ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方
別れたはずの相手から「もう一度やり直したい」と繰り返し求められている。断っても連絡が続き、自宅や職場の近くで待たれていることもある——こうしたご相談は、男女を問わず寄せられます。
このとき多くの方が迷うのが、「相手は復縁を望んでいるだけで、脅されているわけではない。これを被害と呼んでいいのか」という点です。復縁を求めること自体は、それだけで犯罪になるわけではありません。一方で、ストーカー規制法は「復縁の要求」を明文で規制対象に含めています。境界は、行為の中身ではなく、目的・類型・態様・繰り返しという四つの条件の重なり方で決まります。
この記事では、どこまでが法の外側で、どこからが法の内側なのかを整理し、境界を越える前の段階でも使える手続きまでを解説します。
この記事の要点
- 「復縁強要罪」という罪名はなく、ストーカー規制法・脅迫罪・強要罪などに振り分けて考える
- 復縁の要求はストーカー規制法2条1項3号に明記されており、警視庁も例示している
- 「拒まれたにもかかわらず」は5号(連続した電話等)の条文上の要件で、3号の要件ではない
- 1回だけでも「つきまとい等」には当たり得るため、繰り返される前でも禁止命令の対象になり得る
- 記録すべきは回数だけではなく、時刻・場所・拒否後の継続といった「態様」
「復縁強要罪」という罪名はありません
刑法にもストーカー規制法にも、「復縁強要罪」という犯罪はありません。実際の相談では、迫られ方の中身に応じて、次のように別々の法律へ振り分けて検討することになります。
| 迫られ方 | 主に検討する法律 |
|---|---|
| 復縁や面会を求める働きかけが繰り返される | ストーカー規制法(2条1項3号ほか) |
| 「復縁しないなら〜する」と害を加える旨を告げられる | 脅迫罪(刑法222条) |
| 脅されて、復縁の承諾や念書の作成をさせられた | 強要罪(刑法223条) |
| 復縁の話に金銭の要求が伴っている | 恐喝罪(刑法249条) |
| 自宅や勤務先に立ち入られた、退去に応じない | 住居侵入罪・不退去罪(刑法130条) |
一つの出来事が複数に当てはまることも珍しくありません。「これは何罪か」を先に決める必要はなく、起きたことをそのまま記録しておけば、どの枠組みで動かすかは後から選べます。
脅迫罪・強要罪の成立範囲や刑事手続の進め方は別のコラムで詳しく扱っていますので、そちらもあわせてご覧ください。
ストーカー規制法での境界は「四つの条件」で決まる
ストーカー規制法は、次の四つを順に検討する構造になっています。復縁を迫られている場面は、このうち最初の二つを満たしやすいという特徴があります。
① 目的――恋愛感情その他の好意の感情、またはその不充足による怨恨
規制の対象になるのは、特定の人に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を満たす目的で行われた行為です。
復縁の要求は、この目的要件が問題になりにくい類型です。動機がわからない嫌がらせの場合、「なぜこの人が」という説明に苦労することがありますが、復縁を求める言葉そのものが目的を示しているためです。相手に害を加えるつもりがあったかどうかは要件ではありません。
② 類型――「復縁の要求」は条文に書かれている
ストーカー規制法2条1項3号は、「面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること」を規制対象としています。警視庁も、この類型の例として「面会や交際、復縁等義務のないことをあなたに求める」ことを挙げています。復縁の要求は、解釈で無理に読み込むものではなく、正面から想定されている行為です。
もっとも、復縁の要求が3号だけで完結することは多くありません。実際には、次のように複数の類型にまたがっていきます。
- 自宅や勤務先の付近で待つ、押しかける、うろつく → 1号
- 拒否した後も電話やメッセージが連続する、無言電話 → 5号
- 断られた際に大声を出す、粗暴な内容の連絡をする → 4号
- 帰宅直後に「おかえり」と送るなど、監視していると思わせる → 2号
1号の「住居等」には、自宅だけでなく勤務先や学校、そのときいる場所や普段いる場所が含まれます。また、規制の対象となる相手方は本人だけでなく、配偶者や直系・同居の親族、社会生活において密接な関係を有する人も含まれます。家族や現在の交際相手、職場の同僚への働きかけも、切り離して考える必要はありません。
③ 態様――「不安を覚えさせるような方法」かどうか
ここが、多くの解説で省かれている部分です。1号から4号まで、および5号のうち電子メールの送受信に関する部分については、身体の安全、住居等の平穏もしくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法で行われた場合に限られます。
つまり、3号の復縁要求も、この態様の限定を受けます。「何回言われたか」だけでは足りず、どのような形で言われたかが評価の対象になります。記録を残すときは、回数に加えて次の点を書き添えておくと、後の説明が具体的になります。
- 日時(特に深夜・早朝か)
- 場所(自宅前、勤務先の入口、通勤経路など)
- どのくらいの時間そこにいたか、どの距離まで近づいたか
- こちらが拒否を伝えた後の出来事かどうか
- そのとき自分がどう感じ、どう行動したか(帰宅を遅らせた、経路を変えたなど)
④ 繰り返し――「ストーカー行為」として処罰されるかどうか
