成長する企業を作るために知らなければならない、資金調達法の極意
1.VUCA時代の経営では、「資金」に強いことが経営を決める
時は、VUCA時代に突入しました。
VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、 Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった用語です。
リーマンショックのような金融危機、突如未知のウイルスが世界経済を襲撃した新型コロナ禍、前触れなく起きる東日本大震災のような災害、外国での戦争によるインフレ。
不確実で、変動的な外部環境。
そこに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れや、医療体制の問題点などが重なって生じる複雑な経済変動。
そして、その中で、生じる消費者行動の多角的で曖昧な移ろい。
企業では、中長期の計画が事実上、立案ができず、先が見通せない時代を、僕たちは、生きてゆかねばなりません。否、生きてゆくだけではなく、経営者であれば、勝ち抜いて、生き残っていかねばなりませんね。
経営でいえば、機敏に変動の情報を読み、柔軟な経営戦略をスピーディにたて、実行してゆくことが必要です。
しかし、それに先んじて必要なのは、経営資源。中でも、資金(キャッシュ)が、必須です。
いかに優れた戦略でも、それを実行に移すための投資資金がなければ、戦略は画にかいた餅になってしまいます。
VUCA時代には、これまで以上に、経営者にとって資金調達の「腕」が必要になります。資金調達に稚拙な経営者は、どんなに先見性があろうが、経営的には実行力が伴わず、成功できないのが、VUCA時代であるといえます。
そのためには、自分の会社の財務をリアルに把握し、キャッシュフローを正確に見つめ、数字に強くなることが必須です。
経理・財務会計や税務は、すべて、担当者や税理士さん任せというような、数字に弱い経営者は、資金の問題で会社を滅ぼすリスクが、VUCA時代には、どんどん高まっています。
2.金融系コンサルタントとしての僕の自己紹介
このマイベストプロの僕のトップページに、僕の自己紹介が述べられていますが、ここでは、金融系経営コンサルタントという観点から、もう少し、僕の経歴を詳しく改めて買いて参ります。
僕は、中央大学を卒業し、現在は、三大メガバンクの一つを構成している都市銀行に新卒で就職しました。そして、その段階から、銀行マンとしてではなく、その銀行のシンクタンクに出向となりました。そこで、23歳から経営コンサルタントとしての道を歩みだしたのです。
僕は、法学部出身で、大学時代のゼミは、ある商法学で高名な永井和之教授のゼミに属していました。それなので、民法(不動産担保法や債権法を含む)・商法(今の会社法)・有価証券法・労働法・知的財産法などは、専門的に大学で勉強しましたが、一方で、経営学や経済学、そして簿記や会計学などは、教養課程での授業で学んだ程度でした。
その状態で、経営コンサルタントとして、金融機関の系列企業の経営の支援をすることになってしまったのですから、大変です。
このころは、深夜までの苛酷な残業と並行して、これらの勉強や、英語のトレーニングを猛烈に行っていました。
こうして、経営コンサルタントの実務として、様々な規模の日本企業の経営支援の実務経験を積みながら、中小企業診断士試験に合格し、宅地建物取引士の試験に合格し、英語では、通訳案内士(英語)にも合格してゆきました。
入社3年後、仕事の実績と、このような資格取得の実績が銀行に認められ、当時、全行で年間3名という、海外大学院留学の枠にいれていただき、アメリカの大学院留学のパスポートを手に入れます。
そして、25歳のとき、アメリカ東海岸にわたり、ハーバートのビジネススクールに留学しました。そして、そこでも、猛勉強の末、2年後に、ハーバートより、経営学修士号(MBA)を授与されます。
そして、ニューヨークのウオール街に飛び込み、ある世界的な規模の会計系コンサルティング会社と契約して、金融系経営コンサルタントとして、ウオール街を拠点に活動を開始します。
M&Aによる企業買収案件・資金調達・租税回避・グローバル企業の会計監査など、この時代は、かなり規模の大きい案件ばかりを手掛けていました。
2007年。僕は、その前、数年にわたって、ウオール街というアメリカの金融資本主義のど真ん中で、アメリカ社会が多くの問題を抱えていることを感じ取っていました。ちょうど、この年、40歳を迎えた僕は、自分の後半生のビジネスを見据え、アメリカから生まれ故郷である日本に本拠地を移して、自分の事業を起業することを決めます。
