222 マンスリーマンションを「正常化」するには? 事故が起きる前に、それぞれができること

竹下昌成

竹下昌成

テーマ:賃貸経営実務


222マンスリーマンションを「正常化」するには?
事故が起きる前に、それぞれができること

前回のコラム219では、

「マンスリーマンションだから旅館業とは関係ない、とは単純には言えない」

という話を書きました。

1か月未満の短期利用、京都市による267施設の調査、管理規約、消防設備、関連する裁判例など、かなり調べました。

その後も調査を続けています。

すると今度は、別の疑問が出てきました。

「問題がある可能性は分かった。では、どうすればいいの?」

私なりの答えを先に書きます。

それぞれが、自分の持ち場で確認する。
分からなければ、その地域を所管する行政機関に聞く。
問題があれば直す。

意外にシンプルです。

■ そもそも、なぜ確認する必要があるのか?

私が所有するマンションの一室が、賃借人によってマンスリーマンションとして営業利用されていたことから、今回の調査は始まりました。

最初に心配したのは、法律でも税金でもありません。

「ここで事故や事件が起きたら、どうするんだろう?」

ということでした。

実際、短期滞在型施設では重大な事件も起きています。

2025年11月には、東京都大田区の民泊施設で宿泊者の女性が殺害される事件が発生しました。

もちろん、

「民泊だから殺人事件が起きた」

という話ではありません。

ただ、不特定多数の人が入れ替わりながら利用するのであれば、通常の居住用マンションとは違う防犯上の問題を考える必要があります。

火災もあります。

2025年7月には、京都市の簡易宿所として使用されていた共同住宅で火災が発生しました。

マンションで火災が起きれば、その部屋だけの問題では済みません。

隣室があります。

上下階があります。

共用廊下があります。

避難経路があります。

全く関係のない居住者まで巻き込まれる可能性があります。

さらに、オートロックマンションでは「共連れ」の問題もあります。

正規の利用者がオートロックを開けた際、無関係な第三者が一緒に建物内へ入ってしまう。

短期間で利用者が次々に変わるのであれば、その全員がマンションの防犯ルールや共用部分の利用方法を十分理解しているとは限りません。

オートロックだから安心。

管理会社がいるから安心。

私は、そう簡単な話ではないと思いました。

■ 80室なら、影響範囲はどこまで広がる?

さらに考えてみました。

例えば、80室のマンスリー物件を運営している会社が1社あるとします。

それぞれが40戸の分譲マンションの一室だったと仮定すると、

80室 × 40戸 = 3,200世帯

です。

一つの会社の運営物件だけでも、3,200世帯が同じマンション内に存在する計算になります。

もちろん、80室すべてに問題があるという意味ではありません。

しかし仮に、契約、所有者の承諾、旅館業の許認可、管理規約、消防設備などについて十分な確認がされていない住戸が含まれていれば、事故や事件が起きたときに影響を受ける可能性があるのは、マンスリー利用者だけではありません。