「ストーカー行為」とは、同一の人に対してつきまとい等を反復して行うことをいいます。処罰の対象になるのはこの段階で、法定刑は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(18条)。禁止命令等に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(19条)、禁止命令等に違反した場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(20条)とされています。
裏を返すと、1回きりの要求は「つきまとい等」には当たり得ても、それだけで処罰されるわけではありません。ただし、これは「繰り返されるまで何もできない」という意味ではないという点が、次の項目につながります。
「拒否を伝えたかどうか」の位置づけを正確に
多くの解説が「拒否しているにもかかわらず面会や交際を要求する行為」と説明していますが、条文を確認すると、「拒まれたにもかかわらず」という文言が置かれているのは5号(連続した電話・文書・ファクシミリ・電子メールの送信等)です。3号にはこの文言はありません。
したがって、「まだはっきり断っていないから、何も言えない」ということにはなりません。他方で、拒否を伝えた事実は、②の目的、③の態様、④の繰り返しのいずれの評価でも意味を持ちますし、警察に状況を説明する際の軸にもなります。
実務的におすすめしているのは、拒否は一度だけ、簡潔に、記録の残る方法でという形です。何度も理由を説明したり、条件を出して交渉したりすると、やり取りが続くこと自体が相手にとっての接点になってしまいます。伝え方の具体的な工夫や、そのあとの接触の断ち方は、別のコラムで詳しく解説しています。
繰り返される前でも動かせる手続き
「まだ数回だから警察は取り合ってくれない」と考えて相談を先送りにされる方は少なくありませんが、ストーカー規制法は処罰だけを定めた法律ではありません。
- 警告(4条)――警察本部長や警察署長の名で、行為をやめるよう文書で警告するものです。口頭の注意とは別の、法律上の措置にあたります。
- 職権による警告――従来は被害者からの申出が要件でしたが、令和7年12月30日施行の改正により、警察が職権で警告を行える仕組みが設けられました。申し出ることをためらう方にとって、選択肢が一つ増えたことになります。
- 禁止命令等(5条)――公安委員会が行う行政処分です。裁判所の手続ではありません。つきまとい等をした者について、さらに反復して行うおそれがあると認められるときに発令できるとされており、すでに繰り返されていることが常に前提になるわけではありません。原則として聴聞が行われますが、緊急を要する場合には先に命令が出される仕組みもあります。
また、令和7年12月30日施行の改正では、いわゆる紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得が規制対象に加えられたほか、勤務先の雇用者や学校長が援助の努力義務の主体に加えられました。令和8年3月10日からは、行為に及ぶおそれのある人へ被害者の情報が渡ることを防ぐ仕組みも施行されています。
弁護士名義の通知や接触禁止の合意書といった民事の手段は、警察の手続と並行して使えます。どちらを先に動かすかは、相手の反応の見通しによって変わりますので、順序を含めてご相談ください。
同棲していた相手なら、別のルートも検討できます
配偶者暴力防止法(DV防止法)の保護命令は、婚姻関係にある人だけでなく、生活の本拠を共にする交際相手やその関係にあった元交際相手も対象としています。同棲していた元交際相手から暴力や一定の脅迫を受けている場合は、地方裁判所に保護命令を申し立てるルートも検討できます。
一方で、同居していない交際相手は保護命令の対象外とされており、また関係を解消した後に初めて暴力を受けた場合も対象外と整理されています。二つの法律は択一ではなく併用もできますので、どちらで守られるかは事情を確認したうえで判断することになります。
よくあるご質問
Q. 相手は「本気でやり直したいだけ」と言っています。悪意がなければ対象外ですか。
対象外にはなりません。要件は恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を満たす目的であり、相手を害する意図までは求められていません。「悪気はない」という説明は、目的要件を否定する事情にはなりにくいのが実際です。
Q. 一度だけ会ってしまいました。もう主張できませんか
そのようなことはありません。過去に応じたことが、その後の要求を受け入れる義務を生じさせるわけではありません。承諾はいつでも撤回できますし、応じた経緯がある場合は、その事情も含めて記録しておいてください。
Q. 家族や今の交際相手に連絡がいっています
本人以外への行為も規制の射程に入り得ます。前述のとおり、配偶者や直系・同居の親族のほか、社会生活において密接な関係を有する人に対する行為も対象とされているためです。ご家族や勤務先には、状況と対応方針を早めに共有しておくことをおすすめします。
Q. 男性が迫られている場合も同じですか
同じです。ストーカー規制法にも刑法にも、被害者の性別による限定はありません。実際に、男性からのご相談も一定数あります。相談しにくいと感じて時間が経ってしまうケースこそ、記録が残っているうちに整理しておく価値があります。
さいごに
復縁を求められている段階では、「まだ相談するほどではない」と感じる方がほとんどです。しかし、ストーカー規制法は繰り返された後の処罰だけを扱う法律ではなく、繰り返される前に働きかける仕組みを備えています。境界の内側か外側かを自分で見極めてから動く必要はありません。
やり取りの記録を消さないこと、拒否は一度だけ簡潔に伝えること、この二つだけ先に押さえておけば、その後の選択肢は残ります。判断に迷う段階でこそ、一度ご相談ください。


