資金調達は「過去の決算」から「未来の成長データ」へ|AI与信とフィンテック金融の衝撃

松本尚典

松本尚典

テーマ:銀行 企業 関係


フィンテックの上に建つ、マイクロファイナンス


新興国や途上国では、従来型の金融機関では融資の与信が通らなかった人々が、フィンテックを活用したマイクロローンによって小口資金を調達し、個人事業や小規模ビジネスを開始するケースが増えています。

従来の金融機関における与信は、過去の返済実績、勤務先、収入証明、担保、保証人、既存の信用情報などを基礎に判断されます。これに対して、フィンテックが活用するAI与信では、スマートフォンの利用状況、決済履歴、プラットフォーム上の取引履歴、仕事の稼働実績、顧客評価、移動履歴、売上データなど、従来の金融機関が十分に把握できなかった多様なデータを与信判断に活用することができます。

このような、いわゆる「オルタナティブデータ」をAIが分析することで、従来の金融機関では信用力を確認できなかった人にも、一定の与信が付与される可能性が生まれます。

もちろん、これは良い面ばかりではありません。

AI与信は、従来の金融機関が見落としていた前向きな情報を拾い上げる一方で、従来の審査では表面化しなかったマイナス情報を読み取ることもあります。したがって、先進国においては、これまで通常の与信で融資を受けられていた人が、AI与信では不利に評価される可能性もあります。

また、AI与信には、個人情報保護、データの透明性、アルゴリズムによる差別、過剰融資、返済不能者の増加といった重要なリスクも存在します。フィンテックが金融包摂を進める一方で、利用者保護と金融規制の整備が追いつかなければ、社会問題化する可能性もあるのです。

しかし、新興国や途上国の場合、過去に融資を受けられなかった人々の多くは、信用事故を起こしたからではなく、そもそも銀行口座、給与振込、収入証明、担保、不動産、法人登記といった、従来の金融機関が与信判断に必要とする情報を持っていなかっただけ、というケースが少なくありません。

つまり、信用がないのではなく、信用を測定する仕組みから外れていたのです。

この層に対して、フィンテックは、従来の銀行が把握できなかった実際の稼働状況、売上、取引実績、顧客からの評価、返済可能性をデータとして可視化し、新たな与信の入口を開いています。

この意味で、フィンテックは、AIとデータ分析技術の進化と相まって、新興国や途上国の個人事業主に、大きなチャンスをもたらしています。

個人事業の起業を支えるマイクロファイナンス


私が、東南アジア、インド、アフリカなどの新興国や途上国に出向き、現地での移動や市場調査のためにガイドを手配すると、片言の日本語を話す現地のガイドの方々の多くは、企業に雇用された従業員ではなく、独立した個人事業主です。

さらに、その方々から友人や知人を紹介してもらうと、そこには、通訳、運転手、飲食、配送、観光、物販、修理、教育、IT支援など、驚くほど多様な事業を目指す個人事業主が存在しています。

日本では、大卒者の多くが企業に就職し、会社員としてキャリアを築くことが一般的です。しかし、新興国や途上国では、企業に就職する機会そのものが限られている地域も多く、若い世代が自ら仕事をつくり、自分の稼働力とネットワークを使って収入を得ることが、現実的な選択肢となっています。

このような地域では、事業主である私たちは、必ずしも最初から従業員を雇用する必要はありません。むしろ、現地の個人事業主に小さな仕事を依頼し、その仕事ぶり、誠実さ、対応力、スピード、現地ネットワークを見極めながら、信頼できる人物に継続的に業務を依頼するほうが、現実に即した事業展開ができる場合があります。

ただし、ここで重要なのは、現地の商慣行に合わせるだけでなく、日本企業として求められる会計処理、税務処理、コンプライアンス、契約管理、支払記録を整えることです。

新興国や途上国では、現金決済や簡易な業務委託が日常的に行われる場面もあります。しかし、日本企業が海外で事業を行う場合には、領収証、請求書、契約書、支払記録、業務内容の記録を可能な限り整備しなければなりません。現地の柔軟性を活かしながらも、後に税務・会計・法務上の問題を残さない管理体制を構築することが必要です。

このような個人事業主に話を聞いてみると、彼らの中には、フィンテック企業のマイクロファイナンスを活用し、バイク、車両、スマートフォン、業務機材、在庫、営業資金などを調達して事業を始めている人々がいます。

彼らにとって重要なのは、数年後の大きな資金よりも、今日、事業を動かすための小さな資金です。

この小さな資金が、移動手段を生み、売上機会を生み、顧客との接点を生み、やがて信用履歴を生み出します。ここに、マイクロファイナンスの本質があります。

新興国で勢いを増す、Moove


Mooveという会社名、あるいはサービスブランド名を聞いたことがある方は、日本ではまだ多くないかもしれません。

Mooveは、ナイジェリアで創業された、アフリカ発のモビリティ・フィンテック企業です。従来の金融機関から車両ローンを受けにくいライドシェア、配送、物流、モビリティ関連の個人事業主に対して、車両取得や業務用資産の利用を可能にする金融サービスを提供してきました。

同社の特徴は、従来型の担保や固定給与を中心にした与信ではなく、プラットフォーム上の稼働実績や収益データを活用し、利用者の返済可能性を判断する点にあります。いわば、給与所得者を前提とした金融ではなく、ギグワーカーや個人事業主の実態に合わせた金融モデルです。

