219 マンスリーマンションは「民泊・旅館」と違う!?

竹下昌成

竹下昌成

テーマ:不動産投資 回収・調停・裁判


コラム219
マンスリーマンションは「民泊・旅館」と違う!?

最近、私が所有しているマンションの一室が、賃借人によってマンスリーマンションとして営業利用されていたことが分かり、現在、建物明渡しなどを求めて裁判をしています。

この裁判そのものについては、また別の機会に詳しく書きたいと思います。

今回取り上げたいのは、この事件をきっかけに調べ始めた、

「そもそもマンスリーマンションとは何なのか?」

という話です。

私自身、不動産業界に長く関わっていますが、マンスリーマンションについては、

「ホテルや民泊とは違う」

「賃貸借契約を締結して、ある程度の期間貸すもの」

という認識を持っていました。

おそらく不動産業界でも、そう考えている人は少なくないでしょう。

ところが今回、調べていくうちに、

「マンスリーマンションだから旅館業とは関係ない」

と単純には言えないことが分かってきました。

さらに興味深いのは、法律や行政だけではありません。

これまでの不動産業界の慣習や建物管理の現場の認識と、現在の外部環境との間に、少しずつズレが生じているのではないか。

そんなことも感じています。

■そもそもマンスリーマンションとは?

マンスリーマンションを利用したことがない方のために、まず簡単に整理しておきましょう。

普通の賃貸住宅、一般的なマンスリーマンション、ホテル・民泊には、おおむね次のような違いがあります。





つまり、一般的なマンスリーマンションは、

「ホテルより長く、普通の賃貸住宅より短く借りられる、家具・家電付きの賃貸住宅」

と考えると分かりやすいでしょう。

たとえば、1か月の出張、3か月の研修、自宅を建て替えている間の仮住まいなどです。

ホテルに1か月泊まるより生活しやすく、普通の賃貸住宅のように家具・家電をそろえたり、電気やガスを一から契約したりする手間も少ない。

非常に便利な仕組みです。

ですから、マンスリーマンションそのものに問題があるという話ではありません。

■では、どこから「宿泊」になるのか?

問題はここからです。

「マンスリーマンション」という名前で募集していても、

1か月、20日、10日、7日……

と利用期間が短くなり、利用者が次々と入れ替わり、さらに事業者側が寝具や清掃などを管理するようになると、

「これは本当に住宅の賃貸なのか。それとも実態は宿泊営業なのか?」

という問題が出てきます。

そして、この境界は、

「賃貸借契約書を作っているから賃貸」

という契約書のタイトルだけで決まるわけではありません。

厚生労働省は以前から、ウィークリーマンションなどについて、契約形式だけではなく、実際にどのような営業をしているのかによって判断する考え方を示しています。

利用期間はどの程度なのか。

利用者の生活の本拠となっているのか。

部屋の衛生管理を誰が行っているのか。

寝具などを誰が管理しているのか。

こうした営業の実態が重要になります。

つまり、

「賃貸借契約だから旅館業ではない」

とは一概にはいえないわけです。

■「1か月」が一つの目安

そこで興味深いのが、「1か月」という期間です。

厚生労働省の通知などでは、短期賃貸住宅について、1か月程度という期間が、旅館業と通常の賃貸住宅を考える際の重要な目安の一つとして扱われてきました。

もちろん、

「30日なら旅館業、31日なら絶対に賃貸住宅」

という単純な線引きではありません。

最終的には営業の実態によって判断されます。

反対にいえば、

「1週間以上なら、賃貸借契約にしておけば大丈夫」

という単純な話でもありません。

ここが今回調べていて、特に興味深かったところです。

■京都市で267施設――「1週間以上なら大丈夫」

この問題が非常に分かりやすく表面化した事例が京都市にありました。

京都市は2024年、「ウィークリーマンション等」と称して営業していた無許可営業の疑いがある施設について調査を行いました。

対象となったのは、なんと267施設。

そして京都市の発表によると、最終的に267施設すべてについて営業中止または撤退を確認しています。

さらに興味深いのが、事業者側の認識です。

京都市の公表内容によれば、事業者側は、

「1週間以上の利用であれば旅館業の許可は不要」

と認識していた旨を説明しています。

これ、いかにも不動産業界でありそうな話だと思いました。

「ウィークリーだからホテルではない」

「賃貸借契約だから大丈夫」

「1週間以上なら大丈夫」

おそらく、そのような認識で長年営業してきた事業者もいるのでしょう。

ところが行政側の判断は違いました。

京都市は調査・指導を行い、結果として267施設すべてについて営業中止または撤退を確認しています。

■建物管理会社は「民泊は不可、マンスリーはグレー」?

今回、私が特に興味深く感じたのが、マンションの建物管理側の認識です。

一般に「民泊」と聞けば、

「うちのマンションでは禁止されています」

という反応は比較的明確です。

近年、多くの分譲マンションで民泊について管理規約や使用細則が整備されてきたことも理由でしょう。

ところが、

「では、1か月未満のマンスリーマンションはどうですか?」

となると、少し様子が変わります。

今回、複数の建物管理会社などに確認してみた私の感触では、

民泊 → 禁止・不可という認識がある

マンスリー → 賃貸なのでは?