同じマンションに住んでいる人たちです。

さらにワンルームマンションなどでは、所有者自身が住んでいないケースも多くあります。

知らない間に、自分が所有するマンションの一室で短期利用が行われている。

住んでいない所有者にとっても、防犯、消防、マンション管理、そして自分の資産に関係する問題です。

もう少し広げてみます。



仮に、同じように80室を運営する会社が100社あったとします。

80室 × 100社 = 8,000室

それぞれ40戸のマンションなら、

8,000室 × 40戸 = 32万世帯

です。

もちろん、

「実際に32万世帯が危険にさらされている」

という意味ではありません。

あくまで影響範囲を考えるためのモデル計算です。

でも、一室の確認不足が一室だけで完結せず、それが多数のマンションに点在する事業なのであれば、

「今まで事故が起きていないから大丈夫」

だけでは済まないと思います。

事故が起きてから調べるのでは遅いのです。


■ 一番大切なのは、不動産会社という「入口」



では、どこで確認するのが一番簡単でしょうか。

私は不動産会社・賃貸仲介会社という入口だと思います。

マンスリー事業者が部屋を借りるときに、

「何に使いますか?」
「第三者へ転貸しますか?」
「マンスリーとして使いますか?」
「所有者はその使い方を知っていますか?」
「管理規約は確認しましたか?」

と確認する。

1か月未満でも提供するのであれば、

「旅館業の許認可は大丈夫ですか?」

も確認する。

契約前なら、問題が見つかっても対応できます。

所有者の承諾を取る。

契約内容を変更する。

必要な許認可を取る。

管理規約に合わないなら、別の物件を探す。

ところが入口で確認しないまま契約してしまうと、その後、

所有者、管理会社、管理組合、保証会社、保険会社、予約サイト、消防、保健所……

と問題が広がります。

「契約してから考える」のではなく、「契約する前に確認する」。

これが一番簡単です。

■ 1か月未満なら、旅館業法だけではない

前回のコラム219で詳しく書きましたが、

「1か月未満」

は重要な確認ポイントです。

福岡市も「使用期間が1か月未満(ウィークリーマンション等)」を「生活の本拠ではないと考えられる例」として明示しています。

もちろん、1か月未満なら自動的にすべて旅館業になる、という話ではありません。

営業実態によって判断されます。

ただ、今回さらに調べて分かったのは、

1か月未満なら旅館業法だけ確認すれば終わりではない

ということです。

少なくとも、

旅館業法
消費税
宿泊税

の三つは確認する必要があります。

住宅の貸付けは一定の要件を満たせば消費税が非課税ですが、貸付期間が1か月未満の場合などは、住宅の貸付けに係る非課税の対象から外れる場合があります。

また福岡市では、営業実態によって旅館業法上の営業施設と判断されるウィークリーマンション等について、宿泊税の課税対象となる場合があります。

つまり、

「賃貸借契約だから旅館業ではない」
「賃貸借だから消費税も非課税」

と契約書の名称だけで終わる話ではありません。

さらに、賃貸借契約、所有者の承諾、管理規約、消防、保証、保険。

それぞれ別に確認する問題です。

■ きちんと営業している旅館・民泊事業者はどうなる?