ただ、僕は、日本を離れて13年間のブランクがありました。日本における事業の基盤が薄い弱みを自覚した僕は、すぐに起業せず、ウオール街で経営コンサルタントとして活動してきた僕を必要としてくれる大企業に入り、そこで、起業の基盤づくりをすることに決めました。
その翌年。僕が日本の、ある大企業に、経営コンサルティング部門を創業する責任者として着任してすぐに、リーマンショックが勃発し、アメリカから避難をした僕の予感が、的中します。ウオール街にいたら、大変だったでしょう。
こうして僕は、起業の時期を見計らいながら、自分の底力を蓄えるべく、日本の大企業の部長・役員を、約10年間、3社経験することになります。
経営コンサルティング事業の立ち上げ、事業承継型M&Aの買収担当、海外進出コンサルティング子会社の立ち上げと事業化、会計監査など、僕は、この10年間で、日本の事業会社のビジネス経験を積ませていただきました。
2015年に、株式会社URVプランンニングサポーターズを設立。当時は、まだ、ある企業の取締役でしたので、副業で事業を開始し、父親に代表取締役をお願いして、僕は黒子のまま、事業を拡大。
2017年2月。すべての他の日本企業の役員を辞任して、株式会社URVプランンニングサポーターズの代表取締役に就任し、同社をホールディングス会社として、URVグローバルグループの拡大に着手。
日本国内と世界各国に、投資を行い、子会社・関連会社・パートナー会社・駐在員オフィスを、スピーディに拡大します。
この原稿を書いているのは、2022年3月。
この時点で、URVグローバルグループは、全10事業領域に進出し、日本とシンガポールを本拠に世界12都市に現地法人・現地オフィスを展開しており、グループの総売上高は、日本円換算で20億円を超えるまでに成長して参りました。
僕は、このように、日米の金融系コンサルタントとしての経験、日本の大企業の取締役経験をベースに、今、自分の投資する企業を経営している立場です。
3.個人の借り入れと、事業の借り入れは、そもそも全く別ものの
このように、金融系経営コンサルタントである僕の立場で、以下では、VUCA時代に必要な資金調達の考え方について、述べて参りたいと思います。
それに先立って、事業を起業する方は、よく、事業の資金調達というものについての考え方を、そもそも誤ってしまうことが多いので、そのことについて最初にお話をしたいと思います。
事業の借り入れというものは、個人の方が住宅等の購入で借り入れること、ましてや、クレジットカードや街の金融機関から、個人がおカネを借入れることと、全く異質のものである、ということを、最初に念頭に置いてください。
個人がおカネを借り入れるのは、そのおカネを消費に回すためです。
おカネの使い方には、消費と投資という二つの使い方があります。
消費というのは、おカネを使うだけの使い方を言います。
それに対して、投資というのは、その使ったおカネを回収し、更に収益をえるためにおカネを使うことを言います。
個人が生活のために借り入れを行う場合、住宅ローンであれ、カードローンであれ、生活の消費のために借り入れを行っているのです。従って、借り入れたおカネを返済し、利息を支払うためには、その借り入れとは別に、仕事を行うなどして給与をえたうえで、これを返済し、利息を支払う必要があります。
一方、事業でのおカネの借り入れは、投資のために行います。事業資金を消費で、使ってしまうことを、経営では、最小限に留めなければなりません。
事業での借り入れは、それが運転資金であれ、設備投資資金であれ、それを元手にして収益をえて、その収益から仕入れや経費を引いた営業利益の中から、金利を支払い、更に元本を返済します。
借入資金を事業で運用して、それを売上から生じる利益に変え、そこから返済と利子を支払いながら、次の再投資の資金を生み出すのが、経営です。
従って、個人の借り入れの場合、借入元本を減らすことが目的です。個人の所得というのは、個人の労働力によって生み出されますから、個人の年齢があがり、労働力がおちてくるまでに完済をする必要があります。目的が完済です。
しかし、企業は、基本的に社長に労働力の終わりが、収益の減少ではありません。社長のオーナー会社であっても、事業は承継され、あるいは、M&Aなどでエグジットされたとしても、事業や従業員の仕事は引き続き存続させる必要があります事業承継や、M&Aでは、借入金は承継されるのが原則です。
従って、借入金は完済される必要はありません。設備投資資金であれば、設備の減価償却や摩耗とともに、設備投資は再投資される必要があります。運転資金も、原本をある程度返済してゆく中で、借り戻しの方法で、運転資金を借り入れ時金額に戻せばよいのです。
営業利益で、金利を返済してゆける程度の低金利で調達している限り、借入金は、減少をさせる必要性は、事業借り入れの場合、必ずしも、ありません。
従って、個人の借金は、基本的には悪です。ないほうがよいのです。