1か月未満のマンスリー → ……グレー?

というところで止まっているケースがあるように感じました。

これは個々の管理会社を批判しているわけではありません。

むしろ、業界全体として、

「民泊」と「マンスリー」を名称で分類する認識

が残っているのかもしれません。

民泊禁止についてはかなり浸透した。

しかし、その次の、

「1か月未満の短期賃貸をどう扱うのか」

については、まだ十分に整理されていない。

そんな印象を受けました。

ところが行政上の考え方を調べてみると、必ずしも名称だけで分類しているわけではありません。

「マンスリーマンション」と表示されていても、実際の利用形態によって旅館業法などとの関係を確認する必要が生じることがあります。

ここに、現在のマンション管理実務と外部環境とのズレがあるのかもしれません。

■「今までやっていた」と「現在も大丈夫」は違う

不動産業界では、

「昔からこのやり方でやっています」

という説明を聞くことがあります。

しかし、

「今までそうやってきた」ことと、「現在もそれで問題がない」ことは別です。

法律が変わることもあります。

行政の運用や考え方が明確になることもあります。

社会問題化することによって、それまで表面化していなかった問題について行政の調査が進むこともあります。

民泊を取り巻く環境も大きく変わりました。

住宅宿泊事業法が施行され、自治体による無許可・無届営業への対応も進んでいます。

つまり、

昔から行われてきた不動産業界の慣習と、現在の法律・行政・社会環境との間にズレが生じる。

これは不動産事業者にとって結構怖いことだと思います。

■京都だけの話ではない――大阪・新宿・横浜

さらに調べてみると、この問題への対応は京都市だけではありませんでした。

大阪市も、ウィークリーマンションなどであっても、実態として宿泊営業を行っている場合には旅館業の許可が必要になることを案内しています。

新宿区では、無許可・無届の民泊について、現地調査、所有者や賃借人等への確認を行い、悪質なケースでは警察との連携まで含めた対応を公表しています。

横浜市も、無許可・無届施設の把握には多大な時間と労力を要するとして、インターネット上の募集・勧誘情報を行政がより活用できる仕組みを国に求めています。

つまり、

「京都だけが特別に厳しい」

と片付けるのも違うようです。

行政側も、インターネット上で短期利用者を募集する現在の営業形態に合わせて、対応方法を変え始めています。

これも外部環境の変化でしょう。

■裁判でも「普通の住宅利用とは違う」

裁判例も調べてみました。

東京地方裁判所平成31年4月25日判決では、住居用として貸された建物について、転貸そのものは認められていたにもかかわらず、不特定の利用者を短期間宿泊させる民泊利用まで当然に認められていたとは判断されませんでした。

裁判所は、特定の人がある程度まとまった期間住居として利用することと、不特定の人が短期間入れ替わって利用することとは、その性質が異なると判断しています。

そして、契約解除と建物の明渡しが認められました。

ここは非常に重要だと思います。

「第三者に貸してよい」ことと、「不特定の第三者に短期間、反復して提供してよい」ことは、必ずしも同じではない。

契約実務でも注意が必要でしょう。

■消防設備の問題もある

さらに短期宿泊事業では、消防法令も問題になります。

東京高等裁判所令和4年10月27日判決では、民泊事業を行うことによって必要となる消防設備等について、事業を行う側が事前に調査すべきだったという趣旨の判断がされています。

普通の共同住宅として使用する場合と、宿泊事業に使用する場合とでは、必要となる消防設備等が変わる可能性があります。

つまり、

「大家さんから部屋を借りることができた」

だけで営業準備が終わったことにはならないわけです。

■分譲マンションなら管理規約もある

さらに分譲マンションなら、管理規約や使用細則があります。

所有者自身が短期賃貸を行う場合であっても、管理規約などで民泊や短期賃貸が禁止されていれば、自由に営業できるとは限りません。

実際、短期間の不特定多数への提供を禁止する管理規約に基づいて、民泊営業の差止めなどが認められた裁判例もあります。

つまり、分譲マンションで短期賃貸事業を行う場合には、

賃貸借契約上の利用権限

だけを確認すれば終わりではありません。

管理規約・使用細則はどうなっているのか。

旅館業法や住宅宿泊事業法との関係はどうなのか。

消防法令上、必要となる設備や手続はないのか。

それぞれ別の問題です。

一つクリアすれば全部クリア、という話ではありません。

■「公然と営業していた」「管理会社に言っていた」から大丈夫!?

さて、ここで冒頭の裁判の話に少し戻ります。

現在裁判中ですので詳細については控えますが、相手方のL社は、所有者である私が営業利用を承諾していたという趣旨の主張の中で、

「公然と営業していた」

「管理会社に言っていた」

などと説明しています。

この主張を最初に見たときには、

「そういう反論をしてくるのか」

くらいに考えていました。

ところが、この件をきっかけに、マンスリーマンション、旅館業、行政の対応、建物管理、消防法令、そして関連する裁判例まで調べていくと、私の感想は少し変わってきました。

「公然と営業していた」

……だから何だろう?

