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「色恋営業は法律で禁止されたと聞いた。それなら、これまで支払ったお金は返してもらえるのではないか」。改正風営法が施行されて以降、こうしたご相談が寄せられるようになりました。
先に結論を申し上げると、風営法で色恋営業が禁止されたことそのものを根拠に、支払ったお金の返還を求めることはできません。風営法は営業のやり方を取り締まる法律であり、客と店との間の金銭を清算する仕組みを持っていないためです。
もっとも、これは返金の道がないという意味ではありません。返金を求める根拠は別の法律に用意されており、風営法に触れる営業が行われていたという事実は、その主張を支える材料になり得ます。本記事では、行政の規制と民事の請求がどこで切れ、どこでつながるのかを整理します。
「色恋営業の禁止」で何が決まったのか
いわゆる悪質ホストクラブをめぐる問題を受け、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の改正法が令和7年5月に成立・公布され、令和7年11月28日までに、そのすべての規定が施行されました。報道で「色恋営業の禁止」と呼ばれているのは、このうち接待飲食営業を営む風俗営業者の遵守事項として新設された規定(法18条の3)を指すのが一般的です。
警察庁が公表した改正の概要では、遵守事項として次の3つが挙げられています。
- 料金に関する虚偽の説明。
- 客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求。
- 客が注文していない飲食等の提供。
このうち2つ目が、色恋営業と呼ばれている部分です。条文は、客が接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ相手も自分に同じ感情を抱いていると誤信していることを知りながら、これに乗じて、飲食等をしなければ関係が破綻することになる旨を告げるなどして客を困惑させ、それによって遊興または飲食をさせる行為を禁じています。恋愛感情を交えた接客のすべてが違法とされたわけではなく、誤信に乗じて困惑させたという要素が置かれている点が、この規定の輪郭を決めています。
遵守事項と禁止行為では扱いが異なる
同じ改正の中でも、規定の性質によって違反した場合の帰結は変わります。
| 区分 | 主な内容 | 違反した場合 |
|---|---|---|
| 遵守事項(法18条の3) | 料金の虚偽説明、客の恋愛感情等につけ込んだ飲食等の要求、客が注文していない飲食等の提供 | 指示や営業停止などの行政処分の対象 |
| 禁止行為(罰則あり) | 注文や料金の支払等をさせる目的での威迫、支払のための売春・性風俗店勤務・AV出演等の要求 | 刑事罰の対象 |
色恋営業に関する規定は、前者の遵守事項として置かれています。つまり、その違反が直ちに刑罰につながる建て付けではなく、公安委員会による指示処分や営業停止命令といった行政上の措置が中心になります。
全国初の行政処分でも、返金が命じられたわけではない
令和8年2月、東京都公安委員会は、東京・歌舞伎町のホストクラブ2店舗に対し、色恋営業を理由とする指示処分を出しました。報道によれば、改正法の施行後、この理由での行政処分は全国で初めてとされています。
ただし、指示処分は営業の方法の改善を求めるものであり、店に対して客への返金を命じる制度ではありません。処分が出た店を利用していた方であっても、支払ったお金が自動的に戻ってくるわけではないという点は、押さえておく必要があります。
行政の規制と民事の請求が別に動く理由
行政法規に違反する営業が行われていたとしても、そのことから直ちに契約が無効になったり、返金を求める権利が生まれたりするわけではありません。この考え方は、古くから最高裁判所の判断にも表れています。
食品衛生法上の営業許可を受けていない者が行った食肉の買入契約について、最高裁判所は、同法は単なる取締法規にすぎず、許可の有無は取引の私法上の効力に影響を及ぼさないとしました(最判昭和35年3月18日)。取り締まりのための法律は、行政処分や罰則によって違反者に責任を負わせる仕組みであって、私人間の契約の効力を左右することを当然の目的とはしていない、という整理です。
