表や総勘定元帳を確認してみると、経理処理が完了しているのは数か月前まで、という会社があります。

当然、その状態では、社長自身も直近月の損益を把握できていません。

私は、このような会社の経営支援では、まず「決算書を見る」という経営者の意識から、「数字を使って経営する」という意識へ切り替えていただくところから始めます。

私自身、URVグローバルグループでは、日本国内の3社に加え、海外19社の現地法人をグループとして経営しています。

日本法人では、請求書発行、入金確認、仕訳入力などの日常経理を統合経理部が担当しています。海外法人についても、それぞれの国の会計専門家や経理部門と連携して経理処理を行っています。

だからといって、私は経理を担当者に任せたままにはしていません。

経理実務を誰が行うかという問題と、数字を使って経営判断をすることは、まったく別だからです。

グループ各社について、月末時点で売上高、主要原価、予想粗利益、販管費の見込みから予想営業利益までを速報値として把握できる管理体制を整えています。

その後、経理処理を進めながら確定値へ近づけ、月次の財務数値として統合し、経営判断に利用します。

私が重視しているのは、決算が完成してから過去を振り返ることではありません。まだ修正できる段階で数字を把握し、次の意思決定に使うことです。

法人税の確定申告期限は、日本では原則として事業年度終了日の翌日から2か月以内です。

したがって、例えば3月決算の会社が、5月末近くになって完成した決算書の説明を受けても、税務申告という観点では期限に間に合います。

しかし、経営という観点から考えれば話は別です。

3月までに起きていた粗利率の低下、固定費の増加、売掛金の増加、在庫の膨張、資金繰りの変化を5月末になって初めて知っても、3月や4月の段階で打てたはずの対策を打つことはできません。

問題は、税理士さんが悪いということではありません。税務申告を中心に業務を依頼しているのであれば、税務申告の期限に間に合うように業務を進めることは当然です。

経営者側が別途、「経営判断に必要な数字を、経営判断に間に合う速度で把握する体制」をつくらなければならないのです。

決算書を作る目的を「税務申告」だけに置いている経営者と、「次の意思決定」に利用している経営者では、経営判断の速度に大きな差が生まれます。

「税務申告に間に合う数字」と「経営判断に間に合う数字」は、まったく別なのです。

会社が成長するほど「数字を見る速度」が重要になる


会社が小さいうちは、社長自身が営業を行い、仕入れを行い、通帳を見ながら資金を管理していることも少なくありません。

その段階では、社長の頭の中に会社の情報の大半が入っています。

しかし、会社が成長すると状況が変わります。取引件数が増え、社員が増えます。固定費が増え、売掛金や買掛金が増えます。在庫が増える企業もあります。

この段階になると、社長の感覚と銀行預金残高だけでは、会社の状態を正確に判断できなくなります。

「売上は伸びているから大丈夫だろう」と思っていても、粗利率が落ちているかもしれません。

「利益は出ている」と思っていても、売掛金や在庫が増加して、資金繰りが悪化しているかもしれません。

「今月も黒字だった」と思っていても、予算と比較すれば大幅な未達かもしれません。

会社の規模が大きくなるほど、「何となく儲かっている」という感覚ではなく、数字を基礎に経営する必要性が高くなります。

そして、その数字は、正確であるだけでは足りません。経営判断に使える時期に出てこなければ意味がないのです。

私は、これを経営者の「数字を見る速度」と考えています。

「過去を見る会計」から「未来を決める管理会計」へ


私はクライアントの経営者に、「過去の成績を確認するための会計」から、「未来の経営判断を行うための管理会計」へ考え方を切り替えることをお薦めしています。

会計を、税金を計算するためだけの面倒な作業と考えてしまうのは、非常にもったいないことです。

会計情報には、その会社の経営活動に関する膨大な情報が含まれています。

何が売れたのか。

どの商品や事業で利益が出ているのか。

原価は上昇していないか。

固定費は増えていないか。

利益は計画を上回っているのか。

売掛金は増えていないか。

在庫は膨らんでいないか。

現預金は今後どのように推移するのか。

こうした数字を把握すれば、過去を確認するだけではなく、次の投資、採用、新規事業、広告、設備投資、借入などについて判断することができます。つまり、実績を未来の意思決定に変えることができるのです。

私は、自分自身の経営でも、この考え方を徹底しています。

URVグローバルグループは、2026年現在、グループ年商48億円の規模まで事業を拡大してきました。その成長過程では、数多くの事業投資、新規事業、海外投資、人材採用、撤退、資金配分について意思決定を行ってきました。

