交際相手が既婚とわかった後、どうすべきか|「続ける」「別れる」それぞれの法的リスク
「示談書に違約金の条項を入れたいのですが、いくらにしておけば安心でしょうか」。不貞をめぐる慰謝料の交渉が終わりに近づいた段階で、請求する側の方からこうしたご質問をいただくことがあります。その一方で、示談書を差し出された側の方からは「金額の欄に思っていたより大きな数字が入っていて、署名してよいのか判断がつきません」というご相談が寄せられます。
インターネットで調べると、違約金の定めは賠償額の予定として原則として有効であること、高すぎる場合には公序良俗に反して一部の効力が否定されることがあること、といった説明が並びます。いずれもその通りで、誤った説明ではありません。ただ、話が「有効か無効か」の一点に寄っているため、金額を決める前と、決めた後に何が起きるのかという部分が見えにくくなりがちです。違約金は、書いた瞬間に効き目が生まれる仕組みではなく、いくつかの段階を通って初めてお金として動くものだからです。
この記事では、「示談書 違約金 相場」という言葉で情報を探しておられる方に向けて、そもそも相場という言葉が何を指しているのか、金額を高く設定すると何が強くなり何が弱くなるのかを、請求する側と署名を求められた側の双方の視点から整理します。条項そのものの文言の書き方、接触禁止条項・口外禁止条項の設計、清算条項の射程、分割払いと公正証書については、それぞれ別の記事で扱っているため、ここでは深く立ち入りません。
この記事で扱うこと・扱わないこと
最初に範囲をはっきりさせておきます。違約金は示談書の他の条項と結びついているため、どこまでを一つの記事で扱うかを決めておかないと、かえって分かりにくくなるためです。
この記事で扱うこと
- 違約金条項が法律上どのような性質の約束として扱われるのか。
- 「相場」という言葉が違約金の場面で成り立ちにくい理由。
- 金額を高く設定したときに、どの段階で何が起きやすいのか。
- 請求する側・署名を求められた側それぞれの確認点。
この記事では扱わないこと
- 接触禁止条項・口外禁止条項そのものの文言の作り方と限界。
- 清算条項の射程と、支払った後に蒸し返されないための備え。
- 分割払いの条件設計、期限の利益喪失条項、公正証書の使い方。
- 慰謝料本体の金額がどのように組み立てられるか。
違約金条項は何を決めておく約束なのか
金額の話に入る前に、この条項がどういう性質のものかを確認しておきます。ここを押さえておくと、後の各段階の説明がつながりやすくなります。
あらかじめ賠償の額を決めておくという性質
民法は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額をあらかじめ決めておくことを認めています(民法420条1項)。示談書で「接触しない」「口外しない」「再び関係を持たない」と約束したうえで、それに反した場合に支払う金額を先に決めておくのが違約金条項です。そして、違約金は賠償額の予定と推定されると定められています(同条3項)。
この「あらかじめ決めておく」という点に、条項の実務的な意味があります。約束違反によって実際にどれだけの精神的苦痛が生じたのかを後から金額に置き換える作業は、当事者双方にとって負担が大きいものです。先に金額を決めておけば、違反があったかどうかという一点に争いを絞り込めるという利点があります。
定めていなくても請求の道がなくなるわけではない
違約金の定めがないと約束違反に何も言えなくなる、という説明を見かけることがありますが、そうとは限りません。示談後に改めて不貞関係が生じた場合には、それ自体が新たな不法行為として損害賠償の対象になり得ますし(民法709条)、示談書で約束した義務に違反したのであれば債務不履行として賠償を求める余地もあります(民法415条1項)。
つまり違約金条項は、あるかないかで請求の可否が決まる性質のものではなく、請求できる道が既にあるところに、金額と手順を先取りして置いておくものと理解しておくと実態に近くなります。金額を高くすることの意味も、この前提の上で考えることになります。
「相場」という言葉が違約金では成り立ちにくい理由
違約金の金額について調べると、いくつかの数字を目にすることがあります。ただ、それらは出どころの違う数字が同じ「相場」という言葉でまとめられていることが少なくありません。
