【風俗トラブル・ホストクラブ】担当ホストに個人的に貸したお金は、店に請求できる?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

本記事は、2026年11月時点の民法(2020年4月施行の改正後)、民事執行法、風営法(2025年6月施行の改正後)に基づいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。


「担当のホストに『必ず返すから』と頼まれてお金を貸したのに、連絡がつかなくなった。お店に言えば返してもらえるのだろうか」。ホストクラブに通う女性からは、このようなご相談が寄せられます。反対に、お店に事情を伝えたところ「個人間のことは店に関係ない」と言われ、どうすればよいか分からなくなったという方もいらっしゃいます。

 インターネット上では「ホストへの個人的な貸付は店とは無関係」と説明されることが多く、原則としてはそのとおりです。ただ、お金の流れや店の関わり方によっては店に請求できる余地が残る場面があります。また、店に直接払ってもらうのではなく、回収の手続のなかで店が関わってくる道筋もあります。

 この記事では、担当ホストに個人的に貸したお金と「店」との関係に絞って整理します。渡したお金が貸したものか贈ったものかの区別や、借用書がない場合の立証については、詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で解説しています。

担当ホストに貸したお金は、原則としてホスト本人に請求する

お金の貸し借りは、ホスト本人との契約

返すことを約束してお金を渡すと、法律上は消費貸借契約が成立します(民法587条)。借用書がなくても、LINEのやり取りや振込の記録などから約束の内容が分かれば、契約自体は成り立ちます。

 この契約の当事者は、お金を借りたホスト本人と、貸したあなたです。ホストの生活費や個人的な支払いのために貸したお金であれば、店は契約の当事者ではありません。そのため、担当ホストに個人的に貸したお金の返済を求める相手は、原則としてホスト本人になります。

「店で働いているのだから店が払う」とはならない理由

契約は、原則として当事者の間でだけ効力を持ちます。ホストが店に在籍していても、店がその借金を代わりに返す約束をしていない限り、店に返済の義務は生じません。会社員が個人的に借りたお金について、勤務先の会社が返済の義務を負わないのと同じ考え方です。

 ホストクラブでは、ホストが店と雇用契約ではなく業務委託契約を結んでいることも少なくありません。どのような契約の形であっても、個人的な借金について店が当然に責任を負うわけではない点は変わりません。

店長に事情を話すことと、店に支払義務があることは別

ホストと連絡がつかなくなり、店長や代表に事情を伝えたという方もいらっしゃいます。店が本人に返済を促したり、話し合いの場を設けたりすることはありますが、それは店の任意の対応です。「給料から天引きして返してほしい」と頼んでも、店がそれに応じる義務はありません。

 店に伝えたことをきっかけに、ホストが店を辞めて連絡が取れなくなることもあります。店への連絡は、目的と伝える内容を整理したうえで行うことをおすすめします。

店に請求できる余地がある場面

店にも返済を求められる可能性があるのは、店が自ら返済の責任を引き受けた場合や、お金が実質的に店に渡っていた場合、店が貸付に関与していた場合などに限られます。主な場面を整理すると、次のとおりです。

場面店への請求の見通し確認したいもの
店が保証人になった・返済を引き受けた書面があれば請求できる可能性がある店名義の保証書や合意書
店の口座や前入金として店に入金した店との間の精算の問題になる入金の記録、店の受領書や誓約書
店ぐるみで貸すよう仕向けられた使用者責任や共同不法行為を検討する余地がある店の代表や幹部の関与を示すやり取り
ホストの生活費など個人的な用途に貸した原則として店への請求は難しいホスト本人に請求するための記録


店が保証人になった・返済を引き受けた場合

店が「ホストの借金は店が責任を持って返す」と約束し、保証人となった場合には、店に請求できる可能性があります。ただし、保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。店長が口頭で「店で何とかする」と言っただけでは、保証が成立したとは認められにくいでしょう。

 保証とは別に、店がホストと並んで返済の義務を負うことを合意する「債務引受」という形もあります(民法470条)。いずれの場合も、店が返済の責任を引き受けたことを示す書面ややり取りが残っているかが分かれ目になります。