その際、経営者の経験や勘だけで意思決定をしているわけではありません。最新の月次数字を確認しながら、どこへ資金を投入するのか、どこを改善するのか、どこから撤退するのかを判断します。

私は、月次決算を経営者の「バックミラー」としてだけ利用しているのではありません。これから会社をどちらへ動かすのかを判断する「計器」として利用しています。

財務会計・税務会計・管理会計を経営者は分けて考える


ここで、経営者が理解しておきたい三つの会計の視点を整理しておきましょう。

1.財務会計

一定期間の経営成績や財政状態を、株主、金融機関などの外部利害関係者にも示すための会計です。日々の取引を適切に記帳し、決算処理を行うことで、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表が作成されます。

2.税務会計

財務会計上の利益を基礎としながら、税法に従って課税所得や税額を計算し、正しく申告・納税するための処理です。税理士さんが専門性を発揮する重要な領域です。

3.管理会計

経営者や社内の管理者が、経営判断を行うために利用する会計情報です。管理会計には、法律で決められた一つの様式があるわけではありません。会社の経営に必要な数字を、経営者が意思決定しやすい形に加工して利用します。

例えば、部門別損益、商品別粗利益、予算実績比較、損益分岐点、資金繰り予測、事業別採算などです。

月次決算を早く締めることは、この管理会計の土台になります。

正確な財務情報が適時に得られるからこそ、その数字を分析して、未来の経営判断に利用することができるのです。

なぜ私は月末時点で「予想利益」を把握するのか?


私自身は、自分が経営に責任を持つ会社について、確定した決算数字が出るまで何もしないという経営は行いません。

月末時点で、まず速報値を把握します。

売上高はいくらか。

主要な原価はいくらか。

どの程度の粗利益が見込まれるか。

販管費はいくらになる見込みか。

その結果、営業利益はいくらになると予想されるか。

経理上、すべての費用が月末当日に確定するわけではありません。請求書が翌月になって届く取引もあります。したがって、この段階の数字には見積りも含まれます。

しかし経営者にとって重要なのは、100%確定するまで何も見ないことではありません。経営判断に必要な精度の速報値を早く把握し、確定値が出た段階でその差異を検証することです。

例えば、6月に原材料価格が上昇し、粗利率が大幅に悪化していたとします。人件費も増え、広告費も予算を上回り、売掛金も膨らんでいたとします。この事実を経営者が正確に認識するのが7月末や8月であれば、原因分析、価格改定、仕入条件の見直し、広告予算の修正などの対応も遅れます。

6月に発生した問題が、7月、8月まで継続する可能性があります。一方、6月末から7月初旬に速報値を把握できれば、7月から対策を開始できます。月次決算が遅れるということは、単に帳簿の作成が遅れるということではありません。

経営者が経営上の異常を発見する時期が遅れるということなのです。

そして、異常の発見が1か月遅れれば、対策も1か月遅れます。成長企業において、この時間差は決して小さくありません。

成長企業の社長が毎月見るべき数字


では、成長企業の経営者は、月次でどのような数字を確認するべきでしょうか。私は、少なくとも次の項目は確認することをお薦めしています。

1.売上

まず売上高です。

ただし、単純な総売上高だけを見るのでは不十分です。

可能であれば、商品別、事業別、顧客別、店舗別など、自社の経営判断に必要な単位に分けて確認します。売上が増えたのか減ったのかだけではなく、「なぜ増減したのか」を説明できる状態を目指します。

2.粗利益(売上総利益)

成長企業では、売上高と同じか、それ以上に粗利益を見ることが重要です。

特に、製造業、卸売業、小売業、飲食業など、仕入や原材料費の影響を大きく受ける業種では重要です。

売上が10%増加していても、仕入価格や原材料費、外注費が上昇して粗利率が低下していれば、利益は増えていない可能性があります。

売上高だけを追う経営では、この変化を見落とします。

なお、在庫を持つ業種では、仕入高だけを売上高から差し引いても、正確な粗利益を把握できない場合があります。在庫の増減を反映する必要があるからです。

したがって、在庫管理システムによる帳簿在庫の把握や、業態に応じた定期的な実地棚卸、循環棚卸などを組み合わせ、月次の粗利益の精度を高める必要があります。

3.固定費

給与、家賃、システム利用料、広告費、顧問料、リース料など、売上高にかかわらず継続的に発生する費用を確認します。

成長企業では、人員増加、拠点開設、新しいシステムの導入、広告投資などが続きます。一つ一つは合理的な投資でも、積み重なると会社の損益分岐点は上昇します。売上が伸び続けなければ利益が出ない、高コストな経営体質になっていないかを確認する必要があります。

