【男女トラブル】交際相手に仕事を辞めるよう迫られ、辞めた後の生活費は請求できる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際相手から「仕事を辞めてほしい」「自分が養うから辞めればいい」と繰り返し言われ、迷った末に退職したものの、その後に関係が終わってしまい、収入のない状態だけが残ったというご相談があります。辞めた後の生活費や、働いていれば得られたはずの収入を相手に求められるのかは、多くの方が気にされる点です。

 結論から言うと、交際していたというだけで相手に生活費を支払わせることは難しい一方、婚約や内縁に至っていた場合や、辞めるよう迫った経緯そのものに問題があった場合には、金銭を求められる余地があります。この記事では、どのような事情で見通しが分かれるのかを整理します。

この記事は、2026年11月時点の法令と公表されている制度の内容をもとにしています。個別の事情によって結論は変わるため、具体的な見通しは弁護士にご確認ください。


見通しを分ける2つの事情

 生活費や収入の減少を相手に求められるかは、主に「二人がどこまで深い関係にあったか」と「どのような経緯で仕事を辞めたか」の2つで分かれます。目安を表にまとめます。

関係・状況考えられる請求の根拠見通し
交際のみ(婚約なし)生活費を払う約束、不法行為約束や経緯の内容しだいで、ハードルは高め
婚約していた婚約の不当な破棄による損害賠償退職による収入の減少が損害に含まれることがある
内縁(事実婚)だった婚姻費用の分担、内縁の不当な破棄夫婦に近い扱いを受ける余地がある
暴力や脅しで辞めさせられた不法行為による損害賠償慰謝料が中心になり、収入の減少まで認められるかは事情しだい


交際しているだけでは、生活費を支払う義務は生じにくい

 法律上の夫婦には、互いに扶助する義務や婚姻費用を分担する義務があります(民法752条、760条)。一方で、交際している二人の間には、相手の生活費を負担する義務を定めた規定はありません。そのため、交際中に相手が生活費を出してくれていたとしても、別れた後もそれを払い続けるよう求めることは、原則として難しいと考えられます。

 ただし、同居して家計を一つにし、周囲からも夫婦同然と見られていたなど、内縁(事実婚)と評価できる関係であれば、夫婦の婚姻費用の分担に関する考え方が及ぶことがあります。内縁にあたるかどうかは、同居の期間、家計の状況、親族や周囲への紹介の仕方などから判断されます。詳しくは【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのかで解説しています。

「辞めたら生活は面倒を見る」と約束されていた場合

 辞めるよう求められた際に「生活費は毎月出す」などと約束されていたケースも少なくありません。この約束は、法的には将来の生活費を無償で渡すという贈与の約束と評価されることが多いと考えられます。

 書面によらない贈与は、まだ実行されていない部分について、各当事者が解除できるとされています(民法550条)。口約束だけの場合、相手が「もう払わない」と言えば、将来の分を強制的に支払わせることは難しくなります。反対に、金額や期間を明記した書面を交わしていた場合には、約束どおりの支払いを求める余地が広がります。LINEなどのメッセージが書面と同じように扱われるかは争いになりやすいため、残っているやり取りは消さずに保管しておくことが大切です。

婚約していた場合は、退職による収入の減少が損害になることがある

 結婚を前提に仕事を辞めた後、相手が正当な理由なく婚約を破棄した場合には、慰謝料に加えて、結婚の準備にかかった費用や、退職によって失った収入(逸失利益)を損害として請求できることがあります。

 過去の裁判例には、退職前の収入をもとに、おおむね1〜2年分程度の収入の減少を損害とした例があります。もっとも、再就職の機会があることなどを理由に、収入の減少を独立した損害として認めず、慰謝料の額の中で考慮するにとどめる判断もみられます。また、雇用保険の給付を受けていれば、その分は差し引いて計算されることがあります。

 婚約が成立していたかどうかも争点になりやすく、両家へのあいさつ、婚約指輪、式場の予約、親族や職場への報告といった事情が判断材料になります。婚約破棄全般については、婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースもあわせてご覧ください。

辞めるよう迫られた経緯そのものが問題になる場合

 自治体などが公表しているデートDVの啓発資料では、交際相手に仕事を辞めさせることや働くことを禁じることが、経済的な暴力の一例として挙げられています。暴力や脅し、執拗な干渉によって退職せざるを得ない状況に追い込まれた場合には、不法行為(民法709条)として慰謝料を請求できる可能性があります。