お金が実際には店に渡っていた場合

ホストに頼まれて店の口座に振り込んだり、店に「前入金」や預け金として入金したりした場合は、ホストへの貸付ではなく、店との間でそのお金をどう扱うかの問題になることがあります。店に入金したお金がホストに持ち出されたような場合には、店に対して入金の扱いを確認し、返還を求める余地があります。

 一方で、ホストに貸したお金が、ホスト自身が店に負っていた借金や罰金の支払いに充てられたというだけでは、店はホストからの支払いとして受け取ったにすぎないため、店に返還を求めることは通常難しいと考えられます。誰の口座に、何の名目でお金を渡したかが、店に請求できるかどうかを大きく左右します。

店ぐるみで貸すよう仕向けられた場合と、使用者責任

従業員が仕事に関連して第三者に損害を与えた場合、雇い主も賠償の責任を負うことがあります(民法715条、使用者責任)。ホストがうその事情を告げてお金を借り、それが不法行為にあたる場合に、店の使用者責任を問えるかが問題になります。

 もっとも、使用者責任が認められるのは、その行為が店の「事業の執行について」行われたといえる場合です。ホストの個人的な借金は、通常は店の業務とは別のものと評価されやすいといえます。また、職務外の行為だと知っていた、あるいは重大な過失で知らなかった相手方は使用者責任を問えないとするのが判例です(最高裁昭和42年11月2日判決)。個人的な貸し借りだと分かったうえで貸した場合には、この点がハードルになります。

 これに対し、店の代表や幹部が関与して客にお金を貸すよう働きかけ、そのお金を売上や売掛の回収に回していたような場合には、店とホストが共同で不法行為をしたとして(民法719条)、店にも賠償を求める余地があります。この場合は、店の関与を示すやり取りや会話の記録が重要になります。

回収の手続のなかで店が関わる場面

ホストの本名や住所が分からないとき

ホストに請求しようとしても、源氏名しか分からず、本名や住所を知らないということは珍しくありません。訴訟を起こすには、原則として相手の氏名と住所が必要になります。

 弁護士に依頼した場合は、弁護士会を通じて照会を行う制度(弁護士法23条の2)を使い、店や携帯電話会社などに情報の開示を求めることが考えられます。店が照会に応じるかどうかは個別の判断になり、回答が得られないこともあります。ただ、ご自身で店に問い合わせても個人情報を理由に断られることが多いため、選択肢の一つになります。

判決を得た後、店から支払われる報酬を差し押さえる

ホストが話し合いに応じない場合は、訴訟で返済を求めることになります。請求額が60万円以下であれば、原則1回の審理で終わる少額訴訟を利用できる場合もあります(民事訴訟法368条)。

 判決を得たり、裁判上の和解をしたりした後も支払いがない場合は、強制執行の手続をとることができます。ホストが店から受け取る給料や報酬を差し押さえると、店は「第三債務者」として、差し押さえた分をあなたに支払う立場になります(民事執行法155条)。店に返済の義務がなくても、法的な手続を経れば、店を通じて回収につなげられる場合があるということです。

 ただし、給料にあたるものは差し押さえられる範囲に制限があり(民事執行法152条)、ホストが店を移ったり辞めたりすると、差押えが空振りになることもあります。在籍している店が分かっているうちに、早めに手続を検討することが大切です。貸したお金を回収する一般的な流れについては、風俗嬢に貸したお金が返ってこない|個人間の債権回収の進め方も参考にしてください。

店に連絡する前に整理しておきたいこと

「貸した」といえる記録をそろえる

店に請求できるかを考える前に、ホスト本人に対して「貸した」と主張できる記録があるかを確かめておく必要があります。応援や好意で渡したお金は、法律上は贈与と評価され、返還を求めることが難しくなるためです。この区別については、詳しくはキャバ嬢・ホストと店外で深い関係に|貢いだ金銭は返してもらえるかで解説しています。

 手元に残しておきたい主な記録は、次のとおりです。

  • 「貸して」「必ず返す」といったLINEやDMのやり取り(相手にブロックされる前に保存しておく)。
  • 振込の記録や、現金で渡した日時・金額・場所のメモ。
  • お金が必要な理由としてホストから聞いた説明の内容。
  • ホストの源氏名、在籍している店の名前、本名や住所など分かっている情報。
  • 店の関係者と話した内容や、店に入金した場合の受領書・誓約書。


