【男女トラブル】婚姻届への署名を迫られている|勝手に出されないための不受理申出

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は、2026年10月時点の戸籍法27条の2、民法739条・742条・747条、家事事件手続法、刑法157条〜161条などに基づいて作成しています。刑法の法定刑は、2025年6月1日施行の改正により「懲役」が「拘禁刑」に改められた後の表記によっています。不受理申出の受付方法や必要書類は市区町村によって細かな違いがあるため、実際に申し出る前に、本籍地または窓口となる市区町村の案内をご確認ください。


「別れ話をしたら、婚姻届に署名するまで帰さないと言われた」「交際中に一緒に書いた婚姻届が、相手の手元に残ったままになっている」。男女間のトラブルのご相談では、婚姻届への署名を迫られている方や、以前に書いた届の行方が気がかりな方からのお話を伺うことがあります。

 勝手に婚姻届を出されないための方法として、市区町村の窓口に「不受理申出」をしておく制度がよく知られています。この説明自体は正しいものですが、署名を迫られている段階で何に気をつけるか、すでに署名してしまった場合にどう考えるか、申出をした後に何が起きるのかといった点は、手続の案内だけでは見えにくいところがあります。

 この記事では、婚姻届への署名を迫られている方を主な読者として、不受理申出の手続と効力、申出だけでは防げないこと、すでに届を出されてしまった後の手続までを順に整理します。迫り方そのものが脅しやつきまといに及んでいる場合の刑事上の対応は、別の記事で詳しく扱っていますので、該当する箇所でご案内します。

婚姻届は「書いた」だけでは結婚にならない|成立の仕組みと危うさ

婚姻は届出が受理されることで成立する

 婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることで効力を生じます(民法739条1項)。婚姻届に署名しただけの段階では、まだ結婚は成立していません。そして、当事者の間に婚姻をする意思がないときは、その婚姻は無効とされています(民法742条1号)。

 婚姻の意思は、届書を作成した時点だけでなく、届出が受理される時点でも続いている必要があると考えられています。最高裁判所は、婚姻の意思に基づいて届書を作成した場合には、受理の前に翻意したなどの特段の事情がない限り、受理によって婚姻が有効に成立すると判断しています(最高裁昭和44年4月3日判決)。裏返すと、受理の前に気持ちが変わっていたことが示せれば、無効を主張する手がかりになります。

窓口は、届書の内容が本人の意思かどうかまでは確かめない

 婚姻届が窓口に持ち込まれると、市区町村は、出頭した人が届出の当事者本人かどうかを運転免許証などで確認します(戸籍法27条の2第1項)。ただ、確認されるのは窓口に来た人の身元であり、来ていないもう一方の当事者が本当に結婚を望んでいるかまでは確かめられません。

 当事者の一方しか窓口に来ていない場合には、受理した後に、来なかった方へ届出を受理したことが通知されます(同条2項)。しかし、この通知が届くのは受理の後です。通知で事態に気づけたとしても、その時点で戸籍にはすでに婚姻の記載がされているという点が、事前の備えが求められる理由です。

受理された後に戻すには裁判所の手続が必要になる

 無効な婚姻であっても、いったん戸籍に記載されると、窓口に申し出るだけでは元に戻りません。婚姻については、家庭裁判所の許可による戸籍訂正の対象から外されており(戸籍法114条)、婚姻が無効であることを裁判所の手続で確定させたうえで、戸籍の訂正を申請する流れになります(同法116条1項)。時間も労力もかかるため、出される前に止めておく意味は小さくありません。

署名を迫られている段階でできること

その場で署名しない、署名しない意思をはっきり伝える

 「書くだけでいいから」「出すかどうかは後で決める」と言われても、署名した届書が相手の手元に残れば、いつ提出されるか分からない状態が続きます。迫られている場面では、その場では署名しないこと、結婚するつもりがないことを言葉や文面で明確にしておくことが、後のどの手続にも役立ちます。

 口頭で伝えた場合でも、同じ内容をLINEやメールで送っておくと、いつ、どのような意思を示したかが記録として残ります。話し合いの場を記録しておくかどうかについては、【男女トラブル】別れ話を録音しておくべきか|交際を終える話し合いでの記録の作り方もあわせてご覧ください。

不受理申出を、署名を断るのと同時に進める

 署名を断っても、相手が届書を自分で用意し、署名欄を書き込んで提出するおそれが残ります。署名を迫られていること自体が、不受理申出を検討するきっかけになります。申出は相手の了解なく本人だけで行えるもので、申出をしたことが相手に知らされる仕組みにはなっていません。手続の具体的な内容は次の章で整理します。

迫り方が脅しやつきまといに及んでいるとき

 署名しなければ危害を加えると告げて署名させようとする行為は、強要罪(刑法223条)に当たる可能性があります。また、恋愛感情などを満たす目的で、交際や婚姻といった義務のないことを繰り返し要求する場合には、ストーカー規制法上のつきまとい等(同法2条1項3号)として扱われる場面もあります。

