マーケティングにタイムパフォーマンス発想を採り入れろ
このコラムは、「事業計画作成法を伝授します①~⑥」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~⑥のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。
目次
マーケティングこそ、現場オペレーションの中核
さて、「事業計画作成法を伝授します①~⑥」までのシリーズで、ビジネスモデルの策定が終わり、競合に対する自分が持つ強みであるブラックボックスを、ビジネスモデルに仕込みました。
ここまでで、事業計画の全体像が出来上がったことになります。
しかし、事業計画というものは、全体像が出来上がれば、それで終わりというものではありません。それでは、総論だけの「空論」になってしまいます。
この後は、具体的に、この事業計画を現場で稼働させるための、オペレーションの立案に入っていきます。
いわば、総論に命を吹き込む部分です。
そして、オペレーションの中で、最も重要で、最初に考えなければならないことは、マーケティング戦略です。
マーケティングこそが、現場オペレーションの中核になる戦略です。
マーケティングとは、販売促進や広告とは、違う次元の概念
マーケティングという言葉は、一般的に、非常に誤解されて使われています。
例えば、「マーケティング部」という部門を作っている企業があります。まさに、これこそ、マーケティングを、経営陣が誤解した結果の誤った措置といえます。
概ね、マーケティング部という部署では、マーケティング戦略の策定を行い、販売促進や広告を行っている場合が多いわけです。マーケティングの専門の人材を配置し、企業全体への司令塔のような役割を担わせている企業もあります。
マーケティングは、その内容として、販売促進や広告を含みますが、それだけの狭い概念ではありません。
P・ドラッカーは、その古典的な名著「現代の経営」の中で、企業にとって、最も重要な機能は、マーケティングとイノベーションであると論じています。そして、このうちのマーケティングについて、ドラッカーは、最終的にマーケティングに企業が取り組むことによって、「販売が不要になる」と言っています。
ここでいう販売とは、販売促進や広告のことです。
ドラッカーは、マーケティングは、販売促進や広告を行わなくてもよい状態が、マーケティングで成功した状態であると考えているのです。
つまり、ドラッカーは、マーケティングというものに企業が取り組めば、先にあげたような、マーケティング部の仕事が要らなくなる、そういうものが、マーケティングだと言っているのです。
さて、では、マーケティングとは、何でしょうか?
学術的な定義を、ここで書いてもあまり意味がありませんので、定義を現場の行動に即して、かみ砕いて、説明しましょう。
皆さんは、企業というものは、「顧客をどこからか見つけてくるもの」と考えていませんか? 広告を行い、お客を見つけることが企業の売上をあげる方法だと考えていないでしょうか?
ドラッカーは、そう考えていません。ドラッカーは、企業とは、「顧客を創造するものだ」と考えています。そう、顧客とは、どこかにいて、それを見つけるものではないのです。発見するものではなく、創出するものだというわけです。
世の中の企業や消費者たち(顧客)は、常に、無数の活動目的や課題を持っています。
まず、その顧客を創出しようとする企業は、その目的や課題に着目します。そして、その目的や課題の解決(ソリューション)にとって必要な商品は何か、サービスは何か?と考えます。
そして、このソリューションを満たす商品(Product)をつくります。
そして、その商品を、それを必要としているヒトがいくらの価格なら購入するか(Price)を考えます。
そのうえで、その商品をどうしたら、それを購入するヒトに必要な時・必要な場所に届けられるか(Place)を設計します。
更に、この商品が、ヒトの目的や課題をいかに解決できるか、を情報発信し、必要な時・必要な場所で買えますよと案内します(Promotion)。
こうして、顧客の課題を解決する手段としての商品・サービスを創出し、それによって、顧客を創出するのです。
この一連の活動がマーケティングです。このマーケティングが充分行えていれば、販売促進や広告活動は、不要になると、ドラッカーは言っているわけです。
ちょうど、先にのべた活動の中で、キーになってくる言葉が、Product・Price・Place・Promotionの4語です。
そこで、この頭文字をとって、4P戦略と言います。
マーケティング戦略の要は、顧客の商品購買目的や課題の見極め
マーケティングの要は、ドラッカーが言う、企業とは、「顧客を創造するものだ」という言葉の中にあります。企業は、自分が売れる商品やサービスを開発して生産し、それに価格をつけ、販売します。
この過程で、重要な視点が抜け落ちることが多いのです。
顧客が、自分の生産する商品を購入するのは、顧客の目的や課題を解決するためです。裏を返せば、企業が商品を開発する場合、その商品が、顧客のどのような目的のためにその商品を購買し、どのような課題を解決するのか、それを見極める必要があります。
そして、更に、マーケティング活動として、その商品が、顧客の課題に対して、それをいかに解決するか、つまりは、顧客の課題に対する有効なソリューションとなりえるかを、明確にします。そのうえで、更に、顧客に対して、その課題を明確に認識させ、その認識に対して、自社の商品が非常に有効に、その課題の解決策を提供することを評価させる必要があります。そうすれば、その課題を持つ顧客は、必ず、その商品を購入します。
これが、顧客を創造する、ということの意味です。
この課題の解決、ソリューションという観点から、マーケティングの活動、4P戦略も位置づけられなければなりません。
Product
・商品は、顧客の何の目的、どのような課題を解決するためのものなのか?