店への連絡やネットへの書き込みで避けたいこと

返してもらえない状況が続くと、店に何度も電話をかけたり、営業中に押しかけたりしたくなるかもしれません。しかし、度を越えた連絡や来店は、店の業務を妨げたとして問題にされるおそれがあります。また、SNSや掲示板にホストの実名や「借金を踏み倒された」といった内容を書き込むと、名誉毀損として反対に責任を問われる可能性があります。

 店に売掛が残っている場合には、店に連絡したことをきっかけに、売掛の支払いを強く求められることもあります。売掛の支払義務については、詳しくはホストクラブの売掛|客が負う支払義務の限界で解説しています。

よくあるご質問


ホストが店を辞めて連絡が取れません。店に連絡先を教えてもらえますか?

店には在籍者や元在籍者の個人情報を守る立場があるため、ご自身で問い合わせても教えてもらえないことが多いでしょう。弁護士に依頼した場合は、弁護士会照会などの手続を通じて、店や携帯電話会社に情報を求めることが考えられます。振込先の口座名義や、ホストから聞いていた実家の住所などが手がかりになることもあります。

店から「貸したお金と売掛を相殺すればよい」と言われました。応じるべきですか?

相殺は、同じ当事者どうしが互いに同じ種類の債権を持っている場合に認められる仕組みです(民法505条)。あなたの貸金はホスト本人に対するもの、売掛は店に対するものであることが多く、当事者が異なるため、一方的な相殺は原則として成り立ちません。

 店・ホスト・あなたの三者で合意すれば、まとめて精算することはできます。その場合は、どの債権がいくら消えるのかを書面で明確にしておくことが大切です。そもそも売掛を支払う必要があるかについては、【風俗トラブル・ホストクラブ】ホストクラブの売掛を請求された|改正後に『払う必要のある売掛』を見分けるで解説しています。

色恋営業でお金を貸すよう仕向けられた場合、改正風営法を理由に店に請求できますか?

2025年6月施行の改正風営法では、客の恋愛感情などにつけ込んで飲食などを求める営業が禁止されました。改正の内容は、【2025年6月施行】改正風営法で何が変わったか|色恋営業と売掛金の規制で解説しています。

 もっとも、これは店に対する行政上の規制であり、違反があったことで直ちにお金の返還を求められるわけではありません。また、規制の対象は主に店での飲食などの営業であり、個人的な貸付がどこまで関係するかは事情によります。返還の請求は、詐欺による取消し(民法96条)や不法行為(民法709条)など、民法上の根拠に基づいて組み立てることになります。詳しくは【風俗トラブル】色恋営業の禁止は返金請求に使えるのか|行政規制と民事請求の距離で解説しています。

まとめ


  1. 担当ホストに返す約束で渡したお金は消費貸借(民法587条)にあたり、返済を求める相手は原則としてホスト本人です。
  2. 店がホストの借金の保証人になるには書面が必要で(民法446条2項)、口頭の約束だけでは店に請求しにくいといえます。
  3. 店の口座や前入金として店に入れたお金は、ホストへの貸付ではなく、店との精算の問題になることがあります。
  4. ホストの個人的な借金に店の使用者責任(民法715条)が認められる場面は限られますが、店ぐるみの関与があれば共同不法行為(民法719条)を検討する余地があります。
  5. 本名や住所が分からないときは弁護士会照会(弁護士法23条の2)が、判決後は店から支払われる報酬の差押え(民事執行法152条・155条)が、店を通じた回収の手がかりになります。
  6. 貸金と店の売掛は当事者が異なることが多く、一方的な相殺(民法505条)は原則として成り立ちません。
  7. 貸したお金の返還を求める権利は、原則として請求できることを知った時から5年で時効にかかるため(民法166条1項)、記録は早めに整理しておくことが大切です。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ホストクラブをはじめとする夜のお店をめぐる金銭トラブルのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。担当ホストに貸したお金の回収や店との関係の整理、売掛の請求への対応まで、状況をお伺いしたうえで取りうる手段をご説明します。

担当ホストと連絡が取れなくなった方、店に相談しても話が進まない方は、やり取りの記録が残っているうちに一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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