 「出さないなら死ぬ」「別れるなら家族に知らせる」といった言葉が伴う場合は、届出の問題とは別に、身の安全を確保する対応が必要です。脅しへの刑事対応は元恋人からの脅迫・強要|「別れるなら〜」への刑事対応(脅迫罪・強要罪)で、要求が繰り返される場合の整理は復縁を執拗に迫られる|復縁強要とストーカーの境界で、自傷をほのめかされている場合は「別れたら死ぬ」と言われて別れられない|自傷をほのめかす相手への対応で、それぞれ詳しく扱っています。

不受理申出の手続|誰が、どこで、何を持って行うのか

申出ができる人と、対象になる届出

 不受理申出は、自分を当事者とする婚姻、離婚、養子縁組、養子離縁、認知の届出について、自分が窓口に出頭して届け出たことが確認できない限り受理しないよう、あらかじめ申し出ておく制度です(戸籍法27条の2第3項)。婚姻届の場合、申出ができるのは夫または妻になる本人です。

 家族が心配して代わりに申し出たいというご相談もありますが、成人した本人に代わって親などが申し出ることはできません。申出は、届出の当事者本人が自ら行う手続であるという前提で準備を進めることになります。

申出先と必要なもの

 手続の概要は次のとおりです。

項目内容
申出人婚姻届の当事者本人(夫または妻になる人)
申出先本籍地の市区町村の戸籍窓口(住所地などの窓口でも受け付けて本籍地へ送付する扱いがありますが、できるだけ本籍地への申出が勧められています)
必要なもの不受理申出書、運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなどの本人確認書類
申出の方法原則として本人が窓口に出頭して行い、郵送や代理人による申出は原則として認められていません
効力の期間期限はなく、取り下げるまで続きます


 病気などのやむを得ない事情で窓口に出向けない場合には、本人の意思を明らかにする公正証書を提出するなどの方法で申し出られることがあります(戸籍法施行規則53条の4第4項)。該当する場合は、申出先の市区町村にあらかじめ相談しておくと手続が進めやすくなります。休日や夜間の窓口では不受理申出を取り扱わない自治体もあるため、開庁時間に出向くのが確実です。

相手を特定する申出と、特定しない申出

 不受理申出は、婚姻の相手方を特定して行うことも、特定せずに行うこともできます。署名を迫っている相手が分かっている場合には、その人を特定して申し出る方法がありますが、相手が別の人物を使って届出をするおそれまで心配な場合には、相手を特定しない申出を選ぶ考え方もあります。

 なお、申出をした後に本籍を移した場合、申出は新しい本籍地に対するものとして引き継がれます。申出後に転籍や引っ越しをしても、改めて申し出る必要があるかは、窓口で確認しておくと安心です。

申出をした後に起きること、防げないこと

相手が婚姻届を出しても受理されず、本人に通知が届く

 不受理申出がされている場合、申出人本人が窓口に出頭して届け出たことが確認できない限り、市区町村はその婚姻届を受理できません(戸籍法27条の2第4項)。相手が窓口に持参した場合はもちろん、郵送で提出した場合も同じです。

 受理できなかったときは、申出人に対し、そのような届出があったことが通知されます(同条5項)。この通知は、相手が実際に届出を試みたことを示す資料になります。届出に至った経緯とあわせて、警察や弁護士に相談する際の手がかりとして保管しておくとよいでしょう。

自分が結婚を決めたときの扱い

 申出をしていても、本人が窓口に出頭し、本人確認を受けて届け出る場合には、婚姻届は受理されます。そのため、将来ほかの方と結婚する際に、必ずしも事前の取下げが必要になるわけではありません。ただし、相手方だけが届書を持参する場合や郵送で提出する場合には受理されないため、届出の段取りによっては取下げを検討することになります。取下げも、原則として本人が窓口で本人確認を受けて行います。

申出だけでは防げないこと

 不受理申出は、申出の後に提出される届出を止める制度です。申出より前に受理されてしまった婚姻届には効力が及ばず、その場合は次の章で述べる裁判所の手続が必要になります。また、申出は届出を受け付けないという効果にとどまり、相手からの連絡や待ち伏せそのものを止めるものではありません。接触が続く場合には、別途、警告や接近禁止といった手段を検討します。

すでに署名してしまった、届書を渡してしまった場合

結婚する意思がないことを、受理の前に伝えておく

 交際中に一緒に婚姻届を書いた、迫られて署名してしまったという場合でも、提出されていなければまだ婚姻は成立していません。先に触れたとおり、婚姻の意思は受理の時点でも必要とされているため、結婚するつもりがなくなったことを、提出される前に相手へ伝えておくことが重要になります。

 伝えた事実が後から確認できるよう、文面で送る、内容証明郵便を使うといった方法が考えられます。あわせて、手元にある届書の返還を求め、不受理申出をできるだけ早く済ませておくことで、提出される危険と、提出された場合の争いの両方に備えることができます。

脅されて署名した場合の考え方

 強迫によって婚姻をした場合、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができます(民法747条1項)。ただし、この取消権は、強迫を免れた後3か月が経過したとき、または追認をしたときに消滅します(同条2項)。脅されて署名した書面の効力をどう考えるかについては、脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで、無効と取消しの違いを詳しく解説しています。