三種類の数字が混ざっている
実際に流通している数字は、おおむね次の三つに分けられます。どれも参考にはなりますが、参考にできる範囲がそれぞれ違います。
| 数字の種類 | どこから出てくるか | 参考にできる範囲 |
|---|---|---|
| 慰謝料そのものの目安 | 過去の裁判例の集積 | 違約金の上限を考えるときの出発点にはなるが、違約金の額そのものではない |
| ひな形や記載例に載っている金額 | 書式を紹介する記事や書籍 | 文例を示すための例示であり、事案の重さを反映した数字ではない |
| 裁判で判断が示された金額 | 争いになり判決に至った事案 | その事案の経緯に強く結びついており、他の事案にそのまま当てはまるとは限らない |
慰謝料本体には、裁判例の積み重ねから導かれる一定の目安があります。これに対して違約金は、当事者が話し合って決める金額です(民法521条2項)。決め方の性質が違うため、同じ意味での相場という考え方がなじみにくいという事情があります。
表に出てくるのは争いになった事案だけ
違約金をめぐる裁判例が紹介されることがありますが、判決として世に出るのは、約束が破られ、しかも金額について当事者が譲らずに訴訟まで進んだ事案です。示談どおりに支払われて終わった事案や、話し合いで金額を調整して解決した事案は表に出てきません。母集団が偏っているため、公表された金額を並べても平均的な水準は見えてこないのです。
同じ金額でも引き金が違えば意味が変わる
仮に同じ金額が書かれていても、「連絡を一度取った場合」に発生する定めと、「再び不貞関係を持った場合」に発生する定めとでは、想定されている出来事の重さが大きく異なります。金額だけを取り出して他の事案と比べても、それが重い定めなのか軽い定めなのかは判断できません。金額を考えるときは、何が起きたら発生するのかという条件とセットで見る必要があります。
高く設定しても効き方が強くなるとは限らない理由
ここが本題です。違約金は、書いた金額がそのまま手元に入る仕組みではありません。実際にお金として動くまでには、いくつかの段階を通ることになります。金額を上げると、そのうちのいくつかの段階では、かえって通りにくくなる方向に働きます。
違約金が動くまでの四つの段階
段階ごとに問われることと、金額を上げたときに起きやすいことを並べると、次のようになります。
| 段階 | その段階で問われること | 金額を上げたときに起きやすいこと |
|---|---|---|
| 合意の段階 | 相手が条項の入った示談書に署名するか | 署名が得られず、示談自体がまとまらないことがある |
| 違反の段階 | 約束に反する行為があったと示せるか | 金額の高さは、違反があったことの裏づけにはならない |
| 金額の段階 | 定めた金額がそのまま認められるか | 著しく合理性を欠く部分について効力が争われやすくなる |
| 回収の段階 | 相手が現実に支払えるか | 支払能力を超えた部分は、書面上の数字にとどまりやすい |
四つのうち、金額を上げることでこちらに有利に働く段階はありません。むしろ、高い金額は最初の段階と最後の段階でつまずきやすくなるという関係にあります。以下、順に見ていきます。
合意の段階|署名されなければ条項は存在しない
示談書は当事者双方の合意によって成立するものです。相手が署名を拒めば、条項は書面の案文として残るだけで、何の効力も持ちません。高額な違約金の提示を受けた相手方が弁護士に相談し、その条項の削除を求めてくるという展開は、実務ではよくあります。結果として交渉が長引き、慰謝料本体の合意まで遠のくこともあります。抑止のための条項が、解決そのものを遠ざけてしまう形です。
違反の段階|金額の大小は立証を助けない
違約金を請求するには、まず約束に反する行為があったことを示す必要があります。連絡を取った、会った、事実を第三者に話したといった出来事は、こちらの側で確かめて示さなければなりません。相手が否定すれば、その点をめぐって争いになります。ここで問われるのは資料の中身であって、書面に書かれた金額の大きさではありません。金額を上げても、この段階の負担は変わらないということです。
金額の段階|著しく合理性を欠く部分は効力が否定され得る