このモデルは、新興国や途上国において非常に大きな意味を持ちます。

銀行から融資を受けられない人でも、日々の稼働実績、顧客評価、売上履歴、返済履歴を積み上げることで、次第に金融アクセスを広げることができるからです。

従来の金融は、一定の信用を持つ人に資金を貸す仕組みでした。

これに対して、フィンテック型のマイクロファイナンスは、信用を持たなかった人が、データを通じて信用を形成していく仕組みです。

この違いは、今後の金融業界において極めて重要です。

特に、AI、通信、スマートフォン、決済、位置情報、プラットフォームビジネス、デジタルIDが結びつくことで、これまで銀行が把握できなかった巨大な事業者層が、金融の対象として可視化されていきます。

これは、単なる小口融資の話ではありません。

世界の新興国・途上国に存在する、膨大な個人事業主と小規模事業者が、デジタル金融によって資金調達の入口を得るということです。そして、その中から、次世代の中間所得層、地域企業、成長企業が生まれていく可能性があります。

マイクロファイナンスと、事業戦略


日本のように少子高齢化が進む国とは対照的に、世界の人口増加は、グローバルサウスを中心に続いています。特に、インド、アフリカ、東南アジアの一部地域では、今後も若年人口が多く、消費市場と労働市場の拡大が見込まれます。

この人口増加が、貧困層の拡大にとどまるのか、あるいは、新たな中間所得層の拡大につながるのか。

ここに、21世紀後半の世界経済の大きな分岐点があります。

もし、インド、アフリカ、東南アジアの成長市場において、低所得層から中間所得層へ上がる人々が大量に生まれれば、そこには、戦後日本の高度成長期に匹敵する、あるいはそれを超える規模の消費市場が形成される可能性があります。

先進国の企業や投資家にとって、この市場は、単なる輸出先ではありません。

現地の人々が事業を起こし、収入を増やし、金融アクセスを獲得し、消費者となり、やがて法人顧客となっていく、巨大な経済成長の入口です。

その入口にあるのが、フィンテックであり、マイクロファイナンスです。

私は現在、飲食六次化事業のグローバルサウス展開を通じて、まずは現地の高所得者層向けビジネスを確立し、現地法人の維持基盤と収益基盤を構築することを進めています。

しかし、私がより大きな将来性を感じているのは、現在の高所得者層だけではありません。

本命は、今後、グローバルサウスで拡大していく新たな中間所得層です。

現在はまだ低所得層にとどまっていても、強い上昇意欲を持ち、スマートフォンを使い、デジタル決済を使い、個人事業を始め、信用履歴を積み上げていく人々がいます。この層を、いかに早い段階で把握し、信用し、支援し、事業上の関係を構築するかが、将来の大きな競争力になります。

マイクロファイナンスは、単にお金を貸す事業ではありません。

将来の中間所得層を発見し、その成長過程に伴走し、金融、通信、物流、教育、飲食、小売、モビリティ、保険、不動産、医療、観光など、さまざまな事業機会へ接続していくための入口なのです。

この点は、日本企業にとっても大きな示唆を持ちます。

日本国内で資金調達に苦しむ中小企業やスタートアップも、今後は、過去の決算書、担保、不動産、代表者保証だけでなく、売上データ、顧客データ、契約データ、稼働データ、サブスクリプション収益、プラットフォーム上の評価、AIによる成長可能性分析などをもとに、資金調達を行う時代へ進んでいく可能性があります。

つまり、金融の世界では、「過去の財務諸表で評価される会社」から、「未来の成長データで評価される会社」への変化が進んでいくのです。

この変化は、資金調達に課題を抱える経営者にとって、チャンスでもあり、リスクでもあります。

チャンスとは、従来の銀行融資では評価されなかった成長性を、資本提携、事業提携、データ、AI、海外市場、プラットフォームとの接続によって評価してもらえる可能性が広がることです。

一方、リスクとは、自社の事業データ、顧客データ、成長戦略、資本政策、提携戦略を整理できていない企業は、AI時代の金融・投資判断において、ますます評価されにくくなるということです。

これからの経営者は、単に「融資を受ける」ことだけを考えるのではなく、資本提携、業務提携、M&A、海外展開、データ活用、AI与信、事業モデルの可視化まで含めて、資金調達戦略を設計する必要があります。

私は、日本の銀行で金融の実務を学び、その後、外資系コンサルティング会社において金融業界を含む企業経営の現場に携わってきました。その経験から見ても、今後の金融の大きな成長領域の一つは、新興国・途上国におけるフィンテック企業によるマイクロファイナンスであると考えています。

そして、日本の中小企業や成長企業にとっても、この潮流は決して遠い世界の話ではありません。

AI、データ、フィンテック、資本提携、海外市場が結びつく時代には、資金調達のあり方そのものが変わります。

自社の成長可能性を、どのように投資家や提携先に説明するのか。

自社の事業データを、どのように信用力に変えるのか。

自社の未来価値を、どのように資本政策に反映させるのか。

これらを考えることが、これからの経営者に求められる重要な課題になります。

URVグローバルグループでは、資金調達、資本提携、成長戦略、M&A、海外展開を一体として捉え、成長を目指す企業の経営者に対して、資本提携アドバイザリーを行っています。

単なる資金調達の相談ではなく、自社の成長可能性をどのように整理し、どのような提携先・投資家・事業パートナーと結びつけるべきかを検討したい経営者の方は、以下のページをご覧ください。

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松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

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