 一方で、退職届を出したのは最終的に本人であることから、相手の言動と退職との結びつきや、収入の減少をどこまで相手の責任とみるかは争いになりやすい点です。評価にあたっては、次のような事情が考慮されると考えられます。

  • 辞めるよう求められた回数や期間、その際の言葉や態度。
  • 暴力や物を壊す行為、別れや危害をほのめかす発言の有無。
  • 勤務先への連絡や待ち伏せなど、働き続けることを妨げる行動の有無。
  • 退職後に相手が生活費や持ち物を管理し、自由に使えるお金がなかったかどうか。


 同居している交際相手からの暴力については、配偶者暴力防止法の保護命令の制度が準用されます。2024年4月施行の改正で、身体的な暴力だけでなく一定の脅迫を受けた場合にも申立てができる範囲が広がっています。お金の管理を相手に握られている状況については【男女トラブル】交際相手から経済的に支配されている|お金の管理から抜け出す、保護命令については交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応で解説しています。

請求を考えるときに残しておきたい記録

 時間が経つと、退職に至った経緯を後から説明することが難しくなります。次のような記録は、できるだけ早い段階でまとめておくことをおすすめします。

  • 辞めるよう求められたLINE・メール・通話の録音。
  • 生活費を出すと約束された際のやり取りや書面。
  • 退職届の控え、退職前の給与明細や源泉徴収票。
  • 婚約や同居の事実を示す写真、賃貸借契約書、親族とのやり取り。
  • 暴力や脅しがあった日時と内容のメモ、診断書や警察への相談の記録。


収入がない期間をしのぐための公的な手段

 相手への請求は解決までに時間がかかることも多いため、並行して生活の立て直しを考えておくことが大切です。雇用保険の基本手当は、自己都合で退職した場合でも受け取れることがあり、2025年4月以降は自己都合退職の給付制限期間が原則1か月に短縮されています。退職に至った事情によっては扱いが変わることもあるため、ハローワークで経緯を説明して確認するとよいでしょう。

 離職後に家賃の支払いが難しくなった場合には、自治体の窓口で住居確保給付金の利用を相談できることがあります。また、相手からの暴力や脅しで身の安全に不安がある場合は、配偶者暴力相談支援センターや、全国共通の相談窓口であるDV相談ナビ(#8008)、警察への相談を優先してください。

相手と直接交渉する前に考えておきたいこと

 相手が生活やお金の流れを握っていた関係では、ご本人が直接お金の話を持ち出すことで、再び関係に引き戻されたり、言い争いが激しくなったりするおそれがあります。弁護士が窓口になれば、相手と顔を合わせずに請求や話し合いを進めることができます。

 話し合いで解決する場合には、支払う金額や時期に加えて、今後の接触を控えることや、ほかに請求しないことなどを書面にまとめておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。進め方は【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるで紹介しています。

よくあるご質問


同棲中に相手が払っていた家賃や食費を、別れた後に返すよう求められることはありますか

 同居中に一方が多く負担していた生活費は、二人の合意に基づく支出として、別れた後に返還を求められても応じる必要がないと判断されることが多いと考えられます。貸し借りとして合意していた場合などは別の検討が必要です。詳しくは【男女トラブル】同棲中の生活費|別れた後に家計を清算するをご覧ください。

相手から「自分の判断で辞めただけ」と言われた場合でも、請求できますか

 相手がそう主張したとしても、辞めるよう求めたやり取りや、生活費を出すという約束の記録が残っていれば、請求を検討する余地はあります。どの根拠で、どの範囲を求めるのが現実的かは、記録の内容によって変わります。

交際中に相手のために立て替えたお金も、あわせて請求できますか

 生活費とは別に、相手の買い物や支払いを立て替えていた場合は、貸したお金として返還を求められることがあります。交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?もあわせてご覧ください。

まとめ

 交際相手に仕事を辞めるよう迫られた場合でも、交際しているだけでは生活費を払わせることは容易ではありません。ただし、婚約や内縁に至っていた場合、生活費を出すと書面で約束されていた場合、暴力や脅しで辞めざるを得なかった場合には、金銭を求められる可能性があります。まずは退職の経緯と約束の内容を記録で確かめるところから始めることが大切です。

 当事務所では、交際関係の解消に伴う金銭の清算について、ご本人に代わって相手方との窓口を務めています。対応の内容は【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内しています。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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