「管理会社に言っていた」

……それで何がクリアになるんだろう?

所有者が営業利用を承諾したかどうかと、管理会社が知っていたかどうかは別の話です。

しかも、今回私自身が建物管理会社などに確認してみると、

「民泊は不可。でもマンスリー、特に1か月未満については……」

という認識にとどまっているケースもあるように感じました。

そうだとすれば、

「管理会社に言っていた」

という説明には、もう一つ疑問が生まれます。

その管理会社は、具体的にどのような利用形態だと認識していたのか。

1か月以上の通常のマンスリーだと認識していたのか。

それとも、1か月未満の短期利用まで含む営業だと認識していたのか。

そして、それを旅館業や管理規約等との関係まで含めて確認していたのか。

そもそも管理会社に説明したことが、所有者による営業利用の承諾になるわけでもありません。

管理規約に適合しているかも別。

旅館業法上どのように扱われるかも別。

消防法令上必要な確認をしているかも別です。

調べれば調べるほど、

「何言ってるんだろう!?」

というのが、現在の率直な感想です。

■まとめ――「今まで大丈夫だった」が一番怖い

もちろん、マンスリーマンション営業そのものが違法という話ではありません。

普通の賃貸住宅とホテル・民泊の間には、適切に運営されている便利なマンスリーマンションという市場があります。

今回、私が調べていて感じたのは、

「マンスリーだから大丈夫」

「賃貸借契約だから大丈夫」

「1週間以上だから大丈夫」

「昔からやっているから大丈夫」

「公然と営業しているから大丈夫」

「管理会社も知っているから大丈夫」

という、一つ一つの思い込みの方が怖いということです。

特に興味深かったのは、「民泊は禁止」という認識はかなり浸透している一方で、その隣にある「1か月未満のマンスリーをどう考えるのか」については、まだ業界側の整理が追いついていない可能性があることです。

一方で京都市では、実際に267施設を調査し、すべてについて営業中止または撤退を確認するところまで行政対応が進みました。

大阪、新宿、横浜でも、それぞれ違法・無許可・無届の宿泊営業を把握するための取組みが進んでいます。

つまり、外部環境の方が先に動き始めているのかもしれません。

不動産を取り巻く環境は変わります。

法律も変わる。

行政の対応も変わる。

管理規約も変わる。

そして裁判例も積み上がっていきます。

だから事業者にとって重要なのは、

「これまで問題にならなかったか」ではなく、「現在のルールと実際の営業内容に照らして問題がないか」

を確認することなのでしょう。

私自身、今回のマンスリー転用問題がなければ、ここまで調べることはなかったと思います。

裁判は面倒です。

でも、ときどきこうやって、今まで自分が当然だと思っていた業界の常識を、一から調べ直すきっかけにもなります。

今回もまた一つ、勉強になりました。

そしてL社との裁判については――

「公然と営業していた」
「管理会社に言っていた」

という主張を、裁判所がどう評価するのか。

結果が出たら、改めてコラムにしたいと思います。

■参考資料・関連リンク

今回の記事を作成するにあたり、厚生労働省の通知、自治体の公表資料、関連する裁判例などを確認しました。より詳しく確認したい方は、以下も参考にしてください。

●厚生労働省「旅館業法」
旅館業の基本的な考え方を確認できます。
URL:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130600.html

●厚生労働省等「住宅宿泊仲介業者等における短期賃貸借物件等の取扱いについて」
短期賃貸について「原則1か月」を目安とする考え方などが示されています。今回の記事を考えるうえで重要な資料です。
URL:
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3908&dataType=1&pageNo=1

●厚生労働省「旅館業法運用上の疑義について」
ウィークリーマンションについて、契約の名称だけではなく、衛生管理や生活の本拠など営業の実態から判断する考え方が示されています。
URL:
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta0406&dataType=1&pageNo=1

●京都市「ウィークリーマンション等と称する違法『民泊』施設に対する指導結果について」
2024年、267施設について調査・指導し、全施設について営業中止・撤退を確認した事例です。
URL:
https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000330379.html

●大阪市「ウイークリーマンション、個室ビデオ店等経営者の皆様へ」
ウィークリーマンションという名称であっても、実態として人を宿泊させる営業であれば、旅館業法上の許可が必要となることを説明しています。
URL:
https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000029017.html

●東京地裁平成31年4月25日判決・不動産流通推進センター解説
転貸自体が認められていた住居用賃貸借でも、不特定の利用者による短期間の民泊利用まで当然に許されたものではないとして、解除・明渡しが認められた事例です。
URL:
https://www.retpc.jp/archives/31563/

●東京高裁令和4年10月27日判決・RETIO解説
民泊事業に伴って必要となる消防設備等について、事業者側による事前調査が問題となった裁判例です。
URL:
https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/130-134.pdf

●横浜市・民泊制度に関する国への要望
無許可・無届民泊を把握するため、インターネット上の募集情報を行政がより活用できる制度整備などを求めています。
URL:
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/seisaku/2026/04239tokenshi89.files/89kekka.pdf

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