・その解決のため、どのような機能やデザインを有するべきなのか?
Price
・顧客は、その商品が解決する課題のため、いくらの価格を支払うか?
Place
・その課題を有する顧客は、どこにいるのか?
・その顧客がいるところに、どうしたら、効率的に商品を運び、買いやすいようにできるか?
・この課題を顧客はいつ解決したいか?
・その解決したいとき、その商品を買えるようにするには、どうしたらよいか?
Promotion
・商品が、顧客の課題に対して、それをいかに解決するか、つまりは、顧客の課題に対する有効なソリューションとなりえるかを、どうしたら、明確に発信し、その発信を顧客に届けられるか?
・顧客を創造するためには、どう、発信をしたらよいか?
以上のことを考え、計画し、実行するのが、4P戦略であり、マーケティングの具体的な行動です。
すべてのマーケティング行動の原点は、顧客の商品購買目的や課題の見極めにあります。そして、これに基づくマーケティング行動は、「マーケティング部」という部署が行うものではありません。
マーケティングを取り仕切るのは、企業のトップマネジメントです。
マーケティングは、トップマネジメントの不可欠な重要な役割です。トップマネジメントがマーケティングを考えず、特定に部門にマーケティング機能を代替させてはならないのです。そして、その行動の要の情報は、全社をあげて共有し、全社で取り組むべき課題です。特定の部署がやるものではありません。
マーケティングは、開発・生産・流通・販売・販売促進の全過程で、共通の目的である、顧客の購買目的達成と、顧客の課題解決という要に直結して行われる、全社的な行動です。
一部の専門部門が行う、情報システム管理や、経理・会計、人事などとは、質的に異なる活動です。
具体的な事例で、マーケティング活動を考える
さて、それでは、以上のマーケティングの活動を、今度は、具体的な事例に即して考えてみましょう。
ここでも、Aさんが開業するお蕎麦やさんの事例で考えましょう(この事例の設定は、事業計画作成法を伝授します② https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/column/5089075/ を参照してください)。
飲食業に求める顧客の目標と、顧客の課題とは?
まず、お蕎麦やさんから離れて、飲食業そのものに対して、顧客は何を求め、どのような課題を解決することを求めているでしょうか?
ここで、「飲食業になんて、顧客は課題の解決なんて、求めていないよ。」などと考えてしまった方がいましたら、それは、非常に大きな間違いを犯しています。
顧客は、課題の解決のできない商品を購買することはありえません(詐欺的に買わされた場合は別として)。そして、顧客の何らかの課題を解決できない商品は、商品として存続できません。
飲食業の場合、次のようなことを、顧客は目標とし、課題の解決を求めるのではないでしょうか?
