飲食店 海外進出入門講座 Vol.2|海外出店の初期投資・資金調達は「投資回収」から逆算する

松本尚典

松本尚典

テーマ:グローバルサウス 進出


飲食業の海外進出は、「いくら用意できるか」から考えてはいけない


飲食店の海外進出についてご相談を受けると、資金面について一つの誤解を持たれている経営者の方がいます。

「新興国なら人件費や家賃が日本より安いから、日本より少ない資金で出店できるのではないか。」

という考え方です。

確かに、人件費や家賃など、日本より低いコストで調達できる項目がある国や都市はあります。

しかし、それだけを見て、

海外出店=低コスト

と判断するのは危険です。

海外では、市場調査、現地法人や事業スキームの構築、現地にあわせた法律・税務・会計、許認可、物件調査・契約、店舗設計、現地業者を使った施工、信頼出来る厨房設備、人材採用、人材教育、日本からの渡航、食材調達、輸出入、物流、マーケティング、開業後の運転資金などに、国内出店では必要のないコストが加わります。

さらに、開業時期が遅れる、許認可に時間がかかる、施工費が増える、輸入予定の食材が使えない、予定していた人材が採用できない(あるいは採用したが、使えない)、開業後の売上が計画を下回る、といった想定外の事態も考えておく必要があります。

したがって、海外飲食事業の投資計画では、「いくらあれば店を開けるか」ではなく、「開店後、事業が安定するまでいくら必要か」を考える必要があります。

海外出店の初期投資は、「店舗工事費」だけではない


海外飲食店の投資額を考えるとき、店舗取得費、内装工事費、厨房設備費だけを積み上げて、「この金額なら出店できる。」
と判断してはいけません。

私は、海外飲食事業では、少なくとも次の資金を分けて考えるべきだと思っています。

1.市場調査・事業計画費

2.現地法人・法務・税務・許認可等の立ち上げ費用

3.保証金・敷金等を含む物件関連資金

4.設計・内装・厨房・設備等の店舗投資

5.採用・教育・渡航等の開業準備費

6.初期食材・備品・物流等の開業資金

7.開業前後のマーケティング費

8.開業後、売上が安定するまでの運転資金

9.想定外に備える予備資金


つまり、「店舗を完成させるための資金」と、「事業を軌道に乗せるための資金」は別物です。

海外進出では、この後者を十分に持たないまま出店すると、店は完成した、しかし売上が計画通りに立ち上がらない、という状態に陥ります。

海外飲食事業では、投資額を「投資回収」から逆算する


では、海外飲食店に、5000万円、8000万円、1億円を投資してよいかどうかは、何を基準に決めればよいのでしょうか。

経営者が持っている現金の額でしょうか。

銀行が貸してくれる金額でしょうか。

僕は、そうではないと思っています。

重要なのは、その事業が将来生み出すキャッシュから、投資額を何年間で回収できるのかです。

例えば、非常に単純化すれば、

投下資金 6000万円

年間に回収できるキャッシュ 1500万円

↓

単純投資回収期間 約4年


という考え方です。

ただし実際には、毎年同じ金額のキャッシュが生まれるわけではありません。

開業初年度、2年目、3年目では、売上、利益、人件費、広告費、設備投資が変わります。

したがって、実務では、各年度のキャッシュフローを予測し、累積キャッシュフローが当初投資額を回収する時期を見る方が適切です。

「損益分岐点」と「投資回収」は違う


ここは、海外投資を考える経営者に理解していただきたい重要なポイントです。

損益分岐点とは、売上高と費用が一致し、損益がゼロになる水準を意味します。

一方、5000万円を投資して、その5000万円を何年で回収できるのかという話は、投資回収期間です。

例えば、開業から6か月目に月次黒字になったからといって、初期投資5000万円を6か月で回収したという意味ではありません。「店舗が黒字になった時点」と、「投資したおカネを回収できた時点」は違います。

海外進出では、この二つを分けて管理する必要があります。

営業利益だけで投資回収を計算するのも危険


例えば、1億円投資した、年間営業利益1000万円、だから10年で投資回収できる、という計算は、分かりやすいものの、実際の資金回収とは一致しません。

営業利益は、会計上の利益だからです。

実際には、減価償却、税金、設備の維持更新、追加投資、運転資金の増減、借入金の元本返済などがあります。

したがって、海外飲食事業への投資判断では、営業利益だけではなく、その店舗から実際にどれだけのキャッシュを回収できるのかを見る必要があります。

飲食店の売上予測は、「希望」ではなく構造から作る


海外出店計画では、「年間1億円くらい売れると思います。」という売上予測では投資判断できません。

飲食店であれば、基本的には、

席数×1日あたりの回転数×想定稼働率×客単価×営業日数=売上高の基本モデル


から考えます。

高級店であれば、席数だけではなく、個室数、予約枠、コース単価、ドリンク単価、平均滞在時間、曜日別稼働率、昼夜別稼働率なども見ます。

さらに重要なのが、その客単価を払う顧客が、本当に商圏内に存在するのかです。

だからこそVol.1で申し上げた、

誰に売るのか。

何を売るのか。

どの都市で売るのか。

が、Vol.2の投資計画につながります。

海外飲食の事業計画では、3つのシナリオを作る


僕は海外事業への投資を考える場合、一つの売上計画だけで判断すべきではないと考えています。

少なくとも、

ベースシナリオ:計画どおりに事業が進んだ場合。

ダウンサイドシナリオ:売上の立ち上がりが遅れ、客数・客単価などが計画を下回った場合。

アップサイドシナリオ:計画を上回り、追加投資や2号店を検討できる場合。


の3つを作ります。

特に重要なのは、ダウンサイドです。

例えば、開業が3か月遅れたら。

売上が計画より20%低かったら。

原材料費が10%上がったら。

人件費が上がったら。

為替が不利に動いたら。

日本からの食材輸入が一時的に止まったら。

という条件を入れます。

よい海外事業計画とは、「成功した場合にいくら儲かるか」を説明できる計画ではありません。「計画通りにいかなかった場合に、どこまで耐えられるか」を説明できる計画です。