一方、事業の借入金は、基本的には必要な善です。なくては、事業は成長しません。
4.VUCA時代、資金調達に必要な発想法
さて、少し前置きが長くなってしまい、申し訳ありません。
ここまでの話を基礎に、VUCA時代には、この事業資金の調達が、これまでの時代とどう異なるべきか、に関して、書いていきたいと思います。
VUCA時代は、予測がつきにくい時代です。
企業が戦略を立案する前提は、その内部環境と外部環境に深く関わってきます。そのうち、外部環境の先行きが、極めて読みにくくなったのが、VUCA時代です。
外部環境だけではありません。その外部環境の変化が不安定かつ流動的になったために、想定以外の企業が競合として突然あらわれてくるようになりました。
加えて、消費者の行動も多様化し、曖昧になりました。広告やプッシュ型の営業に費用を投下しても、消費者の反応は悪くなる一方で、口コミなどをマーケティング手法として利用しても、そのやり方が悪ければ、一気に、炎上を起こすような事態のリスクも高まってきます。
さて、このような時代には、企業の資金計画もまた、計画通りに進まないわけです。
リスクの所在が不明確になり、どこにリスクが潜んでいるかわからない時代。
中長期計画が立案できず、したがって、費用が、いつ、どこに、どれだけ費やすべきなのかが、読みにくい時代。
売上計画も、外部環境の変動で、予想がつきにくい時代。
これが、VUCA時代です。
従って、このような時、事業では、常に余分な資金を確保しておく必要があります。
ここでいう資金というのは、利益という意味ではありません。
キャッシュポジションという意味です。
企業会計の世界では、収益性の指標が重視されています。そして、流動性や生産性が、バランスよく良好である企業が優良企業ということになります。
収益性が高い企業は、将来的にも、収益があげられるだろうという予測がえられやすい。
流動性が高ければ、将来的にも、返済能力が高いだろうという与信がえられやすい。
生産性が高ければ、将来的にも利益がえられやすいだろうという信頼がえられやすい。
これが会計の世界の常識です。
しかし、実際は、これがそうでなくなるのが、VUCA時代です。
予測不可能な事態が起きても、体力を温存して生き延び、時機を見計らって投資を行って、いち早く復活し、競合に先んじて利益をえられる力は、キャッシュポジションの保有に他なりません。
負債が少なく、資産も少なければ、流動性は高くなります。しかし、そのような企業では、体力も少なく、予想外の事態に生存や反撃ができません。
今の収益性が、明日の収益性を予測することに繋がりません。
今の生産性が高くても、予想外の事態に機敏に行動ができなければ、明日の生産性への信頼はえられません。
これが、VUCA時代です。
5.キャッシュポジション重視の資金戦略へ転換すること
企業会計では、費用収益を、原則として発生主義によって把握します。したがって、収益から費用を減算したうえで算出されている利益が出ていたとしても、そこにキャッシュが伴っているとは限りません。
企業では、消費税の課税のベースとなる売上や、法人税や法人地方税の課税のベースになる所得に、キャッシュの入金が伴っているとも限りません。
経営者が、税理部門や税理士さんに会計や税務を丸投げしていると、キャッシュが伴わないのに利益が算出され、税金でキャッシュアウトが起きるのが、企業の財務や税務なのです。
利益というものが、いかに曖昧なものであるかという話をしましょう。
皆さんは、次の質問に答えられますか?
NTTと、KDDIと、ソフトバンク。そこの企業が、一番、利益をあがていますか?
多くの人は、この3社が公開している損益計算書をみて、その最後に記載している、当期純利益を比較すればわかる、と思われるかもしれません。
しかし、結論から申し上げると、これでは、全く、この3社の利益は比較できないのです。
NTTは、アメリカに上場していますので、その会計は、アメリカ会計基準で決算を発表しています(ちなみに、僕は、米国公認会計士の資格を持っているので、この会計基準で決算をする企業の監査の専門家です。日本の公認会計士の資格では、この会計基準の監査はできません。)。
KDDIは日本の会計基準で決算を発表しています(ですので、この会計基準では、日本の公認会計士が監査できます)。
ソフトバンクは、国際財務報告会計基準(IFRS)で決算をしています(ちなみに、僕は、IFRSでも決算に監査ができます。日本の公認会計士の資格では、この会計基準の監査もできません。)。
つまり、この3社は、会計の基準が全く違うので、利益の算出根拠が異なり、損益計算書をみただけでは、比較ができないです。
日本企業同士でも、これは該当します。
減価償却法で定額法を採用するのか、定率法を採用するのか?
