事業計画の作り方⑥|ビジネスモデルとは?競合に模倣されにくい「競争優位」の作り方

松本尚典

松本尚典

このコラムは、「事業計画の作り方①~⑤」から、内容が連続しています。そちらをまだ、お読みになっていない場合、一旦、①~⑤のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。

さて、①から⑤までで、

なぜ、その事業を行うのか。

自社には、どのような強みと弱みがあるのか。

市場には、どのような機会と脅威があるのか。

どのような競争環境に置かれているのか。

顧客から見て、なぜ自社が選ばれるのか。

というところまで検討してきました。

ここからは、これまでの分析を一つの「事業の仕組み」に統合していきます。

それが、ビジネスモデルです。

ビジネスモデル作りを、安易な図を作って終わらせていませんか


事業計画を作成するとき、

顧客。

自社。

仕入先。

販売先。

パートナー。

金融機関。

などの関係者を並べ、商品・サービス・お金の流れを矢印で結んだ図を作ることがあります。

このような図は、事業全体を理解するために有効です。

しかし、

関係者とお金の流れを図にしただけでは、ビジネスモデルを設計したことにはなりません。

僕が経営者の方とビジネスモデルを検討するときには、少なくとも、

誰を顧客とするのか。

その顧客のどのような課題を解決するのか。

何を価値として提供するのか。

どうやって、その価値を届けるのか。

どこから売上を得るのか。

どのようなコストがかかるのか。

どのような経営資源が必要なのか。

誰と組むのか。

そして、

なぜ競合企業に簡単に真似されないのか。

まで考えます。

ビジネスモデルとは、「商品をどう売るか」という話だけではありません。顧客に価値を提供し、その対価として継続的に売上と利益を生み出す事業全体の仕組みです。

そのため、この後に作成する、

マーケティング計画。

組織・人員計画。

業務計画。

投資計画。

資金計画。

収益計画。

スケジュール。

は、すべて、このビジネスモデルを現実に動かすための具体的な計画になります。

だからこそ、ビジネスモデルは事業計画の中核なのです。

優れたビジネスモデルには、「競合に模倣されにくい理由」がある


⑤では、競合を調査し、

「顧客から見たとき、なぜ自社が選ばれるのか」

を考えました。

しかし、もう一つ考えなければならないことがあります。

それは、

「その選ばれる理由を、競合企業が簡単に真似できるか?」

という問いです。

例えば、

「接客をよくする」

「SNSを始める」

「地元の食材を使う」

「ポイント制度を導入する」

という施策は、それ自体は有効かもしれません。

しかし、競合が翌月から同じことを始められるのであれば、それだけでは長期的な競争優位にはなりません。

そこで僕は、事業計画を作る経営者の方に、

ビジネスモデルの中に「ブラックボックス」を作りましょう

と申し上げています。

ブラックボックスとは何か? どういう観点から仕込むか?


ここでいうブラックボックスとは、

競合企業から見えていても、簡単には再現できない「競争優位の源泉」

を意味します。

秘密にして誰にも見せない、という意味だけではありません。

むしろ、優れたビジネスモデルの多くは、顧客から見れば何をしているのか分かっています。

それでも競合が簡単に追いつけません。

なぜなら、

長年蓄積した技術。

ブランド。

顧客との信頼関係。

独自の仕入ネットワーク。

人材。

データ。

独自の業務プロセス。

パートナーとの関係。

知的財産。

規模。

複数の仕組みの組み合わせ。

などが競争優位を支えているからです。

僕がいう「ブラックボックス」とは、秘密そのものではなく、「競合が表面だけ真似しても、同じ成果を出せない仕組み」です。

事業の理念や目的(詳細は、①を参照)


①では、

なぜ、この事業を行うのか。

誰に、どのような価値を提供するのか。

なぜ、自社が行うのか。

自社のどの強みを活かすのか。

を整理しました。

SWOT分析(詳細は、②③を参照)