ここで、もう一つ気になりました。

ホテル、旅館、適法に営業している民泊事業者は、何もせずに営業しているわけではありません。

必要な許可や届出をする。

消防設備を整える。

避難経路や安全対策を確認する。

必要な設備投資をする。

求められる宿泊者管理を行う。

対象となる税金にも対応する。

お金もかかります。
手間もかかります。

それでもルールに従って営業しています。

では一方で、「マンスリー」「ウィークリー」「定期借家」という名称を使いながら、実態として1か月未満の短期利用を反復している事業者がいたらどうでしょう。

仮に旅館業に該当するのに必要な許可を取らない。

本来必要となる消防設備等への対応もしない。

課税対象となる取引について適切な税務処理もしない。

それでも同じ短期滞在需要を取り込めるのであれば、

きちんと手続きし、設備投資し、税負担にも対応している事業者との公平性はどうなるのでしょうか。

ルールを守っている事業者の方がお金がかかる。

確認しない事業者の方が安く営業できる。

それでは、正直者が損をする市場になってしまいます。

正常化は、居住者や所有者を守るだけではありません。

適正に営業している事業者を守ることにもつながります。

■ 京都市では267施設を調査

前回紹介した京都市の事例を、もう一度だけ簡単に触れておきます。

京都市は2024年、「ウィークリーマンション等」と称する無許可営業の疑いがある267施設を調査しました。

そして最終的に、267施設すべてについて営業中止または撤退を確認しています。

詳しくはコラム219で書きましたが、重要なのは、

「マンスリー」「ウィークリー」という名称ではなく、実際の営業実態を見る

ということです。

「昔からこうしている」

「業界では普通だ」

「今まで何も言われなかった」

それと、

現在のルールに適合していることは別問題です。

今まで間違っていたなら、これから直せばいい。

■ 福岡市もネット上の施設を調べている

福岡市も2024年から**「違法民泊ゼロプロジェクト」**を開始しています。

2026年度もAI・ICT等を活用して、インターネット上の宿泊施設について、掲載情報の収集、取引実態の可視化、適法性の確認などを行っています。

ここまで調べて、

私は最初、

「それなら予約サイトを見れば分かるんじゃない?」

と思いました。

でも実際の予約サイトを見ると、建物名や地域、間取りなどが分かっても、部屋番号が表示されていないケースがあります。

行政からすれば、

「このマンションらしい」

までは分かっても、

「何号室なのか」

までは分からないことがある。

だから、現場にいる人からの情報も重要になります。

■ 管理会社は「違法」と判断しなくていい



ここは難しく考えなくていいと思います。

管理会社の担当者が旅館業法を全部勉強して、

「これは違法です」

と判断する必要はありません。

短期間で利用者が入れ替わっている。

知らない人が頻繁に出入りしている。

マンスリーとして利用されているらしい。

気付いたら、

「これは確認済みの利用なのか?」

と一度立ち止まる。

分からなければ本社・本部へ上げる。

所有者、管理組合、運営事業者等へ確認する。

それでも疑義が残るなら、その地域を所管する自治体の旅館業担当部署へ相談・情報提供する。

例えば福岡市の場合、旅館業に関する相談窓口は各区の保健福祉センター(保健所)衛生課です。

博多区なら、

福岡市博多区保健福祉センター(保健所)衛生課
電話 092-419-1125

です。

地域が違えば、当然、相談先も違います。

重要なのは電話番号を覚えることではありません。

「自分で判断できなければ、所管する行政機関に確認する」

というルートを知っておくことです。

■ 結局、最初に確認するのは4つ

かなり調べました。

旅館業法。

消防。

消費税。

宿泊税。

保証。

保険。

でも、入口まで戻って整理すると、最初に確認するものは四つです。

① 契約書
② 所有者等の必要な承諾
③ 1か月未満なら旅館業の許認可
④ マンションなら管理規約

まず、この4つ。

そこから必要に応じて、消防、消費税、宿泊税、保証、保険などを確認する。

意外にシンプルです。

■ それぞれが、自分の持ち場で確認する

では、具体的に誰が何をすればいいのでしょうか。

不動産会社・賃貸仲介会社は、入口で確認する。

利用目的、転貸、所有者の承諾、管理規約、必要な許認可。

契約前なら一番簡単です。

マンスリー事業者は、自分で確認する。

契約、承諾、許認可、管理規約。

問題があれば直す。

許認可が必要なら取る。

取らないのであれば、該当する営業方法をやめる。

規約に合わないなら、利用できる物件へ変更する。

建物管理会社・管理組合は、現場で気付いたら確認する。

自分で判断できなければ本社・本部へ上げる。

それでも疑義があれば、行政へ相談・情報提供する。

予約サイトは、掲載する入口で確認する。

既存掲載物件についても、必要な確認を行う。

保証会社は、申告された用途と実際の利用形態が一致しているか確認する。

保険会社も、引き受けているリスクと実際の用途が一致しているか確認する。

そして行政は、分かりやすい基準と相談窓口を示す。

情報提供を受けたら確認し、必要に応じて消防、警察、税務などの所管部署へつなぐ。

難しいことではありません。

それぞれが、自分の持ち場で一つ確認する。

■ 行政への情報提供は、会社と自分自身を守る

今回調べていて、ここはかなり大事だと思いました。

不動産会社でも、管理会社でも、保証会社でも、保険会社でも同じです。

仕事をしていて、

「あれ?」

と思うことがあります。

でも、

「自分の判断が間違っていたらどうしよう」

「余計なことをしない方がいい」

「昔からこうしているし」

と流してしまう。

私は、それが一番怖いと思っています。

自分で違法か合法かを決める必要はありません。

分からなければ、所管する行政機関に事実を伝えて確認すればいい。

例えば、その後、そのマンションで大きな火災や事件が起きたとします。

そのとき、

「気付いていました。でも何もしませんでした」

と、

「疑問を感じたので社内に報告しました。関係先にも確認しました。それでも分からなかったので行政にも相談・情報提供しました」

では、全く違います。

これは責任逃れの話ではありません。

事故や事件が起きる前に、自分の立場でできることをやる。

行政への相談・情報提供は、

居住者を守る。
所有者を守る。
適正に営業している事業者を守る。
会社を守る。
そして、自分自身を守る。

そういう意味もあると思います。

■ 「処罰」ではなく「正常化」


私が必要だと思っているのは、

正常化です。

契約がおかしいなら、契約を直す。

所有者の承諾が必要なら、承諾を取る。

許認可が必要なら、取る。

取らないなら、その営業方法をやめる。

管理規約に合わないなら、合う物件へ変更する。

保証や保険への申告と実態が違うなら、正しい内容へ直す。

そして、必要な税金があるなら適切に処理する。

今まで間違っていたなら、これから正しくすればいい。

それだけです。

■ 「グレーだから仕方ない」ではなく「グレーだから確認する」

前回のコラム219を書いた時点では、

「マンスリーと旅館業の境界って、思っていたより複雑なんだな」

というところまででした。

その後さらに調べてみて、逆に考え方はシンプルになりました。

契約書を確認する。
承諾を確認する。
必要な許認可を確認する。
管理規約を確認する。
1か月未満なら、旅館業法、消費税、宿泊税を確認する。
分からなければ、その地域を所管する行政機関に確認する。

問題があれば直す。

誰か一人が全部を背負う必要はありません。

それぞれが、自分の持ち場で一つ確認する。

「グレーだから仕方ない」ではなく、

「グレーだから確認する」。

それが居住者や所有者を守る。

真面目にルールを守って営業している事業者を守る。

会社を守る。

そして、最後は自分自身を守ることにもつながります。

マンスリーマンションは便利な仕組みです。

だからこそ、事故や事件が起きてから大騒ぎするのではなく、今のうちに一度確認し、必要なところを直す。

私は、それがこれから必要になる「正常化」なのだと思っています。

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