婚約の解消として争われる場面もある

 婚姻届に署名したことは、結婚の約束があったことを示す事情として扱われることがあります。そのため、届出を止めたことをきっかけに、相手から婚約を一方的に破棄されたとして慰謝料を求められるケースも考えられます。婚約の解消に正当な理由があるかどうかの考え方は、結婚をやめたい|婚約の解消で慰謝料を払わずに済む「正当な理由」とはをご参照ください。

勝手に出されてしまった後の手続

まず、届書の記載内容を確認する

 受理の通知が届いた、戸籍証明書を取り寄せたら婚姻の記載があったといった形で事態に気づいた場合は、どのような届書が提出されたかを確認するところから始めます。利害関係人は、特別の事由がある場合に限り、届書の閲覧や記載事項の証明書を請求することができます(戸籍法48条2項)。署名の筆跡や証人欄の記載は、後の手続で婚姻の意思がなかったことを示す材料になります。

婚姻無効の調停・訴訟と、戸籍の訂正

 婚姻の無効を確定させるには、原則としてまず家庭裁判所に調停を申し立てます(家事事件手続法257条1項)。当事者の間で無効について合意ができ、家庭裁判所が必要な事実を調べたうえで相当と認めれば、合意に相当する審判がされます(同法277条1項)。相手が応じない場合や調停に出てこない場合には、婚姻無効の訴えを起こすことになります(人事訴訟法2条1号)。

 審判や判決が確定したら、確定した日から1か月以内に、その謄本を添えて戸籍の訂正を申請します(戸籍法116条1項)。無効が確定するまでは、戸籍上は婚姻の記載が残り続けるため、ほかの方との結婚や相続の場面にも影響が及び得ます。

刑事上の扱い

 他人の署名を書き込んで婚姻届を作成し、窓口に提出する行為は、有印私文書偽造罪・同行使罪(刑法159条1項・161条1項、いずれも3月以上5年以下の拘禁刑)に当たる可能性があります。虚偽の届出によって戸籍に不実の記録をさせた点は、電磁的公正証書原本不実記録罪・同供用罪(同法157条1項・158条1項、5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)の問題となります。

 電磁的公正証書原本不実記録罪には未遂を処罰する規定があり(同法157条3項)、不受理申出によって届出が受理されなかった場合でも、刑事上の問題になり得ます。署名の代筆がどこまで私文書偽造に当たるかは書類にサインを代筆した|私文書偽造罪の成立範囲で、警察への届け方は被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで扱っています。

よくあるご質問

不受理申出をしたことは、相手に知られますか

 申出をしたことが相手に通知される仕組みにはなっていません。相手が知るのは、相手が婚姻届を提出しようとして受理されなかった場面などに限られます。ただし、受理されなかった理由を相手が窓口でどう受け止めるかによって、相手の態度が変わることも考えられるため、身の安全に不安がある場合は、申出とあわせて相談先を確保しておくことをおすすめします。

相手が書いた婚姻届を返してくれません。どうすればよいですか

 返還を求めることと並行して、不受理申出を先に済ませておくのが現実的です。届書が相手の手元に残っていても、申出がされていれば、本人が出頭しない限り受理されません。あわせて、結婚する意思がないことを文面で伝え、その記録を残しておくと、仮に申出前に提出されていた場合の手続にも役立ちます。

申出に有効期限はありますか

 有効期限はなく、取り下げるまで効力が続きます。相手との関係が落ち着いた後も、相手が届書を持っている可能性がある間は、申出を維持しておく考え方もあります。取下げの要否は、ご自身が結婚する際の届出の段取りに合わせて判断すれば足ります。

まとめ


  1. 婚姻は届出の受理によって成立し、当事者に婚姻の意思がなければ無効とされる(民法739条1項・742条1号)。
  2. 婚姻の意思は受理の時点でも必要とされ、受理前の翻意は無効を主張する手がかりになる(最高裁昭和44年4月3日判決)。
  3. 不受理申出をしておけば、本人の出頭が確認できない婚姻届は受理されず、届出があったことが本人に通知される(戸籍法27条の2第3項〜第5項)。
  4. 申出は本人が原則として窓口に出頭して行い、期限はなく取り下げるまで効力が続く。
  5. 申出より前に受理された届出には効力が及ばず、無効の確定には調停・審判・訴訟が必要になる(家事事件手続法257条1項・277条1項、戸籍法116条1項)。
  6. 脅されて署名した場合は婚姻の取消しを請求でき、強迫を免れた後3か月で取消権が消滅する(民法747条)。
  7. 届書の偽造や虚偽の届出は、有印私文書偽造罪や電磁的公正証書原本不実記録罪の対象になり得る(刑法157条・159条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。婚姻届への署名を迫られている、交際相手との話し合いが進まないといった段階から、相手との連絡の窓口を弁護士が担い、警察への相談と並行して対応を進めることも可能です。

婚姻届への署名を迫られていて不安を感じている方も、身に覚えのない婚姻届を出されてしまった方も、一人で抱え込まず、お早めにご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【男女トラブル】婚姻届への署名を迫られている|勝手に出されないための不受理申出

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