【風俗トラブル・ホストクラブ】ホストクラブの売掛を請求された|改正後に『払う必要のある売掛』を見分ける

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

ホストクラブの売掛について、店や担当者から支払いを求める連絡が届いたとき、多くの方が最初に考えるのは「これは払わなければならないものなのか」という点だと思います。はじめにお伝えしておくと、注文して提供を受けた飲食の代金は、後払いの約束であったとしても原則として支払義務があります。この記事は、支払いを免れる方法をご案内するものではありません。

 もっとも、実際に届く請求は、飲食代・立替金・遅延損害金といった性質の異なるものが一つの総額にまとめられていることが少なくありません。中身を費目ごとに分けてみると、支払義務がはっきりしている部分と、根拠を確かめる余地が残る部分とが混じっている場合があります。

 2025年(令和7年)の風営法改正のあとは、「売掛」という言葉を使わず、前入金・立替・貸付といった別の名目で運用されている例も見られます。名目が変わっても、確かめるべきことは変わりません。ここでは、届いた請求を費目ごとに仕分けて「払う必要のある売掛」を見分けるための考え方を整理します。

改正で変わったこと、変わらなかったこと


売掛そのものが禁止されたわけではない

 2025年6月28日に施行された改正風営法は、悪質なホストクラブ対策を大きな目的の一つとしています。ただし、後払い(ツケ)という取引そのものを禁じる規定が置かれたわけではありません。新設されたのは、営業する側の行為に向けられた次の2つのルールです。

規定規制されている行為違反したときの効果
法18条の3料金の虚偽の説明、恋愛感情等につけ込んで困惑させる飲食等の要求、注文前の提供による困惑指示や営業停止などの行政処分
法22条の2注文や料金の支払等をさせる目的での威迫、支払等のための売春・性風俗店勤務・出演等の要求刑事罰(法53条2号)と行政処分


 いずれも名宛人は営業する側であり、客が処罰される規定ではありません。改正の全体像については、別の記事で改めて解説しています。

名目が変わっても、見分け方は変わらない

 業界の自主規制や法改正を受けて売掛を取りやめたとする店でも、前入金・立替・貸付といった呼び方で、実質的に後払いに近い運用が残っている場合があります。逆に、「売掛」と呼ばれていても中身は通常の飲食代の後払いにすぎないこともあります。

 支払義務の有無は呼び方で決まるものではなく、誰と誰の間で、何について、いくらの合意があったのかで決まります。ここが仕分けの出発点になります。

まず「誰からの請求か」を分ける

 同じ「売掛の請求」でも、請求してきている相手によって確かめる点が変わります。

  1. 店(法人・営業者)からの請求。飲食代金そのものの請求であることが多く、伝票や明細と突き合わせることになります。
  2. 担当者個人からの請求。「自分が立て替えた」という説明が付くことが多く、そもそも誰に対する債務なのかを確かめる必要があります。
  3. 第三者(債権を譲り受けたとする者・回収業者)からの請求。譲渡の事実と通知の有無が問題になります。


 債権が譲渡された場合、譲渡人からの通知か債務者の承諾がなければ、譲受人は債務者に対して権利を主張できないのが原則です(民法467条)。また、権利がないのに受領権者らしい外観のある相手に支払ってしまうと、二重に請求を受ける事態にもなりかねません(同478条)。報酬を得る目的で他人の債権の取立てを業として行うことは、弁護士法72条が禁じています。請求書の差出人と、これまでのやり取りの相手が食い違う場合は、支払う前に確認を求めることをおすすめします。

請求の中身を費目ごとに分ける

 総額だけを見て「払える・払えない」を考えると、確かめるべき点が見えにくくなります。請求の内訳を、次のように分けてみてください。

1.注文して提供を受けた飲食代・指名料・サービス料

 自分が注文し、実際に提供を受けた分は、原則として支払義務があります。ここで確かめるのは支払義務の有無というより金額の裏づけです。伝票・明細・レシートと請求額が一致しているか、単価やサービス料の割合が事前の説明と合っているかを見ます。明細のない請求書だけが届いている場合は、内訳の提示を求めることが出発点になります。

