AI時代の与信社会|企業と個人は、すでに「信用スコア」で見られている

松本尚典

松本尚典

テーマ:資金調達 レバレッジ 創業融資 連帯保証


AI時代の世界では、与信が企業と個人の経済的自由を左右する


給与を会社から銀行口座で受け取り、その口座からクレジットカード、電子マネー、QRコード決済、サブスクリプションサービスなどの支払いが引き落とされていく現代社会において、私たちは、すでに「与信」という評価と無縁では生きられなくなっています。

消費、投資、住宅、教育、事業資金、海外取引。これらの経済活動の多くは、現金の保有額だけではなく、その人や企業が、どの程度の信用を社会から付与されているかによって、選択できる範囲が大きく変わります。

たとえば、親からの仕送りと、アルバイトで得た現金、そしてその現金の範囲でしか使えないデビットカードだけで生活する学生は、消費者としての選択肢が限定されます。これは、現代における経済的自由が、単に「手元にある現金の多寡」だけではなく、「与信をどの程度付与されているか」によって大きく左右されることを示しています。

私たち経営者や事業家も同じです。

過去の収益実績、財務内容、取引履歴、納税実績、金融機関との関係、経営者本人の信用などによって形成された与信をもとに、金融機関から資金調達を行い、レバレッジをかけて事業を拡大します。そして、その投資から収益を生み出し、さらに与信を拡大していきます。

消費者もまた、クレジットカード、住宅ローン、自動車ローン、後払い決済、BNPLなどを通じて、与信を利用しながら消費生活を拡大しています。先進国では、この信用経済がすでに当たり前の社会基盤となっています。

そして今後、この流れは新興国、さらには途上国へも広がっていくでしょう。スマートフォン、電子決済、デジタルID、オンライン金融、AI審査が普及すれば、銀行口座を十分に持たなかった人々も、デジタル上の行動履歴によって評価され、与信を受ける時代に入っていきます。

21世紀後半に向けて、世界経済は、現金経済から信用経済へ、さらにAIによって管理されるデジタル与信経済へと進んでいくと考えられます。

与信審査と人工知能AIが結びつく時代


世界における与信の総量は、今後さらに大きく増大していくでしょう。そして、その与信の審査や管理を、人工知能AIが担う流れは避けられません。

従来の与信審査は、年収、勤務先、勤続年数、資産、借入状況、返済履歴、決算書、税務申告書など、比較的限定された情報に基づいて行われてきました。

しかし、AIによる与信審査の時代には、対象となる情報の範囲が大きく広がります。

個人であれば、決済履歴、購買履歴、移動履歴、SNS上の発信、検索履歴、スマートフォンの利用状況、サブスクリプションの継続状況、勤務状況、学習履歴、健康管理データなどが、与信判断の材料になり得ます。

企業であれば、財務諸表だけでなく、取引先との入出金履歴、ECサイトでの販売実績、広告運用データ、求人情報、口コミ、SNSでの評判、Webサイトの更新状況、顧客対応の履歴、さらには経営者自身のデジタル上の行動までが、信用力を判断する材料になっていく可能性があります。

このような情報がビッグデータとしてAIに読み込まれ、統計的に分析され、信用力をスコアリングする時代は、すでに始まっています。

ここで重要なのは、AIによる与信審査は、人間の担当者による審査よりも、効率的で、迅速で、大量処理に向いている一方で、その判断過程が見えにくくなる危険性を持つという点です。

AIが「なぜ、この人には融資できないと判断したのか」「なぜ、この企業の信用スコアを下げたのか」を、人間が説明できなければ、与信審査は効率化される一方で、非常に不透明な社会的選別の仕組みにもなり得ます。

AIは、過去の膨大なデータから傾向を学習します。しかし、そのデータ自体に偏りがあれば、AIの判断にも偏りが生じます。特定の地域、職業、年齢層、生活スタイル、企業規模、業種などに対して、不利な評価が再生産される可能性もあります。

したがって、AIと与信が結びつく時代においては、単にAIを導入すればよいのではありません。

企業は、AIの判断根拠を説明できる体制を整え、個人情報や行動データを適切に管理し、誤った評価や不当な差別を生まないように、データガバナンスを構築する必要があります。

