【親子問題】子の問題で親自身が限界|親が先に休むための手配
この記事は、2026年10月時点の民法・家事事件手続法・人事訴訟法・戸籍法にもとづき、普通養子縁組で養子がすでに成人している場合の離縁を、主に養親の立場から説明しています。特別養子縁組や、養子が未成年の場合の離縁は、手続や要件が異なる部分があります。
相談の場では、「成人した養子が家に来ては金銭を求める。縁組を解消したい」という養親の方の声をお聞きします。相続のことを考えて孫や娘婿と縁組をしたものの、その後に関係が変わってしまったというご相談もあります。反対に、「養親から突然、離縁届に署名するよう求められた」という養子の側からのお話を伺うこともあります。
「実の親子と違って、養子とは離縁できる」という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、養子が応じない場合に裁判所が離縁を認めるには一定の事情が必要で、関係が悪くなった原因がどちらにあるかも問われます。また、離縁によって終わるのは法律上の関係であり、同居の状態や、これまでに渡した財産がそのまま整理されるわけではありません。
この記事では、普通養子縁組で養子が成人している場合について、離縁の手続、養子が応じないときの見通し、親子問題として離縁を考えるときの注意点を整理します。暴力や金銭の要求への当面の対応は、それぞれのテーマの記事に委ねます。
実子と養子の違い|「離縁」という制度があること
実の親子関係は法律上解消する手続がない
実の親子の関係については、親の側から法律上の関係を解消する手続がありません。成人した子との関係に悩んでいても、扶養義務(民法877条1項)や相続の関係は残るため、生活上の距離を置く方法を工夫することになります。
普通養子縁組は離縁によって解消できる
これに対し、養子縁組によって生じた親子関係は、離縁によって解消できます。当事者の協議で離縁することができ(民法811条1項)、協議が調わなければ家庭裁判所の手続を利用します。離縁によって、養親と養子の親子関係だけでなく、養子やその配偶者、縁組後に生まれた養子の子孫と、養親側の親族との親族関係も終わります(同法729条)。
離縁で変わること・変わらないこと
離縁による主な変化は次のとおりです。
| 項目 | 離縁によってどうなるか |
|---|---|
| 扶養義務 | 親子としての扶養義務はなくなる |
| 相続 | 養子は養親の相続人ではなくなる(養親も養子の相続人ではなくなる) |
| 養子の氏 | 原則として縁組前の氏に戻る(民法816条1項) |
| 養子の子(孫) | 縁組後に生まれた子と養親側との親族関係も終わる |
| すでに渡した財産 | 離縁によって当然に戻るわけではない |
| 同居・居住 | 事実上の同居は、別に整理が必要になる |
養子が成人している場合の協議離縁
養子本人と合意し、届出をする
養子が成人していれば、話し合いの相手は養子本人です。合意ができたら、成年の証人2人が署名した離縁届を市区町村に届け出ます(民法812条・739条)。合意しただけでは離縁の効力は生じず、届出が受理されて初めて離縁が成立します。署名をもらったまま提出を先延ばしにすると、その間に相手の気持ちが変わることもあります。
養親が夫婦の場合は、それぞれの関係として考える
夫婦がともに養親となっていても、養子が成人していれば、夫婦の一方だけが離縁することもできます。未成年の養子と離縁するときは夫婦が共にしなければならないとされていますが(民法811条の2)、成人の養子にはこの定めは及びません。一方の養親とだけ離縁したときは、養子の氏は変わりません(同法816条1項ただし書)。夫婦の間で考えが分かれている場合も、それぞれの意思で判断することになります。
届出をめぐる行き違いを防ぐ
相手の署名を得ないまま離縁届を作成して提出すると、文書偽造などの罪に問われるおそれがあります(刑法159条1項・157条1項など)。反対に、知らないうちに届出をされることが心配な場合は、市区町村に不受理申出をしておくと、本人が窓口に来たことを確認できない届出は受理されません(戸籍法27条の2第3項)。署名済みの離縁届を相手の手元に残したままにしている場合などに検討されます。
養子が応じない場合|調停から訴訟へ
まず家庭裁判所に離縁の調停を申し立てる
話し合いがまとまらないときは、家庭裁判所に離縁の調停を申し立てます。離縁の訴えを起こす前には、原則として調停を経る必要があります(家事事件手続法257条1項)。調停で合意して調書に記載されると確定判決と同じ効力が生じ(同法268条1項)、申立人はその後10日以内に届出をします(戸籍法73条1項・63条1項)。調停が成立しない場合でも、家庭裁判所が相当と認めるときは調停に代わる審判がされることがありますが(家事事件手続法284条)、異議が出れば効力を失います。
訴訟で離縁が認められる場面
調停で解決しないときは、離縁の訴えを起こすことになります(人事訴訟法2条3号)。民法は、離縁の訴えを起こせる場合を次の3つに限っています(民法814条1項)。
- 相手から悪意で遺棄されたとき。
- 相手の生死が3年以上明らかでないとき。
- その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
成人した養子との関係で問題になることが多いのは、3つ目の「縁組を継続し難い重大な事由」です。
「重大な事由」はどのように判断されるか
この事由があるかどうかは、養親子としての関係が壊れて回復が見込めないといえるかを、縁組の目的や経緯、これまでの交流、対立の内容など多くの事情から総合的に判断するものとされています。裁判例では、養子が高齢の養親に暴言や暴行を繰り返した事案(最高裁昭和60年12月20日判決)のほか、長期間の別居や音信不通、財産や家業をめぐる深刻な対立、婿養子として縁組した養子の夫婦関係の破綻などが考慮されてきました。
一方で、関係が悪くなった原因を主につくった側から、相手の意思に反して離縁を求めることは許されないとするのが最高裁判所の判例です。「遺産を渡したくなくなった」「気持ちが離れた」という理由だけでは、裁判所が離縁を認める見通しは立ちにくいと考えられます。どのような経緯で関係が変わったのかを、時系列で整理しておくことが出発点になります。