2.注文していない分・身に覚えのない分

 注文していない飲食の代金は、そもそも契約が成立しているのかという問題になります。契約は申込みと承諾の合致で成立するのが原則ですが(民法522条1項)、承諾の通知を必要としない場合には、承諾と認めるべき事実があった時に成立するとされています(同527条)。出されたものに口をつけた、栓を開けさせたといった事情があると、注文がなかったという説明は通りにくくなります。この点は、注文前の提供をめぐる規制とあわせて別の記事で詳しく取り上げています。

3.まだ提供を受けていない分

 次回のイベント分、入れることになっているボトルの代金など、まだ提供を受けていないものが含まれていることがあります。前払いの性質を持つ部分は、提供がされなければ返還や解除の問題に移ります。すでに提供を受けた分と将来分は、分けて考える必要があります。

4.担当者が立て替えたとされる分

 担当者が店に対して支払いを済ませている場合、客が負う債務の相手方は店ではなく担当者になっていることがあります(民法474条、459条以下)。さらに、その立替金を後日「借入れ」として書面にまとめ直すと、飲食代の後払いから金銭の貸し借りへと性質が変わります(同588条)。この組み替えは、次に述べる遅延損害金の上限にも影響しますので、借用書や念書への署名を求められた場面は特に慎重に確認したいところです。

5.遅延損害金・違約金・「ペナルティ」

 支払いが遅れたことに対する損害賠償の予定や違約金を定める条項は、消費者契約法9条1項2号により、年14.6パーセントを超える部分が無効とされます。ただし同法11条2項により、金銭の貸し借りにはこの規定が適用されず、利息制限法の枠組み(元本額に応じて年15〜20パーセント、賠償額の予定はその1.46倍まで)に移ります。飲食代の後払いのままなのか、借用書で貸金に組み替えられているのかによって、上限の考え方が変わることになります。

 また、契約の解除に伴うものではない「ペナルティ」「罰金」といった名目の請求は、同法9条1項1号ではなく、消費者の利益を一方的に害する条項の無効を定めた同法10条や、民法90条の公序良俗の問題として検討することになります。

6.他の人の分・肩代わりを求められている分

 家族や交際相手の売掛について支払いを求められることがあります。保証は書面(または電磁的記録)でしなければ効力を生じないとされており(民法446条2項・3項)、口頭で「私が払います」と述べただけでは保証の効力は生じないのが原則です。同居の家族というだけで当然に支払義務を負うわけでもありません。

請求の費目民事上の位置づけ主に確かめる点
提供を受けた飲食代飲食契約の代金債務伝票・明細との一致、単価と事前の説明
注文していない分契約が成立しているか注文の有無、提供時の状況
未提供の分前払い・将来の給付提供の有無、返還や解除の可否
担当者の立替分求償債務・準消費貸借債権者は誰か、書面で組み替えられていないか
遅延損害金・違約金損害賠償額の予定上限の枠組み、飲食代か貸金か
他人の分保証・第三者弁済書面による保証があるか


「払う必要のある売掛」を見分ける5つの問い

 費目ごとの仕分けは、次の5つの問いに置き換えることができます。

  1. 誰と誰の間の合意なのか。店なのか、担当者個人なのか、譲り受けたという第三者なのか。
  2. 何について、いくらの合意なのか。裏づけとなる伝票や明細はあるか。
  3. 提供は実際にあったのか。将来分が混ざっていないか。
  4. 合意そのものを取り消したり無効を主張したりできる事情はないか。
  5. どれだけの時間が経っているのか。支払いを認める行為をしていないか。


支払義務そのものを争える場合

 合意の成立過程に問題がある場合には、支払義務そのものを争える余地があります。恋愛感情や好意を利用した勧誘については消費者契約法4条3項6号の取消し、だまされた・脅されたという事情があれば民法96条1項の取消し、未成年のときに親権者の同意なく行った契約であれば民法5条2項の取消し、内容が著しく不当であれば民法90条の公序良俗違反といった構成が考えられます。取消権には期間の制限がある点にも注意が必要です(消費者契約法7条1項)。

 ここで押さえておきたいのは、風営法違反にあたる事情があったとしても、それだけで売掛の支払義務が当然に消えるわけではないという点です。風営法は営業を取り締まるための法律であり、私法上の契約の効力を直接に左右するものではないと理解されています。もっとも、店側の勧誘や取立ての態様が18条の3や22条の2に触れうるという事実は、取消しや公序良俗違反を主張する際の評価材料になり得ます。行政の手続と民事の請求は、別々に進むものと考えておくのが実際的です。

