住環境と家族の生活習慣 3
その土地には、道路がありませんでした。
建築士事務所をやっていた頃、土地や中古住宅の相談をよく受けました。その中で、最も深刻な問題に発展するのが道路にまつわる相談です。
Mさんから、袋小路の一番奥にある築25年の中古住宅を買ったので、建て替えの相談に乗ってほしいと言われました。事情を聞いて現地に行きました。
敷地が道路に接している幅は、1.2メートルしかありませんでした。建築基準法43条に、接道義務という規定があります。建物を建てる敷地は、道路に2メートル以上接していなければならない。この要件を満たさない土地には、例外的な救済措置でもない限り、家は建てられません。
Mさんは、建て替えのできない土地を買っていたことになります。
もう一件あります。Tさんは、知人から土地を安く譲ってもらいました。片側一車線の公道から、幅4メートルの道を15メートルほど入った一番奥の敷地です。
その道の両側には、すでに4軒の家が建っていました。人が住んでいて、道もある。疑う理由がありません。Tさんの敷地も、道路に2メートル以上接していました。
ただ、ひとつだけ気になることがあったそうです。4軒目までは舗装されていて、その先が未舗装でした。仲介業者を通さず知人から直接買ったので、調査はしていません。
私が調べて分かったのは、Tさんの敷地に接している未舗装の部分が、位置指定道路として申請されていない道だったということです。
位置指定道路とは、土地の所有者が造り、行政から位置の指定を受けた私道のことです。見た目は一般の道路と変わりません。そこが厄介なところです。
法律の上では、Tさんは道路のない土地を買ったことになります。家を建てるには、その未申請の道を位置指定道路として新たに申請しなければなりません。申請には、すでに住んでいる4軒の承諾が要ります。住んでいる方にとっては、周辺の環境が変わることに加えて、費用の負担も出てくる話です。承諾をもらうまでに手間と時間がかかり、余分な費用もかかりました。
この2件に共通しているのは、誰も道路を疑わなかったことです。道路は、あって当たり前のものです。毎日その上を歩き、車で通っている。目に見えているし、他人の家も建っている。だから確認の対象になりません。
打合せで話題に上がるのは、間取り、予算、日当たり、駅からの距離です。道路の種類を聞かれたことは、ほとんどありませんでした。
当たり前になっているものほど、確かめられないまま前提になります。そして前提が崩れたときの損害が、一番大きくなります。
土地や中古住宅を買う前に、確かめてほしいことが3つあります。
敷地が道路に何メートル接しているか。接している道が、公道か私道か。私道であれば、位置指定道路として指定を受けているか。
いずれも役所で調べられます。建築を担当する部署の窓口で敷地の住所を伝えれば、前面の道が何にあたるかを教えてもらえます。位置指定道路であれば、指定を受けた番号と図面が残っています。仲介業者が入っていれば重要事項説明で示されますが、知人から直接買うときや、相場より安く出ている物件ほど抜けやすいところです。
そして、小さな違和感を放置しないことです。Tさんが気にした「舗装がそこで途切れている」は、正しい違和感でした。理由のない切れ目は、たいてい何かの境目です。
家を建てられるかどうかは、建物ではなく土地で決まります。図面を描き始める前の段階の話です。
買う前に、第三者の立場で見てくれる専門家に一度相談してください。買ったあとでは、選べる手が減ります。