・美味いものを食べに行きたい
・家庭とは違う雰囲気で食事をしに行きたい
・家族や友人との食事の場を設定したい
・仕事上でのお付き合いや接待などを行いたい
・恋人とのデートなどの場の設定をしたい
こういった課題に対してのソリューションが飲食の外食業です。
例えば、新型コロナ禍においては、感染防止ということで、上記のうち、他人との密な接触が制限されました。そのため、外食業に対する顧客の課題が、一時的に消失してしまい、残った、「家庭で美味いものを食べたい」というソリューションが前面に出て、デリバリー業態が大きく成長したわけです。
一方、新型コロナ禍が終焉に向かい、他人との接触の制限が緩和されれば、外食業に対する顧客の課題は再び拡大し、飲食業が復活するでしょう。
そして、逆に、若い人を中心に、友人との食事の場や、仕事上でのお付き合いや接待を面倒に感じるヒトが増加したりすると、外食事業に対する顧客の課題が減少し、外食業にとっては外部環境の脅威となってくるわけです。
Aさんの店に対する、顧客の目標と、顧客の課題は?
それでは、飲食業の中で、Aさんの店の顧客のソリューションを考えてみましょう。
Aさんの店は、東京郊外にありますから、仕事上でのお付き合いや接待に使う、また、恋人とのデートなどの場に使う、という顧客の課題は、都心の店に比較して少ないでしょう。
一方で、家庭とは違う雰囲気で食事をしに行きたい、家族や友人との食事の場を設定したい、という課題が中心的な課題になるでしょう。
そして、見逃すべきでないのは、美味いものを食べに行きたいという顧客の課題です。
Aさんの店は、老舗の手打ちそばの店の味を提供できるわけですから、「蕎麦好き」の食通に対して、最も強い競争力を持つはずです。
Aさんの店における、課題の解決・ソリューションという観点
以上のAさんの店の顧客の課題を見据えて、それに適した、4P戦略を考えていきましょう。
Product
商品戦略は、ビジネスモデルのブラックボックス設定のコラムで、アイデアをビジネスモデルに埋め込みました。これは、競合に対する自社の優位性を発揮するという観点からの戦術です。
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/column/5093796/
このようなブラックボックス化による商品開発は重要です(これはどちらかといえば、家族や友人との食事の場を求める顧客向きのメニューになるでしょう)が、一方で、顧客の課題をしっかり見据える中では、その商品の中心には、「蕎麦好き」の食通を意識した手打ち蕎麦の盛り蕎麦やざる蕎麦を中心に据えることも重要です。
ブラックボックス化による多彩な商品の展開と、食通を唸らせる軸の商品を基本に据えることを、両立したProduct戦略が必須です。
Price
ファミリー層向けの顧客を意識し、価格は周辺の競合店を意識した値付けにする必要があります。ただ、基本軸の盛り蕎麦やざる蕎麦は、手打ちの自慢の味を提供するわけですから、競争力があります。従って、ある程度、強気に、利益がとれる価格を設定すべきでしょう。蕎麦やさんの場合、最もベースになる盛り蕎麦やざる蕎麦の価格をアップできると、顧客の客単価をアップすることができ、営業が非常に楽になります。
Place
一番、気をつかうのは、Place戦略における店の店装です。ファミリーを意識すると、4人卓が基本になるわけですが、席をつけて、8名卓にできるようにすると、友人の集まりなどでも、対応ができます。
一方で、食通の方を意識すると、一人で来店されるお客様が増えますから、カウンターなどで、一人でも、ゆっくり蕎麦を味わえる店にすることが重要です。
Promotion
そして、プロモーションでは、最も重要視すべきは、リピーター政策となるでしょう。
一人でも来やすい、家族でもこれる、友人ともこれる。
このように地域の人たちが、様々な用途で、店を使ってもらえる店にして、リピーターを重視するプロモーションを考えるべきでしょう。
飲食店の場合、新規顧客を意識したサイトでの広告が、非常に多く、利益を圧迫することが大きな経営上の問題になっています。サイト業者の勧誘に次々に乗って、広告費をかけていっても、地域戦略が基本のAさんの店では成功しません。
顧客の課題を見据えれば、いたずらな広告に経費をかけるよりも、また来店をしていただくように、リピーター政策に経費を投入するほうが、賢い経営となるでしょう。
松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/service1/5002501/