時間の経過で変わること

 飲食代金の請求権は、権利を行使できることを知った時から5年で時効により消滅するのが原則です(民法166条1項1号)。店からの請求でも担当者個人からの請求でも、この点は同じです。

 注意したいのは、支払いを認める行為をすると時効が更新されることです(同152条1項)。一部だけ支払う、「必ず払います」と一筆入れる、分割払いを申し入れるといった行動は、いずれも承認と評価される可能性があります。仕分けが済まないうちにこうした対応をすると、後から内訳を検討する余地が狭まることがあります。急かされている場面でも、まず内訳の提示を求める順序をおすすめします。

仕分けのために残しておきたい資料


  • 伝票・明細・レシート・会計時に撮影した画像。
  • 請求の連絡そのもの(日時、差出人、文面、通話の記録)。
  • これまでの支払いの記録(振込明細、カードの利用明細、現金を渡した際のやり取り)。
  • 注文や売掛の話が出たときのメッセージのやり取り。
  • 借用書・念書・誓約書に署名を求められた場合は、その書面の写し。


対応するときに気をつけたいこと

 まず、請求を放置することはおすすめできません。訴状や支払督促が届いたにもかかわらず何もしないままでいると、内容を争う機会がないまま判決が出たり、財産の差押えに進んだりすることがあります。届いた書面の種類と期限は必ず確認してください。

 取立ての態様が度を越えている場合や、支払いのために働くことを求められた場合は、別の問題として対応する必要があります。この点は、取立ての規制と刑事罰を扱った記事、および支払いのための勤務を求められた場合を扱った記事で個別に解説しています。身の危険を感じる状況であれば110番、緊急でない相談は警察相談専用電話(♯9110)、契約に関する相談は消費生活センター(188)が窓口になります。女性の方は、女性相談支援センターの全国共通短縮ダイヤル(♯8778)も利用できます。

よくあるご質問


Q.売掛は廃止されたと聞きました。それでも請求されるのですか

 業界の自主規制として売掛の取りやめを表明した動きはありますが、法律で後払いが禁止されたわけではありません。また、自主規制はすべての店を拘束するものでもありません。過去に生じた債務が自主規制によって消えることもありませんので、請求自体は起こり得ます。

Q.風営法違反を指摘すれば支払いを拒めますか

 風営法違反の指摘だけで支払義務がなくなるわけではありません。行政処分や刑事処分は店側に向けられたものであり、返金や免除を命じる手続ではないためです。ただし、その事情は民事上の主張を組み立てるうえでの材料になります。

Q.担当者に直接手渡した現金は、売掛の支払いになりますか

 誰に対する債務を、誰に、いくら支払ったのかによって評価が変わります。店に対する債務であれば、担当者が受領権限を持っていたかが問題になり得ます。手渡しの場合は記録が残りにくいため、後から精算の食い違いが生じやすい点に注意が必要です。

まとめ


  • 注文して提供を受けた飲食代は、後払いであっても原則として支払義務があります。
  • 2025年の風営法改正でも、後払いという取引そのものが禁止されたわけではありません。
  • 売掛・前入金・立替・貸付といった名目ではなく、合意の中身で判断します。
  • 請求は「誰からか」と「何の費目か」に分けると、確かめる点が整理できます。
  • 遅延損害金の上限は、飲食代の後払いのままか貸金に組み替えられたかで枠組みが変わります。
  • 風営法違反にあたる事情があっても、支払義務が当然に消えるわけではありません。
  • 仕分けの前に一部を支払ったり一筆を入れたりすると、後から検討できる範囲が狭まることがあります。


 請求書の内訳を一つずつ確かめる作業は、金額が大きいほど、また相手との関係が近いほど、ご本人だけで進めるのが難しくなります。当事務所では、届いた請求の内容を整理し、支払義務の範囲や交渉の進め方についてご相談をお受けしています。

 池袋・新橋のいずれの事務所でもご相談いただけます。請求書や借用書、これまでのやり取りが残っているものをお持ちいただけると、より具体的なご説明が可能です。お一人で抱え込まず、早い段階でご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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