これは、金融機関やFinTech企業だけの課題ではありません。AI、情報通信、SaaS、EC、マーケティング、決済、HRテック、不動産テック、医療・介護テックなど、個人や企業の行動データを扱うすべての事業者にとって、重大な経営課題となっていくでしょう。

AIによる与信社会は、巨大な監視社会にもなり得る


AIによる与信審査が広がる社会は、便利である一方、巨大な監視社会となる危険性を持っています。

現金だけで買い物をしていた時代には、その購買行動は、ほとんど情報として残りませんでした。誰が、いつ、どこで、何を買ったのか。誰が、どの電車に乗り、どこへ移動したのか。多くの場合、それは記録されないまま消えていきました。

しかし、クレジットカード、交通系ICカード、スマートフォン決済、ECサイト、位置情報アプリ、SNS、検索エンジン、監視カメラ、顔認証技術が普及した現代では、私たちの日常行動の多くが、デジタルデータとして蓄積されます。

購買行動、移動履歴、閲覧履歴、検索履歴、発言内容、写真、動画、交友関係、勤務状況、学習状況。これらは、単独では小さな情報に見えても、AIによって統合され、分析されると、その人の生活傾向、消費傾向、健康状態、性格傾向、リスク許容度、返済可能性、勤務姿勢、さらには将来の行動予測にまで利用される可能性があります。

テレワークが、個人の働き方の自由を実現する方法であると考えられた時代もありました。しかし、今後は、リアルなオフィス勤務であれ、テレワークであれ、勤務時間、成果物、チャットでの反応、会議での発言、カメラ映像、ログイン状況、操作履歴などが、AIによって分析される時代になります。

人間の管理職には、見落としや曖昧さがあります。そこには、良い意味での余白もありました。

しかし、AIによる管理には、その余白が少なくなります。AIは、休まず、忘れず、感情に流されず、データを収集し続けます。その結果、人間にとっては一見自由に見える働き方が、実は、従来よりも精密な情報管理の下に置かれる可能性があります。

このように、個人や企業の行動が絶え間なくデータ化され、そのデータがAIによって分析され、与信や評価に反映される時代は、これまでの自由主義社会とは大きく異なる性格を持つことになります。

パノプティコンから、ポリオプティコンへ社会の監視は変わっていく


近代から20世紀までの自由主義社会において、人間は基本的には自由な主体であると考えられてきました。

もちろん、学校に入れば教師の管理を受け、企業に入れば上司の管理を受け、刑務所に収容されれば看守の監視を受けます。このように、特定の場所に入ることによって、少数者が多数者を監視する構造が生まれました。

この監視の構造を、フランスの哲学者ミシェル・フーコーは、ジェレミー・ベンサムが構想した一望監視施設になぞらえ、「パノプティコン」として論じました。

企業社会も、長い間、このパノプティコン型の管理構造を持っていました。

社員は会社に出社し、オフィスという物理的な空間の中で勤務し、管理職によって勤務態度や業務遂行状況を見られていました。そこでは、監視する側と監視される側が、比較的わかりやすい形で存在していました。

ところが、21世紀に進んでいる監視は、これとは性格が異なります。

フリーアドレスのオフィス、テレワーク、クラウドシステム、スマートフォン、チャットツール、オンライン会議、SaaS、AI分析ツールによって、私たちは一見、物理的な管理空間から解放されたように見えます。

しかし、その一方で、私たちの行動は、デジタル空間の中で、より詳細に記録され続けています。

この状態は、従来のパノプティコンとは異なります。特定の監視者が、特定の場所で、特定の人を見張るのではありません。多くのデータが、さまざまなシステムによって収集され、AIによって分析され、個人や企業の評価に組み込まれていきます。

ノルウェーの社会学者トーマス・マシーセンは、近代的な一望監視とは異なる監視構造を、「ポリオプティコン」として論じました。

少数の人間が多数の人間を物理的に監視するパノプティコンの時代から、デジタル技術とAIによって、多数の情報が相互に収集・分析されるポリオプティコンの時代へ、社会は移行しつつあります。

この新しい監視構造の怖さは、監視されている実感が薄いことにあります。

私たちは、スマートフォンを便利に使い、キャッシュレスで買い物をし、SNSに発信し、検索を行い、クラウドサービスを利用し、オンラインで仕事をしています。その一つ一つは、便利で合理的な行動です。