耐用年数を経済実態にあわせて設定をしているのか、税務当局の基準にあわせているのか?
つまり、企業の利益というものは、かなり調整が可能なのです。
このような曖昧な利益という基準では、厳しいVUCA時代の経営判断は行えません。VUCA時代においては、絶対、調整が不可能な、キャシュポジションの状態で、経営判断を行う必要があるのです。
では、キャッシュポジションを決める要素は、なんでしょうか?
キャッシュポジションとは、
①負債としての借入によるキャシュ量
②資本として投資されたキャッシュ量
③利益が蓄積された内部留保
この①から③の合計値です。
③の内部留保の重要性は、これまでの会計でも指摘をされてきました。
今後は、①と②によるキャシュの管理をいかに上手に行うか、が、ポイントになります。
6.投資と借入れを出来るときに受け入れ、キャッシュを潤沢に保
この資本調達手段のうち、②と③は、企業の純資産を増大させる方法です。
純資産を増大させれば、企業の借入能力が更にあがるため、②と③は、①を増大させる余力ができるため、資金調達のレバレッジ効果があります。
従って、一次的には、VUCA時代には、②と③の方法で、純資産を増やすことが重要です。
③は、売上をあげ、利益をあげて、内部留保に蓄積をする方法ですので、企業の本来の目的が、この③の方法です。
加えて、今後は、②の方法、つまり投資企業による投資を受け入れて、資金調達をする方法が、非常に重要になります。
この方法は、成長企業M&Aです。
日本では、M&Aは、高齢の経営者の事業承継手法として使われることが多くなってきておりますが、アメリカでは成長企業が、投資を積極的に行う企業からの投資で資金調達を行い、その投資企業を株主として、その信用力や、保有するマーケットを活用する成長企業M&Aが、非常に盛んです。
今後、日本でも、この手法により、資金・信用・顧客を獲得して、飛躍的に成長する企業が増えてくると思います。
僕は、この時代を予測して、代表取締役を務める株式会社URVプランニングサポーターズで、成長企業M&Aを専門とするアドバイザリー事業を展開しています。
会社に継ぎ手がいない、廃業したい、という消極的な理由によるM&Aでは、投資する企業も成長が見込めず、投資金額も抑えてきます。
今後の成長を目指す社長が、投資企業とwinwinの関係に立つ成長企業M&Aの場合、バリュエーションでも、DCF法など、将来を評価する値付け法がとられるため、投資金額も高くなる傾向になります。
VUCA時代の重要な資金調達法として、成長企業M&Aは、活用されてくるものと思います。
一方、①は、企業の負債を増やす方法です。
負債は、純資産と異なり、限度なく増やすことができません。企業の信用力は、収益性や流動性、純資産に対する負債の比率によって決まってきますので、この信用力の限度が、①の借り入れの限度となります。借入の限度に達しなくても、信用力に見合わない借り入れは、資金のコストである金利を大きく引きあげ、収益性を圧迫します。
ただし、VUCA時代には、借入をできるだけしないほうがよい、というような、単純な無借金経営は、むしろ、危険です。
VUCA時代は、企業の先が読めません。先が読めないということは、企業価値を構成するディスカウントキャッシュフローの割引率が上昇することを意味します。割引率が高いということは、つまり、将来のキャッシュよりも、今のキャッシュのほうが、価値が高いことを意味します。
一方で、金利は、日本の場合、しばらくは上昇しないでしょう。
そうなると、VUCA時代には、割引率と調達金利の差が開いていきます。
つまりは、借入を行って、企業の金庫や口座に潤沢な資金を準備した企業が強くなるという意味です。
将来返済するとしても、今、借りられるだけ借りて、現金を潤沢に持っておくことが、VUCA時代を乗り切る、経営上の重要な課題です。
「今、資金が必要ないから、借りない。」
という考え方は、社会全体が安定して成長が見込めた、昭和の時代の発想です。
不安定な令和時代には、
「資金は、調達できるときに、投資でも、借入でも調達しておく。」
という発想が、重要になります。
VUCA時代に伸びる社長は、このように発想を切り替え、資金に強くなることが絶対に必要です。自分の会社の数字を、経理担当や、税理士さんに任せっきりにしている社長は、どんどん、リスクが高くなると思ったほうがよいでしょう。
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