②では、

自社の強みは何か。

自社の弱みは何か。

市場にはどのような機会があるか。

どのような脅威があるか。

を分析しました。

③では、その結果をクロスSWOTによって組み合わせ、

強みを活かして、どの機会を取り込むのか。

強みを使って、どの脅威に対応するのか。

機会を逃さないため、どの弱みを補うのか。

弱みと脅威が重なる、どの競争を避けるのか。

という戦略へ変換しました。

競合分析(詳細は、④⑤を参照)


④では、ファイブフォースによって、

既存競合。

新規参入。

代替品・代替サービス。

供給者の交渉力。

顧客の交渉力。

という競争環境を分析しました。

⑤では、その中から主要な競合について具体的な情報を集め、

誰を顧客としているのか。

何を価値として提供しているのか。

価格はいくらか。

なぜ顧客から選ばれているのか。

自社とは何が違うのか。

を比較しました。

そして、

「自社は、誰に、どのような価値を、競合とは何が違う形で提供するのか」

という競争戦略を考えました。

⑥では、これらすべてを統合して、

「その競争優位を、どうすれば継続的に売上と利益へ変換できる仕組みにできるか」

を考えていきます。

事例をもとに、競合に模倣されにくいビジネスモデルを考えてみましょう


ここでも、②から⑤まで使用してきたAさんの蕎麦店を例に考えてみます。

現在、Aさんは東京都郊外のF市で蕎麦店を8年間経営し、年商3000万円前後まで事業を育てています。

そして、次の成長段階として、

既存店をさらに成長させるのか。

第二店舗へ進むのか。

新商品や新しい販売方法へ進むのか。

を検討しています。

事業の理念や目的


Aさんには、老舗の蕎麦店で10年間修業した経験があります。

そこで培った手打ち蕎麦の技術、つゆの製法、仕入先との関係、暖簾分けされたブランドなどが、自社の重要な経営資源です。

Aさんが目指しているのは、

単に「蕎麦を売ること」ではありません。

老舗で身につけた技術を基礎にしながら、自分なりの商品とサービスへ発展させ、地域の顧客に、

「日常の中で、本格的な蕎麦を楽しめる店」

という価値を提供することです。

一方で⑤までの分析から、

大手チェーンとの価格競争は避ける。

職人としての専門技術を活かす。

地域顧客との関係を強くする。

社長本人への依存を減らす。

利益を確保しながら次の成長へ進む。

という方向が見えてきました。

ここから、ビジネスモデルを考えていきます。

競争優位その1|簡単に代替できない「技術・ブランド・地域」の組み合わせ


Aさんには、

手打ち蕎麦の技術。

老舗からの暖簾分け。

地域で8年間営業してきた顧客基盤。

があります。

これらを、一つずつ使うだけではなく、組み合わせます。

例えば、

地域の生産者から仕入れた旬の食材。

Aさんの手打ち蕎麦。

老舗で培ったつゆ。

地域の酒蔵や生産者の商品。

を組み合わせ、

「地域でしか味わえない、本格的な蕎麦体験」

を作ります。

重要なのは、

「地元野菜を使う」

ことだけではありません。

それなら競合も真似できます。

地域の複数の生産者との継続的な仕入関係。

季節ごとの商品開発。

生産者の背景を顧客へ伝えるコンテンツ。

Aさんの調理技術。

暖簾分けブランド。

を組み合わせます。

単独のアイデアは真似されても、複数の経営資源が結びついた「仕組み全体」は真似しにくくなります。

これが、ブラックボックスを考える第一のポイントです。

競争優位その2|他社との提携で、自社だけでは作れない価値を生み出す


自社の内部だけで、すべての競争優位を作る必要はありません。

他社との事業提携も、ビジネスモデルを強くする方法です。

例えば、Aさんが、

地域の酒蔵。

農業生産者。

食品メーカー。

旅館・ホテル。

他業態の料理人。

などと商品を共同開発する方法があります。

単に商品を仕入れるのではなく、

双方の技術。

顧客。

ブランド。

販売チャネル。

を組み合わせて、他社にはない商品やサービスを作ります。

例えば、

Aさんの蕎麦と地域の酒蔵とのペアリングメニュー。

季節の農産物を使用した限定商品。

地域の宿泊施設と連携した食事プラン。

などです。

この場合にも、

誰が何を提供するのか。