風営法も、営業の許可、遵守事項、行政処分、罰則という組み立てで営業行為を規律する法律です。誰が誰にいくら返すのかという問題は、この法律の外側、すなわち民事のルールで決めることになります。警察庁が公表している悪質ホストクラブ対策のページでも、売春等を強要されているといった犯罪被害の相談は警察へ、契約の取消しに関する相談は消費生活センターや法テラスへ、と窓口が分けて案内されています。行政と民事が別のレイヤーで動いていることが、案内の形にも表れているといえます。
返金の根拠になり得る規定
では、実際に返金を求める場合、何を根拠にするのか。主に次の3つの筋道が考えられます。
消費者契約法による取消し
消費者庁は令和5年11月30日付けで、ホストクラブなどにおける飲食等の契約も消費者契約に当たり得るとして、好意の感情を不当に利用した契約、いわゆるデート商法に関する取消権(消費者契約法4条3項6号)の適用について周知文を公表しています。
この規定が適用されるためには、おおむね次の要素が必要とされています。
- 客が社会生活上の経験が乏しいことから、接客従業者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱いていること。
- 相手も自分に対して同じ感情を抱いていると誤って信じていること。
- 店側がそのことを知りながら、これに乗じたこと。
- 契約をしなければ関係が破綻することになる旨を告げられ、客が困惑して申込み等をしたこと。
消費者庁の周知文では、仮に相手が「恋人同士の個人的なやり取りだ」と主張していても、その者が消費者契約法上の事業者に該当し、要件に当たる勧誘をしていれば取消しの対象になり得ると説明されています。売掛金の立替えという形をとっていた場合も同様です。
一方で、「社会生活上の経験が乏しいこと」という要素があるため、年齢や職歴、これまでの取引経験によっては、この点が争点になることがあります。年齢だけで機械的に決まるものではありませんが、成人として相応の社会経験がある方の場合、この規定だけで押し切るのは難しい場面もあります。なお、契約の時点で18歳未満であった場合には、民法5条2項による未成年者取消しという別の道が考えられます。
民法の詐欺・強迫による取消し
最初から交際する意思がないのに交際をよそおって支出を重ねさせた、あるいは、断ろうとしたところ害を加える気配を示されて支払いに応じた、といった事情がある場合には、詐欺または強迫による取消し(民法96条1項)を主張することが考えられます。要件は消費者契約法より厳格で、欺く行為や害悪の告知があったことを、こちらの側で示していく必要があります。
公序良俗違反・不法行為
資産状況を調べたうえで支払能力を超える注文をさせていた、複数人で取り囲んで断れない状況を作っていたなど、勧誘の態様が社会的に許容される限度を超えている場合には、契約が公序良俗に反して無効である(民法90条)と主張したり、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として支払った金額相当の賠償を求めたりする余地があります。
風営法違反は民事でどう「使える」のか
風営法は返金の直接の根拠にはなりませんが、民事の主張を組み立てるうえで無関係でもありません。実務上、次のような使い方が考えられます。
- 勧誘の態様が社会的に許容される限度を超えていたことを示す、評価の裏づけとして用いる。
- 禁止されている類型の勧誘を組織的に行っていたことから、店側の認識や意図を推認する材料とする。
- 警察の立入りや行政処分の事実を、店の営業実態に関する客観的な手がかりとして示す。
ただし、行政処分を受けていない店だから民事上も問題がない、逆に処分を受けた店だから返金が認められる、という関係にはありません。行政処分は、その時点で確認できた事実に基づいて営業者に向けられる措置であり、個々の客との契約が取り消せるかどうかを判断したものではないからです。
取り消せても、全額が戻るとは限らない
契約の取消しが認められた場合、支払った代金は返還の対象になります。もっとも、こちらも飲食の提供という給付をすでに受けているため、その扱いが問題になります。