当事者が決めた約束は原則として尊重されますが、その内容が公の秩序または善良の風俗に反する場合には効力が認められません(民法90条)。違約金についても、想定される損害の程度と比べて金額があまりに大きい場合には、一定額を超える部分の効力が否定されるという判断が示されることがあります。
なお、以前の民法420条1項には、賠償額の予定について「裁判所は、その額を増減することができない」という一文が置かれていました。この部分は平成29年の改正で削除されています。削除の理由は、改正前から公序良俗による制約は認められていたため、この一文を残すと誤解を招くという点にありました。裁判所を拘束するので定めた額がそのまま通る、という説明を見かけることがありますが、現在の条文はそのような書き方にはなっていません。
回収の段階|支払える範囲を超えた数字は動きにくい
最後に残るのが、実際に支払われるかという問題です。判決を得たとしても、相手に財産や収入がなければ回収は進みません。定めた金額が相手の支払能力から大きく離れているほど、任意の支払いは期待しにくくなり、分割の交渉や強制執行の手続に進むことになります。金額の大きさと、手元に入る可能性の高さは比例しないという点は、条項を作る段階で意識しておきたいところです。
金額より先に決まっていること
以上を踏まえると、条項の実効性を左右しているのは金額そのものよりも、その手前にある三つの決めごとであることが分かります。文言の具体的な作り方は別の記事に譲り、ここでは考え方だけを示します。
何が起きたら発生するのか
発生の引き金が広すぎると、日常の中で意図せず触れてしまう場面が出てきます。同じ職場や同じ路線を使っている場合、業務上必要な連絡や偶然の遭遇まで含まれる書き方になっていないかは、双方にとって確認しておきたい点です。引き金が曖昧なままだと、違反があったかどうかの入口で争いになり、金額の話に進む前に止まってしまいます。
一回をどう数えるのか
一回の違反につきいくら、という定め方をする場合、何をもって一回と数えるのかが問題になります。同じ日に複数回の連絡があった場合、やり取りが一往復続いた場合など、数え方によって総額は大きく変わります。ここが決まっていないと、請求する側は思ったほど請求できず、支払う側は想定していなかった総額を示されるという食い違いが生じます。
いつまで続く約束なのか
期間の定めを置かなければ、約束が半永久的に続くようにも読めてしまいます。この点については、条項が置かれた目的から効力の及ぶ範囲を考える必要があり、夫婦関係が続いていることを前提とした条項が、その後の事情の変化によってどう扱われるかという問題も出てきます。期間を定めておくことは、請求する側にとっても、条項の有効性を保つうえで意味のある選択です。
請求する側から見た確認点
ここからは立場ごとに整理します。まず、違約金条項を入れたいと考えている側です。
抑止のための条項か、回収のための条項か
同じ条項でも、目的が二つあります。約束を守ってもらうための歯止めとして置くのか、破られたときに実際にお金を受け取るために置くのか、です。抑止が主な目的であれば、相手が署名できる水準に収め、条項がきちんと成立していることのほうが重要になります。回収を重く見るのであれば、相手の支払能力と、違反があったことを示せるかどうかを先に検討することになります。この二つを分けずに金額だけを引き上げると、どちらの目的も達しにくくなります。
支払いを受けても約束が消えるわけではない
賠償額の予定を定めていても、それによって履行の請求や解除権の行使が妨げられることはありません(民法420条2項)。違約金を支払えば以後は自由に接触してよい、という意味の定めではないということです。もっとも、条項の書き方によっては相手にそのように受け取られることがあるため、約束そのものは支払いと関係なく続くという趣旨を明らかにしておく必要があります。
条項を入れることで交渉が長引くことがある
高額な違約金を提示すると、相手方がその点を集中的に争い、慰謝料本体の合意まで先送りになることがあります。早期に区切りをつけたいのか、将来の再発防止を重く見るのか、優先順位を決めたうえで条件を組み立てるほうが、結果として望む状態に近づきやすくなります。
署名を求められた側から見た確認点
次に、違約金条項の入った示談書を差し出された側です。
「どうせ無効になる」という前提は置かない