投資回収期間は、「短ければ短いほどよい」わけでもない


もちろん、投資は早く回収できる方が安全です。

しかし、投資回収が短い事業だけを選べばよいというものでもありません。

例えば、

大きなブランド価値を作る。

市場へ先行参入する。

優良な物件を確保する。

将来、多店舗展開するための旗艦店を作る。

食品輸出など他の事業とシナジーを作る。

という戦略的投資では、単店舗だけの利益では評価できない場合があります。

一方で、「戦略的な投資だから。」という言葉で、回収不能な投資を正当化してもいけません。

そこで、財務的な投資回収と、戦略的な価値を分けて評価することが重要です。

海外飲食事業では、「撤退基準」を投資前に決めておく


海外事業で危険なのは、投資してしまったから、やめられないという状態です。

5000万円投資した。

↓

うまくいかない。

↓

さらに1000万円入れる。

↓

それでも改善しない。

↓

ここまで入れたのだから、あと1000万円。

という投資を繰り返すと、サンクコストに経営判断を支配されます。

そこで投資前に、

開業から何か月で売上をどこまで伸ばすか

粗利益率はいくら必要か

営業赤字を何か月まで許容するか

追加投資上限はいくらか

どの条件になれば事業モデルを修正するか

どの条件になれば撤退するか


を決めます。

海外進出の成功確率を高めるのは、「絶対に撤退しない覚悟」ではありません。撤退すべきときに撤退できる基準を、投資する前に持つことです。

海外進出の資金調達は、デットだけで考えない


投資額が決まったら、次に考えるのが、どの資金で投資するかです。

代表的には、

自己資金・営業キャッシュフロー

金融機関からの借入

出資によるエクイティ・ファイナンス

事業会社との資本提携

必要に応じたその他の資金調達


があります。

重要なのは、「借りられるから借りる。」「投資家がいるから出資を受ける。」という順番ではありません。

事業リスクに合わせて資金を選びます。

回収予測が立ちやすい投資には、借入を活用できる


例えば、国内事業から安定したキャッシュが生まれている、海外出店の投資規模が親会社から見て十分に管理可能、売上・利益の予測可能性が高いという場合には、金融機関からの借入を使うことができます。

借入では、株式を外部へ渡す必要がないというメリットがあります。

一方、元本返済と利息支払いがあります。

したがって、海外店舗の立ち上がりが遅れても返済できるかまで確認します。

不確実性の高い成長投資なら、エクイティも検討する


一方、新しい国、新しいブランド、新しい業態、大型の多店舗展開など、将来の成長性は高いものの、不確実性も高い事業があります。

この場合、すべてを借入金で賄うことが最適とは限りません。

事業会社や投資家から出資を受け、資本を厚くしたうえで事業を進める方法もあります。

ただし、出資は「返済しなくてよい無料のおカネ」ではありません。投資家は、株式、議決権、将来の企業価値、配当、Exitなどを通じたリターンを求めます。

したがって、どの程度の株式を渡すのか、経営権はどうするのか、誰に投資家として入ってもらうのかまで含めて資本政策を考えます。

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海外進出だからといって、投資家から資金を集めやすいわけではない


「海外進出をする会社なら、成長性が高いので投資家から資金を集めやすい。」と単純に考えるのも危険です。

投資する側は、海外へ出ること自体におカネを出すわけではありません。

投資家が確認するのは、市場は本当にあるのか、競争優位はあるのか、経営チームは実行できるのか、いくら投資が必要なのか、どの程度の利益・キャッシュを生み出せるのか、追加資金はいくら必要になるのか、どのように投資資金を回収するのか
です。

つまり、海外進出という「夢」に投資してもらうのではなく、海外進出によって企業価値を高められる「事業計画」に投資してもらう必要があります。

海外飲食事業への投資を決める前に、120分で「数字」を整理する


「海外へ飲食店を出したい。」という構想がある場合でも、最初に物件を探す必要はありません。

その前に、

本当に海外へ出るべきか。誰を顧客にするのか。どの国・都市が適しているのか。想定客単価はいくらか。年間売上はいくら見込めるのか。初期投資はいくら必要なのか。運転資金はいくら必要なのか。何年で投資を回収するのか。自己資金と借入をどう組み合わせるのか。資本提携を検討すべきか。

を整理します。

特に海外進出では、「海外へ行きたい。」という意思と、「海外へ投資してよい。」という経営判断は別です。

場合によっては、現在の国内事業をもう一段強くしてから海外へ進んだ方がよいという結論もあります。

逆に、国内で十分な収益基盤があり、海外市場との商品適合性が高く、投資回収シナリオにも合理性があるのであれば、具体的な市場調査・事業計画へ進むことができます。

海外進出で最初に決めるべきなのは、「どこの物件を借りるか」ではありません。

「いくらまで投資でき、何年で回収し、計画を下回ったときにどこまで耐えられるか」です。


海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス

国内事業が一定程度確立し、海外を次の成長市場として検討している中小企業のオーナー経営者を対象に、海外進出ありきではなく、

海外進出の目的。

対象市場と顧客。

商品・サービス。

初期投資。

運転資金。

投資回収期間。

資金調達。

進出方法。

人材体制。

リスクと撤退基準。

まで、海外事業を経営戦略として整理します。

https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587

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松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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