開発した商品やノウハウをどう扱うのか。

ブランドをどう利用するのか。

費用と利益をどう分けるのか。

提携を終了するときにどうするのか。

などを事前に整理することが重要です。

提携そのものが競争優位なのではありません。互いの経営資源を組み合わせることで、単独では再現しにくい価値を作ることが競争優位になります。

競争優位その3|顧客との関係を「一回の来店」で終わらせない


飲食店では、来店していただき、食事をしていただき、会計をして帰られれば、一回の取引は終了します。

しかし、それでは毎回、新しい顧客を集客し続けなければなりません。

そこで重要になるのが、

顧客との継続的な関係を、ビジネスモデルの中に組み込むこと

です。

例えば、

LINEなどへの登録。

予約履歴。

来店履歴。

顧客アンケート。

季節商品の案内。

イベント。

誕生月など顧客自身が登録した情報に基づく案内。

を、本人の同意と適切な個人情報管理のもとで活用します。

重要なのは、単にクーポンを大量に配布することではありません。

例えば、

「いつも安くなる店」

にしてしまえば、価格で来店する顧客が増えてしまいます。

それより、

新蕎麦の入荷。

旬の料理。

限定メニュー。

酒蔵とのイベント。

顧客の嗜好に合った案内。

など、

「この店から情報を受け取りたい」と顧客に思ってもらえる関係

を作ります。

その結果、

新規顧客獲得だけに依存しない。

リピート率が上がる。

顧客ニーズが分かる。

新商品の反応が分かる。

という経営資産が蓄積されていきます。

競合がLINEを始めること自体は簡単です。

しかし、

何年間も蓄積された顧客との関係。

顧客理解。

来店実績。

信用。

まで短期間で真似することはできません。

時間とともに強くなる仕組みは、非常に強い競争優位になります。

競争優位その4|「社長しかできない技術」を、組織の能力へ変える


Aさんの最大の強みは、手打ち蕎麦の技術です。

しかし②のSWOT分析では、この技術がAさん本人だけに依存していることは、同時に弱みでもありました。

Aさんが病気になれば、商品の品質が維持できない。

第二店舗を出しても、Aさんは二店舗に同時には立てない。

この状態では、Aさんの能力が会社の成長上限になります。

そこで、

蕎麦打ち。

つゆ。

仕込み。

品質確認。

接客。

店舗管理。

について、

教えられる部分を言語化する。

標準化する。

動画にする。

チェックリストにする。

人材を育成する。

評価基準を作る。

という形で、組織の能力に変えていきます。

もちろん、職人の技術すべてをマニュアル化できるわけではありません。

だからこそ、

「絶対に職人の経験が必要な部分」

と、

「標準化できる部分」

を切り分けます。

経営者個人の能力を、会社に蓄積されるノウハウへ変換できれば、それ自体が競合から簡単に模倣されない経営資源になります。

これは、Aさんが第二店舗、第三店舗へ進む際にも重要なブラックボックスになります。

競争優位その5|情報発信そのものではなく、「専門家としての信用」を蓄積する


Aさん自身が、

蕎麦。

産地。

蕎麦粉。

職人技術。

旬の食材。

日本酒。

などについて継続的に情報発信することも考えられます。

Webサイト。

Instagram。

YouTube。

Googleマップ。

など、方法はいくつもあります。

しかし、

「SNSをやること」

自体は、ブラックボックスではありません。

競合も明日から始められるからです。

重要なのは、

Aさんだから発信できる専門情報を、長期間蓄積することです。

例えば、

蕎麦粉による味の違い。

新蕎麦の季節。

蕎麦と酒の合わせ方。

生産者への訪問。

蕎麦打ちの仕事。

地域の食文化。

などを発信していけば、

「この地域で蕎麦のことならAさん」

という専門家としての信用を蓄積できます。

この信用は、一回の広告では作れません。

また、メディアやインフルエンサーなど第三者との連携を行う場合には、現在は広告・PRであることが分かる適切な表示にも配慮する必要があります。

発信手段ではなく、時間をかけて蓄積した専門性・信用・ブランドこそが競争優位になります。

「アイデア」と「ブラックボックス」は違う