高額な違約金の一部について効力が否定された裁判例があることは事実ですが、これは金額が大きければそれだけで無効になるという意味ではありません。当事者が合意した内容は原則として尊重されるため、効力を争う場合には、争う側が主張と裏づけを組み立てることになります。署名の場でその負担を先送りしたことが、後になって重く戻ってくることがあります。
金額よりも先に引き金を読む
署名前に確認したいのは、金額の欄よりも、どのような行為が違反に当たると書かれているかです。日常生活の中で避けにくい行為まで含まれていないか、期間の定めがあるか、一回の数え方が示されているか。この三点は、金額の交渉より前に確かめておく価値があります。
請求を受けた後に確かめること
実際に違約金を請求された場合には、まず何を根拠に違反があったとされているのかを確かめます。示された資料が条項の定める行為に当たるのか、回数の数え方が条項の文言と合っているのか、支払いに応じることで何が終わるのかという点も含め、金額を提示された段階でそのまま応じる前に整理しておきたい事項です。
弁護士に相談する意味
違約金条項は、金額の一点だけを見て良し悪しを判断できる条項ではありません。引き金の広さ、期間、数え方、慰謝料本体との関係、清算条項との組み合わせといった要素が絡み合っており、そのうちの一つを動かすと他の部分の意味も変わります。
弁護士に相談すると、案文の段階で条項どうしの関係を確認し、相手が署名できる水準と、後から争いになりにくい書き方の両方を検討することができます。既に請求を受けている場合も、条項の文言と提示された資料を突き合わせ、どこに主張の余地があるかを整理したうえで対応を組み立てることになります。
よくあるご質問
ご相談の中でいただくことの多いご質問を三つ挙げます。
違約金の金額に決まった相場はありますか
慰謝料本体のような裁判例の積み重ねに基づく目安とは違い、違約金は当事者の合意で決める金額です。そのため、一律の水準を示すことは難しく、実務では、想定される約束違反の重さ、相手の支払能力、条項を置く目的といった事情から個別に検討していきます。
違約金を払えば、その後は接触してもよいことになりますか
そのようには考えられていません。賠償額の予定を定めても、履行の請求は妨げられないとされています(民法420条2項)。支払いによって約束そのものが消えるわけではなく、その後に同じ行為が繰り返された場合には、改めて問題になり得ます。
署名した後で金額が高すぎたと気づきました
署名した内容は原則として効力を持ちますので、後から一方的に減額できるわけではありません。もっとも、想定される損害の程度と比べて金額が著しく大きい場合には、その一部について効力を争う余地が残ることもあります。判断には条項の文言と成立の経緯の確認が必要になりますので、書面を手元に置いたうえでご相談ください。
まとめ
- 違約金条項は、債務不履行についてあらかじめ賠償の額を決めておく定めであり、違約金は賠償額の予定と推定される(民法420条1項・3項)。
- 違約金を定めていなくても、新たな不法行為や債務不履行としての請求の余地は残る(民法709条・415条1項)。
- 「相場」として語られる数字には、慰謝料本体の目安、ひな形の例示、裁判で判断された金額が混ざっており、性質が異なる。
- 違約金が実際に動くまでには、合意・違反の立証・金額の維持・回収という四つの段階があり、金額を上げても強くなる段階はない。
- 当事者の合意は原則として尊重される一方、内容が公序良俗に反する場合には効力が認められない(民法90条)。
- 賠償額の予定について裁判所が増減できないとしていた条文の一部は、平成29年の改正で削除されている。
- 違約金を支払っても、履行の請求が妨げられるわけではない(民法420条2項)。
- 金額よりも、何をもって違反とするか、一回をどう数えるか、いつまで続く約束かのほうが、条項の働き方を左右する。
示談書の違約金条項でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。示談書の案文を作成する段階でのご相談にも、既に差し出された書面についてのご相談にも対応しています。
違約金の金額を決めかねている方も、届いた示談書の条項に不安を感じている方も、署名や支払いの前の段階でご相談いただくことで、選べる対応の幅が広がります。書面が手元にある場合は、その内容を確認しながら、今後の進め方を一緒に整理いたします。