4.営業利益

本業によって、最終的にどれだけ利益を生み出したのかを確認します。

前年同月との比較も必要ですが、それ以上に重要なのが予算との比較です。

「前年より良かった」で終わるのではなく、「自分たちが計画した数字に対して、どうだったのか」を確認します。そして、予算との差が生じたのであれば、その原因を明らかにします。

5.資金

これは非常に重要です。

会計上の利益と現金の増減は一致しません。

利益が出ていても、売掛金が増えて回収されていなければ現金は増えません。在庫を大量に購入すれば、利益が出ていても資金は外へ出ていきます。借入金の元本返済も、損益計算書上の費用にはなりませんが、現金は減少します。

したがって、損益計算書だけでなく、現預金残高、売掛金、買掛金、在庫、借入金なども確認し、今後の資金繰りを予測する必要があります。

会社が成長すればするほど、利益管理と資金管理は分けて考えなければなりません。

6.予算と着地予測

そして、1から5の数字を未来の経営判断に変えるのが管理会計です。

「今月の売上は3,000万円でした」というだけでは、まだ過去の報告です。

管理会計では、

実績

予算との差

差が発生した原因

このまま推移した場合の年度着地予測

その結果を変えるために実行する施策

まで考えます。

例えば、粗利率が計画を3ポイント下回ったのであれば、

仕入価格が原因なのか。

販売単価が原因なのか。

値引きが増えたのか。

商品構成が変わったのか。

を分析します。

その原因が分かれば、価格改定、仕入先との交渉、商品構成の変更、販売方法の改善といった次の意思決定につなげることができます。

これが、「過去を見る会計」を「未来を決める管理会計」に変えるということです。税務申告に間に合う数字と、経営判断に間に合う数字は違います。月次決算が遅れるということは、単に経理処理が遅れるということではありません。

経営者が問題を発見し、意思決定し、行動する時期が遅れるということです。

会社の規模が小さいうちは、経営者自身の経験や感覚で補える部分もあります。しかし、年商3000万円から1億円へ、1億円から3億円へ、そして5億円、その先へと会社を成長させようとすれば、それだけでは経営できなくなります。

会社の成長に合わせて、組織の仕組みを変えるのと同じように、数字を管理する仕組みも変えなければなりません。

過去の数字を確認するための会計から、未来の意思決定を行うための管理会計へ。そして、経営判断に間に合う速度で数字を見る。これが、会社を次の成長段階へ進めようとする経営者に必要な経営管理の一つです。

年商5億円の壁を突破するための経営者伴走コンサルティング

年商3000万円を超え、1億円、3億円、5億円、その先を目指すオーナー経営者を対象に、経営戦略、管理会計、資金繰り、組織編制、ヒトの活用、新規事業、資金調達、補助金活用、財務戦略まで、経営者の意思決定と実行に継続して伴走します。

「売上は伸びているのに、利益が残らない」

「税理士から数字が出てくるのが遅く、現在の会社の状態が分からない」

「預金残高は見ているが、今期の利益がどこに着地するのか分からない」

「年商をさらに伸ばしたいが、経営管理の仕組みが今のままでよいのか不安がある」

このような段階に入った会社では、単に売上を伸ばすだけではなく、次の成長段階に対応できる経営管理体制を整える必要があります。

https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/service1/5002501/


初回120分経営カンファレンス

継続的な経営コンサルティングをご検討いただいているオーナー経営者には、初回120分の経営カンファレンスをお薦めしています。

現在の試算表、決算書、資金繰り、経営計画などを基礎に、会社の数字を経営判断にどのように活用するべきかを含め、現在の経営課題と次に取り組むべき事項を整理します。

「決算書はある。しかし、経営に十分使えていない」

という経営者の方は、まず現在の数字の見方と経営管理体制から一緒に整理していきます。

https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/936

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

松本尚典プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

年商5億円の壁を突破したい社長のための経営コンサルタント

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京のビジネス
  4. 東京の経営コンサルティング
  5. 松本尚典
  6. コラム一覧
  7. 月次決算が遅い会社は、なぜ経営判断まで遅くなるのか?|成長企業に必要な「数字を見る速度」

松本尚典プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