親子問題として離縁を考えるとき
暴力や金銭の要求があるときは、安全と記録を先に
成人した養子から暴力を受けている、繰り返し金銭を求められているという場合、離縁の手続には時間がかかるため、当面の安全の確保を先に考える必要があります。暴言や暴行、要求の日時と内容、受診の記録、警察への相談の記録は、身を守るためだけでなく、後に「縁組を継続し難い重大な事由」を説明する材料にもなります。当面の対応は、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録と【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで整理しています。
離縁しても、同居が自動的に終わるわけではない
離縁が成立しても、養子が養親の家に住み続けている状態が当然に解消されるわけではありません。家からの退去は、建物の所有や使用の関係として別に検討する必要があり、鍵を替えて締め出すといった自力での対応には法的なリスクがあります。退去の問題は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しをご覧ください。
離縁が難しい場合に考えられる手当て
養子が応じず、裁判でも離縁が認められる見通しが立たないこともあります。その場合でも、相続については別の手当てが考えられます。遺言で財産の分け方を決めておくことができ、養子には遺留分が残るものの(民法1042条)、養子から虐待や重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合には、家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求したり、遺言で廃除の意思を示したりする方法があります(同法892条・893条)。廃除も家庭裁判所の判断によるため、認められるかどうかは事情によります。
離縁の前に確かめておきたいこと
縁組の目的と、ほかの家族への影響
相続のことを考えて孫や娘婿と縁組をしている場合、離縁によって法定相続人の数が変わり、相続税の基礎控除額などに影響が出ることがあります。また、縁組後に生まれた養子の子は、離縁によって養親側との親族関係がなくなるため、養子が先に亡くなった場合に孫として相続する(代襲相続)こともなくなります。離縁は当事者2人だけの問題にとどまらないため、ほかの家族への影響を含めて考えておくことが大切です。
離縁後の養子の氏と戸籍
養子は原則として縁組前の氏に戻り、養親の戸籍から抜けます。縁組の日から7年を経過していれば、離縁の日から3か月以内に届け出ることで、離縁の際に称していた氏を使い続けることもできます(民法816条2項、戸籍法73条の2)。養子の仕事や生活への影響が大きい場合、この点が話し合いの材料になることもあります。
縁組そのものに問題がないか
縁組の届出の当時、当事者に縁組をする意思がなかった場合には、離縁ではなく縁組の無効が問題になります(民法802条1号)。縁組の経緯に不明な点があれば、離縁の手続に入る前に確認しておく必要があります。
よくあるご質問
離縁が成立する前でも、養子からの生活費の要求は断れますか。
成人した子に対する親の扶養義務は、自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で負うものと考えられています。養子縁組が続いている間も同じで、求められるまま応じなければならないわけではありません。扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで説明しています。
離縁すれば、これまで養子に渡したお金は返してもらえますか。
離縁によって、過去の贈与が当然に取り消されるわけではありません。書面によらない贈与でも、すでに渡し終えた分は撤回できないのが原則です(民法550条)。一方、貸したお金であれば返還を求めることができ、扶養や介護を約束してもらう代わりに財産を渡した場合(負担付贈与)には、約束が果たされないことを理由に契約を解除できる場合があります(同法553条)。渡したときの経緯と記録が重要になります。
養子と連絡が取れず、居場所も分かりません。
生死が3年以上明らかでない場合は、それ自体が離縁の訴えの理由になります(民法814条1項2号)。生存は分かっていても所在が分からない場合には、調停を経ずに訴えを起こすことが認められる場合があり(家事事件手続法257条2項ただし書)、訴訟では公示送達という方法で手続を進められることもあります。まずは住民票や戸籍の附票などで所在を調べることから始めます。
まとめ
- 実の親子と異なり、養子縁組による親子関係は離縁によって解消でき、養親側との親族関係も終わる(民法811条1項・729条)。
- 養子が成人していれば養子本人と協議し、成年の証人2人が署名した離縁届が受理されることで離縁が成立する(同法812条・739条)。
- 養親が夫婦でも、成人の養子とは夫婦の一方だけで離縁できる(同法811条の2参照)。
- 養子が応じないときは離縁調停を経て、離縁の訴えで「縁組を継続し難い重大な事由」などを主張する(家事事件手続法257条1項、民法814条1項)。
- 関係悪化の原因を主につくった側からの請求は認められにくく、経緯を時系列で整理しておくことが出発点になる。
- 暴力や金銭の要求があるときは、手続より先に安全と記録を確保する。離縁しても同居は自動的には解消しない。
- 離縁が難しい場合でも、遺言や推定相続人の廃除という手当てがある(民法892条・893条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子との関係に悩む親御さんからのご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親の代理人として養子との連絡や交渉の窓口となり、必要に応じて自立支援カウンセラーと連携しながら、離縁の手続と生活の立て直しを並行して進めます。
養子との関係を解消すべきか迷っている段階でも、経緯を伺ったうえで見通しをお伝えします。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。