この点について消費者契約法は、給付を受けた当時、取り消すことができる契約だと知らなかった消費者は、現に利益を受けている限度で返還すれば足りると定めています(同法6条の2)。飲食してしまった分の価額を丸ごと差し引かれるとは限らない、という趣旨の規定です。とはいえ、実際にいくら戻るかは、注文の経緯、金額、消費の状況などを踏まえた個別の判断になり、交渉や訴訟で争いになることも少なくありません。
なお、まだ支払っていない売掛金の請求を拒む場面と、すでに支払ったお金を取り戻す場面とでは、動かす手続も、こちらが示すべき事情も変わってきます。同じ「色恋営業だった」という主張でも、どちらの局面にいるかによって進め方が異なる点にはご注意ください。
主張には期間の制限がある
返金を求める主張には、いずれも期間の制限があります。時間が経つほど選べる手段が減っていくため、早い段階で整理しておくことが望まれます。
| 主張の種類 | 期間の目安 |
|---|---|
| 消費者契約法に基づく取消し | 追認をすることができる時から1年、契約の締結時から5年 |
| 民法の詐欺・強迫に基づく取消し | 追認をすることができる時から5年、行為の時から20年 |
| 不法行為に基づく損害賠償 | 損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年 |
特に消費者契約法の取消権は期間が短く、「関係が終わってから考えよう」と時間を置いているうちに行使できなくなることがあります。
この場面では使いにくい手段
相談の中でよく挙がるものの、この場面では期待どおりに働きにくい手段もあります。
- クーリング・オフは、飲食店において飲食させる役務について、書面交付義務とともに適用が除外されているため、店内での飲食の契約に用いることは難しい。
- 警察への相談は、犯罪の有無を扱う手続であり、支払ったお金の返還を求める手続ではない。
- 店やホストが刑事責任を問われたとしても、それによって民事上の支払義務や返還の可否が自動的に決まるわけではない。
これらは「意味がない」ということではありません。身の危険がある場面で警察に相談することは何より優先されますし、刑事手続の中で明らかになった事実が民事の交渉に影響することもあります。ただ、返金という結果を得たいのであれば、民事の請求は別に立てる必要がある、ということです。
返金を検討するなら残しておきたいもの
民事の請求では、こちらの側で事実を示していくことになります。次のような資料は、時間が経つほど失われやすいため、早めに保全しておくことをおすすめします。
- 伝票、領収書、クレジットカードの利用明細、銀行の振込記録。
- 来店日と支払額を時系列で並べたメモ。
- やり取りが残っているメッセージアプリの履歴やSNSのダイレクトメッセージ。
- 売掛や立替えに関して署名した書面、借用書の写し。
- 支払いのために借入れをした場合の、その契約書や明細。
メッセージの履歴は、相手側から削除されたり、アカウントごと消えたりすることがあります。スクリーンショットだけでなく、日時と相手の表示名が分かる形で保存しておくと、後の説明がしやすくなります。
公的な相談窓口
弁護士に依頼する前の段階でも、次のような窓口を利用できます。
- 消費者ホットライン(188)では、契約に関する消費者トラブルの相談を受け付けている。
- 女性相談支援センター(♯8778)では、どこに相談してよいか分からない場合の相談に応じている。
- 法テラス(0570-078374)では、契約の取消手続など法的トラブルの相談窓口の案内を受けられる。
- 警察相談専用電話(♯9110)は、売春等を求められている、追われているといった場面のための窓口である。
色恋営業をめぐる返金でお困りの方へ
色恋営業の禁止は、店の営業を正すための規制であって、支払ったお金を取り戻すための制度ではありません。返金を求めるには、消費者契約法や民法に基づく主張を、事実と資料で組み立てていく必要があります。逆にいえば、行政処分が出ていない店であっても、勧誘の中身次第では返金を求められる場合があります。
当事務所では、男女間の金銭トラブルに関するご相談を数多くお受けしてきました。すでに支払ってしまったお金について何を主張できるのか、手元にある資料でどこまで示せるのか、相手方とのやり取りをどう進めるべきかについて、状況を伺ったうえで整理してご説明します。取り立てや連絡が続いている場合には、代理人として窓口を引き受けることも可能です。一人で抱え込まず、早い段階でご相談ください。