ここは非常に重要です。

新しいメニュー。

SNS施策。

ポイント制度。

クーポン。

新しい広告。

これらは、優れたアイデアではあります。

しかし、それだけではブラックボックスとは言えません。

競合が見れば、すぐに真似できるからです。

では、競争優位になりやすいものは何でしょうか。

・長期間蓄積した技術

・顧客との継続的な信頼関係

・独自の顧客データと顧客理解

・特定のパートナーとの強い関係

・ブランド

・独自の仕入・販売ネットワーク

・知的財産

・社内に蓄積したノウハウ

・優れた人材と組織文化

・規模や効率性

・複数の強みを組み合わせた事業プロセス


などです。

そして、最も重要なのは、

競争優位は、一つだけで作ろうとしないことです。

Aさんの場合、

手打ち技術

×

暖簾分けブランド

×

地域生産者との関係

×

既存顧客との関係

×

顧客情報

×

人材育成の仕組み

×

専門家としての情報発信

を組み合わせる。

一つひとつは競合にも真似できるかもしれません。

しかし、すべてを同じレベルで組み合わせることは、次第に難しくなります。

強いビジネスモデルとは、「誰にも思いつかない一つの秘密」を持つことではありません。複数の強みが結びつき、競合が全体として再現しにくい仕組みを作ることです。

優れたビジネスモデルを作る7つの問い


ここまでを、事業計画に使える形で整理してみましょう。

ビジネスモデルを作る際には、少なくとも次の7つの問いに答えてください。

1.誰が顧客なのか?

2.その顧客のどのような課題や欲求を満たすのか?

3.どのような価値を提供するのか?

4.どのような仕組みで、その価値を顧客へ届けるのか?

5.どこから、どのように売上と利益を得るのか?

6.その仕組みを動かすために、どのような経営資源・人材・パートナーが必要なのか?

7.なぜ、その仕組みを競合企業は簡単に模倣できないのか?


最後の7番目が、僕が「ブラックボックス」と呼んでいる部分です。

そして、この7つが互いに整合していることが重要です。

ブラックボックスは、一度作れば終わりではない


競争優位は、永久には続きません。

優れた商品が売れれば、競合は研究します。

新しい販売方法が成功すれば、他社も導入します。

新しい技術も、時間とともに普及します。

顧客のニーズも変化します。

だからこそ、

ビジネスモデルは、一度事業計画に書いて完成するものではありません。

実行する。

顧客の反応を見る。

競合の動きを見る。

数字を確認する。

改善する。

新しい強みを蓄積する。

という活動を続けなければなりません。

強い会社は、一つのブラックボックスを守り続けているのではありません。

現在の競争優位が失われる前に、次の競争優位を作り続けています。

これが、長期的に成長できるビジネスモデルの重要な条件です。

ビジネスモデルが決まったら、次はマーケティングへ進む


①からここまでを振り返ってみましょう。

①では、

「なぜ、この事業を行うのか」

という事業目的を決めました。

②では、

SWOT分析によって、自社と市場の現在地を整理しました。

③では、

クロスSWOTによって、進むべき戦略の方向を決めました。

④では、

ファイブフォースによって、自社を取り巻く競争環境を分析しました。

⑤では、

競合情報を集め、顧客からなぜ自社が選ばれるのかという競争戦略を考えました。

そして今回⑥では、

その競争優位を、継続的に顧客価値・売上・利益へ変えるビジネスモデルを設計しました。

次に考えなければならないのは、

「その価値を、どうすれば顧客へ届けられるのか」

というマーケティングです。

どれほど優れたビジネスモデルを作っても、

顧客が存在を知らない。

顧客が価値を理解しない。

顧客の課題と商品が合っていない。

購入する場所がない。

という状態では、売上にはなりません。

次回⑦では、

「顧客は、本当は何を買っているのか」

という顧客課題の視点から、マーケティング戦略を考えていきます。

続く

事業計画作成法を伝授します⑦~マーケティングの要は、顧客の課題の見極め~

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