しかし、その行動の積み重ねが、いつの間にか自分自身の信用力、勤務評価、購買力、融資可能性、取引可能性、採用可能性を左右する材料になっていく可能性があります。

AI時代に、ビジネスマンと企業が備えるべきこと


AIによる与信社会の到来を、単に恐れるだけでは意味がありません。

重要なのは、この流れを正しく理解し、個人としても、企業としても、備えることです。

第一に、個人は、自分のデジタル上の行動が、将来の信用に影響する可能性を意識する必要があります。

SNSでの発信、検索行動、決済履歴、契約履歴、サブスクリプションの利用状況、オンライン上の評判は、今後、本人が想像する以上に大きな意味を持つ可能性があります。軽率な発信、支払い遅延、不自然な取引、説明できない資金移動、過度に攻撃的な言動は、将来の信用を損なうリスクがあります。

第二に、企業は、自社のデジタル上の信用を管理する必要があります。

企業のWebサイトが更新されていない。SNSの発信が止まっている。口コミ対応が放置されている。求人情報と実態が乖離している。代表者の情報が不明確である。取引先からの評判が悪い。こうした情報は、今後、金融機関、取引先、顧客、採用候補者、AI審査システムから、信用低下の材料として見られる可能性があります。

第三に、AIや情報通信に携わる事業者は、自社が扱うデータの重みを理解しなければなりません。

データは、単なる事業資源ではありません。人や企業の将来を左右する評価材料になり得るものです。したがって、どのデータを取得するのか、どのような目的で利用するのか、どのように保管するのか、誰に提供するのか、どのように削除するのかを、経営レベルで設計する必要があります。

第四に、AIを導入する企業は、AIの判断を説明できる体制を持つ必要があります。

AIが出した結果を、人間が理解できないまま利用することは危険です。特に、与信、採用、人事評価、取引可否、顧客選別、価格設定など、人の機会や企業の取引可能性に影響を与える領域では、AIの判断根拠を説明できることが重要になります。

第五に、企業は、情報セキュリティと個人情報保護を、単なる法務・総務の管理業務として扱うべきではありません。

AI時代において、情報セキュリティと個人情報保護は、企業の信用そのものです。情報漏えい、目的外利用、不適切な外部提供、説明できないAI利用は、企業の社会的信用を大きく損ないます。

つまり、AI時代の情報管理は、単なる守りの業務ではありません。

企業の与信、ブランド、採用力、取引力、資金調達力を守るための、経営戦略そのものなのです。

AIに監視される時代に、企業は「見られる信用」を設計しなければならない


日常の購買活動、移動情報、SNSでの発信、検索履歴、Webサイトの閲覧履歴、オンライン上の契約、決済履歴、勤務ログ、顧客対応履歴。これらの情報は、デジタル社会において、すでに消えにくい足跡として残されています。

そして、その情報がAIによって分析されることで、個人の人間性、企業の信用力、経営者の姿勢、組織の健全性、返済の誠実性、事業継続力が評価される時代に入っています。

この時代に生きる私たちは、自分や自社が、すでに「見られている存在」であることを自覚しなければなりません。

しかし、それは悲観すべきことばかりではありません。

むしろ、正しく情報を整え、誠実なデジタル上の姿勢を示し、透明性のある企業活動を積み重ねれば、AI時代の与信社会において、信用を高めることも可能です。

これからの企業に求められるのは、単に情報システムを導入することではありません。

自社の情報をどのように管理し、どのように守り、どのように活用し、どのように社会から信用される状態をつくるかという、情報化時代の経営設計です。

AIは、すでに私たちの行動を見はじめています。

だからこそ、企業は、AI時代に「どう見られるか」を受け身で放置するのではなく、自ら設計しなければなりません。

URVグローバルグループでは、企業の情報化支援、AI活用、情報セキュリティ、個人情報保護、業務システム導入、デジタル上の信用形成を、経営戦略の一部として支援しています。

AI時代の情報化は、単なるIT導入ではありません。

企業の信用、与信、ブランド、採用、資金調達、事業継続を支える、経営の中核課題です。

自社の情報管理、AI活用、情報セキュリティ、デジタル信用の構築に課題を感じている経営者の方は、ぜひ、URVグローバルグループの情報化支援事業をご覧ください。

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松本尚典(経営コンサルタント)

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経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

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